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レポート・更新2019年2月22日

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2019年展望


 今季のヴィッセルを読み解くキーワードは、昨季に引き続き「バルサ化」という言葉になるだろう。

昨シーズンの開幕前、三浦淳寛スポーツダイレクターが発した「F.C.バルセロナをベンチマークとして、アジアの頂点を目指す」という言葉を、プレースタイルの変更と密接に関連付けて捉えた人が多かったようだ。
その為、ヴィッセルの試合を解説する中では、「バルセロナを目指して」とか「バルサ化を推し進めるヴィッセル」という言葉が頻出していた。
しかし、筆者はここに若干の違和感を感じていた。
シーズン中にも、何度か書いたことではあるが、ヴィッセルが目指しているのは、「プレースタイルの転換」といった表層的な話には留まっていないからだ。
プレースタイルが変わったことは事実だが、それだけをもって「バルサ化」と評してしまうと、その意図は矮小化してしまう。

 「バルサ化」の本質を理解するためには、ヴィッセルの戦略を読み解く必要がある。
まずはそこから話を始める。

 Jリーグが産声を上げて、早25年が経過した。
その間、関係者の弛まぬ努力もあり、Jリーグはプロ野球と並ぶ日本のプロスポーツとして広く認知されるに至った。
歩調をそろえるように、日本サッカーの実力も長足の進歩を遂げた。
Jリーグ誕生前は、ワールドカップ予選において最終予選進出すら覚束なかった日本だが、今や6大会連続でのW杯出場を果たし、そのうち3大会でベスト16に進出するという快挙を成し遂げている。
さらにヨーロッパのリーグでプレーする選手も、今や数十人という規模にまで膨れ上がっている。
Jリーグ誕生が、この急成長の原動力となったことは間違いない。
 しかし四半世紀の時を経る中で、Jリーグも構造転換を余儀なくされた。
黎明期には世界中からビッグネームがやってきたJリーグだったが、徐々に「内向き」になっていった。
その結果、安定はしているものの、一般社会に衝撃を与えるようなニュースも枯渇していた。
そこに大きな一石を投じたのがヴィッセルであり、三木谷浩史会長だ。
一昨年のルーカス ポドルスキに始まり、昨季はアンドレス イニエスタ、そして今季はダビド ビジャという超ビッグネームを立て続けに獲得し、世間を驚かせてみせた。

 ここに至る最初の布石は2012年にあったように思う。
具体的には、元F.C.バルセロナ副会長のマーク・イングラ氏を取締役に迎えたことだ。
同氏の取締役就任に際し三木谷会長は、「今後はアジア・世界を見据えた新たなステージへとクラブが成長するために、世界の先端的な知見を備えた経営体制に移行することが大切ではないかと考え、新たに同氏を取締役に迎えることといたしました」とコメントしている。
この時点で既に三木谷会長はアジア、そして世界を意識していたのだろう。
その後、2016年には楽天株式会社がF.C.バルセロナのメインスポンサーとなるなど、着実にヨーロッパサッカーの中枢とのパイプを広げている。
 近い将来、アジア経済が世界を席巻することは確実だが、その中で日本が現在と同様のプレゼンスを発揮するためには、これまでのような「内向き」な思考は捨て去らねばならない。
そのときに、世界共通のエンターテイメントである「サッカー」は広告塔であると同時に、世界進出の尖兵足りえる存在だ。
であればこそ、アジアの頂点を決める戦いに出場し、そこでヴィッセル神戸という名前を浸透させなければならないのだ。
それを実現するために、育成部門に至るまでF.C.バルセロナのメソッドを取り入れ、世界基準のクラブに成長させる。
それを判り易い言葉に置き換えたのが「バルサ化」なのだろう。
ポドルスキに始まる大型補強も、その一環に過ぎない。
少々大袈裟にいえば、「バルサ化」というのはサッカーに留まらず、日本経済の将来を背負ったプロジェクトでもあるのだ。
ピッチ上での風景だけを見ながら云々するような話では、決してない。

 ヴィッセルの壮大なビジョンがどこまで理解されているかは不明だが、ヴィッセルの動きが他のJリーグクラブに対して大きな衝撃を与えたことは事実だ。
このオフにもヴィッセルに触発されるように、他クラブも積極的な選手補強が目立った。
Jリーグ誕生時以来の活況を呈していると言ってもよいだろう。
身贔屓に聞こえるかもしれないが、内向きになりがちな日本、そしてJリーグに活力を与えたのはヴィッセルの「バルサ化」だったのだ。
そして、それを間近に見ることのできる我々は、大きな歴史の転換点に立ち会っているのだ。

 プレー面についても触れておく。
1年前、三浦SDは「自分たちでボールを支配して、主導権を握るサッカーに取り組みます」と宣言した。
巷間言われていたような「堅守速攻」というスタイルは既に失われていたように筆者は感じているが、ポゼッションに拘ったサッカーを志向していなかったことは事実だ。
それだけに選手には戸惑いもあったかもしれないが、そのスタイル変更に意欲的に取り組んだ。
その点においては、吉田孝行前監督の貢献を忘れるわけにはいかない。
勝敗面においては、思うような結果を残すことができず、シーズン途中での監督交代となったが、ポゼッションへのこだわりを見せ続けた点は高く評価したい。
試合後の会見の中で、勝敗とは別にポゼッションション率についての発言を意図的に織り込むことによって、選手たちにその意識を植えつけていった。
この時期の取り組みがあったからこそ、その後、フアン マヌエル リージョ監督を迎えたときに、さしたる混乱もなく戦うことができたともいえる。

 ここで、漸く話は二つめのキーワードである「ポジショナルプレー」に移る。
ヴィッセルのサッカーに新しい機軸を持ち込んだリージョ監督だが、そのスタイルをひと言で表現することはできない。
様々な引き出しがあることは間違いないのだが、それらを全て開けて見せるような愚は犯さない。
自らの持っているものを、選手に合わせてカスタマイズし、提供する様は、あたかも腕利きの仕立て職人のようだ。
リージョ監督が強いこだわりを見せているのは、「正しいポジション」。
ボールを前に進めるという目的を忘れず、ピッチ上の状況を正しく把握すれば、選手のポジションは自ずと決まってくるということだろう。
その意味では、かつてヴィッセルの指揮を執っていた松田浩氏に近いタイプともいえる。
 リージョ監督が見せたビルドアップは、実に興味深いものだった。
センターバックを開かせ、その間にGKを進出させ、そこから組み立てを始めていくため、相手に対して人的優位を作りやすい。
これがリスクを負っているかというと、決してそうではない。
リージョ監督の求めは、極めてシンプルだ。
それは「相手が来なければ前に進む」、そして「相手が詰めてきたらそれを一つかわしてからパスを出す」というものだ。
4-4-2や4-3-3といったフォーメーション論を好まないリージョ監督だが、ピッチ上を広く使ってボールを前に進めるという目的がはっきりとしているため、ヴィッセルのサッカーは流動性が高く、それでいて目的がスタンドまで伝わる魅力的なものへと昇華した。
結果的に逆転負けを喫したが、第30節の川崎F戦ではチャンピオンチームを相手に、一時は相手の狙いを外し続ける戦いぶりを見せた。

 

 こうしたチームの成長の中心に位置したのは、言うまでもなくイニエスタだった。
「スペインの至宝」とまで言われたこのビッグネームは、チームにすんなりと溶け込んだ。
どんな体勢からでもボールを収めてしまう技術、足もとを見ることなく行われる完璧なボールコントロール、密集もすんなりと抜け出してしまう華麗なドリブル、両足から繰り出される正確なパス、そのどれもが超一級品だった。
これだけの技術がありながら、ボールを持ち過ぎることなく、状況に応じた選択の出来るイニエスタの存在は周囲の選手を成長させる。
来日当初は、Jリーグ特有の忙しないリズムに少々戸惑っているようにも感じられたが、そこに自分をアジャストさせるまでが早かった。
超一流選手は、状況にアジャストするスピードが並外れて早いというのは、全ての競技に共通する真理だ。
 そして特筆すべきは、そのメンタルの安定感だ。
レフェリーの初歩的なミスにより大荒れの展開となった第33節清水戦でも、両チームの選手たちが興奮する中、一人落ち着いた態度を崩さなかった。

これこそが「試合に集中する」ということなのだろう。
この名選手を「我がチーム」の一員として見ることができるのは、サッカーファン冥利に尽きるというものだ。 

 プレースタイルの変更に伴い、選手補強も積極的かつ的確に行われた。
昨季夏に加入した大﨑玲央、古橋亨梧はいずれも、移籍直後からチームの主力として活躍を見せた。
両選手がそれまでJ2リーグで戦っていたことを思えば、チームの状況を的確に判断し、必要な選手を探し続けた努力があればこそといえるだろう。 

 シーズンを通じての結果は10位に終わったが、シーズン終盤に見せた煌きは、やがて大きく光り輝くであろうことを確信させるものだった。
その意味でも2018シーズンのヴィッセルは、大きな目標に向かって順調に「始動」した1年だったといえるだろう。

  次に今季の新加入選手について触れていく。

 まずは何といってもこの人、ビジャだ。

スペイン代表として歴代最多ゴールを挙げている、この世界を代表するストライカーについて、その実力を云々する必要はないだろう。
ビジャの成績を見て驚かされるのは、20年近いプロキャリアの殆どの年に二桁ゴールを記録しているということだ。
環境の変化と無関係に、確実にゴールを射抜き続けてきたその姿は「仕事人」と呼ぶに相応しい。
1月17日に開催された新加入選手発表会の席上、ビジャはFWというポジションについて尋ねられた際「DFからチームが組み立ててきたプレーを最後、ゴールに集結させるポジション」と答えていた。
この言葉にビジャという選手の本質がある。
FWの選手にありがちな自己顕示欲は少なく、責任感が強いからこそ、ゴールまでの僅かなスペースや相手の隙を見逃さないよう、集中力を高めてプレーできるのだ。
高いレベル選手同士が対戦した場合、勝負を分けるのは一瞬の判断であり、集中力であると、よく言われる。
「集中力」という言葉が頻出するのは、サッカーに限った話ではない。
そしてこればかりは、自己研鑽によってのみ手に入る能力であるため、あらゆる選手が様々なトレーニングを取り入れている。
しかし、実際にそれを実践し続けることのできる選手は少ない。
これだけをもってしても、ビジャという選手の傑出した能力がわかる。
ゴールパターンも実に多彩だ。
密集の中で相手選手をかわしてのゴール、後方からのボールに抜け出して一瞬で決めるゴール、時にはハーフウェーライン付近から前に出たGKの背後を狙う超ロングシュートなど、様々な形でゴールを奪ってきた。
これを支えているのが、足もとの高い技術であることは言うまでもない。
ヴィッセルでは、F.C.バルセロナやスペイン代表で培ってきたイニエスタとのホットラインが復活する。
この世界中のサッカーファン垂涎のコンビを日本で見ることができるとは、未だに現実とは思えない。

 

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