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レポート・更新2020年2月7日

アプリ限定コンテンツ「覆面記者の目」2020年展望を特別配信!

2020年展望

感動の天皇杯優勝から1か月余りが過ぎ、早くもヴィッセルにとっての2020シーズン開幕が迫ってきた。明日2月8日、ヴィッセルは天皇杯王者として、リーグチャンピオンである横浜FMとの「FUJI XEROX SUPER CUP 2020」に臨む。実質3週間のオフを挟み、沖縄でのキャンプ、そして開幕と慌ただしいオフとなったが、このせわしなさこそがタイトルホルダーの証だ。これを常態化することに成功したとき、ヴィッセルは『強豪クラブ』としての確固たる地位を築くことになる。令和の時代、ヴィッセルが日本、そしてアジアの頂点に君臨するための戦いを見届けていきたい。

 

今季のヴィッセルの戦いを考えるに当たっては、「管理」、「忍耐」、そして「成長」という3つのキーワードを軸にしてみる。

まず一つ目の「管理」だが、これを考える前に、今季のスケジュールを確認しておく。

前記した通り嚆矢となる「FUJI XEROX SUPER CUP 2020」を皮切りに、中3日でAFCアジアチャンピオンズリーグ(以下ACL)初戦へと続き、そこからは7月初頭のリーグ戦第21節まで、間断なく試合が月に5試合前後のペースで続いていく。ACLについては、コロナウイルスの影響により試合日程が不透明な部分はあるが、夏の東京五輪のスケジュールも相俟って、過去に類を見ない過密日程であることだけは間違いない。

ACLに出場しないクラブはJリーグカップのグループステージがあるとはいえ、移動距離他を考慮すれば、ACL出場クラブにとって、より過酷な状況であることは明らかだ。

これを乗り切るために、まず求められるのが「コンディションの管理」だ。過去にACLに出場したクラブの関係者に聞くと、誰もが「その過酷さは体験しないと解らない」と口を揃える。同時にJリーグがいかに恵まれたリーグであるかということを痛感するという。

試合時間の管理、スタジアムでの導線確保、応援席の秩序維持など、Jリーグの試合運営は世界基準に照らし合わせても高く評価されている。これを「日本人らしいまじめさ」と評する人も多いが、後発のプロリーグとして、理想を追求してきた結果でもあると思う。この恵まれた環境が、「プレーしやすさ」につながっていることは間違いない。しかしアジアの舞台では、そうはいかない。不安定な試合運営に直面することも珍しくはないという。幸いにもヴィッセルにはアンドレス イニエスタやフェルマーレンといった世界の舞台で様々な経験をしてきた選手がおり、加えて山口蛍、西大伍、飯倉大樹、田中順也、ドウグラスなどACLを経験した猛者も数多く揃っている。選手間でのメンタル管理には、彼らの存在が大きくものをいうだろうが、それでも多くの若手選手にとっては初めての経験でもある。加えてレギュレーションの違いもある。ACLの戦いでは、1試合当たり外国籍選手は3名までと登録数が限られている。経験豊富な外国籍選手が揃っていないケースも当然想定される。

こうした状況の中で「管理」能力が求められるのは、フロントスタッフも同様だ。選手が試合に集中できる環境をいかにして作り出すことができるか、フロントスタッフの手腕も試合結果を大きく左右する。ACLが「クラブの総合力が問われる大会」と言われる所以だ。

ここで大きな武器となるのが、ヴィッセルのフロントスタッフの語学力なのではないかと、筆者は考えている。ヴィッセルはフロントに英語を操る人材が多く揃っている。これは楽天の「英語公用語化」とも密接に関係しているのだろう。かつてヴィッセルでGM補佐を務めていた佐藤秀男氏は常々「サッカーにおいて語学はスパイクだ」と口にしていた。外国のクラブと矛を交える際、如何にして自分たちの立場を主張するか。それは試合前の監督会議など目に見える部分だけの話ではないと、佐藤氏は語っていた。試合前からの様々な場面で駆け引きは行われているという。そこでは通訳を挟んでいるような余裕はないという。相手よりも有利な立ち位置を確保し、選手のパフォーマンスを引き出す。そうした「管理」をいかにして行うかが、大きな鍵を握っている。

 

 

そして次のキーワードが「忍耐」だ。

今季の戦い、特にリーグ戦において最大の不確定要素となっているのが「ビデオ・アシスタント・レフェリー(以下VAR)」の導入だ。サッカーの面白さをスポイルしかねない「誤審」を減らすための制度ではあるが、その運用を巡っては、まだ世界中で試行錯誤を繰り返している段階だ。

VARの対象となるのは、以下の4つのケースだ。

・得点の有無
・ペナルティーキックの有無
・一発レッドカードに相当する行為か否か
・警告・退場処分の対象選手の正誤

加えて「確実かつ明白な誤審」もしくは「重大な見逃し」の疑いがある場合だけ、適用されることになっている。そして何よりも重要なのは、あくまでも判定を下すのは主審であり、VARの介入を受け入れるかどうかの判断も主審に委ねられている。

プロ野球やテニスで導入されているように、プレーヤーやベンチが判定の確認を求める「リクエスト(あるいはチャレンジ)」制度とは根本が異なるため、その運用が理解されにくいという側面もある。中でも筆者が最も危惧しているのは、VARが誤審と判断しても、すぐにゲームを止めることのできないという運用上の規定だ。プレーが止まるか、或いはニュートラルな状態になるまでプレーは続けなければならないため、時には時間を1分以上戻しての判定となるケースもある。サッカーという、「流れ」が大きく影響するスポーツにおいて、この突然の試合中断、そして時計の巻き戻しのような判定は選手にかなりのストレスをかけることが予想される。こうした時、如何にしてメンタルの安定を保つことができるか。選手はこれまで以上に、アンガーマネジメントを要求されることになる可能性がある。

誤審をなくすための制度として、このVAR導入は筆者も基本的には支持しているが、運用が落ち着くまでの間、選手たちは「判定と戦わない」という、サッカーにおける絶対原則を今一度噛みしめてほしい。

そして「忍耐」に関してもう一つ言うと、今季のヴィッセルは「追われる立場」であり、「狙われる立場」になってきたことである。確かに獲得したタイトルは天皇杯だけではあるのだが、昨季終盤にかけてチームが成熟していく過程で見せた強さは、ライバルクラブたちに大きな刺激を与えている。筆者が話をする中でも、他クラブの関係者や番記者から「ヴィッセルは強い」という言葉を聞く機会は確実に増加している。能力の高い選手たちが、ピッチを広く使いながらボールを支配し、相手チームを動かし、崩していく試合運びは衝撃的だったようだ。

これまでのヴィッセルは「追う側」だった。それこそ鹿島やG大阪、浦和といったチームをリスペクトし、どうやってそうしたチームを倒すかという地点からチーム作りは始まっていた。しかし今季のヴィッセルは、「今のサッカーを突き詰めていく」というところからスタートできるだけの強さを身に着けている。「追われる側」となった今、ヴィッセルは周りからの標的となる覚悟を決めなければならない。時にはカード覚悟のプレーとも出会うこととなるだろう。しかしそうした相手に対しても、それに合わせるのではなく自らのサッカーを突き詰めていく姿勢を貫いてほしい。「忍耐」はプレーの中でも求められる。

 

3つ目のキーワードである「成長」だが、これは前記した事項とも密接に関係している。7月までに半分以上の試合を消化するという「異常事態」ともいう過密日程の中では、全ての選手に出場機会があると考えるべきだろう。ましてや今年はEURO2020も開催される。ベルギー代表に選出される可能性の高いフェルマーレンなどは、一定期間チームを離れる可能性もある。また他の選手も東京五輪、代表などに召集されるケースも十分に考えられる。文字通り、チーム一丸となって戦っていかなければ、目標であるリーグ制覇は難しいだろう。トルステン フィンク監督が始動日に「若い選手たちに期待している」と語ったのは、正にそういうことだ。

ヴィッセルの若手選手は、一つの共通した特徴を持っているように感じている。それは「自信の欠如」だ。能力は申し分ない。フィンク監督が名前を挙げた安井拓也、郷家友太などは、どのチームに行ってもレギュラー争いをするだけの力を持っている。しかし、ヴィッセルで試合に起用されたとき、十分なインパクトを残すには至っていない。試合の状況やチームの状態にも左右されるため、彼らだけの問題とは思わないが、そのポテンシャルからすれば物足りなさが残ることは事実だ。

「今のヴィッセルで試合に出場することは大変だと思う」

このオフ、個人的に話をした元Jリーガーは、ヴィッセルについてそう語っていた。彼自身も代表経験もあるだけに、選手の力を見抜く目はある。その上で昨季終盤のヴィッセルのメンバーは「完成度も高く、割り込む隙がない」と語ってくれた。傍から見ていてもそうなのだから、チーム内部にいる選手たちにとって、出場機会を得る難しさは相当なものだろう。それだけに出場した際には「流れを壊さないこと」に重きを置いてしまっているように感じる。その考え方はわかる。むしろ当然というべきかもしれない。しかし、そこで彼らが思い切ったことをしたとしても、十分にカバーできるだけのチーム力があることを信じてほしい。そして何より、普段から国内最高レベルの技術集団の中で揉まれているからこそ身についている「己の力」を信じてほしい。

例年に比べて、ヴィッセルのオフは静かだったといわれる。昨年の今頃は山口、西、ダビド ビジャといった実力者の加入に沸き立っていたため、より静かに感じるのかもしれない。しかしオフの短さ、加えてヴィッセルのサッカーは人を選ぶ(誰にでもできるわけではない)という事実を考えれば、ピンポイントでの選手補強になることは、ある種当然の帰結点だったのかもしれない。何より三浦淳寛スポーツダイレクターにとっては、まだ持てる力を発揮していない若手選手の力を引き出すことが先決だったのではないだろうか。そして何より、フィンク監督自身が昨季より「若手選手の活躍」ということを、折に触れて口にしていたことを思えば、今季のヴィッセルは若手選手の成長に賭けた一年であるともいえる。

だからこそ、若手選手たちには、飛躍の大きなチャンスを得たのだと、思い切ったプレーでチームにアピールすることを心掛けてほしい。自分たちにBETしてくれたチームに勝利をもたらすことは、これまで育ててくれたクラブに対する最高の恩返しでもあるのだ。

 

 

次に新加入選手について見ていく。

攻撃の軸としての期待を背負っているのが、清水から移籍してきたドウグラスだ。広島や清水で結果を残してきたドウグラスは、文字通りの万能型FWだ。自身の決定力はもちろんだが、前線で体を張って時間を作る動き、相手守備陣の裏を狙う動きなど、チームのために動くことのできる選手という印象が強い。筆者はドウグラスを2011年に徳島で何度か見ているが、その時にはチーム戦術に自分をフィットさせることができず、どこか空回りしている印象を受けた。しかしその後、様々なJリーグクラブでプレーする中で、周りを使うことを覚えたことで、本来の能力を発揮できるようになった。

昨季、ヴィッセルの前線を支えたビジャとはタイプは異なるが、チームを引っ張れるFWという点においては共通している。50年以上前、2頭のダービー馬を比較して「コダマが剃刀なら、シンザンは鉈」といった調教師がいたそうだが、ビジャとドウグラスもそうした印象だ。ゴール前での切れ味という点ではビジャに分があるが、力強さという点ではドウグラスに軍配は上がるだろう。重厚感のある「鉈」のような攻撃に期待したい。

守備面では山口から菊池流帆を獲得した。山口は、霜田正浩監督の下でポゼッションサッカーを志向している。その意味でヴィッセルのサッカーを理解出来ると見込まれての獲得だったのだろう。加えて対人の強さはJ2でも屈指だっただけに、ヴィッセルのサッカーに適合することができれば、大きな戦力となることは間違いない。問題はそれに要する時間だ。スピードや強度などあらゆる点で、菊池が今季戦うフィールドはJ2リーグとは段違いであるだけに、最初は戸惑いもあるだろう。しかしそれは、単純に経験を積むことで解消できる不安でもある。そして菊池の最大の武器は、その芯の強さにあると筆者はみている。菊池のnoteを読んだのだが、そこにはサッカーにかける思い、故郷・釜石にかける思いが綴られていた。それはあまりに真っすぐな言葉で書かれており、菊池流帆という選手を追いかけてみたくなる魅力に溢れていた。郷家や藤本憲明と同じ名門・青森山田高校のOBではあるが、決してエリートではない。それでも目標に向かって、着実に成長を続けてきた結果、レギュラーを勝ち取り、大学、そしてプロとステップアップを続けてきた。決して器用なタイプではなさそうに見えるため、ひょっとしたら多少の時間は要するのかもしれない。しかし、そうした選手は、絶対に崩れない芯の強さを身につける。菊池が、ヴィッセルというタレント集団の中でどのように自分を発揮していくか。楽しみにして見ていきたい。

 

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