ファンパーク

ヴィッセル在籍12年目のシーズンを送るダイナモは自分自身を、そしてヴィッセルを信じている。
だからこそ、「クラブへの恩返し」=『タイトル』の実現を心に期して、日々に全力を注ぐ。
被災した地元で感じたファイティングポーズをとり続ける意味を胸に、今日も田中英雄は戦い続ける。

正直、心のどこかに自分への『自信』があった

―J1第14節大宮アルディージャ戦、同点弾を決めたレアンドロ選手へのクロスボールは絶妙な弾道でした。 「60分くらいに打ったミドルシュートがいい感触だったので自分でゴールを狙うことも考えたのですが、ゴール前を見たらクニさん(北本久仁衛)とレアンドロが『ボールをくれ!』と目で訴えていたので(笑)。どちらかに合えばいいなと思いながらクロスを入れたら、レアンドロがうまく合わせてくれました。ここ数試合、コンスタントに出場機会をもらっていたことで試合勘も高まっていたし、周りとの連係という点でも練習では分からない選手の癖や動きが予測できるようになってきていたので、それもプラスに働いたのかなと思います。ただ、大宮に圧倒されたわけでもなかっただけに、勝ちたかったです」

―今シーズンの初出場は5月4日のJ1第10節ジュビロ磐田戦でした。チャンスをつかむまで、長く感じましたか? 「コンディションも調子も良かっただけに、試合に出たいという気持ちが強かったのは事実です。ただ、メンバーを決めるのは監督ですから。そのことに自分がストレスを感じたり、プレーの質を落とすことになってはもったいないですから。それに試合に出ていない時ほど、練習で少しでも手を抜いたり、気持ちが揺れてしまうようなことがあると、そういう自分にどんどん慣れてしまいますからね。それが一番怖かったので、どういう状況に置かれても常に100パーセントの自分を出し切ることを心掛けていた。というか、そういう自分を保てていたからコンディションも調子も落とさずにいれたのだと思います。そう考えても、やっぱりすべては『心』だなと。以前、中村俊輔さん(横浜F・マリノス)が『心が上回れば、迷いも消える』と雑誌で話していたけど、そのとおりで、心が充実していれば気持ちがブレることもないし、やるべきことを見失うこともない。いきなり出場チャンスが来ても迷いなくプレーできます。そういう意味では、試合に出ている時と同じような感覚で日々を過ごしていた分、長かったという感覚はなかったですね」

―コンディションや調子がいいからこそ、逆に監督に選ばれない事実によって自分に疑問を持ったり、不安を抱くことはなかったですか? 「確かに、自分を一番知っているのは自分とはいえ、監督に評価されないのなら、むしろ自分に疑問を持つべきなのかもしれません。でも正直、心のどこかに自分に対する『自信』もあって。『これだけ調子がいいんだから、いずれ僕を使うでしょ』的にある意味、達観している自分もいた。そう言うと、『勘違いしている』と受け取られるかもしれないけど、僕は100人中99人の人が異を唱えても、自分だけは『100パーセントでやり切っている自分』を信じてあげたいし、自分の自分自身に対する評価を一番信用したいと思ってもいる。だからこそ、自分に不安を抱くことはありませんでした。

―今シーズンの初先発はJ1第11節名古屋グランパス戦でした。同じ熱量で準備を続けていたとはいえ、この試合に懸ける思いは相当強かったのではないですか? 「試合に出る限りは、ゴールとか目に見える結果に限らず『いろいろな意味で、チームを勝たせられる選手になりたい』という思いが常にありますからね。そこはかなり意識してピッチに立ちました。といっても、サッカーはチームスポーツで、一人の出来によって結果が出るものではないし、極端な話、自分がどれだけ調子が良くてもチームが負けることもあれば、その逆もある。でも、結果というのは単にプレーの質、パフォーマンスといった目に見える要素ばかりではなく、メンタルやチームへの献身性、勝利への欲といった、目に見えない要素も働くものですからね。そのすべてをひっくるめて勝ちにもっていける、勝たせられる選手になりたいと思っていたし、実際に名古屋戦を白星で飾れたことは自分にさらなる勢いをつけてくれる結果だったと思います。ただ、難しいのは、そのことばかりにとらわれるとプレーに躍動感がなくなってしまうこと。だからこそチームへの献身性と、自分の勢い、躍動感とのバランスはすごく意識してプレーしていました」

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Vol.32[AUG.2016]

ヴィッセルスマイル Vol.32[AUG.2016]
  • 巻頭企画「スペシャルアスリート対談」小川慶治朗選手
  • 特集「FEATURE」田中英雄選手
  • 「VISSEL LAB」三原雅俊選手
  • 「ヴィッセル選手の絵しりとり」小林成豪選手
  • 「Roots」藤谷壮選手
  • 「岩波拓也のRoad to Rio」
  • いぶき日記ダイジェスト など

価格:500円(税込)

「ヴィッセルスマイル」の詳細

田中英雄

Profile
田中英雄(たなか・ひでお)
ヴィッセルで12年目を迎えたボランチ。卓越したボール奪取力に加え、豊富な運動量で前線に顔を出して攻撃に厚みを加える。プロとして育ててくれたクラブ、被災した地元・熊本への恩返しのため、日々全力プレーを誓う。
1983年3月1日生まれ、熊本県宇城市市出身、172cm/65kg

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