
1週間
試合後にヴィッセルの選手たちからは、ミヒャエル スキッベ監督とのミーティングについての言葉が多く聞かれた。大迫勇也は「本当にこの1週間、監督とも話してきました。チーム一人ひとりがチームのためにというのがあった中での話し合いです。とても良い話し合いだったと思います」とコメントした。彼らの言葉からその中身を推測すると、主なものとして、選手たちが慣れ親しんだ4バックへの布陣変更を提案し、スキッベ監督がそれを受け入れたというものであったように思う。それが実り、結果に結びついたという点において、この1週間は大袈裟に言えばヴィッセルの命運を左右する1週間でもあったように思う。
試合を俯瞰した鳥の目で見ている指揮官と、実際にプレーしている選手の双方が感じるところを互いに披見しながらより良い解決策を模索し、意思統一を行うという行為は、ピッチ上のトレーニングと同等かそれ以上に大事な行為だ。
プロスポーツにおいて、ミーティングは単に「作戦を伝える場」ではない。身体能力や技術においては拮抗しているトッププロの世界であればこそ、そこで鍛えられる「組織の脳」は、チーム強化に大きく影響する。そのミーティングの役割としては、以下の5つが知られている。
1つ目は「共通の絵を描く」ことだ。これによってプレーの優先順位を決定し、個々の役割を定めることで、連動性を高める。2つ目は「データの共有」だ。ヴィッセルの分析チームの優秀さは広く知られるところだが、そのデータを共有することで勝利への根拠を手に入れることができる。3つ目は「信頼感の醸成」だ。指揮官と選手が忌憚なく意見をぶつけ合うことで双方が当事者意識を高め、信頼関係を強める。4つ目は「ベクトルの統一」だ。チームとしての目標を確認し、そこに至るまでのプロセスを意識することで、長期目標を立てやすくする。そして5つ目は「失敗を資産に変えるための検証」だ。巧くいかなかったことの原因を特定の個人に押し付けるのではなく、構造的にとらえることで再発防止につなげる。
これらは文字にすると、どれも特別なことではないように思える。しかしこれを実りあるものにするためには、状況を言語化する能力が必要になる。そのため「頭の良い選手」は重宝される。かつてヴィッセルでGM補佐を務めていた佐藤英男氏(故人)などは、選手を評価する際には頭(プレーを分析・言語化する能力)→心(チームへの忠誠心)→足(技術)の順に見ると語っていたものだ。その意味でヴィッセルには大迫、武藤嘉紀、酒井高徳、権田修一を筆頭に、優れた頭脳を持つ選手が揃っている。彼らは一様に、プレーや試合を言語化する能力にも長けている。その証拠に彼らは試合後、メディアが使いたくなる言葉を残す。その彼らが、豊富な経験と実績を持つスキッベ監督と、しっかりと言葉を交えたことの意味は大きいように思う。
下馬評
明治安田J1百年構想リーグ(以下百年構想リーグ)のチャンピオンを決める今回のプレーオフに際して、下馬評では「鹿島有利」という声が優勢だったように思う。その理由としては、地域ラウンドで見せた鹿島の堅実な戦いが挙げられるだろう。鹿島は地域ラウンド18試合で9失点という堅守をベースに、東地区を圧倒した。直近の5試合でも失点はわずかに2と、シーズン終盤になっても、その安定感は変わらなかった。
これに対してヴィッセルはAFCチャンピオンズリーグエリート(以下ACLE)・ファイナルズ後、苦しみぬいた。直近5試合でも2勝2PK負1敗という結果で、複数得点を挙げたのも1試合のみと、攻撃の停滞が見られた。こうした状況を鑑みれば、「鹿島有利」という下馬評は仕方がなかったように思える。
しかしこうした下馬評とは別に、鹿島の選手たちはヴィッセルに対する警戒感を持っていたようだ。地域ラウンドの最終節でヴィッセルが西地区の1位を決めたとの報を聞いた鈴木優磨は「結局、神戸が一番強い」としたうえで、「神戸を倒さないと優勝した感じがしない」とコメントしていた。鈴木もヴィッセルが苦しんでいるということは把握していたはずだが、「神戸が出てくると思っていた」と語ったように、チームの根底にある強さを、他クラブの選手たちは感じていたのだろう。

変更
試合後に大迫は、この試合に際してスキッベ監督に対して4バックで戦いたいという要望を伝えたことを明かした。その上で「俺らはちゃんとやるから、監督も僕らを信じて」と伝えたところ、スキッベ監督はそれを了承してくれたとコメントした。これと呼応するように酒井も「4枚というのは今まで慣れ親しんでいて、何が良かったら良い試合になるのか、何が悪かったら悪い試合になるのかが瞬時に分かる。それを思い出すためにも4バックでちょっとチャレンジしたいということは話しました」と語った。ここで絶対に誤解してほしくないのは、彼らはスキッベ監督に対してリスペクトを持っているということだ。しかしチームの歯車が噛み合っていないことをピッチ上で感じていたため、リセットする意味でも慣れ親しんだ戦い方に戻してほしいとリクエストしたに過ぎない。そしてスキッベ監督も選手たちを信頼しているからこそ、その要望を受け入れた。両者ともが強く勝利を希求しており、その意味では指揮官と選手の歩調が揃っているということは間違いない。
こうして4-1-2-3で試合に臨んだヴィッセルは、自陣では鹿島のプレスを回避するようにボールを動かし、ミドルサードから前に出る中で、必要に応じて大迫を使うという、今季の戦い方を見せた。そして終始、鹿島を圧倒した。結果的に5-0という予想だにしなかった大勝を収めたことを思えば、スキッベ監督とヴィッセルの選手たちは賭けに勝ったと言えるだろう。
では次にこの試合で鹿島を圧倒することができた理由を考えてみる。筆者が思うに、この試合の勝因は5つだ。それは「効果的な前線からのプレス」、「巧みなスペース管理」、「隙を見逃さない試合巧者ぶり」、「絶対的エースの得点」、そして「アクシデントを跳ね返した集中力」だ。
前からのプレス
まず「効果的な前線からのプレス」だが、この日の試合でボール非保持時にヴィッセルは4-2-4の形に変化させ、鹿島に対してプレスをかけ続けた。そしてこれを効果的なものにするため、鹿島にボールを押し付ける戦い方を選択した。ポゼッション率が40%にとどまったのはそのためだ。オーソドックスな4-4-2でセットされた鹿島ではあったが、ピッチ上のいたるところでヴィッセルのプレスによってパスコースを消され続けたことで、効果的にボールを動かすことができないままだった。
この日の試合でヴィッセルが見せたハイプレスは「外切り」と呼ばれる形だった。ここではサイドバックやサイドハーフへのパスコースを塞ぐことで、ボールを中に誘導していく。そして中央を固める2枚のボランチ=鍬先祐弥と井手口陽介でボールを奪い切るという形だ。これによって相手ゴールに素早く迫る形を整えたのだ。
この形の守備において難しいのは、全ての選手が絶えず動きながら連動し続けることだ。もしこれが連動性を失うと、そこから相手に侵入を許し、一転ピンチを招く危険がある。ここで、この日の試合における走行距離を見てみると、上位にはヴィッセルの選手の名前が並んでいる。さらに言えばスプリント回数においても、ヴィッセルの選手が上位に名を連ねている。要はこの日の試合において、ヴィッセルの選手たちは文字通り躍動し、最後までその強度を落とすことなく走り切った。そしてこれによって試合の主導権を握り続けたのだ。
ここで特筆すべき活躍を見せたのが左サイドバックのジエゴ、そして左センターバックのカエターノだった。この4-2-4の形でプレスを敢行した場合、中央の2枚の横が狙われやすくなる。特に井手口と鍬先のボランチコンビが前に出ていたときなどは、このスペースが空くのだが、ここを埋め続けたのがジエゴだった。ジエゴは持ち前のスピードだけではなく、確実にボールを刈り取る見事なプレーを見せ続けた。さらにそこから前への展開を見せたため、ジエゴがこのスペースを埋めたタイミングは、そのままヴィッセルのチャンスになる場面が多かった。
そしてカエターノだが、こちらは鹿島がヴィッセルの背後を狙ったときには、見事なカバーリングを見せ、鹿島の攻撃におけるキーマンであるチャブリッチを止め続けた。素晴らしいのはその止め方だった。3分にチャブリッチが抜け出した場面では、完全に前を取られた時点で身体を横にし、チャブリッチのシュートコースを塞ぎながら並走。最後まで一切の自由を与えなかった。また60分に密集の中から鈴木がヴィッセルの背後に配球、レオ セアラを走らせようとした場面では、ボールの軌道とレオ セアラの進路を読み切ったうえで、ファーストタッチされる寸前にボールをタッチラインへと蹴り出した。こうした一連のプレーで見せたカエターノのカバーリングはレベルが高く、背後への不安を一掃してくれた。また向かってくる相手に正対した際の守りには安定感があり、4バックのセンターでも十分に戦えるだけの能力があることを示した。

スペース管理
ヴィッセルの守備に対して鹿島は全く出口を見つけられないままに、全ての選手がポジションを敢えて乱すことで打開を図っていたように見えた。司令塔であるボランチの柴崎岳や鈴木がポジションを落とす場面も多かったのが、その象徴だった。最終的にはレオ セアラとチャブリッチの抜け出しに期待したのだとは思うが、この試合におけるヴィッセルの守備は、そうした動きにも惑わされることはなかった。最後まで鹿島の進路を消すようにプレスをかけ続け、鹿島は後ろ向きにパスを受ける場面が目立った。
鹿島が見せたような、一見すると無軌道にも思える動きは、ヴィッセルが見せた「前からのプレス」に対しては有効な手段のはずだった。これによって一か所でも釣り出すことができれば、そこから全体に穴を広げていくことができるためだ。そして鹿島には鈴木や荒木遼太郎など、そうした動きに長けた選手が複数いた。しかしこの日の試合では、鹿島は前へのスペースが見つけられなかったため、ヴィッセルをかく乱するはずの動きが、自らを無秩序に追い込んでしまっていたように思う。
こうした状況を作り出したのが、2つ目の勝因である巧みなスペース管理だった。ボールに対して厳しくいきつつも、全ての選手が連動を失わなかったことで、ヴィッセルは最後まで鹿島にスペースを見つけさせなかった。結局、後半に入って鹿島はヴィッセルの守備を崩すことを諦め、シンプルにサイドの背後を狙う策に切り替えた。
スペースを管理するうえで大きな意味を持っていたのが、この試合でゴールを守り抜いた権田の存在だった。この試合でヴィッセルは全体をコンパクトに保つことを重視していたため、最終ラインも高い位置を取る時間が長かった。ここではもう1つの約束事があったように思う。それは相手との球際勝負がイーブンの時は、無理に前を向こうとせずに、GKまで戻すということだ。過去の試合では球際勝負の中で前を向こうとした動きの隙を衝かれる形で、低い位置でボールを失う場面も見られた。しかしこの日の試合では無理に競り合うのではなく、簡単に前を向けないときには権田まで戻して、作り直すように設計されていたように感じた。言わば守備の背後にできた広大なスペースの管理をセンターバックと権田で行う格好になっていたのだが、これができたのは権田のボールスキルとキック技術があればこそだ。この日の試合において、権田のキックが直接タッチラインを割った場面は、試合終了間際の1回だけだった。そしてバックパスを受けてからの対応も、見事だった。相手の出方を見つつも、味方が受けているプレッシャーを冷静に判断し、「蹴りやすい人のところにボールをつなぐ」という、基本に忠実なプレーを見せ続けたのだ。またそのボールの精度も高いため、権田まで戻したボールは、確実に味方に戻っていた。
またスペース管理という点について言えば、久しぶりの先発出場となった郷家友太のプレーも見事だった。インサイドハーフで先発した郷家だが、この日の試合でもボール非保持時にはファーストディフェンダーとしての役割を担い続けた。その際には巧く背中で相手を消しながらボールホルダーに寄せるなど、基礎技術の高さを存分に見せてくれた。そして郷家の持ち味であるスペースを潰す動きを続けたのだが、これが前記した鹿島の動きをシンプルなものに整理する効果を発揮していた。鹿島は全ての選手が動きながら、ヴィッセルの隙を見つけようとしていた。結果として配置は相当に変わっていたのだが、郷家はここで人の動きに釣られることなく、スペースを消し続けた。これによって、背後に立つ選手にとっては、自分が守るべき位置を定めやすくなった。もしここで郷家が人につく守備をしていたとすれば、配置が大きく変わっていた鹿島の動きにヴィッセルは引っ張り出されたかもしれない。その意味で郷家は、この日の試合における「補助線」の役割を見事に果たした。
またボール保持時には積極的に前を向いたことで、先制点へとつながるフリーキックを獲得した。試合前には鍬先と「俺たちがやらなければ」と励まし合っていたようだが、その決意通りのプレーを見せてくれた。
試合巧者
2点目のシーンはこの日の試合を象徴していたように思う。50分に自陣深い位置から郷家が斜めに出したボールに反応したのは武藤だった。武藤は安西幸輝と競り合いながら、これを相手に当ててタッチラインに出した。そして素早くこれをスローで投げ入れ、相手守備の裏にポジションを取っていた大迫へとパスをつないだ。そしてこれを大迫が正確に枠内に蹴り入れ、ヴィッセルは後半開始早々に追加点を奪うことに成功した。この武藤がスローインを投げ入れるとき、競っていた安西はレフェリーに対してマイボールを主張しており、武藤の動きから一瞬目を切っていた。また大迫に背後を取られていた鹿島のセンターバックコンビも、レフェリーに対して同様の主張をしていたため、大迫にその隙を突かれ、背後への侵入を許していた。この勝負所での抜け目のなさこそが、ヴィッセルの試合巧者ぶりを示していたように思う。
サッカーにおいてセルフジャッジは最も危険な行為であると言われる。それはプレーを自ら止めてしまうためだ。鹿島とすればこうした主審へのアピールを複数人で行うことで、流れを引き寄せるきっかけにしたいという思いがあったのかもしれない。しかしそうした心理状況を、大迫と武藤のコンビは読み切っていたように思う。このシーンについて鹿島のGKである梶川裕嗣は「全体にちょっと緩んでいた」と試合後に振り返ったが、試合巧者と呼ばれる鹿島の上をゆく判断スピードが、ヴィッセルに勝利を呼び寄せたと言ってもよさそうだ。
またプレーとは直接関係ないのだが、この得点に絡む場面では武藤にボールを渡したボールパーソンの動きも素早かった。この日のボールパーソンが素晴らしかったのは、こうした素早い球出しを、ヴィッセルにだけ提供したわけではないという点だ。時折、ホームチームを助けるような動きを見せるボールパーソンもいるが、両チームに対して素早くボールを提供することで、試合のリズムを保とうとしていたのだろう。このサポートは見事であり、賞賛に値する。
エースのゴール
この日の試合においてハットトリックを達成した大迫だが、その動きの質は依然として日本人選手の中で最上位に位置していることを、自らのプレーで証明して見せた。28分に高精度の直接フリーキックを沈めてチームに勢いをもたらすと、50分には武藤の素早いスローインに反応して2点目を奪取。試合終了間際にもダイビングヘッドで3点目を決め、鹿島の守備陣を完全に粉砕した。百年構想リーグではここまで1得点と、数字を残すことはできていなかったが、この大一番で「100%以上のクオリティ」を発揮した絶対的エースの存在が勝敗を分けた。試合後にはここまで結果を残せていなかったことの責任を認めたうえで、結果にこだわっていたことを明かした。ヴィッセルの絶対的エースが見せた「本気」は、昨季のJリーグチャンピオンをも凌駕していた。
集中力
この日の試合でヴィッセルには大きなアクシデントが発生した。それは言うまでもなくマテウス トゥーレルの負傷退場だ。4分に鈴木と競り合う形で足を高く上げたトゥーレルだが、ここで足を押さえるしぐさを見せ、ベンチに交代を要求した。負傷の程度は不明だが、ヴィッセルは守備の要を開始直後に欠くこととなった。ここで投入されたのは、直近の試合で先発が続いていたンドカ ボニフェイスだった。想定外の事態ではあったが、ボニフェイスは落ち着いて試合に入り、安定したプレーを見せた。試合後には「チームの流れにそのまま乗った」とコメントしたボニフェイスではあったが、これは口で言うほど簡単なことではない。山川哲史も戦列を離れているため、カエターノとのコンビになったが、両者は巧く連携しながら、試合を通じて高い位置を取り続けた。このボニフェイスの存在は、百年構想リーグ終盤のチームを救った。
またアンカーの位置で見事なプレーを見せ続けた鍬先についても触れておく。鍬先は試合を通じて積極的に前に出る守備を見せ続け、ヴィッセルの布陣が抱える「アンカーの脇」という弱点を覆い隠した。鹿島はこの構造的ウィークポイントを柴崎と三竿健斗のボランチコンビに使わせたかったはずだが、鍬先が前に出続けたことによって、自らが押し込まれた。その結果、鹿島の狙いは無効化された。鍬先は試合序盤からシュートを放つなど、積極的に攻撃にも絡んでいった。アンカーの鍬先がペナルティエリア近くまで出ていたということは、ヴィッセルの攻撃に厚みが生まれていたことの証左でもある。最終ラインの前でプレーするうえでは怖さもあったと思うが、それを振り切って前に出続けたことが、チームに推進力を与えた。
この鍬先をフォローし続けたのが井手口だった。この日の試合でもその運動量とボール奪取技術を存分に発揮し、鹿島の攻撃の芽を摘み取り続けた。文字通りピッチ全体をカバーし、ツボを押さえた守備を続けた井手口の動きは、本来であれば一番星に選出すべきものだった。自陣からミドルサードまでボールを運ぶ際には、サイドバックやウイングとも絡みながら、巧みにボールを動かしていた。そして空いたスペースに確実に差し込むことで、鹿島の前に出ようとするベクトルを折り続けた。このボールスキルの高さも井手口の魅力だ。シーズンを通して安定した動きができる井手口は、ヴィッセルの守備力を担保している。
こうした選手たちだけではなく、チーム全体が集中を切らさなかった試合であったことは間違いない。それは審判との付き合い方に表れていた。両チームの強度が高く、主審にとっては難しい試合だったと思うが、ファウルの基準は最後まで安定していなかったように思う。その意味では、両チームともにフラストレーションの溜まる試合だったようにも思うが、これに対してヴィッセルの選手はさほどの反応を見せなかった。これは鹿島と対照的だったように思う。試合を思い通りに運べていたためとも言えるだろうが、やはりヴィッセルの選手たちは集中力を保っていたため、常にベクトルを自分に向けながら戦うことができていたのだろう。

最終決戦に向けて
5点差という大きなアドバンテージを得たヴィッセルだが、アウェイとなる第2戦で受けに回ることは危険だ。試合後にGKの梶川は「全然諦めていません。次は5点差以上をつけて勝ちます」とコメントしていたが、これは本気の発言だろう。受けた屈辱はそのままにしておかないという強い意志があるからこそ、鹿島はJリーグ最多のタイトル数を誇っている。「本気の鹿島」が作り出そうとする流れに飲み込まれないためにも、ヴィッセルは対策を講じておかなければならない。
5点差を跳ね返すという難易度の高いミッションに挑む鹿島が仕掛けるであろう策は3つだ。
1つはハイプレッシャーとロングボールの多用だ。この日の試合を経て、ヴィッセルのプレスに対してボールをつなぐという選択肢は、もはや採らない公算が高い。そうなるとキックオフ直後からヴィッセルの最終ラインに対して鈴木やレオ セアラにプレッシャーをかけさせ、シンプルにロングボールやアーリークロスを放り込んでくる「パワープレー」的な攻撃が増えると思われる。
2つ目はサイドバックの位置だ。この日の試合ではヴィッセルが中に誘導する動きで絡めとったため、鹿島のサイドからの攻撃は不発に終わった。そうなると予想されるのは、サイドハーフに最初からウイング並みの高い位置を取らせたうえでの、ヴィッセルの守備を広げる動きだ。そして広がったところにボランチが飛び込んでくるというのは、基本的ではあるが、圧力を強めるという意味では効果的だ。
そして3つ目は球際の強度アップだ。鹿島は攻撃の時間を増やすために、球際ではファウル覚悟のコンタクトを見せてくる可能性が高い。そこでボールを奪うことができれば、そこから一気に前に圧力を強めることができるためだ。
こうした策に対抗するためのポイントとなるのは2点だ。1つはゴール前を固めるのではなく、そこに入れさせない守備だ。特にサイドでの人数を合わせ、クロスの精度と回数を制限することができれば、鹿島の圧力を抜くことができる。これと同時に考えるべきは、セカンドボールの回収だ。ゴール前で弾き出したボールを、いかにして拾い、自分たちの攻撃につなげるかということが、鹿島を空転させる上では重要になる。
そして2つ目はプレス回避だ。鹿島の前に出ようとする勢いを逆手にとって前の大迫や武藤を使いながら、鹿島にアップダウンを強要することが、ヴィッセルの前に出る時間を増やすことにつながる。ここで期待したのが武藤だ。武藤のスピードに乗ったドリブルには強さもあり、相手の守備を引き付ける力がある。そして何より武藤には、相手に寄せられた中でも突き進むことができる強さがある。これを最大限に活かすことができれば、鹿島の心を折るゴールを奪うことも可能だろう。
そして、戦術面以上に大事になるのが、試合をコントロールする力だ。勢いをもって前に出たいはずの鹿島に対して、その勢いを削ぐように試合のテンポを調整することができれば、鹿島にさらなる焦りを生じさせることもできる。そのために必要なのが「守りに入らない」精神力だ。得点差があるだけに余裕を感じてしまうことは無理もないが、スキッベ監督がコメントしたように気を緩めることなく、全員が「もう一度鹿島を倒す」という強い気持ちをもって試合に臨んでほしい。鹿島を超える熱をもって、返り討ちにするという強い気持ちで戦うことが、好パフォーマンスを発揮するための条件であるように思う。
百年構想リーグを締めくくる最後の試合で、ヴィッセルの力強い姿、そして試合後には選手たちが喜びを爆発させる姿を見ることを楽しみにしている。

