覆面記者の目

明治安田J1百年構想リーグ 第17節 vs.長崎 ピースタ(5/17 13:00)
  • HOME長崎
  • AWAY神戸
  • 長崎
  • 2
  • 2前半2
    0後半0
    3PK2
  • 2
  • 神戸
  • 山口 蛍(21')
    エドゥアルド(45')
  • 得点者
  • (27')武藤 嘉紀
    (32')マテウス トゥーレル


残り3試合

 天はまだヴィッセルを見捨ててはいなかった。
 V長崎との試合はPK負けに終わったが、ヴィッセルの試合開始から2時間後にキックオフを迎えたC大阪対名古屋戦において、名古屋が1-6での敗戦を喫したのだ。この結果、ヴィッセルは勝点差1で西地区の単独首位に立った。さらに名古屋が大量失点を喫したことで、懸念材料だった得失点差も並んだ。古代ローマの哲学者セネカの言葉として知られる「運命は志あるものを導き、志なきものを引きずってゆく」という表現の通り、ヴィッセルの勝利を希求する気持ち、そしてアジアの舞台に再び戻るという意志が、この結果を引き寄せたように思う。 
 ヴィッセルは前節の京都戦で勝利を収め、明治安田J1百年構想リーグ(以下百年構想リーグ)西地区において、首位の名古屋に勝点差で並んだ。地域リーグラウンドは、この日の試合を入れて残り2試合。名古屋との「生き残りゲーム」に勝利するためにも「残る2試合で勝点6を獲得する」という強い意志を全ての選手が持ち、この日の試合に臨んでいたことは間違いない。ミヒャエル スキッベ監督も試合前日に「首位の名古屋より2時間早い試合になりますが、いい結果を出して、名古屋に少しでもプレッシャーをかけたい」とコメントし、勝利への意欲を見せていた。しかし結果はPK負け。勝点を1しか積み上げることができなかった。5人目のキッカーであった佐々木大樹の蹴ったPKを相手GKが左手で弾き出した瞬間、ヴィッセルの選手たちの表情がどこか寂しそうに見えたのも当然だった。
 この日得たチャンスを最良の結果に結びつけるためにも、リーグラウンド最終節となる次節の福岡戦に勝利し、鹿島との2試合にわたる頂上決戦を勝ち抜かなければならない。
 以下ではこの試合で顕在化した問題点を中心に整理していく。

変質の原因

 この日の試合前、V長崎を率いる高木琢也監督は「前回の対戦時(第2節)には何もさせてもらえなかった。依然としてヴィッセルが強いチームであることは間違いないので、どこまで迫ることができたか、自分たちの成長を見てみたい」とコメントした。そして試合後には「前回の対戦時とは、全く異なる試合ができた」と語り、自分たちの成長を誇った。この構図は2節前に対戦し、0-3で敗れた岡山戦と同じだ。岡山やV長崎がシーズンを戦う中で成長したことは事実なのだが、それだけが原因ではないように思う。やはりここ数試合でヴィッセルが見せている「変質」が問題だ。
 サウジアラビアでの戦いを挟んで、ヴィッセルの戦い振りが「変質」したと感じている人は少なくないだろう。原因はさまざま考えられるが、最大の理由が「蓄積された疲労」であることは衆目一致するところだろう。昨季もJ1リーグ戦終了後にAFCチャンピオンズリーグエリート(以下ACLE)のリーグステージを戦い、今季もシーズン(百年構想リーグ)開始直後から、ACLEを含めた連戦を戦ってきた。これだけの試合をこなす中で蓄積された疲労が、選手たちの動きや判断力を鈍らせたとしても、それはやむを得ないように思う。
 こう書いてくると、ヴィッセルと同様にサウジアラビアでの戦いを繰り広げた町田はここまでの「変質」を見せていない、という反論が出るかもしれない。サウジアラビアから帰国後、町田はヴィッセルと同様に6試合を消化したが、戦績は2勝4分。勝点を積み上げるペースは鈍化しているが、敗戦はない。もちろん対戦相手が異なっているため、ヴィッセルと町田を同列で比較することはできないが、ヴィッセルほどの「変質」は見せていないという仮説は成り立つように思う。
 ではこの差はどこから来るのか。それは戦い方の違いであるように思う。町田の戦い方はシンプルであり、選手たちが修得しやすい。あくまでも個人の特性はその中に包含されている。これに対してヴィッセルの戦い方は、一見するとシンプルだが、そこには個人の特性を最大限に活かすための工夫がある。それであるがゆえに、個人の疲労がそのままチームに影響を及ぼしやすいように思う。ここで誤解しないでほしいのは、ヴィッセルと町田に見られる戦い方の差は、チーム作りの違いであり、優劣ではないということだ。ヴィッセルの戦い方には疲労が反映されやすいという脆さもあるが、嵌ったときの破壊力は絶大だ。それゆえに選手の状態が良い時には、同カテゴリに所属するV長崎や岡山の指揮官をして「何もさせてもらえなかった」と言わしめる戦いができていた。
 ここまで「変質」の原因を選手個々の疲労に求めたが、チームとしての問題もあるように思う。それは「チームとしての逃げ方」が未確立であるという問題だ。もっと具体的に言えば、相手のプレスを無効化するビルドアップは、まだ確立されるに至っていない、という点が課題だ。これは今季以前から存在していた問題ではあったが、それを無効化してきたのは選手たちの能力だった。相手のプレスを受けたとき、それをいなすように動くのではなく、ロングボールを駆使して前線の選手に預ける。これはライバルたちも承知していたが、それでも止められない強さをヴィッセルは見せてきた。しかしライバルたちによる「ヴィッセル対策」が進んだ昨季終盤頃から、この問題は顕在化してきたように思う。スキッベ監督は今季、この問題解決にも取り組んできた。ピッチ上で選手たちが感じる感覚やひらめきを肯定し、ボールをつなぐことを許容してきた。さらに様々な選手を実戦の中で起用することで、経験によって実力を開花させ、新たな戦力を加えるよう企図した。しかしこの取り組みが形になるためには、それなりの時間を必要とすることも、また事実だ。そこで疲労の色が濃くなったこの時期に「コンパクト」という基本的な概念を強調し、それを遂行するために前節からは試合を通して3バックで戦うことを選んだ。
 これらはヴィッセルがこの先、強さを増し、それを常態化させていくための方法ではないのかもしれない。しかし今は「目の前の試合」で結果を出すための方策として、これを選択したということだろう。そこには、結果を求められるプロとしての合理性がある。


連続した偶然

 最初の失点は、偶然が重なった結果だったと言える。
 20分に右ウイングバックの飯野七聖が蹴った右コーナーキックは、ペナルティエリア内中央にポジションを取ったセンターバックのマテウス トゥーレルを狙ったボールだった。トゥーレルは競り合いの中で頭に当てたが、十分な体勢ではなく、ボールはペナルティアーク付近にこぼれた。この位置でこぼれ球に備えていたのは、この試合ではボランチとしてプレーした酒井高徳だった。酒井はこれを前に蹴り入れようと動いていたのだが、そこに走りこんできたチアゴ サンタナが、酒井の目の前でボールに対して跳んだ。しかしこれは目測を誤っており、結果的に酒井の動きだけを制御する形になった。このボールを密集の中で拾った山田陸が横の長谷川元希につなぎ、長谷川は前に蹴り出した。ここには、この日の試合で酒井とボランチコンビを組んだ井手口陽介が右から動いてきたのだが、ボールを処理しようと跳んだ井手口の進路を塞ぐように、サンタナが立ちはだかった。サンタナが跳ばなかったため、井手口はサンタナに乗り上げるような格好になり、地面に倒れた。ここでサンタナは頭でボールを前に送った。センターサークル内に落ちたボールに対しては、酒井とマテウス ジェズスが競りあった。酒井はマテウスの動きを正確に読み、一瞬ボールとの間に身体を入れたのだが、背後からマテウスが伸ばした足でボールを突いた。その後スピードを活かし酒井の前に出たマテウスは、酒井との内外を入れ替えるように動いた。そしてゴールエリア横まで入り、逆サイドに速いボールを送った。これを上がってきた山口蛍に蹴り込まれ、ヴィッセルは先制点を許してしまった。
 このシーンを振り返ってみると、2つの偶然が重なったことが判る。最初の偶然はサンタナが酒井の前に来たときだ。酒井を身長で上回っているサンタナは、このボールを頭で前に送りたかったはずなのだが、落下地点を見誤っていた。これは本来凡プレーに属するものだが、サンタナが跳んだことで、酒井は動きを一瞬止められてしまった。次の偶然は、またしてもサンタナ絡みだった。サンタナはボールを直接受けようとしていたのだが、山田が蹴ったボールには逆回転がかかっており、サンタナは足を止めた。これもボールの軌道を読み違えていた結果なのだが、これが井手口に対するブロックのような形となった。自分たちのコーナーキック時にこぼれてくるボールへの備えとして見たとき、酒井の立ち位置、井手口の動きのどちらにも間違いはなかった。むしろしっかりとリスク管理をした結果だったと言えるだろう。しかし結果的にサンタナのイレギュラーな動きが、攻撃の起点となってしまった。文字通り「運が悪かった」と言うべきなのかもしれない。
 もし悔やむ点があったとすれば、ゴール前でヴィッセルの人数が足りていた点だろう。酒井はマテウスを遅らせるように動き続けた。ここで酒井は中途半端に止めようとするのではなく、最後まで行ききったことで、味方が戻る時間を作り出した。ここで戻ってきたのはトゥーレルと飯野だった。さらにその背後から、左センターバックを務めたカエターノもペナルティエリアまで戻っていた。ここで逆サイドを上がってきた山口をマークすることができたとすれば飯野だったとは思うが、全力で戻るのが精いっぱいであった状況を思えば、周りを見る余裕がなかったことはやむを得ないというべきなのかもしれない。もし飯野に山口をマークするチャンスがあったとすれば、酒井とマテウスが入れ替わったタイミングだった。映像を見直してみると、この時に飯野はボールを見るため、少し速度を緩めていた。このときボールの処理を酒井に任せることができていれば、あるいは外の山口を見つけられていたかもしれない。とはいえ現実的には厳しく、ヴィッセルの守備対応には概ね問題がなかったと言うべきだろう。

コミュニケーション

 偶然が重なった最初の失点とは異なり、2失点目はコミュニケーション不足が招いたと言えそうだ。
 失点そのものは左コーナーキックが中央まで抜けてしまい、そこにいたエドゥアルドに蹴りこまれてしまったものだが、問題はそこに至る過程にある。このコーナーキックに至る前、山田が左ハーフスペースから前に蹴り入れたボールは精度を欠いており、GKの前川黛也が余裕をもってキャッチできると思われた。しかし前川がキャッチする寸前、ここに入り込んだカエターノが頭でクリアしようとして、これがゴールラインを割ってしまった。前川はキャッチにいく過程で声を出していたとは思うが、カエターノには届かなかったのだろう。これも映像で見直してみると、山田のキック前からカエターノはボールだけを見続けていた。背後にサンタナが立っていたことは、その前に把握していたため、クリアしようと考えたのだろう。ここで誤解しないでほしいのは、カエターノが失点の直接の原因ではないということだ。このコーナーキックが失点につながったのは、結果論に過ぎない。もし防ぐ可能性があるとすれば、コーナーキックに対してニアで備えていたンドカ ボニフェイスのところだったように思う。しかしボールのスピードもあり、ボニフェイスは相手選手をマークしていたこともあり、反応することは難しかったように思う。
 ここで重要なのは、こうした場面に備えて、日常のトレーニングを通じてお互いのプレーを把握し、声を必要としないところまでコミュニケーションを高めておくということだ。この日の観客数は2万人を超えていた。J1復帰初年度であるV長崎にとっては、百年構想リーグ最後のホームゲームということもあり、今季最多となるサポーターがスタジアムに足を運んでいた。V長崎がゴールに迫る中でのプレーだったこともあり、スタジアムの歓声が選手間の声をかき消したのだろう。こうした事態は、この日の試合に限らず頻繁に起きる。それだけに日常のトレーニングの中から、選手間のコミュニケーションを確立しておくことが重要なのだ。


可能性を見せた選手

 試合後、スキッベ監督はリードを守り切れなかったことについて尋ねられた際、「追いつかれたことは残念だ」としながらも、「3-1にしておきたかった」と、3点目が奪えなかったことを反省材料として挙げた。この言葉は、この試合の本質をついているように思う。この日の試合でヴィッセルが記録したゴール期待値は2.93と高かった。以前にも書いたようにゴール期待値とは、非決定機をも含む各シュートの得点確率を合計した指標だ。ということは、この日のヴィッセルは3点を奪って、期待値通りということになる。そう考えると、この日の試合で挙げた2点という得点数は、作り出したチャンスの質に見合っていない結果だったということになる。 こうした結果を見ると、ヴィッセルらしい得点力が回復したとまでは言えないかもしれないが、チャンスを多く作れていた点を考えれば「復調の気配」があると見ることもできそうだ。
 この日の試合で可能性を感じさせてくれた選手が2人いる。1人はカエターノだった。特筆すべきプレーは、1点目のシーンだ。27分に自陣深い位置からカエターノが出したボールに反応した左ウイングバックのジエゴが、V長崎の裏を取った。そしてペナルティエリアに入ったところで横パスを出した。これに対して中央に走りこんだ大迫が囮となり、ボールは逆サイドまで流れた。これを酒井が受け、中央やや下がり目に折り返した。これを右シャドーの武藤嘉紀が頭で逆サイドに流し込み、同点に追いついた。このゴールの起点となったカエターノだが、ここではV長崎の戦い方を巧く利用した。この日の試合でV長崎は、前線からのプレスでヴィッセルの前進を食い止めようとした。おそらく前回の対戦時に引いて守った結果、反撃の糸口をつかめないままに敗れたことが影響していたのだろう。カエターノがボールを受けたのは、自陣ディフェンシブサードだった。中央のトゥーレルからボールを受けた直後、マテウスが猛スピードでプレスをかけてきたが、カエターノは落ち着いて2タッチで縦にボールを差し込んだ。この時、ワンタッチ目でマテウスから遠い方にボールを置き、小さめのモーションから味方を走らせるボールを蹴った。しかも注目すべきは、その着弾点だ。サイドとハーフスペースの間という、最も守備が対応し難い場所まで、正確にボールを届けたのだ。これによって、サイドに出ていたジエゴは、中に向けたコース取りで走ることができた。そのためペナルティエリアまでスピードを落とすことなく走りこめたのだ。この日の試合では、これまで以上にカエターノからのボールで攻撃を開始する場面が目立っていた。得点になったのはこの場面だけだったが、ボールの質・精度ともに高かった。
 前述したような細かなコミュニケーションや球際での強度や動きに改善の余地はあるが、カエターノの実力は本物だ。何よりもヴィッセルの守備陣には少ない左利きという点が、大きな意味を持っている。左タッチラインを味方につけることができるため、プレスに来る相手からボールを隠しやすい。さらに中に向けてボールを入れる際、身体の向きを変える必要がないため、球出しがスムーズになる。タイプ的には3バックの左というイメージではあるが、この先時間を積み重ねていく中で連携を高めることができれば、自陣からのビルドアップを構築する上で、大きな戦力となる可能性も高い。
 2人目は最初の得点をお膳立てしたジエゴだ。縦のスピードもあり、ボールを握ることもできるため、サイドの槍として縦の突破時には大きな武器となっていた。この日の試合では試合序盤から積極的に前に出る姿勢が目立ち、ヴィッセルと同じ3バックで守るV長崎の守備を広げる役割を担い続けた。ジエゴは前に出るときのコース取りが巧みだ。基本的にはサイドをメインとしつつも、相手が逆サイドに寄っているときにはハーフスペースを使うなど、シチュエーションに応じた動きを見せる。そして最も大事な点だが、味方を呼び込みやすいコース取りを見せている。この日の試合で見せた3-4-2-1のフォーメーションにおいては、ウイングバックとシャドーの絡みでサイドに厚みを作ることが望まれるが、ジエゴのコース取りが巧みであるために、同サイドのシャドーを務めた佐々木も入りやすかったのではないだろうか。そしてジエゴのもう1つの武器であるロングスローも、この日の試合では効果を発揮した。そこから得点につながったわけではないが、明らかにV長崎の守備が守り難そうにプレーしていた。
 こうしたジエゴの特徴は、同じポジションのライバルである永戸勝也と似通っている。しかしジエゴには高さがあり、永戸にはキック精度がある。この両者の使い分けは、マッチアップする相手の高さやスピードに拠るのかもしれないが、昨季まで右サイドからの攻撃が中心だったヴィッセルにおいて、左サイドを活性化している。


停滞

 この日の試合でヴィッセルは、布陣による5レーン対策ができたこともあり、試合を支配することには、概ね成功していたように思う。しかし3点目を奪うことはできなかった。その最大の理由が「大迫の交代」であったことは、衆目一致するところだろう。63分にスキッベ監督は大迫をベンチに下げ、小松蓮を投入した。そこまでヴィッセルは前進する際の起点として、大迫を使い続けていた。そして大迫はその期待どおりの活躍を見せ続けた。後ろからのボールを呼び込み、自ら動くことで2列目と3列目の選手に時間を与え続けた。この日の試合では、決定的な場面でゴールを決めることはできなかったが、それでもチームにおいて最も大事な役割を果たし続けた。この大迫の交代後、ヴィッセルは効果的な前進を見せる場面が激減した。これはヴィッセルの攻撃が、依然として「大迫ありき」で組み立てられているという印象を強くした。
 ここで問題は「大迫不在時」に、いかにして前進する体制を整えるかという点に移る。この日の試合で大迫が交代した理由は不明だが、今後もこうした状況を迎える可能性は十分にある。スキッベ監督は小松の高さと強さを前線の起点としたかったように思うが、その場合は小松への配球を誰が行うのかという、別の問題も同時に解決しなければならない。この試合でボランチを務めた井手口、酒井ともにそうした特徴を持つ選手ではないだけに、彼らに配球役を任せるだけでは解決には至らない。そう考えると、この日の布陣では「小松の高さと強さを前線の起点にする」という部分に無理があったようにも思える。だからこそ前線の並び直しこそが、この日の試合において前への推進力を保つ方法だったように思う。
 具体的には小松をシャドーに入れ、前線には武藤か佐々木を移す。そして前線にボールを入れるのと同時に、小松に裏を狙わせるという方法だ。武藤と佐々木が中央でもプレーできることは、過去の試合で証明済みだ。彼らには大迫のようにポジションを落としながら時間を作るプレーではなく、背後からのボールを前に出すというハブ的な役割を与え、背後から飛び出す選手を使うというのが、V長崎のようにゴール前を固めて守るチームに対しては有効だったように思う。そう考えた理由は、小松の個性だ。小松は真面目な性格であり、時には3列目まで落ちることもある。しかしそこでボールを握る役割を担ってしまうと、個性が活きてこない。小松の個性は身体の強さと大きさにあり、それは前に出るときに最大の力を発揮するように思う。であればこそ、武藤や佐々木の背後から前に飛びだしていくプレーは、相手の守備に緊張を強いたのではないだろうか。
 試合最終盤に決定的なチャンスを迎えたように、小松はゴール前で仕事ができる選手だ。しかし密集の中でボールを握り続ける力は、それほど高いわけではない。いずれはそうした力も身につける可能性は十分にあるものの、現時点で小松の良さを活かすためには、比較的プレッシャーの少ない位置から前に出る動きを活かす方が効果的であるように思う。
 そしてもう1つこの日の試合で試してほしかったのは、飯野を使った前進だった。久しぶりの先発起用ということもあってか、飯野は積極的に動く姿勢が目を惹いた。飯野の持ち味はスピードだ。前に出るスピードは、相手の守備を振り切ることもできる。同時に飯野はボールへの執着を見せることができる選手だ。ゴールラインを割りそうなボールを最後まで追い続け、深い位置から折り返すこともできる。この日の試合では58分に広瀬陸斗との交代によってベンチへと退いたが、ヴィッセルがボールを握る時間が長かったことを思えば、もう少し飯野の飛び出しを活かした攻撃を見てみたかったと思ってしまう。


ボランチ

 この日の試合で酒井と井手口がダブルボランチとしてプレーしたことは、前記したとおりだ。スキッベ監督はヴィッセルのポゼッション率が高くなることを想定したうえで、酒井をボランチに入れたのだろう。もしこれがポゼッション率で上回ってくるチームとの対戦であれば、ここには縦の守備に強さを見せる鍬先祐弥が起用されたように思う。ボールとともに動くことのできる酒井、そして中盤でのフィルターとなる鍬先、縦に攻撃を仕掛ける日髙光揮という異なる個性を持つ選手たちの使い分けと布陣の変更によって、スキッベ監督は「扇原貴宏の不在」を乗り切ろうと試みている。
 この日の試合に限って言えば、前記した大迫の交代後に酒井をウイングバックに移し、日髙を入れるという方法もあったように思う。特に中央でV長崎の起点となっていたサンタナの交代後であれば、井手口と日髙を縦関係のように動かすことで、中央からの攻撃を組み立てるというやり方も面白かったように思える。
 いずれにしてもこの位置からの攻撃の組み立ては、ヴィッセルの推進力を担保するうえで大きな意味を持っている。それだけにスキッベ監督の眼力と采配には大きな期待がかかる。

最終節に向けて

 冒頭でも書いたように、この日の試合結果を受けてヴィッセルは西地区の首位に返り咲いた。様々な苦労はあったが、首位の座を自分たちで守りきることができる状態で最終節を迎えることができた。その最終節の相手は福岡だ。現時点で西地区の9位と、順位的には苦戦が続いている福岡だが、警戒すべきチームだ。最大のポイントはセンターバックの陣容だ。元ヴィッセルの宮大樹や上島拓巳など、身体を張った守りを見せる選手が多いため、攻撃陣にはそれをかわすような動きが求められる。選手個々の力関係ではヴィッセルが有利と言えるだろうが、福岡が守りに徹してきた場合、そこを崩すためには工夫が必要になる。この試合にどのような布陣で臨むことになるかは不明だが、この日の試合で見せたような「相手ゴール前での厚み」が求められることは間違いない。まずはその先の戦いを考えることなく、目の前の相手(福岡)を倒すことに集中してほしい。
 決して平たんな道のりではなかったが、ヴィッセルは全員の力を結集し、厳しい日程を戦い抜いてきた。これまでの苦労を実りあるものにするためにも、福岡戦ではより「勝利にこだわった」姿を見せ、来るべき決戦への勢いをつけるような戦いを期待している。