覆面記者の目

明治安田J1百年構想リーグ 第12節 vs.京都 ノエスタ(5/13 19:00)
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  • ンドカ ボニフェイス(78')
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勝負
 シーズンの中でうまくいかない試合というのは、どんなチームにもある。しかしそれが続いてしまうと自信の喪失、指揮官への信頼低下といった事象が生じ、チーム全体が歪んでいく。この「負のサイクル」に一旦突入してしまうと、そこから抜け出すことは容易ではない。AFCチャンピオンズリーグエリート・ファイナルズから戻って以降、ヴィッセルは本来の力を発揮することができずにいた。広島戦では終盤に追いつく粘りを見せ、PK勝利をもぎ取ったものの、G大阪戦と岡山戦ではよもやの大敗。しかも同じ形からの失点を繰り返したことによって、選手たちが弱気になっているように感じられた。
 経験豊富なミヒャエル スキッベ監督は、この状態を放置しておくことはできなかったのだろう。この日の試合に大幅な選手の入れ替え、布陣変更をもって臨んだ。このスキッベ監督が見せた決断は重い。

 これまで様々な競技の指導者に話を聞いてきたが、不調からの脱出に対する考え方は2つに分かれる。「何もしない派」と「動く派」だ。「何もしない派」の指導者は、自分が動くことで選手たちの思考が他責に陥る危険性を指摘する。加えて選手に過度のプレッシャーがかかることを恐れる。これに対して「動く派」の指導者は、具体的な変更を行うことでチーム内のベクトルを揃えようとする。明確な指示を送ることで、選手たちに戦いやすさを与えようとする。これらはそれぞれに理があり、どちらか一方が正解という性質のものではない。しかし1つ言えるのは、指導者が動くときには大きなリスクが伴うということだ。そのリスクとは「動いたときに結果を残せなければ、事態はさらに悪化する」ということだ。選手の立場から「動いた結果の敗戦」を見ると、選択肢が1つ減ったと映ってしまうためだ。こうしたことを踏まえてこの日の試合を観ると、スキッベ監督は「大きな勝負」に出たと言える。そしてその勝負に勝った。
 明治安田J1百年構想リーグ(以下百年構想リーグ)の結果次第ではあるが、この日の試合がヴィッセルにとってのターニングポイントとなる可能性は高い。

宝物
 ここで忘れてはならないのは、ヴィッセルにはそうした勝負に出ることができる土壌があるということだ。そしてその土壌を作っているのは、チームを牽引している経験豊富な選手たちだ。試合後に行われた会見の中でスキッベ監督は、勝利の意味を尋ねられた際「チームで中心となる選手たちが先頭に立ち、引っ張っていった姿勢を見ていただけたかと思います」とコメントした。続けて、そうした選手たちの戦う姿勢を見て、他の選手がついていくことが大事だとも語った。またジエゴも「ベテラン選手が中心となって、試合に対する入り方やマインドなどを話し合い、いい結果を出せるように持ってきました」とコメントした。さらにそうした選手への思いを尋ねられた佐々木大樹は「本当に大きな支えですし、そういう選手が味方にいるのは心強いです」と語った。
 ヴィッセルを牽引している大迫勇也、武藤嘉紀、酒井高徳、そしてこの日の試合ではベンチに控えていた権田修一たちベテラン勢は、ヴィッセルにとって「宝物」ともいうべき存在だ。彼らはいずれも高い技術と海外や代表を含めた豊富な経験を持っており、それを惜しみなくチームに還元しようとしている。そして試合の中では声を出し続け、周りを鼓舞する。誰よりも勝負にこだわり、若い選手にも要求を続けることでチームに戦う意思を植え付け、プレーレベルを向上させている。象徴的だったのは、76分に満田誠と交代する際に酒井が見せた動きだ。山川の欠場に伴い、この日の試合でゲームキャプテンを務めた酒井は、ピッチを出る最後の瞬間まで味方に声をかけ続けていた。ピッチに魂だけは残していく。そんな雰囲気さえ漂わせていた酒井の姿が、ピッチ内の選手たちの闘志に火をつけたことは間違いないだろう。絶対に勝負を諦めない彼らの存在があればこそ、スキッベ監督もこの日の試合で勝負に打って出ることができたとも言える。



戦い方の幅
 この日の試合でスキッベ監督は3ー4-2-1の布陣を採用した。これまでに試合途中で3バックに変更したことはあったが、この試合では試合開始から3バックで戦った。この布陣変更を読み解くキーワードは「コンパクト」だ。試合前日にスキッベ監督は、この日の戦い方に言及する中で、何度かこの言葉を使用した。そのうえで「守備的とか攻撃的ということではなく、岡山戦での良かった時間帯を意識して戦う」とコメントした。この真意を理解するために、岡山戦後のコメントを振り返ってみる。
 岡山戦では2点を追う後半開始から選手交代を行い、3バックに変更した。そして後半開始からの時間帯に見せた戦い方には、スキッベ監督も一定の評価を与えていた。「外からのクロスに対応する中の人数を増やす」と意図を説明したうえで、佐々木とジエゴによって左サイドが活性化したという見立てを話した。この日の試合では、試合開始からこの形で勝負に出たということだ。

 ここで3-4-2-1という布陣について、その特徴を整理してみる。
 この布陣における最大の特徴は、局面に応じた柔軟な可変性と中央における堅牢さだ。相手に押し込まれたときには両ウイングバックが落ちることで、最終ラインを5枚とする。さらに2シャドーがボランチの横まで下がることで、5-4のミドル、あるいはローブロックを形成することができる。攻撃時にはワントップの横に2シャドー、そして両サイドにウイングバックが進出し、中央の背後からは2枚のボランチで押し上げることが可能となり、攻撃時の厚みを作り出しやすい。配置次第では、可変的に3-2-4-1や3-2-5といった「前に厚い布陣」を形成することもできる。さらに2シャドー、2ボランチ、3センターバックが中央に配置されるため、中央を固めることができ、バイタルエリアを使われる危険性が減るというメリットもある。さらに言えばボール保持時には、3-4の関係を活かすことができるため、自陣でのボール回しも安定する。
 こう書いてくるとメリットばかりに目が向いてしまうが、もちろんデメリットもある。まずはウイングバックへの負担が集中するという問題だ。前記したように、基本的に中央を厚くした布陣であるため、ウイングバックは1人で上下動を繰り返し、サイドを管理しなければならない。そのためウイングバックのスタミナ切れは、破綻に直結する。さらにウイングバックの裏のスペースが狙われやすいのも、この布陣の特徴だ。特にウイングバックが攻撃に上がった局面でボールを失った時が危険だ。カウンターでその背後を使われてしまうと、相手に一気に前進を許すことになってしまう。これに対しては両サイドのセンターバックやボランチが対応することになるのだが、このカバーが遅れた時は大きなピンチとなりやすい。
 この布陣で戦ううえで、最も問われるのはシャドーの質だ。前記したように攻撃時には厚みが生まれるが、これは裏を返せば過密状態になりやすいということでもある。そのためシャドーの選手には、ポジションのバランスを整えるセンスと、狭い局面でボールを扱う技術が求められる。加えて局面に応じてスペースを見つけ続け、そこを使い続ける流動性も必要とされる。これがなく、シャドーが中央に留まってしまったときには、攻撃が手詰まりとなり、相手守備の外でボールを回し続けることになってしまう。

3バックを採用した理由
 ここでスキッベ監督が3バックを採用した理由を考えてみる。筆者が思うに、その最大の理由は攻守両面にメリットがあるためだろう。スキッベ監督は3バックにすることで、なかば強制的に5レーンを埋めようと考えたのだろう。過去4試合の中でも、ヴィッセルがボールを握る時間帯はあった。しかしそこから厚みのある攻撃に持ち込めなかった理由の1つは、選手配置にあったように思う。ボールを握り続けるために選手間の距離が近くなっていき、結果として相手を含めた密集がピッチ上の各所に生まれてしまった。その結果として小さな局面の戦いが続いてしまい、チーム全体で前に攻めるような形が作れなかったように思う。
 ここで、なぜ5レーンを埋めることが重要なのかを確認しておく。この5レーンはピッチ全体を効率よく使い、再現性の高い組織的攻撃を展開するための考え方だ。正しく選手が配置されたときには、自然と斜めのパスコースが生まれる。ということはピッチ上のいたるところに三角形を作りやすくなるため、パスコースを失うことがない。さらにいえばサイドと中央の間であるハーフスペースを可視化することで、相手守備(特に4バック)の間隙を突きやすくなる。そして、これが最も重要なのだが、選手がバランスよく配置されるようになる。これによって味方同士の密集を防ぎ、ボール非保持に変わった瞬間のプレスがかけやすく、即時奪回を狙える態勢が整う。
 
 こうして見てくると、3バックシステムによって5レーンを埋めることで、攻撃時の厚みと守備時のバランスを取り戻すというのが、この試合におけるスキッベ監督の狙いだったことが判る。さらにこの選手配置には再現性を持ちつつあった失点に対する備えという側面もあった。サイドからのクロスに対して、中(=ボールを受ける側)と外(=ボールを蹴る側)の両面に人数をかけることもできるためだ。
 結論から言えば、このスキッベ監督の狙いは当たっていたことになる。試合を通じて高い位置での守備を見せることができ、試合の主導権を握るという「ヴィッセルらしい」戦い方を、チームは取り戻した。もちろんこの試合だけをもって「完全復活」と断じることはできない。しかしボール保持時に見せたチームの厚み、非保持に変わった瞬間の素早いプレスといったチームの根幹とも呼ぶべきプレーは、随所で見ることができた。

 この先に控える試合でも3-4-2-1を継続するのかについては、全く不明だ。しかしヴィッセルの戦い方の幅が広がったことだけは間違いない。

ヴィッセルの質
 この日の試合に際してスキッベ監督は、岡山戦から6人の選手を入れ替えた。新たに起用されたのはGKの前川黛也、右センターバックのンドカ ボニフェイス、左センターバックのカエターノ、左ウイングバックのジエゴ、左シャドーの日髙光揮、そして左ウイングの佐々木だ。そして彼らが奮闘したことで、スキッベ監督は布陣変更という勝負に勝つことができた。新たに起用された選手たちが結果を残すことができた背景には、高い質で行われている日常のトレーニングがある。6試合ぶりの先発起用となったボニフェイスは「本当に神戸の選手は常に全員が準備しているというのは、今年ここに来て思いました」と試合後に話したが、それができなければチームにいられないという雰囲気があるのだろう。このボニフェイスの言葉こそが、チームが正しい方向に進み続けていることの証左だ。

 この日の試合を有利に運ぶことができた背景には、守り方の変化もあったように思う。それを体現していたのが、8試合ぶりの先発起用となった日髙だった。日髙は相手との球際勝負の際、ボールを奪うこと以上に、相手ゴール方向に圧力をかけることを重視しているかのようなプレーを見せた。これが後ろに控える選手たちに守りやすさを与え、連動したプレスからボールを高い位置で奪い切る場面を作り出した。この日の試合では久しぶりに高い位置でのボール奪取を見せることができたヴィッセルだが、それはチーム全体が前を向き続けた結果でもある。

 ここ数試合、球際勝負においてヴィッセルの選手はボールを奪うことに重きを置いていたのかもしれない。もちろんボールを奪うことができれば、それは攻撃の起点となる。しかしその意志が強すぎたためか、ボールを奪うために相手との距離を取ったことで、後ろに控える選手に対して選択を迫っていたのではないだろうか。これについてもう少しだけ詳しく説明する。
 相手との球際勝負においてボールを奪い切ることができれば、それに越したことはない。しかし奪おうとするあまり、相手との距離を取ってしまい、前に強く出ることができなかったとき、その背後に控える選手は前に出る判断が難しくなる。極端に言えば相手との距離を取って時間を作るよりは、前に出て抜かれた方が後ろの選手は守りやすいのだ。ここで重要なのは、確実に「1つのコースは切る」ということだ。それによって背後の選手は、残された選択肢の中で守備を定めることができる。しかし球際勝負でボールを奪おうとして、相手との距離を取りながら時間を使ってしまうと、背後の選手は複数の選択肢を持ちながら準備しなければならなくなる。ここで生じる小さなズレが堆積すると、最後は大きなズレになってしまう。この試合で日髙が見せたように、前に出て守っていくことができれば、背後の選手は次のコースを予測しやすくなる。守備に際しては、相手から時間とスペースを取り上げることが重要なのだ。
 この試合で日髙が再三見せたような前に出る守備は、京都の選手たちから時間とスペースを奪った。試合後に京都の麻田将吾は「ボールを持ったときの出口がはっきりしなかった」とコメントしたが、これこそがこの試合でヴィッセルの守備が機能していた証だ。
 今季は出場機会を増やしている日髙だが、出場した試合ではやり切っていると感じさせることが多い。もともとボールスキルは高いものを持っており、大きな期待を背負ってはいたが、これまではそれを発揮しきれていない印象があった。しかし今季は積極的に前を向くプレーが増えている。漸くチーム内における自分の位置を定めることができたのかもしれない。ペナルティエリア付近では積極的にシュートを狙っていく姿勢も含めて、日髙は特徴を発揮できるようになってきた。

 また6試合ぶりの先発起用となったジエゴも、その持ち味を存分に発揮した。左ウイングバックでプレーしたジエゴは、ボール保持時に前を向く強さを発揮し、左サイドを活性化した。ジエゴは長い足を使い、少々のルーズボールにも触ることができる。そしてそれを前方向に蹴ることができるため、特にミドルサードでの競り合いの中では力を発揮する。ジエゴがボールを持ったとき、そこからボールを引き取るように大迫がポジションを落としてくる場面も多く見られ、試合を通じて前に出続けることができた一因となった。負傷の影響もあり、先発に定着することができていなかったジエゴだが、推進力という特徴を考えれば、チームにとって大きな力となる選手だ。ジエゴは試合後にまだ100%ではないとコメントしたが、調子を上げてくれば確実にチームの助けとなる存在であるだけに、今後にも期待したい。

 そしてこの日の試合でも面白い存在となったのが、カエターノだった。この日の試合でもカエターノは高いボールスキルを存分に発揮した。後半、自陣ゴール前で密集した中で、1人落ち着きを失うことなくプレーを続け、ゴール前からボールを遠ざけた。このカエターノのキック技術は、派手さはないかもしれないが、相当に高い。相手のプレスを受ける中でも、確実にそれをかわして味方につけることができる。欲を言えばカエターノからの大きな展開を見てみたいとは思うが、この落ち着きとキック技術は押し込まれた局面では、チームの大きな助けとなる。マテウス トゥーレルのような力強さは感じさせないが、この日の試合でデュエルは地上戦、空中戦とも全勝しているように、守り切る強さも持っている。漸くプレーがチームに馴染んできた感もあり、この先カエターノがどんなプレーを見せてくれるのか楽しみだ。

 もう1人特筆すべき動きを見せたのが、得点をアシストした満田だ。76分に酒井との交代で投入された満田は、その技術の高さを存分に見せつけた。井手口からのボールを、満田はハーフスペースと中央の境界線付近で受け取った。この場面で満田は右足でトラップしたのだが、見事なボールコントロールを見せ、次に蹴る位置にボールを置いた。そして再び右足で狙いすましたように、ファーサイドに立っていたボニフェイスに正確なボールを供給した。ここで満田が見せたトラップこそが、「次のプレーを想定した」プレーだ。サッカー少年・少女にぜひとも見てほしい見事なプレーだった。



 ここでは久しぶりの先発ということもあり、日髙を中心に取り上げたが、その他の選手も含め、出場した選手が確実に力となり続けた試合だった。ジエゴは「僕だけじゃなく、みんながレギュラーを目指して日々努力している」とコメントしたが、起用された選手がチームに力を与えるという循環を保ち続けることが、ヴィッセルが強くあり続けるための条件だ。

復活
 スキッベ監督が試合後の会見の中で特に名前を挙げたのが、佐々木だった。チームを活性化するための声掛けについて尋ねられた際、奮闘した選手への感謝を述べた後「佐々木が蘇ったようなプレーを見せてくれたので、非常に嬉しく思っています」と言葉を加えた。全ての選手が活躍した試合だったことは事実だが、チームの浮沈を考えたとき、佐々木の復活が大きな意味を持っていることは間違いない。
 この日の試合では左ウイングで先発した佐々木だが、再三にわたって前線での起点となり続けた。相手の前でボールを受け、そこで巧みにボールを握り続け、味方にスペースと時間を渡し続けた。試合後に佐々木はこれまで空回りしていたという感覚があったことを認めたうえで、「漸く自分のスタンダードに戻ってきたという感覚があります」とコメントした。この佐々木のスタンダードというのは、前線での起点となり続けるプレーだ。空回りしていたという試合でもボールを握ることはできていたのだが、その後のパスにズレがあった。もちろんそれは佐々木自身の問題でもあったのだが、同時にチーム全体の問題でもあった。再三再四繰り返しているように、この日の試合ではチーム全体が前に出続けることができたことで、佐々木にとってもパスコースを見つけやすかったのだろう。逆に言えば過去数試合では、チーム全体が前を向けなかったことが、佐々木のズレを生んだとも言える。
 復活を感じさせた佐々木ではあったが、この試合でも得点は生まれなかった。一度は決定的なチャンスを迎えたが、これを決めることはできなかった。しかし得点は結果に過ぎない。正しいプロセスを経ない結果には意味がないと考えれば、今の佐々木に必要なのはプロセスを大事にすることだろう。この日の試合に際しては「ゴール、アシストという結果にフォーカスしすぎていたので、まずはチームのために戦う、走るというところを意識して入りました」とコメントした佐々木だが、これを続けることが完全復活への近道だ。



課題
 概ね思い通りに運んだ試合ではあったが、後半は京都に攻撃を許す場面もあった。そこには2つの問題があったように思う。
 1つ目は前半に得点を奪うことができなかったという点だ。ヴィッセルが主導権を握り、前に出続けた前半だったが、ここで得点を奪うことができていれば、試合を圧倒することも可能だったように思う。しかしスコアレスでハーフタイムを迎えたことが、京都に修正を許してしまった。無理に攻め続け、カウンターで失点するのは最悪の展開だが、やはり「主導権を握っている時間帯に決めきる」という点にはフォーカスしてほしい。
 もう1つの問題だが、それは横に広げられたときの対応だ。京都を率いる曺貴裁監督は前半の問題点を「ボールの出口を見つけられなかった」としたうえで、後半はサイドを使って突破を図り、ヴィッセルのボランチが前に出たスペースとワントップのラファエル エリアスの周りを使った前進によって押し返したという認識を示した。要は前記したように3-4-2-1という布陣が抱える「サイドの薄さ」という問題点を衝くことで、反撃できたということだ。この試合では曺監督が言うところの「百戦錬磨のセカンドボール奪取」によって最後の場面は防ぎ続けたが、この布陣で戦ううえでは横に広げさせない工夫が必要になる。そこでの対応は3つだ。
 1つ目はセンターバックのスライドとカバーリングだ。ボールサイドのセンターバックはボランチと連携を取りながら、ウイングバック裏のスペースに出る。そして残る2枚のセンターバックも同じ方向にスライドし、2センターバックとしてのバランスを保つ。この時、ボールサイドのボランチはサイドのセンターバックが出たことによって生じるスペースに素早く落ちて、そこをカバーする。
 2つ目は素早いリトリートだ。目的は5-4のブロックを素早く形成することだ。両サイドのウイングバックは一気に最終ラインまで落ちて5バックを形成する。これによってサイドのスペースそのものを消す。同時に2枚のシャドーもボランチの横まで落ちて、中盤の守りを4枚にする。これによって味方のウイングバックがサイドで1対1になるのを防ぎ、シャドーとのコンビで挟み込むような体制を整える。
 3つ目は深い位置に運ばれる前の予防策だが、高い位置で相手のパスコースを限定し、遮断する動きだ。具体的には相手がサイドを使ったビルドアップを試みたとき、ワントップと2シャドーが中央へのパスコースを遮断するように動き、敢えて相手をサイドへ誘導する。そしてサイドにボールが入ったところで、ウイングバックが縦のコースを切り、シャドーが後ろからのパスコースを切ることでタッチライン際に閉じ込め、そこでボール奪取を図る。
 これらの対応策を、状況に応じて繰り出せるようにしておくことが重要だ。

今後に向けて
 この日の試合でヴィッセルは、約1か月ぶりとなる「90分間での勝利」を挙げた。既に百年構想リーグ首位の可能性が消滅していた京都との間にモチベーションの差はあったかもしれないが、この勝利がヴィッセルにもたらしたものは大きかったように思う。
 この日の勝利によってヴィッセルは、首位の名古屋に勝点で並んだ。残る2試合では「多くの得点を奪って勝つ」というところにフォーカスした戦いが求められる。とはいえ無駄に前がかりになり、失点を喫するということは避けなければならない。その意味では、この試合で見せた「前に出る守備」を貫き通さなければならない。V長崎、そして福岡と続く九州での2連戦に、ヴィッセルは全ての力を振り絞って臨むこととなる。

 「Where there's a will, there's a way.」
 これはアメリカ第16代大統領のエイブラハム リンカーンの言葉として紹介されることが多い言葉だが、真偽のほどはあきらかではないという。「意志あるところに道は開ける」と訳されることの多いこの言葉は、目的を達成しようとする強い決断力があれば、どんな障害も乗り越えられるという励ましの意味で使われることが多い。しかし同時に単に「願う」だけではない、行動を伴う意志の力を求める言葉でもある。ヴィッセルの選手たちが残る2試合で見せてくれる強い意志が、最良の結果をもたらしてくれることを信じている。




今日の一番星
[ンドカボニフェイス選手]

この日の試合は堅実な守備と貴重なゴールでスタンドを沸かせたボニフェイスを、迷うことなく選出した。6試合ぶりの先発出場となったボニフェイスだが、右センターバックの位置で堅い守りを見せ、同サイドのウイングバックである酒井の前進をお膳立てした。持ち味である球際の強さは見事で、京都の左サイドを使った攻撃を食い止め続けた。そしてボールを奪った後の前に出る判断もよく、最終ラインが下がりすぎないように意識したプレーを見せた。得点シーンでは対人の強さを存分に発揮した。本文中でも触れた満田からのクロスは正確で高質なボールだったが、ボニフェイスの前には強さが売りのエンリケ トレヴィザンが入っていた。しかしボニフェイスの跳ぶタイミングが良かったため、確実にエンリケを上回っていた。エンリケの肩にボニフェイスの手がかかっていたことは事実だが、跳んだタイミング的にボニフェイスが主導権を握っていたため、これは正当な競り合いと判断された。映像で見直してみると、シュート自体はボニフェイスが当てた直後、エンリケに当たっているように見えるが、あの態勢を作り出した以上、ボニフェイスのゴールで間違いない。ボニフェイスのヴィッセルでの初ゴールは、苦境に立つチームを救った。思ったように試合出場を果たせない中でも、試合を想定したトレーニングを続けてきたことが、こうした大事な試合で報われた。この先は山川哲史、トゥーレルを脅かす存在になってくれることを期待して一番星。