覆面記者の目

明治安田J1百年構想リーグ 第15節 vs.広島 Eピース(5/6 15:00)
  • HOME広島
  • AWAY神戸
  • 広島
  • 1
  • 1前半0
    0後半1
    4PK5
  • 1
  • 神戸
  • 加藤 陸次樹(43')
  • 得点者
  • (63')小松 蓮

大きな勝点2
 5番目のキッカーとなった小松蓮の左足から放たれたPKがゴールネットを揺らし、ファイナルホイッスルが吹かれた時、ヴィッセルの選手たちが見せた表情は印象的だった。そこには勝利した喜びというより、悪い流れを断ち切った安堵感が表れているように感じたためだ。これは筆者がそう思っているから、そう見えただけかもしれない。しかしこの日つかみ取った勝利が、ヴィッセルにとって非常に大きな意味を持っていたことだけは間違いないだろう。

 アジアでの激闘を経て、ヴィッセルは明治安田J1百年構想リーグ2試合を消化した。1試合はPK決着だったとはいえ、結果は2敗。もう一度アジアの頂点を狙うチームとしては、正直に言って物足りない成績だ。しかも前の試合では、近年では記憶にないような大敗を喫している。前節の試合後にミヒャエル スキッベ監督は「0-1で5試合負けるよりも良かったと思う」とコメントした。筆者も「負けるならば、思い切り負けてしまった方が切り替えはしやすい」と書いた。しかしこの言葉の裏側には「次の試合で勝つならば」という大前提が隠れていたことも事実だ。大敗を喫した次の試合で負けた場合、チームは自信を喪失しかねない。いかなる理由があろうとも、大敗という事態はそれだけの危険性を孕んでいる。
 試合の詳細は後段に譲るが、試合全体を通してみたとき、この日の試合が「広島の試合」であったことは事実だ。攻撃がつながらないヴィッセルに対して、広島はその間隙を縫うようにしてボールを運び続けた。そして何度もヴィッセルゴールに襲いかかった。しかしそのほぼ全てを、ヴィッセルの選手たちは守り抜いた。その結果が1-1のドローであり、PK戦による勝点2につながった。酒井高徳は試合について振り返る中で、試合を通じて広島に分があったことを認めながらも、「この試合で自分たちは絶対に勝たなきゃいけない、それをサポーターにももちろん見せなきゃいけないと思っていました」と語った。そのうえで結果については「いったん、ポジティブに捉えたいかなと思っています」と結んだ。この酒井の言葉が、この試合の全てを表している。もう一度自分たちの強さを取り戻すためにも、今の悪い流れを断ち切りたいというのが全選手に共通していた思いであり、それを成し遂げたことがこの試合における最大の収穫だ。

最後の砦
 前段でも記したように、この試合において最も際立っていたのは最後の粘りだった。広島を率いるバルトシュ ガウル監督も試合後にコメントしたように、広島には得点場面以外にも、前後半それぞれ2回ずつ、決定機があった。しかしヴィッセルの守備陣の身体を張った守りが、広島に得点を許さなかった。その中心にいたのはGKの権田修一だったが、その他の選手も必死に対応を続けた。こうした展開がヴィッセルにとって望ましいものでないことは事実だが、この最後の粘りこそがサッカーにおいては重要であることも、また事実だ。過去にも巧く運ぶことができない試合はあったが、そうしたときでも最後の部分だけは全員で泥臭く守り抜く。これこそが勝負にこだわる姿勢であり、勝利を希求するヴィッセルらしさだ。
 このゴール前を守り抜く中で大きな役割を果たしたのが、左センターバックとして先発したマテウス トゥーレルだった。前節では後半からの出場となったトゥーレルだったが、この日の試合では先発復帰を果たし、フル出場を果たした。広島の2列目が飛び出してくる動きに対しても冷静に対応し、球際では圧倒的な強さを見せた。試合終盤の88分に中盤からのパスに反応したジャーメイン良がゴール右に入り込んだシーンでは、一瞬のスピードを見せ、これを防いだ。このシーンではクリア後の接触に対してジャーメインがファウルをアピールしていたが、映像で見直してみると、ジャーメインが左足でゴール前に入れようとしたボールに対して左足を当てた見事なクリアだったことが判る。この咄嗟の場面で足を伸ばすことができるトゥーレルの能力の高さにも恐れ入るが、それ以上に、最後まで相手につき続ける執念に驚かされる。
 またもう1人、守備に際して抜群の動きを見せたのがインサイドハーフの井手口陽介だった。この日の試合で井手口が記録した走行距離は両チームを通じてトップの11.96kmだった。広島に押し込まれる時間が長かった中で、井手口は終始、スペースを消し続けた。基本的にはボールサイドへのフォローにまわることが多かったのだが、その際にも相手の動きを予測して動いているため、効果的な守備を見せることができていた。この日の試合で井手口は自陣深い位置でのボール奪取が目立った。それだけヴィッセルが押し込まれていたということではあるのだが、サイドに起点を作る動きやセカンドボールを拾ってからの攻撃といった、守備に隙が生まれやすい場面で井手口が効果的な動きを見せ続けたことも、広島の得点を1点に抑えた一因となった。
 トゥーレルや井手口だけではなく、ほぼ全ての選手が守備に際しては集中力を切らさずに守り抜いた背景に、前段で書いた「勝利を希求する気持ち」があったことは間違いないだろう。この日ヴィッセルの選手が見せた「守り切る気持ち」が、この日の試合のような「思い通りに運べない試合」においては、最後の砦となることを証明した試合だったとも言える。

攻撃の問題
 2.20対0.63。これはこの試合における両チームのゴール期待値だ。ちなみにこのゴール期待値とは、「シュートチャンスが得点に結びつく確率」を0〜1の範囲で数値化した指標だ。例えばPKは0.76~0.79とされている。要は8割近くはゴールになるということだ。逆に遠距離からのミドルシュートは0.02程度の低い数値になっている。そして試合中の全シュートの数値を合計したものが、最初に挙げたチームとしての数値ということになる。
 今季のJ1リーグにおいて、ここまで最も高いゴール期待値を出しているのは広島だ。そして次に高い数値を出しているのがヴィッセルなのだが、この試合においては大きな差がついてしまった。ちなみにJ1リーグにおける平均値は、概ね1.2~1.3と言われている。これを参考にするならば、この試合におけるヴィッセルは質、量ともに効果的なチャンスを作り出せなかったと言えるだろう。そしてこれは、試合の感想とほぼ一致している。
 ではなぜこの試合でヴィッセルは、持ち前の攻撃力を発揮できなかったのだろう。考えられる理由は2つだ。1つはフォーメーションのミスマッチ、そしてもう1つはピッチ上の配置だ。
 まず前者だが広島の3-4-2-1に対して、ヴィッセルは基本布陣ともいうべき4-1-2-3となっていた。この組み合わせにおけるポイントは「サイドの人数」と「アンカー脇の攻防」の2点に集約される。しかしこの試合では「サイドの人数」が大きな意味を持っていた。
 広島の布陣においてサイドはウイングバック1枚で管理することになる。単純に見れば、ウイングとサイドバックの2枚で対応できるヴィッセルの側が相手を追い込みやすい構造だ。これが解っているため、ヴィッセルはサイドを使った攻撃を仕掛けようとしたのだが、ここで広島は巧い対応を見せた。定石的に言えばミドルサードではシャドーがサイドに流れて対応することになるのだが、広島は敢えてボランチをサイドに出す形を見せた。ということは中央が手薄になるため、ヴィッセルがサイドから中央に巧くボールを入れることができれば、広島は守勢に回ったはずだった。しかしここで広島はボールホルダーに厳しく当たることで、ヴィッセルが中央にボールを出せないように追い込んだ。これによってヴィッセルは優位性を活かすことができなかった。さらにヴィッセルがアタッキングサードに侵入した際には、定石どおりにセンターバックが外に開き、ウイングバックと連携した上で、ボランチが下がり気味になり、中央を固めた。いずれの場合も広島はボール保持に変わった際には、前線に残した3枚を使うカウンターを仕掛けてきた。これを繰り返したことで、ヴィッセルに攻撃のリズムを作らせなかった。
 次にこのような状況に陥った原因を考えてみる。
 この試合を観ている中で気になったのは、ヴィッセルの布陣がいつものように整っていなかったという点だ。本来であればアンカーにボールが届いた時、ヴィッセルのサイドバックは前に出る形を整え、ウイングとの連携によってサイドの制圧を図る。そしてインサイドハーフの2枚はハーフスペースを使うように動くことで、相手のボランチを引っ張り出し、中央にスペースを作り出そうとする。これによってアンカーの前に立つ7枚の選手で5レーンを埋めながら、前にボールを運ぶ。これによってゴール前に厚みを持って入り込む準備が整う。もちろん試合の中でそこまできれいに並ぶ場面は少ないが、5レーンを埋めるという基本は守られていた。しかしこの日の試合では、ボールサイドに密集する場面が多く、肝心の5レーンを埋め切れていなかった。

攻撃に必要なこと
 何度も繰り返すが、この日の試合で選手たちは一切の妥協なく戦っていた。しかしそこにチームを貫通する約束事がなければ、個々の動きは他と連携することなく、単発の動きに終わってしまう。
 この日の試合で広島に主導権を握られた原因の1つは、ヴィッセルの持ち味である前からのプレスが嵌らなかったことにある。広島がそれを回避するための布陣を整えていたことは事実だが、それでもヴィッセルらしさが発揮できていれば、あれほど簡単に前進を許すことはなかったように思う。そこで苦言を呈したいのが、インサイドハーフとして先発した満田誠だ。この日の試合では前半のみの出場となった満田だが、守備の部分では甘さが見られたように思う。ヴィッセルの前線からのプレスは、前線で佐々木大樹や大迫勇也がスイッチを入れた瞬間、全ての選手が連動して相手から自由を取り上げるように動くからこそ、相手は前に出ることができなくなる。これによって相手陣内でプレーする時間を増やすことができる。しかしこの日の満田は攻撃に切り替わった後のことを考えた動きが多かったように見えた。そこが広島のつけこむ隙だったのではないだろうか。満田の気持ちは十分に理解できる。かつて自らがプレーした広島の地で、結果を残したいというのは、選手としては当然の気持ちだ。その逸る気持ちは、攻撃時にも表れていたように思う。34分にペナルティエリア外から放ったシュートは、スピードに乗っていたが、枠を捉えなかった。これは結果論のように思われるかもしれないが、あの瞬間、満田の前には相手選手2人がいたのに対し、右の武藤の前には誰も立っていなかったことを思えば、シュート以外の選択肢もあったように思う。
 もう一点、攻撃時のプレーが連動性を欠いた理由は、選手間の距離を定められなかったことであるように思う。この試合におけるヴィッセルは、積極的にボールを前へ向けて動かしていくという点で、選手間の意思統一は図れていたように見えた。しかし選手配置のバランスが悪かった。これは前段で記したボールサイドへの密集が、そのまま攻撃の停滞につながってしまったように思う。ではなぜボールサイドに人が集まってしまったのか。その理由はシチュエーションによって異なるが、基本的にはプレーエリアを移す作業が少なかったためであるように思う。ボールを中心としたエリアそのものを動かしていくという形を採ることができれば、相手を分散する効果も期待できる。ゴールへの道筋としては遠回りをしているように思えるかもしれないが、結果的に相手とのマッチアップの回数を減らすことができるため、効率的な場合もある。広島のように「人につく」守備を基本としているチームを相手にしたときは、特に効果的なのではないだろうか。
 こうしたプレーをするためには、背後や横からのボールを受ける時の、身体の向きが重要だ。基本は蹴る足と逆の足でボールを受けるのだが、身体には角度をつけ、広いエリアに向けて視界を確保しなければならない。これは酒井がタッチライン際でボールを受ける際に見せることの多い動きだが、これを中央の選手も同じように行うことができれば、自ずと選択肢は増える。そうして広いエリアへの視界を確保しながらプレーを続けることができれば、相手のいないエリアを選びながらボールを動かすこともできる。
 ボールをつなぐプレーも加えようとしているヴィッセルではあるが、かつて一世を風靡した足もとでつないでいくという「曲芸的」なプレーではなく、この試合で広島が見せたような「エリアを順に移動していく」というスタイルを加えることができれば、攻撃のスピード感を保ったまま、幅が生まれる。



フィニッシュへの道筋
 押され気味だった前半だが、その中でも何度か決定的なチャンスはあった。前記した満田がシュートを放ったシーンもその1つだが、最大のチャンスは、40分のシーンだったように思う。酒井が自陣深い位置から差し込んだボールを、ピッチ中央付近で大迫が相手に寄せられながらもキープした。続けて出した右サイドを走らせる見事なスルーパスに武藤嘉紀が抜け出し、ペナルティエリア角付近からペナルティエリア内の佐々木にパス。これを受けた佐々木が外に戻したパスは誰にも合わず、広島に回収された。このシーンはカウンターだったこともあり、佐々木がペナルティエリア内でボールを受けた時、その背後に立つディフェンスは1枚だった。そして逆サイドでは左サイドバックの永戸勝也が中野就斗の背後を取っており、ヴィッセルが位置的優位を持っている状態だった。この場面で佐々木がボールを受ける前に、武藤はペナルティエリア角を取るように動き出していたことを思えば、佐々木は武藤の動きを見ずにプレーしていたのかもしれない。
 ボール非保持時の動きや背後からのボールを引き出す動きは相変わらず高いレベルのプレーを見せていたのだが、ことアタッキングサードでの攻撃の局面では、周りとの意思疎通を欠いているように見える場面が多かった。アル・アハリ戦前は前線での軸となるようなプレーをしていたことを思えば、あの試合での2度のシュートミスが、未だ佐々木に重く圧し掛かっているのかもしれない。
 佐々木は器用な選手であり、局面に応じて様々なプレーを使い分けることができる。やれることが多いがゆえに、色々なことを考えてしまうのかもしれない。味方を活かす意識も強いだけに、プレー選択時に迷いが生じているようにも見える。そうだとすれば、今の佐々木に必要なのは、サッカーをシンプルにとらえ直す作業であるように思う。その意味で佐々木の心に留めてほしいプレーがある。それはこの日の試合で小松が見せたプレーだ。
 後半開始から投入された小松だが、この試合では起死回生となる同点ゴールを決めた。自陣から広瀬陸斗が斜めに入れたボールは小松を目標としていたが、小松の対面に立っていた山﨑大地が頭でクリアした。このボールが目の前に立っていた小松の身体に当たりゴール方向にこぼれた。ここに走りこんだ小松は中央を上がり、ペナルティアーク手前から迷いなく左足を振りぬいた。このボールがゴール左に吸い込まれ、ヴィッセルは試合を振り出しに戻した。映像で見直してみると、このシュートはブロックしようとした山﨑の足先に当たっていたが、小松がパワーで押し切った格好だ。このシーンについて小松は「抜け出した時にはもうシュートしようと決めていました」と試合後にコメントしているが、このシンプルさが広島の守備を突き崩したように思う。
 後半からシャドーの位置でプレーした小松だが、シンプルにゴールを目指すという良さは、ポジションが変わっても不変だった。シンプルであるがゆえに、そこには揺らがない強さがあるように思う。
 今の佐々木にはこのくらいのシンプルさがあってもいいように思う。周りを活かすプレーは佐々木の真骨頂だが、そうしたプレーは周りとの意思が合っていなければ、意味をなさない。今は難しいことをするのではなく、シンプルにゴール方向にボールを入れていくくらいの割り切りがあった方が良いのかもしれない。佐々木は前線での軸となれる力を持った選手であるだけに、その復活はヴィッセルのタイトル獲得には欠かせない。多くのヴィッセルサポーターが佐々木の復活を待ち望んでいる。お馴染みとなった「楽天モバイル」ポーズをピッチ上で見せてくれることを楽しみにしている。



采配の妙
 この日の試合でスキッベ監督は後半開始から満田と佐々木を下げ、広瀬と小松を投入した。そしてこれに伴いフォーメーションを3-4-2-1に変更した。5レーンを使った広島の攻撃に対して後手を踏んでいるとみて、フォーメーションを揃えることでミラーゲームに持ち込むことを選択したのだろう。そしてこの采配は的中した。60分頃からヴィッセルのプレーは落ち着きを取り戻し、そこから試合は安定した。
 ここで感心させられたのは小松をシャドーに起用したことだ。ボールを前に運ぶということを考えた場合、濱﨑健斗という選択肢もあったように思うが、守備で競り負けない強さを重視したのだろう。小松の動きはシャドー的な動きではなかったかもしれないが、確実に相手の守備に対するプレッシャーとなっていた。足りない要素を直接的に補うのではなく、相手のストロングポイントを消すことも考えたうえでの布陣変更は見事だった。
 このスキッベ監督の決断には、この日の判定基準も影響を与えていたように思う。この日の主審の判定基準は解り難いものだったように思うが、総じてフィジカルコンタクトに対しては寛容だった。そして背後から手を使うようなプレーに対してもそれほど厳しい目を向けていなかったこともあり、それが各所で激しいコンタクトプレーを生んでいた。こうした試合において最も怖いのは負傷だ。そう考えたとき、フィジカルで競り負けることのない小松を起用するという選択は、同点ゴールを生んだという結果を別にしても、正しかったように思う。
 
クロスへの対応
 この試合における失点は、G大阪戦と同じ構造だった。43分に左サイドから東俊希が入れたクロスに対して、逆サイドでセンターバックとサイドバックの間に入り込んだ加藤陸次樹が飛び込み、頭でゴールに流し入れた。G大阪戦での最初の失点もそうだったが、この場面でもペナルティエリア内の人数としては十分に足りていた。ゴール前に入ってきた高質なクロス、選手間に飛び込んできた相手によるゴールという同じ構造で2試合連続の失点を喫した。この失点シーンの手前の配置を見ると、そこには前の段でも記したように、ボールサイドへの集中という問題があったように思う。当初広島は右サイドでボールを動かしていたのだが、この時ヴィッセルは9人の選手で6人の広島の選手を監視するような形となっていた。この時、ヴィッセルの9人の選手が囲っていたのは、ディフェンシブサードの左半分のスペースだった。この9人の囲みが圧縮されていたのであれば、また状況は異なっていたのかもしれないが、この囲みにはいくつもの出口があった。そして広島はそれを使い、中島洋太朗、佐々木翔から東へとボールをつないだ。
 G大阪戦における初瀬亮や、広島の東といった選手にフリーで蹴らせてしまうと、ピンポイントで入れてくる可能性は高い。ここで改善すべき点はペナルティエリアの中ではないように思う。やはりボールの出どころへのプレッシャーをかける態勢を整える方が、対応としては早いように思う。その上で選手間に背後から飛び込んでくる選手へのマークをつける。基本的な対策ではあるが、2試合続けて同じ形でやられた以上、何らかの対策が必要であることは間違いないだろう。

次戦に向けて
 この試合の結果、ヴィッセルは勝点で名古屋に並ばれた。名古屋の方が消化試合数が多いことを考えれば、まだヴィッセルが有利な位置にいるが、余裕がなくなってきたことも事実だ。西地区の首位を確定させるためにも、まずは残る4試合を確実に勝利することを考えなければならない。そこに向けての明るい材料は2つある。
 1つは鍬先の復活だ。久しぶりの先発出場となった鍬先だが、試合後には「いい緊張感を持って試合に入れた」と語っていたように、中央での守備には安定感があった。脇のスペースを狙ってくる広島に対しても、変に動きすぎることはなく、中央を空けることがなかったことは高く評価したい。
 そしてもう1つはジエゴの復帰だ。この日の試合では66分に永戸に代わって投入されたジエゴだが、前に出る強さは戦線離脱前と変わっていなかった。高さと速さもあるため、ジエゴは永戸とは異なる個性でサイドを活性化できる。またサイドに高さをぶつけてくる相手に対しても、ジエゴは有効な防御手段となり得る。
 中東への長距離移動、高強度の連戦、帰国後すぐの連戦という状況が、選手たちにとって厳しすぎるものであることは間違いない。武藤などのプレー精度が落ちているように見えたことは、この蓄積された疲労と無関係ではないだろう。コンディショニングにかかわるスタッフにとっても大変な状況だとは思う。しかし今は何としても、この状況を全員で乗り越えなければならない。
 次戦は中3日での岡山戦だ。ここまで試合を重ねる中で、確実にチームを強化してきた岡山は、決して侮ることのできない相手だ。だからこそ次戦では「ヴィッセルらしさ」を存分に発揮し、確実に「兄弟対決」を制してほしい。

今日の一番星
[権田修一選手]

劣勢の中で進んだこの日の試合をPK決着に持ち込むことができたのは、権田の存在があったからだ。そう言っても過言ではないほどの素晴らしいプレーを見せた権田を、迷うことなく選出した。この試合で権田は3度の決定機を阻止した。1度目は5分だ。左からのクロスに飛び込んできた加藤のヘディングシュートを右手一本で弾き出して見せた。この場面では身体は逆サイドに流れかけていたが、巧く重心を残していたことにより、右手を上に突きあげることができた。2度目は右で斜めのボールを受けた加藤からの横パスに、木下が飛び込んできたシーンだ。ここで権田は木下の前に飛び込みつつも、身体を大きく広げることによって、残した左手にボールを当てた。3度目は58分に川辺駿のミドルシュートを止めたシーンだ。ペナルティアーク近くにこぼれたボールに走りこんだ川辺は、余裕をもって右足を振りぬいた。スピード、コースとも完璧なシュートではあったが、権田は横っ飛びにこれを弾き出した。このシュートは川辺も決まったと思ったのだろう。映像で見直してみると、川辺はガッツポーズを取ろうとしていたが、権田のセーブを見て崩れ落ちている。このいずれもが得点となってもおかしくないものであっただけに、権田が見せたスーパーセーブは、崖っぷちにいたチームを救ったと言える。また権田はキック精度も高く、この試合でミスと言えるキックは一度だけだった。サイドへボールも確実に味方につけることができるため、ビルドアップの起点となることもできる。出場機会が決して多いわけではないが、出場した試合でこうした活躍を見せることができるのは、権田が日ごろから試合を意識した準備を続けているためだろう。試合後には「ベテランの選手が多かったとしても、チームとして、クラブとして成長していくことが大事」と語り、続けて結果をポジティブにとらえた。そのうえで「ポジティブに考えつつも、どうしたら勝点3が取れたのか、どうしたらもっといい試合ができたのかを、みんなで考えなければいけないと思います」と課題も明示して見せた。さらにPK戦については2本止めるのがGKの義務と語り、1本しか止められなかったと悔やんで見せた。こうした発言はベテラン選手ならではであり、権田が精神的支柱の1人であることを改めて印象付けた。若いころから世界を相手に戦い続けた実力をいかんなく発揮した「頼れる兄貴」に敬意を込めて一番星。