覆面記者の目

明治安田J1百年構想リーグ 第13節 vs.C大阪 ノエスタ(4/29 14:00)
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    2PK4
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Restart
 アジアでの激闘から中7日。この日の試合はヴィッセルにとって、再びアジアの頂点を目指すスタートだったように思う。その門出を勝利で飾ることはできなかったが、この日の試合はヴィッセルの覚悟を感じたという意味においてポジティブに評価したいと思う。

 AFCチャンピオンズリーグエリート(以下ACLE)・ファイナルズ準決勝で敗れた後、三木谷浩史会長は自身のSNSで「Vamos. Never give up. We started from here.」と発信した。ヴィッセルの始動日が1995年1月17日だったことは、多くの人が知るところだ。同日に発生した阪神・淡路大震災によって灰燼に帰した神戸の街で産声を上げ、街の復興と歩調をそろえて成長を続けてきたヴィッセルのトップに相応しい決意表明だったように思う。この短い文章からは、ヴィッセルがファイティングポーズを取り続けるという強い気持ちが伝わってきた。

 この気持ちを具現化するのは監督・コーチ、そして選手の仕事だ。アル・サッド、アル・アハリというアジアを代表する強豪との連戦を経て、ヴィッセルが変えるべきポイントは明確になった。その1つがビルドアップだ。アル・アハリとの準決勝に敗れた後、井手口陽介は昨季以前から続く課題ではあるが、と前置きした上で「試合の流れが悪くなった時にロングボールだけになってしまう」と、これがヴィッセルにとっての改善点であることを明言した。この井手口のように、試合後に改善点や課題を明言する選手は多いが、その改善に即座に着手するチームは少ない。多くのチームがこうした指摘を「未来への改善点」として捉え、シーズン終了後の作業としている。しかしヴィッセルはそうではなかった。この日の試合後に山川哲史は、試合の中で挑戦した速いテンポでのパス回しはチーム内で共有された認識の下で行われたプレーだったことを明かした。そこで山川は「Jリーグであればロングボールで状況を打開することはできるが、ACLEではそれは通じなかった」とした上で「ずっと取り組んでいるところではありますが、自分たちで運んでいくというところには、よりチャレンジしていきたい」とコメントしている。
 この言葉からは、選手たちが強い決意をもって試合に臨んでいることが窺える。目の前の勝敗も大事にしながら、その先にあるものを見据えて戦っていく。これは決して簡単な挑戦ではない。しかし敢えてそこに挑もうとするヴィッセルの気持ちを感じたという点において、この日の試合についてはポジティブな印象を抱いた。

異なるアプローチ
 この試合における両チームの戦い方を見ていくためには、両チームの置かれている立場を確認しておく方が良さそうだ。ヴィッセルについては、前段で記したようにこの日の試合は「Restart」の初戦であり、自らのレベルアップを見据えた戦い方を選択した。その原動力となったのは、選手たちの意識の高さだ。これについては試合後にミヒャエル スキッベ監督が「日頃からモチベーションが高い選手たちなので、しっかり選手たち自身が切り替えてくれていました」と語っている通りだ。
 そのヴィッセルの選手たちは、改めて明治安田J1百年構想リーグ(以下百年構想リーグ)優勝に向けての思いを強くしているようだ。それは、この大会の優勝チームに与えられるACLE26/27の出場権を獲得するためだ。この目標を達成するために、まずは現在戦っている地域リーグラウンドを1位で通過しなければならない。試合前の時点でヴィッセルの順位は1位。2位との勝点差は4だったが、2位につけている名古屋の消化試合数が1試合多いことを考えれば、焦るような数字ではない。
 これに対してC大阪だが、こちらは百年構想リーグに対しての目標は明言していない。2026年を18カ月のシーズンととらえた上で長期的視野に立ち、トップチームの強化と育成の両立を目標には掲げているが、まずは安定的に上位で戦える力をつけるといったところなのだろう。そのC大阪の試合前の順位は7位。ヴィッセルよりも消化試合数は1試合多いが、勝点では8の差がついていた。しかし2位との勝点差が4であることを思えば、この日の試合で勝点3を狙い、上位進出のきっかけとしたいところだったのではないだろうか。

 こうした状況で迎えたこの日の試合だが、C大阪は変則的とも言える戦い方を準備して試合に臨んだ。前の試合から先発メンバー11人全てを入れ替えるという大胆なアプローチを見せた。しかもこれまでメインとしてきた4-2-3-1の並びではなく、今季初となる3バックシステムを採用したのだ。その理由についてC大阪を率いるアーサー パパス監督は「コンディションなど諸々の関係があり」とした上で、「この11人であれば今日のフォーメーションのほうが良いと考えました」とコメントした。続けて「恐らくは相手も予想していなかったシステムだったと思うので、そこで優位性を作れるとも思いました」と口にしたのだが、こちらが本音であったように思われる。メンバーの変更については前の試合から中3日という日程と、エースであるチアゴ アンドラーデの欠場を考慮した結果だとは思うが、この大胆な策によってヴィッセルを混乱させたいという狙いがあったように思う。

 これに対してヴィッセルは、いつも通りの並びを選択した。前段で触れたように、戦い方においては新しい挑戦を見せていたが、ベースとなるものはこれまでの流れを踏襲していた。大きな変更点と言えば、アンカーの人選だろう。扇原貴宏の欠場を受けて、スキッベ監督は酒井高徳をアンカーに置いた。これに伴い右サイドバックには広瀬陸斗が入った。こうした変更はあったものの、繰り返しになるが、ヴィッセルはいつも通りの戦い方で試合に臨んだ。



C大阪の狙い
 この日の試合でC大阪が見せた戦い方は、極めて現実的だったように思う。C大阪の司令塔である香川真司は「守備のターンが多くなることは想定していた」と試合後に話したが、守備に重きを置いた戦い方を見せた。ヴィッセルと正面から打ち合うのではなく、まずは守りを固める。その上で前線には強さと高さを持つ櫻川ソロモンを置く。一見すると消極的なように見えたかもしれないが、決してそうした試合にならなかったところがC大阪の力だ。3バックのトレーニングは2日間しかやっていなかったというが、極めて基本的な戦い方であったことが、選手に迷いを生じさせなかった理由だろう。多くの時間で「攻めるヴィッセル」と「守るC大阪」という図式の試合とはなっていたが、C大阪の選手たちの見せた集中力は見事だった。その結果としてスキッベ監督が「本当に高いレベルの試合を見ていただけたと思います」とコメントするような、緊張感のある試合となった。

 この試合におけるC大阪の守備で、ヴィッセルを苦しめたものは2つだ。1つはGK、そしてもう1つはオフサイドだ。
 まずGKだが、開幕戦以来の出場となったキム ジンヒョンは見事なセーブを見せ続けた。中でも大きかったのは開始直後のスーパーセーブだった。2分に右サイドで武藤嘉紀が縦に出したボールに走りこんだ広瀬からのクロスを、ペナルティエリア内で大迫勇也が巧い落としを見せた。ここに走りこんだ満田誠が放った強烈なシュートをキムは左足でセーブしたのだ。満田はこのシュートについて試合後に「あれを自分が決めていれば、勝っていた試合だったと思う」と悔やんでいたが、キムの左足元というGKが反応し難い箇所を狙った見事なシュートだっただけに、キムを褒めるのが正しいように思う。このプレーについてキムは試合後に、自分自身が乗っていくきっかけになった大きなセーブだったと認めつつも、経験の浅い選手も多かった中で、自分が守りきれば何とかなると思っていたことを明かした。韓国代表歴も長いキムらしい言葉だとは思うが、これ以外にも22分と50分に武藤のシュートをスーパーセーブで防ぐなど、当たっていたという他ない活躍ぶりだった。
 もう1つのオフサイドだが、ひょっとするとこれが最もヴィッセルを苦しめたのかもしれない。ここでヴィッセルの前に立ちはだかったのは、3バックの中央を務めた吉野恭平だった。吉野はパパス監督から「ラインコントロールをしっかりやれ」という指示を試合前に受けていたというが、指揮官の期待に応える働きぶりで、両横に立つ経験の浅い選手を巧く動かし続けた。この試合でヴィッセルが記録したオフサイドの回数は8回。そのいずれもが、前線での起点を作る動きや裏を取る動きの中でのものであっただけに、これによって攻撃のリズムを寸断された。ヴィッセルの攻撃は相手の最終ライン前での技術を活かしたラインブレイクによって支えられている面もあるため、このように意図的にオフサイドにかけられてしまうと、その後は確認しながらの攻撃となるため迫力は低下する。

 パパス監督がこの試合で3バックを採用した背景には、このオフサイドも狙いにあったことは間違いないだろう。大迫の巧さに誘導され、武藤や満田、佐々木といった選手が抜け出してくる攻撃を防ぐためには、まずはオフサイドを狙う。そのためには息を合わせやすい3バックにするのが得策という判断だったように思うのだ。その上で全体を守備的に配置し、最後は全員で身体を張って守りぬくことで失点を防ぐ。これは失点をしなければ、勝点を積み上げられるという考え方に基づいているが、前段で記したC大阪の状態を考えれば、極めて現実的な対応だったように思う。

決めきる力
 もしこの試合でヴィッセルに足りなかったものがあるとすれば、それは決めきる力だったということになるのだろう。GKのスーパーセーブや堅い守りに阻まれたとはいえ、ヴィッセルにいくつものチャンスがあったことは事実だ。試合後に吉野が発した「前半は正直、押されたし、0-3にされてもおかしくなかった」、「あの内容で前半を0-0で終われたことが今日の一番の収穫でした。あそこで1失点していたら、ガタガタとなったかもしれません」というコメントからもそれは明らかだ。こうした試合の後では「あれを決めておけば・・・」ということが言われるが、この日の試合などはその典型と言えるだろう。
 ヴィッセルにとって最大のチャンスは40分に訪れた。中盤に落ちて後ろからのボールを受けた大迫が右に流し、これを受けた武藤がドリブルで縦に上がった。そして相手を引き付けて右外を追い越した広瀬に絶妙のパスを出した。広瀬は追ってきた相手を1枚かわして深い位置まで上がり、ペナルティエリア内中央に上がってきた満田にマイナスのパスを出した。満田のトラップは前に流れたが、スライディングに来た相手をギリギリまで引き付けて、右の佐々木大樹にパスを出した。佐々木もこれに反応し、右足でダイレクトにシュートを放ったが、これは枠を捉えなかった。シュートを打つ時、佐々木の前にはGKと右センターバックの中村拓海だけとなっていた。しかも両者ともゴールライン上に立っていたため、佐々木は比較的余裕をもってシュートを狙うことができただけに、惜しまれる場面となった。
 ACLE準決勝でも2度の決定機を決めることができなかった佐々木だが、その経験が佐々木のシュート感覚に影響を与えているように思う。ACLEの試合後にはSNSで成長への決意を表明した佐々木だが、この場面では「決めなければ」という思いが強すぎたのではないだろうか。

 プロ野球の世界で三冠王を3度獲得した落合博満氏から面白い話を聞いたことがある。スランプ脱出について話をしている中で、落合氏は「ヒットを打とうと思ってはいけない」と語ってくれた。ギリギリのところで凌ぎ合いをしているプロの世界で結果を求めたところで、それはうまくいくものではないというのだ。そこで大事なのは自らのフォームをチェックし、正しいスイングをすることだけに集中することだという。そのために必要なのは、日ごろから自らのフォームにおけるチェックポイントを数か所定めておくことだそうだ。

 このシュートの場面の佐々木がどのような気持ちだったかは判らないが、チャンスをモノにするという「結果」ではなく、狙った位置に正確に蹴るという「プロセス」だけに集中することが、今の佐々木には必要なことであるように思う。
この試合では右ウイングとして先発した佐々木だが、ACLE、Jリーグの双方で見せた動きそのものは、決して悪くはない。この日の試合でも、自陣深い位置での攻防ではプレスバックした佐々木がボールを引き取り、相手に服をつかまれながらもボールを握り続けたように、技術や強さは「ヴィッセルのレギュラー」と呼ばれるに相応しいものを見せている。さらに言えば労を惜しむことなく動き続け、スペースには必ず走りこんでいくなど、質の高い動きを見せている。しかし2試合連続で決定機を外しているという事実は、決して小さくない。
 今のヴィッセルでは、多くの優秀な選手が出場機会をうかがっている。そんな中で先発出場をつかんでいるということを、佐々木には重くとらえてほしい。厳しい言い方かもしれないが、結果を残さなければ出場機会を失ってしまう。佐々木がこの先、選手として成長を続けていくためには、そうしたプレッシャーに打ち勝っていかなければならない。ましてや佐々木はヴィッセルのエースナンバーを背負う立場だ。かつて「ヴィッセルの13番」を背負った選手たちも、日々そうしたプレッシャーに晒されてきた。ここまで順調に成長を続けてきた佐々木だが、今が選手としての勝負の時だ。次の出場機会にどのような結果を残してくれるか期待している。



酒井高徳
 試合後の会見の中で、スキッベ監督は酒井について「いつもとは違う不慣れなポジションでしたが、中盤で試合をコントロールしてくれたことを非常に嬉しく思っています」と高い評価を与えた。扇原の欠場によってアンカーに入った酒井は、スキッベ監督の言葉通り見事なプレーを見せた。常にポジショニングを考え、最終ラインからの出口となり続けた動きやボールを受けた後の配球は見事で、酒井がボランチとしても一流の選手であることを証明した。サイドから中央にプレーエリアを移すというのは、傍から見ている以上に難しい。視界が全く異なるためだ。サイドバックという専門性の高いポジションで超一流の動きを見せる酒井だが、その根底には高い「サッカーIQ」がある。これがあるため、常に状況を正確に把握し、チームにとって必要なプレーを選択できる。これはポジションが変わっても、活きている。
 この日の試合で特に感心したのは、ボール保持に変わった後の動き方だ。酒井は自らがポジションを落とし、センターバックの間に入り込むような形で「疑似3バック」ともいう形を何度も作り出していた。重要なのはその高さだ。この動きを見せる選手は多いが、大体において自らが下がりすぎてしまうため、チームの重心自体を下げてしまう。しかし酒井は両サイドを高い位置に動かし、さらにはセンターバックを呼び込むように動いていたため、ヴィッセルの重心が低くなりすぎる場面は皆無だった。そしてボールを握った後は「前が空いていれば前進、相手が来たら引き付けてリリース」という基本を忠実に守り、チーム全体を前に押し上げていた。

 この酒井のセンスが発揮されたのが6分のプレーだった。自陣から右ハーフスペースを使って前進した喜田陽は、ハーフウェーラインを越えたところで佐々木と井手口に挟まれる格好となった。走路的にそうなることを予想していた喜田は、山川の前に立っていた櫻川にボールを入れようとした。この時、酒井は櫻川の7~8m背後に立っていたのだが、喜田がキックモーションに入る前にこれを察知し、一気に櫻川のところまで戻った。そして櫻川にボールが入る寸前、スライディングでこれをカットした。そしてすぐに起き上がり、こぼれたボールを追ってきた櫻川の手前で再度スライディングを敢行し、左の永戸にボールを流した。その後は永戸から斜めのボールを中央で受けた大迫からボールを引き取り、右ハーフスペースの広瀬にボールを預けた。
 この20秒にも満たない場面には、酒井のセンスが凝縮されている。まずは喜田の動きからボールの行方を察知する能力だ。いわゆる「ボール周辺の雲行き」が読めているからこそ、酒井は喜田がキックモーションに入る前から一気にスピードを上げた。これによって櫻川の手前でボールをカットすることができた。次は咄嗟の場面で見せた判断の正しさだ。櫻川との競り合いは、最終ラインの前でのプレーだった。もしここで競り負けることがあれば、櫻川は一気にヴィッセルゴールに迫ることができる。その状況を勘案し、スライディングで櫻川にボールを当ててしまうという判断は見事だった。櫻川に当たって味方にこぼれたのは偶然と思われるかもしれないが、恐らくそうではないだろう。走ってきた櫻川の身体の向きを考えれば、こぼれる方向は限定される。そしてC大阪の選手が不在の方向に跳ねるように、酒井は右足のアウトで櫻川に当てた。これは櫻川のところに戻る途中で、味方の配置が確認できていたからこそのプレーだ。もう1つは大迫からのボールを引き取った後の選択だ。酒井がボールを受けた時、右サイドでは武藤がボールを受ける準備を整えていた。酒井はこれも視野に入っていたはずだが、武藤に直接出した場合は、そのまま武藤が前に行くだけとなる。しかしここでハーフスペースに立っていた広瀬を引き出すことができれば、そのままチーム全体が厚みを持って前に行くことができる。その効果を重視して、酒井は敢えて広瀬を引き出す選択をしたのだろう。

 アンカーとして見事な動きを見せた酒井は「チーム内にいいお手本がたくさんいるから」と語り、扇原や井手口、鍬先祐弥、日髙光揮といった選手たちの特徴をイメージして、プレーしたと語った。これはその言葉通りなのだが、それを公式戦という強度の高い場面で遂行できる酒井の技術とセンスには恐れ入るばかりだ。絵画の世界でも「模倣できる人は巧い」と言われる。独創的な絵画で知られるパブロ・ピカソが若いころ、古典的な名画を忠実に模写することで技術を磨いたのは有名な話だ。ではなぜ「模倣できる人は巧い」と言われるのだろう。それは模倣を完璧にこなすためには、単に手を動かすだけではなく、高いレベルの「観察力」「再現力」「知識」が必要だからだ。これは酒井についても同じことが言える。アンカーの選手が見せる動きを正確に観る目、それを再現する技術、そしてそれらをこなすために必要なプレーを知識として理解しているからこそ、酒井は不慣れなはずのポジションを完璧にこなすことができるのだ。

 扇原の戦線離脱が明らかな中、酒井が本職同様にこのポジションをこなすことができることを証明した。これはスキッベ監督にとって、最大の朗報だったはずだ。また、この酒井の活躍は鍬先や日髙にとって大きな刺激となるだろう。本職としての意地やプライドが、彼らの闘争心に火をつけることは間違いない。これによってチーム内競争のレベルが維持できるという事実は、チーム強化を図るうえでも大きな意味を持っている。



課題
 ヴィッセルが主導権を握っていたように思えるこの日の試合ではあるが、後半20分頃からC大阪の反撃が目立ってきたことは事実だ。ここに今のヴィッセルが解決すべき課題はある。試合後に山川は、ワンタッチやツータッチのグラウンダーでボールをつないでいくという意識がチーム内で共有されていたことを明かしたが、これは前記したようにヴィッセルの次なる挑戦だ。正直に言ってまだ細かなパスのズレが随所で見られ、それによって攻撃のスピードを上げきれない場面が散見された。だが、そうした場面ではヴィッセルの切り替えの速さがチームを救っていた。しかし体力的に厳しくなってくる60分過ぎ辺りから、その強度が落ちてきた。ACLE準決勝でも、これがチームを苦しめた。
 ヴィッセルの強さは強度の高さでもある。しかし、これを90分間維持することは難しい。C大阪の選手複数人が「前半を堪えきれば、どこかで反撃のチャンスが来ると思っていた」と口にしていたのは、正にこのことだ。この日の試合では選手個々の能力によって、大きなピンチは1回だけに抑えたが、チームの目指す方向を考えたとき、この問題は解決すべき課題として残る。

 この解決策として1つ考えられるのが、GKを加えたビルドアップの確立だ。これまでヴィッセルのビルドアップはセンターバックを起点とすることが多かった。その多くがマテウス トゥーレルの前進から始まっていたのだが、ここにGKという「11人目のフィールドプレーヤー」を加えることができれば、相手のプレスを外すための選択肢は1つ増える。その可能性を感じさせてくれたのが、この試合で先発した権田修一だった。権田のキックは正確で、タッチライン際を狙ったボールが直接タッチラインを割ったのは1回程度だったように思う。さらに低い位置でボールを動かす際も、自らが相手を引き付けることで、最終ラインの選手に対して時間とスペースを渡していた。この形が成熟していくと、体力が厳しくなってきた時間帯にも、人数の上で優位性を確立できるため、相手の狙いを外しながら前進することが期待できる。



次節に向けて
 試合はPKによって敗戦となったが、ヴィッセルの質の高さが発揮できた試合だったことは間違いないだろう。ゴール期待値、パス数、ポゼッション率など各数値ではヴィッセルがC大阪を上回っており、その視座に立てば試合を支配することはできたように思う。今は挑戦の歩みを止めることなく、その練度を高めていく他ない。その意味では次戦のG大阪戦は、非常に興味深い試合となる。今季から新監督を迎えたG大阪は、これまでとは異なる戦い方で暫定ながら西地区の3位につけている。消化試合数は2試合、ヴィッセルよりも多いが、勝点差は4であり、逆転を目指して勝ちに来ることは間違いない。そしてこの試合では契約の関係上、満田の出場が叶わない。そこで期待したいのが、この日の試合では途中出場となった郷家友太だ。チーム全体を前に進めていく中で、スペースを消し続けることのできる郷家の存在は、チームのバランスを整える役割を担っている。加えて郷家は高いボールスキルを持っている。これを巧く発揮することができれば、前に圧力をかけている中で、相手の急所からボールを出すことも可能になる。郷家が起用されるか現時点では不明だが、もし出場が叶った場合には、そのセンスを遺憾なく発揮してほしい。

 冒頭でも書いたように、ヴィッセルはACLEを経験したことで確実に目線が上がった。そしてアジアのサッカー関係者の中で、ヴィッセル神戸という名前は東アジアの強豪として深く刻まれたはずだ。これを維持するためにも、ACLEの常連とならなければならない。中2日という厳しい日程ではあるが、こうしたものを乗り越えた先にしか栄光はない。
 次戦、ヴィッセルがその強さを存分に発揮してくれることを期待している。