この試合の意味
AFCチャンピオンズリーグエリートの試合を含め公式戦4連勝と勢いに乗っていたヴィッセルだったが、「近隣のライバル」に足止めされてしまった。後半のアディショナルタイムに同点に追いついただけに、最終的に「PK負け」を喫したという結果に対しては、一層の悔しさを感じてしまう。
とはいえ、今季公式戦10試合目で初となる複数失点。この日の試合が「G大阪の試合」であったことは、認めないわけにはいかないだろう。特に前半はG大阪に押し込まれ続けた。キックオフ直後からヴィッセルは守勢に回る場面が続いた。ヴィッセルの戦いの基本である守備はかわされ、セカンドボールも回収され続けた。結果としてボールを奪取する位置は低く、前線までボールを届ける回数も少なかった。こうした状況を前にすると、この試合に限っては戦術的な部分でG大阪に上回られたと言わざるを得ないだろう。
ただ、この日の試合結果について、ネガティブに捉えすぎる必要はないとも思う。
詳しくは後述するが、この日の試合を振り返る上では、複数の要素を考慮しなければならないためだ。そしてこれらの要素は、試合結果に少なからず影響を及ぼした。「勝敗は時の運」とまで言うつもりはないが、いくつかの要素が別の作用を及ぼしていれば、勝敗は逆になっていた可能性はあると思う。
さらに言うと、この試合でヴィッセルが90分で同点まで持ち込んだことは、決して運ではない。そこにはヴィッセルの2つの力があったと見るべきだろう。1つは最終ラインの強さだ。前記したように、前半はG大阪に押し込まれ続けたが、喫した失点は1にとどまった。しかもそれはクリアしたボールが目の前に立っていた相手に当たり、それがゴールに吸い込まれたものだった。試合後にミヒャエル スキッベ監督が「集中力が少し切れてしまったり、選手間でのコミュニケーション不足があったのではないかと思って見ています」と語ったのも、あながち強がりというわけではないだろう。繰り返しになるが、G大阪に押し込まれ続けたことは事実だが、ヴィッセルの最終ラインはそれを何とかしのぎ続けた。
そしてもう1つは若い選手の躍動だ。試合最終盤に挙げた同点弾を引き出したのは山田海斗であり、濱﨑健斗だった。G大阪の運動量が落ちていた時間帯ではあったが、若い力が土壇場でヴィッセルを最悪の事態から救った。
「タイトルを獲得するためには勝点0を1に、勝点1を3に変える力が必要だ」と言われる。戦術的にも後手を踏んだ厳しい試合ではあったが、ヴィッセルの地力を改めて認識することができた試合だったと考えれば、過度にネガティブな感想を持つ必要はないように思える。
看板の不在
この日の試合でヴィッセルは「大看板」ともいうべき選手を欠いていた。それは言わずと知れた大迫勇也、武藤嘉紀、酒井高徳の3選手だ。圧倒的な実力と存在感を持つ彼らの欠場が、ヴィッセルにとって痛手だったことは間違いない。しかし前段で書いたこととも関係するのだが、この日の試合でヴィッセルは戦力の厚みを増しつつあることを証明したようにも思える。その象徴が2得点目を演出した山田と濱﨑であり、先制点を挙げた小松蓮だ。
ここ数シーズン、ヴィッセルは1つの大きな課題と向き合い続けている。それは「チーム力の底上げ」だ。これは全てのクラブにとって普遍的なテーマではあるが、ヴィッセルにとっては喫緊の課題でもあった。その理由は、ヴィッセルの「主力選手」が高い能力を有しているためだ。それを示す指標の1つがJリーグ優秀選手賞だ。年末に34名が選出されるこの賞は、監督および選手による「ベストイレブン」の投票結果を基に、各ポジションの投票数の上位選手からチェアマンが決定している。今のヴィッセルにおける主力選手は、ほぼ全ての選手が、過去数年間の中でこれを受賞している。ヴィッセルが「スター軍団」と呼ばれるゆえんだ。これだけの実力者がヴィッセルに集まったのは、長年に渡るクラブの取り組みがあったからこそなのだが、これが新たな課題を生み出した。それが「チーム力の底上げ」だ。
過去に書いたことがあるが、チームスポーツにおいて長いシーズンを戦う場合、控え選手の質が最終的な順位を決めると言われる。過去にある野球解説者から、年間で143試合を戦うプロ野球のペナントレースは「チームの平均値を競う大会だ」という言葉を聞いたことがある。案外これは正鵠を射ているように思った。どんなチームスポーツでも、ベストメンバーがベストコンディションで揃う試合は、年間を通じてもそうそうあるものではない。それが揃わない時に見せる力こそが、チーム力であるという考え方だ。そうした視座に立てば、大迫・武藤・酒井という「大看板」を欠きながら、試合最終盤に追いつくという粘りを見せたこの日の試合は、「チーム力の底上げ」が進んでいることを実感させるものであったと言える。
スキッベ監督
この日の試合でスキッベ監督が果たした役割は、いつも以上に大きかったように思う。後半、スキッベ監督は選手交代を使いながら、試合の流れを取り戻していった。完全に流れをつかみきるところまでは至らなかったようには思うが、それでも前半のことを思えば見事な采配だったと思う。
まず、後半頭から左ウイングのジエゴに代えて濱﨑を投入。それまで右ウイングに入っていた佐々木大樹を左に移し、濱﨑を右に置いた。これによって、ヴィッセルは前線近くでボールを握る時間が生まれた。身体の大きくない濱﨑に対してG大阪の選手はフィジカルで潰そうと試みていたが、濱﨑のボールスキルはそれを上回っていた。
次の交代は73分だった。負傷した佐々木に代えて新加入の内野航太郎を投入するのと同時に、それまでインサイドハーフでプレーしていた郷家友太に代えて乾貴士を投入した。デンマーク・スーペルリーガのブレンビーIFから期限付き移籍でヴィッセルにやってきた内野は、デンマークでの出場経験も持っている。筑波大時代から将来を嘱望されていたこの新戦力は、これがJリーグでのデビュー戦であり、そこにかける気持ちは相当なものがあったはずだ。また乾だが、こちらは言わずと知れた実力の持ち主だ。ヴィッセルが前線近くでボールを握る時間が増えてきた中で、スペースを使うパスの名手である乾の技術に期待をしたのだろう。
次の交代は86分。それまで広いスペースを消し続けた井手口陽介に代えて、ジェアン パトリッキを投入した。2月に行われた清水戦で負傷したパトリッキは、この日の試合が復帰初戦。圧倒的なスピードとこの日の試合にかける気持ちに、スキッベ監督は期待をかけたのだろう。
そして最後の交代は89分だった。それまで左サイドバックとして走り続けた広瀬陸斗に代えて、山田を投入した。これは高さと前に出ることのできる強さに期待したものと思われる。さらに言えば、1点ビハインドの状況で井手口と広瀬という、そこまで守備で機能していた選手をベンチに下げたのは、G大阪の選手たちが疲労によって動けなくなりつつあったことを見抜いたためであり、さらにはこの先の試合に備え、彼らの負担を軽減させたかったためでもあるように思う。
これは以前にも書いたことがあるが、スキッベ監督には育成と勝利の双方が望まれている。こうしたことを望まれる監督は珍しくないが、そのミッションを遂行できる監督となると、なかなかいない。
かつてヴィッセルで指揮を執ったスチュアート バクスター氏は、監督在任中に「育成と勝利は相反している」と語ってくれた。選手を育てるためには、実戦経験、それもなるべく強度の高い公式戦での経験を積ませるのが近道だ。しかしリーグ戦ともなると、そこは相手にとっての狙いどころとなってしまう。そのため多くの監督が育成を諦め、結果を優先することになる。結果として育成の場は下位カテゴリとの対戦時などに限られてしまい、得られる経験値は少なくなってしまう。
育成と勝利を両立させるためには、試合の流れや相手の強度を正確に把握する能力が必要となる。そしてこれまでのところ、スキッベ監督はそうした能力の持ち主であることを、証明しつつある。

新しい力
この試合で大きな仕事をしたのが小松、山田、そして濱﨑であったことは、先に記した通りだ。
まずは公式戦3試合連続となる先制ゴールを決めた小松だ。6分に広瀬が右サイドから蹴り入れたフリーキックは、ファーサイドに飛んだ。ここで大外を守っていた右サイドバックの半田陸とセンターバックの中谷進之助の間に飛び込んだのは、マテウス トゥーレルだった。広瀬が蹴る前、G大阪のディフェンスラインの前に立っていたトゥーレルは、半田と中谷がボールを見るのを待って、動き出した。そのため彼らにとっては「突然トゥーレルが出てきた」という感じだったはずだ。トゥーレルはこのボールを中央に向けて落とした。このボールはラインの前に落ちたのだが、それを小松が左足のボレーで決めて見せた。
この場面でのポイントは2点ある。まずはボールへの入り方だ。広瀬のキックに合わせてゴール前に走りこむとき、小松はG大阪のボランチである鈴木徳真にブロックされた。悪質というほど派手なブロックではなかったが、これによって小松は前に入り損ねた。しかしそこで小松は気持ちを切り替え、こぼれてくるボールに備えた。ピッチに立つ選手は複数の選択肢を持たなければならないと言われる。相手との関係の中でプレーするサッカーにおいては、思ったような状況になることがほとんどないためだ。
2つ目のポイントはシュートだ。鈴木にブロックされたことで、小松は万全の態勢でボールを待つことができたわけではなかった。しかしボールが来る前、小さくジャンプすることで態勢を整え、シュートを叩きつけるように打った。まっすぐに打ち込みたくなる高さのボールではあったが、ここは叩きつけたことが正解だった。シュートコースにはG大阪のセンターバックである三浦弦太が立っていたためだ。もし小松がまっすぐに打ち抜いていたとすれば、三浦は身体か頭でこれを防ごうとしていただろう。しかし三浦の手前でバウンドするような弾道だったため、三浦は身体を捻るように動いた。これが結果的に小松のシュートコースを空けた。
試合後、小松の評価としてスキッベ監督は起用した6試合で3得点という数字を讃え、「満足以上に満足している」と最大限の賛辞を贈った。スキッベ監督も言及したように、大迫のような収まりはないかもしれないが、小松には密集の中に入っていく強さがある。試合後に攻撃がつながらなかったことについて尋ねられた際には「あの辺で難しいボールを1個収められるようになったら、またさらに良いストライカーになれるかなと思います」と、次の課題に目を向けていることを示した。続けて「サコくん(大迫)に比べたらまだまだです」と語ったように、小松は大迫をフォワードの理想形として追いかけている。フォワードの選手にとって大迫は、目標とするのには最高の選手だ。自らのストロングポイントを失うことなくこれを追い続けていれば、自然と「新しい小松蓮」が生まれるだろう。
次に山田だが、難しい局面での投入にもかかわらず落ち着いたプレーを見せた。守備面ではほぼボールに触る機会はなかったが、それでも試合終了直前の95分には、自陣ペナルティエリア内でこぼれたボールを拾い、寄せてくる相手の前でターンして蹴り出した。残された時間を考えれば焦って蹴りたくなるところだったが、そこで相手の寄せをかわした落ち着きは見事だった。そして得点シーンでは左サイドバックの永戸勝也が自陣から出したサイドを変えるボールに対して、初瀬亮と競り合いながら、頭で右の濱﨑に落とした。この場面で山田はボールを見て走り出した直後、背後を確認して初瀬を視認。そこから初瀬の前に出て、背中でこれを抑えながら頭に当てた。その後は濱﨑をマークした初瀬と併走し、一瞬、初瀬の注意を引き付けた。その瞬間を使って濱﨑は進路を変え、初瀬の内側に入り込む態勢を整えた。これらは基本的な動きではあるが、それを緊迫した場面で行ったことは評価したい。これは山田が基本的な技術をしっかりと身につけていることの証左だ。
そしてアシストを記録した濱﨑だが、こちらは後半をフルに戦い抜いた。前記した通り、濱﨑に期待されたのはボールを握って時間を作るプレーだったと思われるが、濱﨑はその期待に対して、見事に応えて見せた。右サイドに張る形を基本として、ボールを握りながら時間を作り出した。G大阪の守備陣からは狙われ続けたが、それにも怯むことなく、自らのプレーを見せ続けた。濱﨑は止まって時間を作ることは少なく、ほとんどの場面で自由に動きながら相手を引き付ける。こうしたプレースタイルの選手の場合、その動き方が問われる。ボールを握り続けることに注力するあまり、味方が動くべきスペースを消してしまうこともあるためだ。しかし濱﨑に関しては、その心配がない。恐らくボールを持った時、敵と味方の位置を確認する癖が染みついているのだろう。この周りを見る目が活きたのが、2点目のシーンだった。山田が落としたボールをドリブルで縦に運びながら、アタッキングサードに入ったあたりで左足を振り、ファーサイドのゴール横に正確にボールを入れた。ここにパトリッキが走り込み、これを頭で押し込んだ。試合後に濱﨑はこのアシストに関して「シンプルにプレーしたのが良かった」と振り返っていたが、内側を並走する初瀬を中に入る動きでかわした後、実際に蹴るまでの間、狙いを定め続けていたのだ。
スキッベ監督は山田と濱﨑を積極的に起用することで、その経験値を増やそうとしているように見える。もちろんそれだけの実力があればこその起用ではあるが、これこそが、前段で書いたスキッベ監督が育成も担っていると感じるゆえんだ。
スキッベ監督の起用によって伸びている新しい力とは、若い選手のことだけを指しているわけではない。小松もその一人であり、酒井の戦線離脱後、右サイドバックとして躍動している広瀬などもそこには含まれる。
以前から中心選手の一人だった広瀬だが、昨季まではウイングでの活躍が目立っていた。サイドバックで起用されることもあったが、その時には今のような攻撃的な面での活躍はあまり見られなかった。この広瀬に起こっている変化は、スキッベ監督のチーム作りと密接に関係している。昨季までヴィッセルの右サイドは、攻撃時にウイングが早い段階で中に入る場面が多く、サイドバックが1枚で守る時間が長かった。しかし今季はピッチを広く使っているため、選手が万遍なくピッチ上に配置されており、どこかが孤立することは少ない。この変化は攻撃面にも表れている。これまでは早い段階でクロスを入れることが多かったため、クロスを上げる位置は低かったのだが、今季は攻撃の厚みを重視しているため、クロスを入れる位置が高い。これによって狭い局面で切り返し、クロスを入れることのできる広瀬の特徴が活きている。
このようにチーム作りの方針が変わったことによって、ヴィッセルの選手たちは新しい一面が引き出されている。

前半の入り方
この試合では概ねG大阪が主導権を握っていたのだが、その流れはキックオフからの3分間で定まってしまったように思う。その間に見られた2つのシーンが、そうした流れを作り出すきっかけとなったように思える。
1つ目はキックオフ直後のプレーだ。初瀬がハーフウェーライン手前から右足でラフに蹴ったボールは、ヴィッセルの右タッチライン方向に飛んだ。初瀬が蹴った直後、広瀬がボールに最も近い位置にいたのだが、このボールはタッチラインを割ると判断し、ゆっくりと下がっていった。しかしその背後からウェルトンが猛然とダッシュし、このボールを追いかけた。広瀬もこれに気付きスピードを上げたのだが、勢いの差は歴然としていた。この状況を見てGKの前川黛也が飛び出し、外にボールを出した。
このプレーによってG大阪にはスローインが与えられた。スローワーの初瀬がイッサム ジェバリを狙ったボールは高く、そのままゴールラインを割るかと思われたのだが、これを受けて前に蹴ろうとした広瀬が収めきれず、G大阪のコーナーキックとなった。
2つ目は2分に差し掛かる時間のプレーだ。ヴィッセル陣内でのG大阪の左スローインは、ヴィッセルがボール奪取したかに見えたが、左タッチライン際でボールを受けたジエゴが横パスをミス。これが中央のジェバリへのパスのような格好となってしまった。ジェバリとスイッチする形でボールを引き取った山下諒也が左に展開。最後は初瀬のクロスをワントップのデニス ヒュメットが頭でゴールに流し込もうとした。このシュートは完全に枠を外れていたのだが、これを永戸が触ってしまい、再びG大阪のコーナーキックとなった。
ここで誤解してほしくないのは、これらのプレーは単なるきっかけであり、主導権を握ることのできなかった直接的な原因ではないという点だ。いずれも普通であれば問題となるようなプレーではない。この日の試合では、先にG大阪に主導権を握られてしまったため、そのきっかけのように見えているだけなのかもしれない。しかし「神は細部に宿る」ともいう。キックオフ直後の趨勢が定まっていない時間帯は、リスクを回避しながら相手を押し込んでいくことに注力してほしい。
主導権を握られた理由
G大阪を率いるイェンス ヴィッシング監督は、試合後の会見の中で「特に前半ですが、良い入りをして支配したと思います。早々に相手のFKで失点してしまいましたが、それ以外のところでは何もさせていない印象です」と語り、そのゲーム運びが巧くいったことを誇った。この試合でG大阪が主導権を握った裏側には、ヴィッセルの戦い方の分析と、その対策があったように思う。
ここで大きな役割を果たしていた選手は2人だ。1人はボランチの鈴木、そしてもう1人は2列目中央のジェバリだ。配球役は鈴木だった。ボール非保持時、ヴィッセルは4-4-2に変化し、前線の3枚とインサイドハーフの1枚がプレスをかける。その時、一時的ではあるがヴィッセルの布陣は4-2-4のような形となり、前線の4枚と中盤の間にスペースが生まれる。G大阪の最初の狙いはここだった。G大阪はここに立った鈴木にボールを集めたのだ。
この動きに合わせて、ジェバリは鈴木からのボールを受ける位置を取っていた。そのためジェバリは広いスペースを動き続けていたのだが、高さと足もとの技術があるこのチュニジア代表選手は、そこでボールを握りながら時間を作り続けた。基本的にジェバリは攻撃の組み立て役だったのだが、本来はフォワードであり、高いシュート技術も持っているため、ヴィッセルの選手を引き付ける役を担ったのだろう。
この鈴木とジェバリが見せたプレーは、本来ヴィッセルがやりたいプレーでもあった。この2人が見せた時間とスペースを味方に渡し続けるプレーが、前半のヴィッセルを苦しめた。
次にその対策を考えてみる。この試合でスキッベ監督は、鈴木に対して扇原を上げることで、その動きを封じようとしていたように見えた。受け手がジェバリであることを考慮し、広い範囲を動くことができる井手口を最終ラインの前に残したのだろう。しかし結果を見ると、これは逆だったように思う。鈴木のように動きながらボールを動かすことのできる選手に対しては、マークを続けることができる井手口の方が適任だったように思う。ボールの出所と受け先のどちらを潰すかの判断はシチュエーションによって異なるが、ジェバリが最終ラインの前でプレーする時間が長かったことを思えば、鈴木を潰すべきだったように思う。
この鈴木とジェバリのラインを潰せなかったことは、その後の展開も左右した。ジェバリは多くの場面で右サイドハーフの山下を使っていたのだ。爆発的なスピードに特徴を持つ山下は、我武者羅にその特徴を出してくる選手だ。明らかに無理と分かっているボールに対しても、スピードを緩めることなくチャレンジする姿勢は脅威でもある。ジェバリが山下を使ったのは、そのスピードだけが理由ではないだろう。これは前節対戦した名古屋も同じ狙いを見せていたが、ゴール前からトゥーレルを引っ張り出すのが狙いだったと思われる。
こうした「ヴィッセル対策」に対して、この日のヴィッセルが採るべきだった対策は2つあったように思う。1つは試合中に選手たちも意識していたロングボールだ。この場合は小松が目標になるが、それを繰り返すことでG大阪の攻撃陣を遠ざけることが目的だ。しかしこの日の試合のように押し込まれている場面では、それほど効果のないことが多い。その理由は守備に忙殺されるため、前線に人を割くことが難しいためだ。ロングボールで局面を打開するのであれば、最終ラインがボールを持ちながら時間を作り、前線に選手が揃うのを待たなければならない。しかしこの日のG大阪のように、前でプレッシャーをかけ続ける相手に時間を作ることは容易なことではない。
そこで浮かび上がるのがもう1つの策だ。それはミドルゾーンへの一時的な撤退だ。極端に言えば、鈴木の前にブロックを形成することができれば、鈴木はタイトなパスを要求され続けることになる。受け先の中心がジェバリと分かっている以上、ブロックの形を定めることはそれほど難しくはないように思う。ここで大事なことは、ブロックを4-4にして、カウンターで攻め込むことができる態勢も整えておくことだ。一時的とはいえ、相手ゴールから遠くなる位置にブロックを組むというのは、前を目指す戦いを志向するヴィッセルにとって後退のように見えるかもしれないが、この日のような試合展開では、これこそが反撃への近道だったように思う。
最後に判定基準についても触れておく。この日の主審は接触に寛容な姿勢を見せていたが、その基準が若干甘かったように思う。G大阪の選手が見せた守備は激しく、佐々木や小松が腕をからめとられながら倒されたように見えた場面でも、ノーファウルと判定されるケースが多かった。情勢が不利だったこともあり、スキッベ監督が第4の審判員に対して激しく抗議する場面が早くから見られた。判定が試合を決めたとまでいうつもりはないが、この日の基準がG大阪に戦いやすさを与えた面があったことは否めないように思う。

次戦に向けて
最後に1つだけ触れておかなければならないことがある。この日は平日ナイターだったにもかかわらず、2万人を超える大観衆がノエビアスタジアム神戸に詰めかけた。このヴィッセルサポーターの声援が、最後まで選手の足を動かし続けた原動力となっていたことは間違いないだろう。この素晴らしいサポーターの存在も、確実にヴィッセルの戦力となっている。
厳しい試合ではあったが、前記したようにヴィッセルの選手たちが見せ続けた闘争心、そして同点に追いついた粘りは高く評価されるべきだ。これによってG大阪の勝点を1削ったと考えれば、この結果は後々活きてくるように思う。
次戦はC大阪とのアウェイゲームだ。ヴィッセルは武藤の戦線離脱に加え、次の試合では井手口が累積警告による出場停止となる。またこの日の試合で負傷交代した佐々木の状態も心配だ。スキッベ監督は大迫の戦線復帰の可能性を示したが、中3日という日程を考えれば、ヴィッセルは依然として厳しい状況にあると言えるだろう。しかし濱﨑や山田を筆頭に、台頭してきた力を取り込むことができつつある今、ヴィッセルには新しい可能性が生まれている。次戦では、この予感を確信に変えるような戦いを見せてほしい。

