勝利の価値
川上哲治氏(故人)といえば、プロ野球の歴史において最も優勝回数の多い監督として知られている。リーグ優勝と日本シリーズを合わせて優勝22回という数字は、2位(14回)を大きく引き離している。その川上氏から「優勝するためには連敗を極力減らすこと」という言葉を聞いたことがある。その理由を尋ねると、連敗はチームのムードを停滞させるだけではなく、選手から自信を奪ってしまうためだという答えが返ってきた。そのため連敗を喫した後の試合では、エースの連投も辞さないという厳しい対応を取っていたという。これは現在の野球界では考えられないことであり、当時といえども選手の体調管理という面から考えれば、決して褒められたものではないかもしれないが、川上氏が如何に連敗を恐れていたかということの証左ではある。この「連敗を避ける」というのは野球に限らず、全ての勝負事における鉄則であるように思う。
今季のヴィッセルは公式戦3連勝スタートを飾ったが、その後2連敗を喫した。しかしその2試合とは、1つはAFCチャンピオンズリーグエリート(以下ACLE)においてリーグステージ突破が決まった後の、いわゆる「消化試合」。そしてもう1つは退場&PKという「不運に見舞われた結果」だった。個々を見ると、それぞれの敗戦によるダメージは、それほど大きいものではない。しかし視座を遠くに移してみると、少しだけ様相が違って見えるのではないだろうか。
シーズンを制するためには、波をつかまえ続けなければならない。ましてヴィッセルは中4日でACLE・ラウンド16を控えている。最高の状態でこの決戦に臨むためにも、この日の試合では勝利という結果を残し、チーム状態を上向きにしておかなければならなかった。
試合後に濱﨑健斗は「この試合に勝つというところにみんなフォーカスしていたと思う」とコメントしたが、これはチームに「シーズンを勝ち抜くための勝負勘」が根付いていることを示している。そしてその言葉通りの結果を残したことは、大きな試合を控えているヴィッセルにとってはポジティブな要素だ。
そしてこの日の勝利には、もう1つの価値があったと思う。それはヴィッセルアカデミー出身の選手を含む、多くの若手選手たちが躍動し、つかみ取った勝利だったという点だ。ヴィッセルを牽引しているのが優れた技術と豊富な経験を持つ「ベテラン選手」であることは事実だが、この試合は彼らに頼るだけではなかった。豊かな才能を持つ若手選手たちの積極的なプレーがチームに勢いをもたらし、勝利を引き寄せた。チームスポーツにおいては「若手の突き上げが見られるチームは強い」と言われるが、今のヴィッセルにはそうした雰囲気がある。
この流れを後押ししているのが、ミヒャエル スキッベ監督だ。試合後、山田海斗の抜擢について尋ねられた際、スキッベ監督は「ヴィッセルにはアカデミー出身者を含め、素晴らしい能力を持った若い選手が大勢います」とした上で、「(出番を)待っている選手たちに出番を与えるのも私の役目だと思っています」とコメントした。スキッベ監督はチームに勝利をもたらすという「リアル」だけではなく、クラブの未来という「ロマン」にも目を向けている。こうした指揮官の姿勢は、全ての選手に希望を与える。そしてその希望がトレーニングの質を高める。この循環こそが安定した強さを生み出していく。
ゲームチェンジャー
この日の試合において、最も試合に影響を与えたのは31分の退場劇だった。右タッチライン沿いで背後からのボールを受けた武藤嘉紀は、中央の郷家友太にボールをつないだ。郷家は中央に向けて右足のアウトでボールをコントロールしたが、その背後から郷家を追った見木友哉が足をかけて郷家を倒した。それが危険な角度だったこともあり、VAR判定の結果、見木は一発退場となった。これによって1人多い状態となったヴィッセルだが、5-3-1の陣形で守りを固めた福岡の牙城を崩しきれないまま、前半を終えた。
この流れを変えたのが、後半開始から投入された濱﨑だった。右インサイドハーフに入った濱﨑は、自らボールを動かすことで試合の流れを変えた。ボール保持時には巧みなボールタッチで相手をかわし、ボール非保持時には何度も動きなおしをすることでスペースを作り出していった。この濱﨑の良さが存分に発揮されたのが、後半開始直後のプレーだ。
後方でのボール回しの中でやや左に流れたマテウス トゥーレルが、中央右に立っていた井手口陽介を経由して右に展開させた。この時、濱﨑は福岡の2列目の外側に立ち、十分にスペースを確保した上で、井手口からのボールを受けた。ここで濱﨑はマークに来た名古新太郎を引き付けて動くのだが、名古を剥がすためにドリブルのスピードに変化をつけた。名古との距離がある時にはゆっくりと前に動かし、名古の寄せてくる動きに合わせてスピードを上げたのだ。
こうして濱﨑がペナルティエリア角近くに立った時には、外に開いた広瀬陸斗と、ペナルティエリア内で福岡の最終ラインの中に入り込んでポジションを取った武藤の両方を見ることができていた。そしてマークを続けていた名古から遠いほうの足で、広瀬に渡した。巧いのはボールを離した位置だ。名古を連れて上がったことで、名古にとっては近くに立っている武藤を警戒しなければならなくなったのだ。このポジション取りで、濱﨑は再び名古から見える位置で、スペースを確保した。そして次は広瀬に寄っていった。これによって最終ラインまで下がっていた左ウイングバックの藤本一輝は広瀬に、名古は濱﨑に寄せざるを得なくなった。この結果、武藤に大きなスペースを渡すことに成功したのだ。
広瀬からのボールを引き取った濱﨑は名古を引き付けた上で小さくターンし、名古の前を通過するボールを、ペナルティエリア角外まで戻った武藤に渡した。そして武藤が名古と藤本を引き付けている時間を使い、斜めの動きでペナルティエリアに入り込み、名古と藤本の背後から前に走り出て、広瀬からのボールを受けた。ここでトラップが自陣方向に流れたことでこの攻撃は終わったが、この間に濱﨑が見せた動きには、引いた相手を崩すためのポイントが詰まっている。場面ごとに異なる動きを見せた濱﨑だが、その全てが味方へのコースを確保しつつ、相手を引き付けるという鉄則に従っていたのだ。そしてこの一連の場面の中で濱﨑が見せた動きは、「味方に時間とスペースを渡す」ための動きであり、スキッベ監督が志向するサッカーにおいては必ず求められる動きだ。
昨今はビジネス用語になった感すらある「ゲームチェンジャー」という言葉だが、この試合における濱﨑は本来の意味通りに、試合の様相を一変させる活躍を見せた。後ろに重心を置いたチームを崩すときには、そのスペースを広げなければならない。そしてそのためには、そのブロックに入り込んで相手を引き付け、動かす必要がある。これを理解している選手は珍しくないが、その多くが密集の中で強引に突っかけてしまい、結果的にボールを失ってしまう。しかし濱﨑はドリブルで仕掛ける場合でも、味方へのパスコースがどこにあるかを、常に意識しながら動くことができている。だからこそ、ボールを失うことなく、相手を動かすことができるのだ。

先発デビュー
ヴィッセルアカデミーの先輩である山川哲史の出場停止に伴い、この日の試合がJ1リーグデビュー戦となった山田だが、この試合では本職であるセンターバックでフル出場を果たした。何度かゴール前に迫られたシーンもあったが、集中した守備によって最後まで破綻することなく守り続けた。
この日の試合で福岡のワントップを務めた、元イラン代表のシャハブ ザヘディは、山田につく場面が多かった。しかし山田はそれにも動じることなく、終始落ち着いたプレーを見せていた。特に前半は福岡が裏を取りかける場面も多かったが、まず相手の進路を見定め、動きを遅らせた。そして味方の戻りを待ってボールを奪いにいく、或いは味方に受け渡した上でゴール前に戻るといった基本に忠実な動きを見せ続けた。そうしたプレーの中で山田は、巧みな身体の使い方を見せた。相手に寄せられながらも、簡単に蹴り出すのではなく、身体の向きによって相手の進路を塞ぎ、小さくターンし、前を向く。このプレーは濱﨑が披露していたプレーと同質であり、ヴィッセルアカデミー所属の選手が身につけている共通項なのかもしれない。
試合後、山田は先輩たちからの声掛けがあったことを明かし、中でもトゥーレルとの関係性が大きかったことを認めた。今や誰もが認めるJ1リーグを代表するセンターバックに成長したトゥーレルが横に控えているという事実は、プレーする上での精神的なアドバンテージになるということなのだろう。そのトゥーレルは、山田について「沖縄でのキャンプの時からいいプレーを見せていた」と、その実力を評価した上で、「今日はコミュニケーションを取り続け、助け合いながら良いプレーができたと思う」と語り、「チームの勝利に貢献した」と山田のプレーを高く評価した。実際に試合を通じて、トゥーレルが山田を気遣うシーンが散見された。山田がボールを持った時、トゥーレルは自分がその受け先となることができる位置を意識し続け、山田との角度を調整していたように見えた。またGKの前川黛也、右サイドバックの広瀬、アンカーの鍬先祐弥といった山田を取り巻く選手たちも、山田が孤立することのないように意識し続けていた。そのため試合開始直後は、若干重心が後ろに傾いているように見えたが、これも山田が試合に入りやすくするためであったとすれば頷ける話だ。
この日の山田はセーフティーなプレーが多く、特にボールを持った時には周りに預けることが多かったが、次の機会にはどのようにボールを捌いていくのかという点に注目してみたい。随所で見せるプレーからは、高いボールスキルが窺えただけに、楽しみな存在だ。相手に退場者が出たという事態があったにせよ、先発デビューを果たした試合で「勝利」という結果を残すことができたことは、山田にとっても自信となるだろう。

初ゴール
この日の試合で決勝点を挙げたのは、3試合連続での先発出場を果たした小松漣だった。そのゴールシーンは、小松が「点取り屋」として高い素質を持った選手であることを、改めて証明している。
濱﨑からのバックパスを受けたトゥーレルがボールを持ち、右を向いた時、トゥーレルのパスコースには相手選手が立っていた。それを見た小松は前線からダッシュで戻り、トゥーレルからのボールを受けることができる位置を確保した。トゥーレルの身体の向きを見て、その視界に入ることができると判断した結果のプレーだったのだろう。これによってトゥーレルから斜めに角度の付いたパスが入り、福岡の最終ラインの前に起点が生まれた。その後、右サイドで広瀬、井手口、武藤、濱﨑、佐々木大樹といった選手たちがボールを動かしながら、福岡の守備組織の穴を探り続けた。この時、小松はペナルティエリア角付近に立ち、最終ラインに対して駆け引きを続けた。そして最後は右サイドを佐々木が抜け出した瞬間、GKの前に飛び出して、その前に立った。こうしてGKの視界を塞いだ上で、佐々木からのグラウンダーのパスを右足のヒールに当て、GKの股を抜いてゴールに流し込んだ。この動きの中で小松は、一貫してゴールを狙える身体の向きを保っていた。そして佐々木からのボールを受けたところで、ボールを佐々木に戻すのではなく、ゴール方向に流し込むことを意識して動いていた。これこそが「ゴールに向かう姿勢」であり、ストライカーに望まれるものだ。
高い期待を背負って、昨季途中、ヴィッセルに加入した小松だが、ここまで結果には恵まれていなかった。これまでも動きそのものは決して悪くなかったのだが、ゴールという結果だけがついてこなかった。しかし小松は焦りを抑え続けた。ヴィッセルという「勝利が期待されるチーム」の一員としての意識がそうさせたのかもしれないが、前線で身体を張り続け、常に確率の高いプレーを選択し続けた。これが小松の良さでもあるのだが、本人は忸怩たる思いを抱え続けていたのではないだろうか。周りの選手たちもそれを認識していたからこそ、小松の「J1初ゴール」を我がことのように喜んでいた。
スキッベ監督も「小松がゴールを決めたことは本当に嬉しいと思っています。彼が今までやってきたことがゴールで報われたことは、彼のためにとても嬉しく思っています」とコメントし、小松のこれまでの努力を称えた。
このゴールという結果によって、小松は背負っていた重荷を1つ降ろすことができたのではないだろうか。ゴール後のパフォーマンスは、確実にそれまでよりも向上しており、ボールの収まりも良くなったように見えた。エースである大迫勇也とは異なる個性を持った小松が結果を残し始めると、ヴィッセルの「やれること」の幅は格段に広がる。今後、小松がどのようなプレーを見せてくれるのか、今から楽しみにしている。

仕事人
フレッシュな選手の活躍が目を惹いた試合ではあったが、その陰には安定した力を発揮し、チームを支えるベテランの活躍があった。
先制点を挙げた武藤は、コンディションの良さを継続していた。53分に濱﨑、広瀬、井手口が絡み右サイドでボールを動かした。この間、武藤と小松は福岡の最終ラインの前に立ち、駆け引きを続けていた。そして相手の目線が完全に外を向いた瞬間、武藤は数歩前に出て、相手のライン間にポジションを取った。そして井手口のスルーパスに広瀬が抜け出し、ゴールライン上からマイナス方向に折り返したボールを、ファーサイドで佐々木、小松が頭でつないだ。このボールが武藤の足もとに入り、武藤は密集の中で左足を振りぬき、待望の先制点を挙げた。このゴールには武藤の高い技術が詰まっていた。小松が頭ですらしたボールを受ける際、武藤はわずかに上半身を引くように動き、ボールの動きを止めると同時に、自らがシュートを打ちやすい体勢を作り出した。そしてその体勢のまま、左足でボールを持ち上げるように蹴り、ゴール上に蹴りこんだ。一見すると簡単なようだが、上半身を引く動作からシュートまで、その動きには澱みがなかった。これはボールを受ける作業からシュートまでを、1つの流れとして行うことができる、高い技術があればこそだ。ここでボールを受ける動作とシュートが分離していたとすれば、背後からスライディングしてきた相手に引っかかっていただろう。
以前にも書いたことだが、今季の武藤はポジショニングが改善している。以前の武藤は右サイドから中に入りすぎてしまう傾向が見られた。それが右サイドにスペースを作り出してしまう原因になっていたのだが、今やそうした場面は皆無だ。そうなった理由は、サッカーの変質にある。スキッベ監督は縦に速いサッカーを志向している。それだけであればこれまで通りなのだが、スキッベ監督はそこに厚みを加えようとしている。攻撃と守備を分離させることなく、チーム全体で押し上げていくことで、幅と厚みの双方を備えた攻撃を企図しているのだ。この先制点のシーンでも、右サイドでボールを動かしている時、最終ラインのトゥーレルと山田までもがアタッキングサードに侵入していた。その結果、武藤が中に入っていても、広瀬と濱﨑で右サイドの厚みは担保されていた。攻撃時に全体が高い位置を取る以上、裏のスペースは狙われやすいが、そこではヴィッセルの持ち味であるネガティブトランジションの速さが活きている。これだけを見ても、今季のチームが正しい方向に進化していることが判る。
先制点をアシストした広瀬も見事な活躍を見せた。右サイドバックとしてフル出場を果たした広瀬だが、サイドに蓋をする守備はもちろん、攻撃時にはサイドの槍として効果的な動きを見せ続けた。昨季までは片側を上げ、対角線のボールを使うことで前進していたヴィッセルだが、今季は左右のバランスを取りながら前進することが多い。そのため広瀬も無理に上がるのではなく、アンカーやインサイドハーフを使いながら右サイドで溜めを作り、相手を十分に引き付けた上で前に出るプレーが増えているように思う。これによって広瀬の高いボールスキルと両足を使えるキック技術が、存分に活きている。先制点のシーンでも、広瀬の飛び出しは自然だった。前記したように井手口、濱﨑を加えたボール回しで相手の目線を引き付けた上で飛び出しているため、相手の守備は完全に後手に回っていた。酒井高徳という「大黒柱」が戦列を離れている中で、広瀬のように安定して仕事をこなすことができる選手の存在は、チームを下支えしてくれる。
そしてもう1人。ベテランという年齢ではないかもしれないが、見逃すことができない選手がいる。ヴィッセルアカデミー出身の佐々木だ。左ウイングで先発した佐々木だが、ボールを前に運ぶ段階で、前線における起点となり続けた。少々ルーズなボールであっても、確実に足もとに収める技術と、相手に寄せられながらも、身体の向きでこれを防ぎつつ、最後まで倒れることなく味方を待つ強さがあるため、今の佐々木は「ボールの預かり役」として、味方からの信頼を勝ち得ている。万能型の選手として育ちつつある佐々木だが、その根底には頭の良さがある。相手にとっての急所を見抜き、そこに立つだけではなく、味方のピンチを事前に察知し、自陣深くまで戻っての守備も厭わない。こうした献身的な動きは、今やヴィッセルの前線における「基準点」ともなっている。

前への意識
前記した通り、この日の試合に最も影響を与えたのが、退場であったことは事実だ。それ以降、ヴィッセルが一方的に攻め込む展開となった試合ではあったが、そこに至る前、ヴィッセルの攻撃は機能しきれていなかった。今季まだ勝利のない福岡だが、その内容は決して悪くなかった。選手たちのコメントを聞く限り、この日の試合が今季のベストパフォーマンスではあったようだが、最後の部分での守備は堅く、ヴィッセルに思うような攻撃を許さなかった。ボール非保持時には5-2でブロックを形成し、全体で前に出ながらボールを奪う。そこからは前線の選手を前に走らせるというシンプルだが、力強さのある戦い方で、試合を膠着状態に持ち込んでいた。
それだけに29分に前川が見せたビッグセーブはチームを救った。山田からのボールを中央で受けた鍬先がボールコントロールしきれなかった瞬間を見逃さず、前に立っていたサヘディがボールを奪い、そのままドリブルでヴィッセルゴールに迫った。左から戻ったトゥーレルがザヘディに寄せたところで、ザヘディは逆サイドを上がってきた佐藤颯之介にパス。全力で戻った山田が前に立ったが、ここでは寄せ切れなかった。そして佐藤は落ち着いて左足を振りぬいた。このシュートは確実に枠を捉えていたが、前川がこれを右手で弾き出した。このシュートが決まっていたら、試合の流れは全く異なるものになっていた可能性が高い。その意味でも、この前川のプレーは大きかった。
このシーンで前川は、最初はザヘディの走路方向に動いたのだが、動きすぎることはなく、立ち位置の基準をゴール中央に置いていた。そのため佐藤へのパスに対しても、効率的に動くことができた。そして佐藤のシュートを最後まで見極めた上で、そのコースに跳んだ。シュートストップに関しては以前から高い能力を見せていた前川だが、今季もチームを救っている。
膠着した展開の中では、いかにして前線に起点を作るかという点がポイントとなる。そこで期待していたのが、右インサイドハーフで先発した郷家だった。しかし郷家のボールタッチは少なかった。相手の急所を探しながら動いていたことは確かだが、味方からのボールを引き受ける位置に入る回数が少なかったように思う。この動きが悪かったわけではないが、チーム全体を前に向ける役割としては物足りなさが残ったことも事実だ。昨季まで所属していた仙台では前線の軸としてプレーしていた郷家だが、今季のヴィッセルではインサイドハーフとして起用されている。そのため巧くつなごうという意識が高いのかもしれないが、それがチーム全体の流れに未だ合致していないように見える。万能型の選手であり、高い技術を持っているだけに、嵌る場所(プレー)を見つけることができれば大きな戦力となることは間違いない。今は試行錯誤の最中かもしれないが、一日でも早く自らの立ち位置を確立してほしい。
ACLEに向けて
次戦は中4日でのACLE・ラウンド16初戦だ。FCソウルとのアウェイゲームだが、ここで確実に勝利を挙げておきたい。FCソウルとは半月前に戦ったばかりだが、その時にはヴィッセルが2-0で勝利している。チーム力はヴィッセルの方が上回っていると思うが、FCソウルは前回の対戦時と同様に、守備を固めてくる可能性が高い。前回の対戦時にはそれを崩しきれず、先制点を奪うまで苦労した。その意味でも、この日の試合で5-3のブロックを打ち破った戦い方はヒントとなるのではないだろうか。低い位置での守りを崩すには、サイドの攻略がカギとなる。この日の試合で右サイドを崩した時のように、サイドバックとインサイドハーフ、そしてアンカーの3枚で相手の守備組織を広げ、深い位置から折り返す。基本的な攻撃方法ではあるが、これを実直に繰り返すことができれば、ヴィッセルに勝機は訪れるだろう。
攻守両面で圧倒的な存在感を放つ大迫が、この試合を前に復帰を果たしたことはヴィッセルにとっての好材料だ。自ら決めるだけでなく、卓越した足もとの技術から決定機を作り出すことができる大迫を巧く使うことができれば、勝利はグッと近くなる。
若い選手が見事な成長曲線を描いている今、彼らの力を取り入れ、新しいヴィッセルの戦い方でアジアを席巻してほしい。

