覆面記者の目

明治安田J1百年構想リーグ 第2節 vs.長崎 ノエスタ(2/13 19:00)
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  • AWAY長崎
  • 神戸
  • 2
  • 2前半0
    0後半0
  • 0
  • 長崎
  • 酒井 高徳(25')
    佐々木 大樹(42')
  • 得点者

 FCソウルをホームに迎え撃ったAFCチャンピオンズリーグエリート(以下ACLE)から中2日。厳しすぎる日程の中で迎えた「明治安田J1百年構想リーグ(百年構想リーグ)」ホーム開幕戦。J1復帰初年度のV長崎に対して、ヴィッセルは攻守で圧倒。開幕からの公式戦の連勝を3に延ばした。


<V・ファーレン長崎>
 2018年以来となるJ1リーグでの戦いに臨んでいるV長崎だが、J1復帰初年度のチームとはいえ、決して気を抜ける相手ではない。昨季途中に2度目となる監督に就任した高木琢也監督の下で、V長崎は攻撃に特徴をもつチームとして昨年のJ2リーグを戦い抜いた。その特徴を一言で表現するなら、「決めきる力を持ったチーム」ということになるだろう。昨季のJ2リーグで最多得点を記録したV長崎だが、データを見ると、その特徴が判る。攻撃回数そのものはリーグで12位と決して多いわけではないが、シュート数(2位)、枠内シュート数(1位)、得点数(1位)チャンス構築率(1位)といった項目では、いずれも高い数値を記録している。これをドリブル総数(1位)、1試合平均パス数(3位)という数値と併せて見ると、ボール保持時に効果的に前進し、確実にチャンスを創出、それを決めきってきたことが判る。

 こうしたV長崎の攻撃を牽引してきたのが、背番号10を背負うマテウス ジェズスだ。19ゴールを挙げ、J2リーグの得点王となったジェズスは、いわゆる「万能型選手」だ。昨季は最前線ではなくトップ下のような位置で出場することが多かったのだが、前線で生まれたチャンスに飛び込み、これを確実に枠に蹴りこむ技術を持った選手だ。百年構想リーグ開幕戦でも、ノーマン キャンベルが右から入れたグラウンダーのクロスに対して、背後に相手選手を背負いながらも、確実にインサイドに当てゴールに流し込んでいる。

 さらにV長崎について言えば、主将を務める山口蛍の存在を忘れるわけにはいかない。一昨年までヴィッセルで主将としてチームを牽引し、ヴィッセル在籍時には4つのタイトル獲得に貢献してくれた功労者でもある。V長崎でも味方の穴を素早く見つけ塞ぎ、相手の急所に入り込みチャンスを創出する能力を発揮し、チームを牽引している。

 そんなV長崎ではあるが、この日の試合後の選手たちからは「完敗でした」という声が多く聞かれた。途中出場した松本天夢が「強度や切り替えのスピードというところで、やはりJ1というレベルの本物を、今日は経験できた」と語ったように、多くの選手がJ1リーグという、国内トップカテゴリーの厳しさを体感したようだ。高木監督も「ヴィッセルのレベルの高さは解っており、それに対する準備は進めてきた」とした上で、「それ以上のものを選手たちは体感したのかなと思う」と語った。映像を見ると、高木監督は試合直後のインタビューの中で「広島、神戸という強度の高いチームと続けて戦えたことは良かったと思います」と語っている。開幕2連敗というスタートでありながら、高木監督がこうした発言をしたのは、特別大会である百年構想リーグには「降格」がないためだろう。高木監督は敢えて「残留のための戦い方」を選択しないことでチームの基準を引き上げ、8月から新たに始まる「26/27J1リーグ」につなげようと企図しているのだろう。そこには3度のJ1昇格を成し遂げた高木監督らしいしたたかさがある。

<ヴィッセルとV長崎の差>
 多くの競技において、トップカテゴリーと下位カテゴリーの差は「スピードと強度」にあると言われる。サッカーにおいてもこれは同様だ。アカデミー年代を含む下位のカテゴリーから昇格した選手の多くが、最初はここに悩まされる。特に差が顕著に表れるのは「判断速度」と言われる部分だ。J1リーグであれば、ボール保持、非保持にかかわらず、次の行動を考える時間は与えてもらえない。それが解った段階で、多くの選手が先の行動を考えながらプレーするようになるのだが、それだけでも問題の解決には至らない。サッカーのように流動性の高い競技の場合、想定外のケースが多く発生するためだ。そうなると次は、常に複数の選択肢を用意しながらプレーするようになる。ここまで至って、初めてスタートラインに立つことができる。その先で求められるのは、複数の選択肢の中から最善手を瞬時に選び取る能力だ。これこそが「判断力」と言われるものの正体だ。そしてこれが高い選手が、チームではレギュラーの座を勝ち取っていく。

 逆に言えば、J1リーグ所属選手とJ2リーグ所属選手の技術差は、それほどには大きくない。もちろん傑出した技術を持つ選手もいるが、多くの選手が技術レベルでは同等かそれに近い力を持っている。その中で大きく差がつくのが、前記した「判断力」の部分だ。

 これを引き上げる方法は2つだと言われる。1つは真剣勝負である公式戦の数をこなすこと。そしてもう1つは日常のトレーニングの中で、公式戦に匹敵するような厳しさを味わうことだ。その意味で、今のヴィッセルは選手にとって最高の環境と言える。実力と経験を併せ持つ選手が多く名を連ね、彼らが日常から厳しさを求めるため、トレーニングの強度は自然と高くなっていく。その中で選手は成長を遂げていくわけだが、それを象徴しているのが、この日の試合で今季初先発し、フル出場を果たした鍬先祐弥だ。メディアを含むV長崎の関係者の多くが、この日の試合で鍬先の成長を実感したようだ。ヴィッセルに加入3年目を迎えた鍬先のプレー強度や速度、そして判断力が上がっていることは、誰の目にも明らかだ。それは紛れもなく鍬先の努力の成果なのだが、それを引き出したのがヴィッセルという環境であることも、また事実だ。

<スターティングメンバー>
 中2日という強行日程の中、ミヒャエル スキッベ監督はACLEから5人の選手を入れ替えた。この日の試合に臨んだヴィッセルのメンバーは以下の通りだ。GKは前川黛也。最終ラインは右から酒井高徳、山川哲史、マテウス トゥーレル、永戸勝也の4枚。中盤はアンカーに鍬先を配し、インサイドハーフには井手口陽介と佐々木大樹の3枚を並べた。前線は右ウイングに武藤嘉紀、左ウイングにジエゴ、そして前線の中央に小松蓮という並びになった。

 ここで注目したのは3人の選手だ。試合前日にスキッベ監督が欠場を明かした大迫勇也と扇原貴宏に代わって起用された小松と鍬先。そしてこれに伴い、この試合では左インサイドハーフでの出場となった佐々木だ。中でも佐々木は3試合目にして3個目のポジションでの出場となっただけに、どのようなプレーを見せてくれるか注目していた。

 一方のV長崎のフォーメーションは3-4-3(3-4-2-1)。開幕戦からは3人の選手が入れ替わっていた。新たに起用されたのはボランチのディエゴ ピトゥカ、右サイドハーフの米田隼也、そして前線中央に入った山崎凌吾だ。昨季J2リーグでは3バックと4バックを使い分けていた高木監督だが、この試合で3バックを採用した狙いは、中盤での構成力を高める点にあったのだろう。試合前から「守備的に戦うのではなく、優位性を作れる場所や選手を活かしたい」と語っていた高木監督は、中盤を3枚で構成するヴィッセルに対して数的な優位を作り、そこで試合を組み立てたいという思いがあったのだと思う。そしてヴィッセルの幅を使った攻撃に対してはサイドハーフを下げた5バックで蓋をした上で、ディエゴと山口のボランチでゲートを閉めるという守り方を意図していたように見えた。



<流れを変えたプレー>
 前記したように、V長崎を率いる高木監督は守備的に戦うという考えを捨てていた。その中で試合序盤に流れをつかみかけたのはV長崎だった。開始直後のトゥーレル、2分の小松といったヴィッセルのパスミスを奪い、右の岩崎悠人のスピード、そして左の長谷川元希のキープ力を使いながら、積極的にヴィッセルゴールを目指した。ヴィッセルの守備は落ち着いており、ピンチというほどの場面ではなかったのだが、試合の流れという視座に立った時には嫌なムードが生まれかけていた。

 この流れを変えたのは4分に佐々木が見せたプレーだ。ピッチ中央でのV長崎のバックパスが乱れたところで、これを受けようとしたディエゴの前に巧く身体を入れ、ディエゴのファウルを誘った。このファウルで得たフリーキックが得点になったわけではないが、このプレーをきっかけに、ヴィッセルには落ち着きが生まれた。この後、ヴィッセルが一方的とも言える流れに持ち込んだことを思えば、この佐々木のプレーが持つ意味は大きかったように思う。

<V長崎の守備を破壊した攻撃>
 前記した佐々木のプレー以降、ヴィッセルは完全に試合の流れを掌握し、V長崎の守備を機能不全に追い込んだ。その理由は複数ある。
 まず1つ目はビルドアップだ。ここで抜群の動きを見せたのが井手口だった。V長崎の狙いは、ヴィッセルのビルドアップを高い位置で阻止することだったようだ。まずトゥーレルと山川に対しては、2列目のジェズスと長谷川でプレスをかけていく。ここでサイドに立っている酒井と永戸を見るのは、サイドハーフの米田と岩崎だ。これによってボールの脱出口を鍬先に限定する。そして鍬先には山崎を当てる。ヴィッセルのインサイドハーフは山口とディエゴの2人でマークし、前線の3枚に対しては最終ラインの3枚で守る。このV長崎の守備をどこで掻いくぐるかがヴィッセルにとっての鍵となったわけだが、ここで井手口は鍬先の近くに落ち、敢えて山崎の視界に入ることで、山崎の動きを止めた。山崎にとっては鍬先と井手口の双方を見る形となったことで、どちらにもついていけない形となった。その結果、山崎とジェズス、長谷川という前線の守備ラインが破壊された。鍬先と井手口がV長崎の3人を結ぶラインの中に入り込んだことで、トゥーレルと山川にとっては複数の選択肢が持てる状況が生まれた。

 井手口と佐々木をマークしていた山口とディエゴにとっては、井手口がポジションを落としたとはいえ、前に抜け出された時のリスクを考えれば、ついていくことはできない。ましてやヴィッセルにはロングボールがある。これが前線に入った際には、自分たちが最終ラインまで戻って、センターバックのフォローをしなければならない。こうした状況を見越した井手口の動きは、V長崎の守備に穴を空けると同時に、その動きを止めるものだった。

 次にV長崎の守備を破壊したのは、サイドバックの動きだ。これは酒井、永戸ともに言えることなのだが、上がっていく中でインサイドハーフやウイングとのパスコースを意識して動き続けた。その結果、ヴィッセルのサイドでは前後の選手同士が同じレーンに入ることはなく、常にトライアングルが形成されていた。中でも右サイドは酒井と武藤、酒井と井手口という関係が構築されており、V長崎の選手、中でもボール奪取に特徴のある山口とディエゴを引っ張り続けた。その中で酒井は自らが中に入る形を積極的に作り出していた。

 このサイドの動きを活性化させる上で見逃すことができないのが、武藤の動き方だ。この試合ではゴールこそ生まれなかったものの、その動きのキレは素晴らしく、V長崎の左サイドを破壊し続けた。その武藤だが、今季は外に張り出している時間が長くなった。そのため上がってきた酒井は外の選択肢を残したまま、中に進路を変更することができる。そして酒井が外で仕掛けた時、武藤はギリギリまで中に入るタイミングを遅らせている。そのため右サイドに、昨季はあまり見られなかった厚みが生まれている。

 そしてもう1つは小松の動きだ。この試合では2度訪れた得点機を決めることができず、小松自身には悔いが残ったかもしれない。しかし攻撃時に小松が見せたポジショニングは見事だった。2列目がボールを持った時、小松がV長崎の3バックの間に入り込む動きを見せ続けたことで、V長崎の守備は前に出ることができなかった。それがヴィッセルが押し込み続ける上での助けとなった。加えて言えば、ボール非保持時に見せたファーストディフェンダーとしての動きも見事だった。自身でもコメントしたように、背後に立つ山口やディエゴを背中で消しながら、前に出た後は勢いをもって寄せていく動きは、V長崎の守備に対して確実にやり難さを与えていた。得点という結果がないことについては忸怩たる思いを抱えているかもしれないが、今は勝利に貢献したことを自信としてほしい。



<得点を生み出した厚み>
 この試合を決定づけたのが、25分に飛び出した酒井のスーパーゴールであったことは誰もが認めるところだ。永戸が蹴った左コーナーキックは、中央で山川と競った相手がクリア。このボールをペナルティアーク傍で拾った酒井がダイレクトにシュート。これが奇麗にゴール左に突き刺さった。ボールの落ち際をインサイドで正確に射抜き、奇麗な縦回転をかけた酒井の技術が光った先制点だった。

 ここで注目したいのは、このコーナーキック獲得につながったプレーだ。以下に順を追ってプレーを振り返る。

1)始まりはV長崎のGKからのキックだった。相手GKが蹴る時点で前線にいたのは、プレッシャーをかけた小松、そしてボックスよりもやや狭い幅で佐々木と武藤、その15mほど後ろに右から井手口、鍬先、ジエゴという並びになっていた。
2)GKが蹴ったボールを回収したのは山川だった。センターサークル内で胸で落とし、センターサークルを出た辺りで、前の武藤につけた。この時、トゥーレルと永戸はまだ自陣の高い位置にいた。
3)武藤が前を向いた瞬間、相手の最終ラインと競るようにゴール方向に走り出していたのが小松だ。その背後で走り出していたのは佐々木と左のジエゴ。そして武藤の背後から追い越すように動いていたのが井手口だった。
4)武藤はペナルティエリアの10mほど手前で止まり、右に並んだ酒井にボールを預けた。
5)身体を内側に向けた酒井の前には相手が二人並んだ。そこで酒井は、背後から上がってきた山川にボールを戻した。
6)山川がボールを持って時間を作る中で、左サイドを永戸が上がり、外でフリーの位置を取った。山川は酒井と並ぶ位置まで動き、左後方のトゥーレルへパス。この時点で、ヴィッセルのフィールドプレーヤーは全員V長崎陣内に入っていた。
7)トゥーレルは左タッチライン沿いに立っていた永戸へパス。この時点で永戸を含め、7人がアタッキングサードに入っていた。
8)永戸から鍬先、井手口、山川と、各駅停車でつなぎながら右にボールを移した。そして最後にボールを受けた酒井は、右に張り出していた武藤へパス。
9)武藤は中に入りながら井手口へボールを預け、さらに中に入った。そしてペナルティエリアの手前でボールを受け直し、そこから鍬先、永戸とつなぎ、再度左にボールを戻した。
10)ここで永戸はクロスを入れた。これはV長崎の守備に弾かれたが、こぼれたボールを鍬先がジェズスとの球際勝負の末に制し、再び永戸へつなぎ直した。最後は永戸が深い位置まで上がり、グラウンダーで中に入れたボールを相手がゴールラインに蹴り出し、酒井の先制点につながるコーナーキックを獲得した。

 時間にして50秒程度のプレーだが、なぜこの流れを細かく記したかといえば、ここにこそ「新生ヴィッセル」のエッセンスが詰まっていると感じたためだ。
この一連の流れの中で最も大事なのは、全員がスペースと時間を味方に与える意識を持っていることだ。これがあるためボールホルダーは味方に動くための時間を与え、それ以外の選手は自らの動きで相手を引っ張り出し、ボールホルダーにパスコースや動くためのスペースを与えていた。

 次に注目すべきはこの中で、一度もクロスを選択していないことだ。この間、小松やジエゴが前線で、相手の最終ラインと駆け引きをしており、クロスに対応しようとしていた。クロスを入れることのできたタイミングは何度もあったが、選手たちはそれを選択せず、前に厚みを加え続けた。ボールをつなぎ続け、全員が前に動き続けた結果、最後に永戸がクロスを入れた時には、ヴィッセルの攻撃陣はV長崎ゴール前に4-3の形で圧力をかけることに成功していたのだ。これこそがヴィッセルに必要だった攻撃の厚みだ。スキッベ監督は試合後に、チームの成長を実感していることを窺わせるコメントを残したが、単に前に出るのではなく、ピッチの幅を使いながら選手同士が被ることなく動き続け、攻撃の厚みを作り出していった選手たちの動きを頼もしい思いで見ていたのではないだろうか。



<攻撃によって導かれた守備>
 厚みのある攻撃は、安定感のある守備を生み出した。ヴィッセルが厚みを持って押し込んでいく中で、V長崎の攻撃の軸であるジェズスや長谷川は低い位置でのプレーを余儀なくされた。そして「攻撃と守備は表裏一体」という言葉通りに、ヴィッセルのピッチを広く使った攻撃の前に、V長崎は自陣からボールを自由に出すことができなかった。カウンターを狙っていたV長崎だが、ジェズスや長谷川がヴィッセルの厚みの中に押し込まれてしまったことで、山崎を前に残す意味を失っていた。

 配置が最適化されていたことで、ヴィッセルは球際の勝負にも強さを発揮した。こぼれたボールに両チームの選手が競り合う場面は多く、その意味では、V長崎の出足は決して悪いものではなかった。しかしヴィッセルは選手間の距離が適正に保たれていたことで、2の矢、そして3の矢を繰り出せる状況を保っていた。V長崎の選手にとっては、1人抜いても、すぐに次の選手が襲い掛かってくる状況が続き、自由に前を向くことができないままだった。

<次なる課題>
 ほぼ完ぺきな形で試合を運んだ前半ではあったが、後半高木監督が4バックに布陣を変更した後は、前半ほどの厚みを出すことはできなかった。このV長崎の布陣変更は、高木監督自身が「2点を追う中では、あれが本当に正しかったのかというのは、正直分かりません」と語るように、守備を落ち着かせることが狙いだった。そのためヴィッセルの優位は変わらなかったが、攻め切れない時間が続いたことも事実だ。

 V長崎は4-2-3-1で幅を取りながら、自分たちでボールを動かし始めたのだが、加えて交代で入った選手たちの存在も厄介だった。特に右サイドバックに入った翁長聖、右サイドハーフに入ったノーマン キャンベルの両選手は厄介だった。彼らが投入されたタイミングで、左サイドを押し込んでいたジエゴが交代を余儀なくされたことも、ヴィッセルにとっては不運だった。

 センターバックからのボールを引き受ける役割を担っていたのがサイドバックだった。特に右サイドバックに入った翁長は、対面するジェアン パトリッキのプレッシャーに負けず、ボールを動かしていった。

 このジエゴ同様に、90分の酒井の交代も、試合に大きな影響を与えた。酒井からンドカ ボニフェイスに交代後、V長崎の攻撃を受ける場面が増えた。3日前のACLEで示したように、ボニフェイスも素晴らしいディフェンダーではあるが、サイドでの守備という点においては酒井に及ばないことも事実だ。本職が縦に守るセンターバックである以上仕方がないことなのだが、サイドから中央に身体を向けられた時の反応が若干遅れ気味であるように見えた。残り時間を考えれば、それほど神経質になる場面ではなかったとも思うが、その後この試合で唯一のピンチを迎えたことを思えば、こうした場面での対応は今後への課題だろう。酒井のような優れた選手がいる場合、人への依存度が高まってしまうことは不可避ではあるが、この先に控える戦いで勝利を重ねていくためには、その対応策を準備する必要があるのではないだろうか。

 当初予定していた形を遂行することは大事だが、変化する状況に適切に対処することも同様に大事だ。かつて話を聞いたプロ棋士は「強さには2種類ある」と話してくれた。1つは相手がどんな策を用いようとも、自分の型を崩すことなく戦い続ける強さ。そしてもう1つはどんな状況にも対応できる強さということだ。これに優劣をつけることは難しいとも口にしていたが、成績を残すのは後者だとも語ってくれた。近年の成績により、誰もが認める強さを手に入れたヴィッセルだが、これをさらに高め永続的なものとするためには、若い選手たちの奮起が欠かせない。



<次戦に向けて>
 ほぼ完ぺきな試合運びを見せ、開幕3連勝を飾ったヴィッセルだが、まだ連戦の最中だ。次戦は再び中3日でのACLE。その後の日程を考えれば、大幅なターンオーバーが行われる可能性もある。マレーシアへの移動は大変だが、既にリーグステージ突破は決定しているだけに、この試合に出場する選手には思い切り暴れてきてほしい。開幕からここまで順調な滑り出しを見せたヴィッセルではあるが、ACLE、そして百年構想リーグを制するためにも、全ての選手の力が必要であることは間違いない。ヴィッセルを愛した三木谷良一氏が遺してくれた「一致団結」という言葉を胸に、マレーシアでもヴィッセルの選手が躍動してくれることを信じている。

今日の一番星
[佐々木大樹選手]

2試合連続ゴールに加え、アシストも記録した酒井とも思ったが、今季初ゴールを記念し、もう1人の勝利の立役者である佐々木を選出した。この日の試合で佐々木が果たした役割は大きい。左インサイドハーフで先発した佐々木だが、この日の試合では左サイドの活性化にも一役買っていた。武藤が中に入ってきたタイミングで左のハーフレーンに流れ、ジエゴと永戸の縦関係を構築するつなぎ役となった。その際、佐々木は山口やジェズスから狙われやすい位置に立つことになるのだが、そこでも見事なプレーを見せた。ボールを収めながら時間を作り、永戸の前進を促したかと思えば、ジエゴからの逃げ先になるなど、見事なポジション取りを見せ続けた。広い範囲をカバーしていただけに、相手からのプレッシャーを受ける場面も多かったが、そこでは体幹の強さを発揮し、ボールを握り続けるしぶとさを見せた。今の佐々木はフィジカルの強さと技術が高いレベルで均衡を保っているため、前線での起点となることができている。得点シーンでの動き出しも見事だった。42分に左からのボールをペナルティエリア角近くで受け、背後の井手口にパスを送った。ここで佐々木は動き出さずに、井手口から右の酒井にボールが渡り、相手の目線が酒井の方向に向くのを待って動き出した。この時、酒井がボールを受ける前に一度両手を上げ、自分の位置をアピールした。酒井ならば見つけてくれるという信頼感の表れだったのだろう。その後は手を上げることなく、相手の外から静かに間に入り込み、クロスに対して斜めに頭で当て、ゴールに突き刺した。V長崎の選手にとっては、突然佐々木が飛び込んできたような感覚だったのではないだろうか。幻に終わったゴールの場面では、ペナルティエリア左から左足で奇麗にゴールに蹴りこみ、シュート技術の高さを見せた。「期待の若手」から、チームに欠くことのできない「主力選手」へと成長した佐々木だが、試合後にはお馴染みの「大樹コール」でゴール裏を盛り上げるなど、持ち前の明るさは健在だ。誰からも愛されるアカデミー育ちの「ミスターヴィッセルに最も近い男」に、さらなる成長への期待を込めて一番星。