覆面記者の目

ACL Elite MD3 vs.大田 大田(10/27 19:00)
  • HOME大田
  • AWAY神戸
  • 大田
  • 0
  • 0前半0
    0後半1
  • 1
  • 神戸
  • 得点者
  • (83')小松 蓮


「勝点3」の真価

 フル出場を果たし、アシストも記録した酒井高徳は試合後に、この日の勝利を「全員で取った勝点」と評した。続けて「疲弊している選手がいる中で、普段から準備をしている選手が良い結果を残した試合」と表現した。これらの言葉に、この試合の全てが凝縮されているように思う。決して楽な展開ではなかったが、リーグ戦での出場が少ない選手が中心となって、韓国での難しいアウェイゲームを制したという事実は、ヴィッセルというクラブに「戦力的な厚み」が生まれてきたことの証左だ。その意味でも「価値ある勝点3」と言えるだろう。
 わずか3日前、J1リーグで町田との激闘を終えたばかりのヴィッセルにとって、この日の試合は過酷な条件下での試合となった。中2日で海を渡ってのアウェイゲームという、凡そ常軌を逸したスケジュールもさることながら、その気温差もヴィッセルの疲労度を高めたはずだ。10月も終わりに近づく中、未だ20度を超える日が多い関西地方ではあるが、この日の大田は気温11度。選手たちの脳や感覚は日本での暑さを記憶しているだけに、動き難さや呼吸感覚の違いなどにも苦しめられたはずだ。加えて、この連戦に出場し続けている選手には、回復しきれない蓄積疲労が重く圧し掛かっていたことだろう。
 これだけの「悪条件」が重なった中で、ミヒャエル スキッベ監督は大幅なターンオーバーを選択した。町田戦から連続で先発出場したのはGKの権田修一、右サイドバックの酒井、左サイドバックの永戸勝也(町田戦では左ウイング)、左インサイドハーフの郷家友太の4人のみ。アジアの頂点を含む、複数のタイトルを見据えるうえで、総力戦は避けて通れない道とはいえ、歴代Jリーグクラブが苦しめられてきた「韓国でのアウェイゲーム」に急造ユニットで立ち向かうというのは、極めてリスクの高い賭けでもあったはずだ。
 試合の詳細については後述するが、厳しい試合だったことは事実だ。スキッベ監督も試合後に「大田はやはり強かったです」とコメントしていたが、強いフィジカルを活かしてシンプルに前を目指す戦いは、やはり脅威だった。最後の部分ではヴィッセルの守りが堅く、被シュート数こそ18本だったが、真に危険な場面は少なかったように思う。それでも大田は、昨季のKリーグ1で全北現代に次ぐ2位に入り、今季も全北現代、蔚山現代、江原といったAFCチャンピオンズリーグエリート(以下ACL Elite)の「常連」クラブと激しい2位争いを繰り広げている韓国を代表する強豪クラブだ。一瞬の隙が命取りになることは、間違いなかった。そんな相手に対し、泥臭く身体を張り、全員の走力とインテンシティで守り抜く姿には、ヴィッセルが持つ粘り強さと規律が凝縮されていたように思う。
 先発した選手だけではなく、ヴィッセルアカデミー所属の川端彪英、井内亮太朗を含めたベンチメンバー、それを支えたクラブスタッフ、そして韓国まで足を運んで声援を送り続けた300人を超えるヴィッセルサポーター。その全てが一体となり、自らのタフさを証明してみせた。この極限下で作り出した「1-0」というスコアは、文字通り「クラブの総力の結晶」だった。

サイドの幅

 大迫勇也という絶対的な基準点をベンチ外とした中で、スキッベ監督が描いた前半のシナリオは、きわめて明確だった。前線からのハイプレッシングによって大田のビルドアップを阻害し、敵陣へと押し込む。そして、奪ったボールを素早くピッチの「幅」を使いながら展開し、ダイナミックにサイドを攻略する戦い方だ。立ち上がりから、ヴィッセルはその狙いをピッチ上で力強く表現した。
 その中心にいたのが、本職である左サイドバックの位置に戻った永戸だった。今季は左ウイングとしてのプレーが多い永戸だが、この日は慣れ親しんだポジションで存在感を放った。前に出る守備でボールを奪おうと企図していた大田に対して、永戸は非凡な配球センスでその裏を取っていった。相手を引き付けたうえで、タッチライン際から縦に正確なボールを配球し、対面した右サイドハーフのチョン ジェヒのベクトルを折っていった。この永戸の狙いは、左ウイングに入っていたジェアン パトリッキだった。爆発的なスピードが武器のパトリッキを前に走らせることで、韓国代表でもある右サイドバックのキム ムンファンを低い位置に押し込もうとしたのだ。
 ここに良い形で絡んでいたのが、同サイドのインサイドハーフだった郷家だ。この試合でもファーストディフェンダーの役割を担っていた郷家ではあったが、ボール保持時には左サイドの攻撃に積極的に関与しようとする姿勢が目立った。その中から生まれたのが15分のチャンスだった。ハーフウェーライン上のハーフスペースで、中央の岩波からボールを受け取った永戸がダイレクトで、左タッチライン近くに開いていたパトリッキにつないだ。この場面でパトリッキは相手を背負う格好になっていたが、足の裏でボールを引き寄せる動きから前を向き、左に開いてきた郷家につないだ。ここで注目してほしいのが郷家の動きだ。郷家はパトリッキがボールを受けたときには左ハーフスペースにいたのだが、パトリッキが前を向く寸前にサイドへと動いた。この動きで郷家はマークについていた相手選手を連れて動き、左ハーフスペースから相手を消し去ったのだ。郷家はそのまま相手を振り切って縦に上がり、深い位置からグラウンダーのクロスを入れた。これに飛び込んできた小松漣のシュートは、相手GKに弾き出されてしまったが、形としては悪くなかったように思う。郷家がハーフスペースを空けたことで、そこにパトリッキも斜めのランニングで入り込んでいた。惜しむらくはゴール前にいた日髙光揮が前に詰め切れていなかったことだが、永戸、パトリッキ、そして郷家の3人がレーンのギャップを利用しながら、巧く相手の守備にズレを作り出した。
 左サイドが「鋭さ」を武器に攻め入ったとすれば、右サイドは酒井の「老獪さ」が武器となった。酒井は、前後に広い範囲をカバーするいつものスタイルを維持しながらも大田のプレッシングのズレや、味方のポジショニングを瞬時に見極め、まさにツボを心得た絶妙なタイミングでのオーバーラップを敢行した。闇雲に駆け上がるのではなく、中盤の状況に応じて最も相手が嫌がるスペースへ侵入し、インテリジェンス溢れる質の高いクロスを供給。この酒井の動きが、1人で相手を引き付ける効果を持っていたため、同サイドのインサイドハーフに入っていた渡辺皓太や右ウイングの日髙は、その内側でのフォローに専念することができた。このサイドにはアゼルバイジャン代表のアントン クリヴォチュクが蓋をしていたのだが、ここに対しては日髙が果敢に挑み続けた。相手を制圧するには至らなかったが、日髙の成長が感じられるプレーだったように思う。
 この攻撃的な姿勢を後方から支え、チーム全体の重心を前に押し出していたのが、アンカーの位置に入った鍬先祐弥だった。鍬先は単にディフェンスラインの前でフィルター役をこなすだけでなく、セカンドボールの回収局面において果敢に「前に出る姿勢」を崩さなかった。大田の中盤のキーマンであるキム ボンスやキム ジュンボムに対しても、一歩も引かずに前を向いてインターセプトを狙い、攻撃のファーストパスを供給しようとトライし続けた。この鍬先の迎撃スタンスがあったからこそ、両サイドバックは高い位置をキープでき、ヴィッセルは前半の中盤戦まで敵陣でのプレー時間を確保することに成功した。さらにボール保持の局面で鍬先は、自ら縦のルートを探し、そこにボールを配球することでチーム全体を前に向け続けようと企図していた。鍬先が見せたプレーの背景には、岩本悠庵の存在があるように思う。ポジション争いにおけるライバルでもある岩本が、アンカーとして前にチームを押し出す動きを見せていることは、鍬先にとってこの上ない刺激となっているのではないだろうか。こうしたチャレンジを続けた先には、定評のある守備力に加えて、新たに展開力を備えた「新しい鍬先祐弥」が生まれるに違いない。

シュート18本の虚像

 最終的なスタッツによれば、この試合でヴィッセルは大田に18本のシュートを許した。特に前半だけで11本ものシュートを浴びせられたというデータは、一見するとヴィッセルが防戦一方の展開で、大田の猛攻に晒され続けたような印象を抱かせるかもしれない。しかし、これこそが文字通りの「数字に因る虚像」だ。韓国のメディアでは「大田はよく攻め続けた」としながらも、権田を中心としたヴィッセルの守備が堅かったことに言及している。サッカーというスポーツの難しさと面白さは、こうした単純なデータでは測れない点にある。
 前記したように、ヴィッセルは前線からのハイプレスによって、大田を低い位置に押し込み、試合を支配しようとしていた。しかし、大田はそのプレスを真っ向から剥がしにくるのではなく、割り切ったように前線へシンプルかつ直線的に素早くロングボールを放り込んでくるサッカーを選択。これにより、ヴィッセルの中盤は次第に間伸びさせられ、セカンドボールの回収局面で後手に回るシーンが増えていった。ホームの歓声を背に受けた大田の勢いは凄まじく、ヴィッセルのファーストディフェンスをすり抜けては、次々とミドルサードからディフェンシブサードへとボールを持ち込み、シュートへつなげるシーンを連発した。これが、大田の膨大なシュート数を生み出した背景だ。
 だが大田の攻撃は、バイタルエリアに侵入したあとの「最後の局面における精度」が極めてアバウトだった。大田の攻撃陣は形を作りきれないまま、あるいはヴィッセルの厳しいチェックを受けながら、ペナルティエリア外からの強引なミドルシュートや、体勢を崩した状態でのフィニッシュが目立っていた。事実、大田が放った18本のシュートのうち、ゴール枠を正確に捉えたのはわずかに5本のみ。スタッツが示す圧倒的な攻撃回数の裏側で、大田はヴィッセルの粘り強い網にかかり、その多くを不発に終わらせていた。
 この大田の攻撃の「アバウトさ」を引き出し、決定的な形を作らせなかった原動力は、ヴィッセルが自陣ゴール前で見せた集中力と規律だったように思う。ゴール前に迫られる状況を迎えても、中央を固める岩波拓也と山川哲史のセンターバックコンビは寸分も動じることはなかった。大田のフォワードに入っていたジオゴ オリヴェイラや徳島でのプレー経験もある左サイドハーフのジョアン ヴィクトルが縦へのスピードに乗って襲いかかってきた場面でも、岩波と山川は適切な距離を保ちながら、チャレンジ&カバーを徹底していた。こうして背後のスペースをケアしながら、ペナルティエリア内でのクロスやラストパスに対しても常に身体を寄せ続け、シュートのインパクトの瞬間に、ミリ単位の狂いを生じさせ続けた。この「最後の部分で自由に打たせない」粘り強さがあったからこそ、大田のシュートは枠を外れ、あるいは威力を欠いたものとなっていた。
 この日の試合でセンターバックとして久しぶりの先発を果たした岩波だが、やはりその技術が一流であることを証明した。この試合で岩波は大田のプレスをいなすように、縦や斜めのパスを通していったのだが、その質は高く、次の展開につながるものだった。また球際での強さも見せ、タッチライン際やゴールライン際でピンチの芽を摘み取っていった。最終ラインでのボール保持時には、山川に指示を送りつつ、自らがボールを受けやすい位置にポジションを取り直すなど、その動きの質も高かったように思う。同じヴィッセルアカデミー出身の山川とのコンビでゴール前を守り抜いたそのプレーは、高く評価されるべきだろう。
 このディフェンスラインを後方から支え続けたのが権田だった。大田のアバウトな強襲をチーム全体でいなしていたとはいえ、90分間のタフなゲームの中では、いくつか決定的なシーンもあった。そこでは権田が見事なビッグセーブを見せ、チームのピンチを救った。
 最初のビッグプレーは24分だった。大田が鋭い速攻からペナルティエリア内左へと侵入し、ジオゴの落としからジョアンが強烈なシュートを放った場面だ。ジョアンの放ったシュートは、カバーに入った酒井と山川の間を通り、正確にゴール左下をとらえていたが、権田は驚異的な反応でこれを阻止した。さらに前半終了間際の45分、ヴィッセルが前線でボールを失ったところからカウンターを浴び、チョン ジェヒに縦へと持ち出され、強烈なシュートを浴びたシーンでも、権田は冷静極まりない対応でこれを防いだ。この場面で権田はチョン ジェヒと並走した岩波が消しているコースを見極めたうえで、チョン ジェヒがシュートを放つまで動こうとはしなかった。そしてシュートを腕に当て、その場に落とし、キャッチするという見事なプレーを見せた。
 この前半に訪れた2度の決定機を、権田が「ゼロ」で抑え込んだことの意味は大きい。大田にとっては、どれだけ縦に速いサッカーで押し込み、シュートを何本打とうとも、ヴィッセルの最後の牙城を破ることができないという精神的な焦燥感を生み出していたと思われるからだ。そしてそれが、大田の攻撃から「丁寧さ」を取り払う要因となったのではないだろうか。
 後半に入っても大田の攻勢は続き、56分にキム ジュンボム、60分にはチョン ジェヒが強烈なシュートでヴィッセルゴールを強襲したが、ヴィッセルの守備がほころびを見せることはなかった。大田が放った18本のシュートは、ヴィッセルの組織的な守備網によって、そのほとんどが「打たされたシュート」へと変換された。ヴィッセルの自陣での耐久力こそが、スタッツ上の劣勢を完璧に無力化し、この日の戦術的基盤となっていた。

ミドルサードで生まれた「宿題」

 この日の試合で主導権を握り切れなかった原因は、ミドルサードにおけるプレーにあったように思う。
 最大のポイントは、前線からのハイプレスを剥がされたあとの動きだった。ヴィッセルが組織的に網を張る前に、大田は極めてシンプルかつ直線的なロングボールを縦に蹴り込んできた。この割り切ったアプローチに対して、ヴィッセルの各ラインの連動が遅れ、中盤の背後に広大なスペースを生み出してしまうという展開が続いた。ネガティブトランジションの速さによって、これが致命傷となることはなかったものの、ここで後手を踏み続けたことが、セカンドボールの回収率を下げた。これが大田に主導権を握られ、シュートを打たれ続ける要因となったことは間違いないだろう。縦に速く、直線的なフットボールで押し返してくる相手に対して、いかにして試合のテンポを落とし、地上戦での「レイヤードポゼッション」へと移行するか。そのクッションとしての役割をミドルサードで確立できなかったことが、この日の試合で突き付けられた「宿題」となったように思う。
 押し込まれる展開を逆転させるために効果的なのが、「ミドルサードで時間を作る」戦い方だ。これについては、大迫がピッチにいる場合には、そこが起点となる。大迫が相手のプレッシャーを受けながらもボールを収め、味方に「時間とスペース」を渡すことができるためだ。これが、地上戦における段階的な前進を可能にする。
 しかし、この日最前線に入った小松にとって、大田の屈強なセンターバック陣に囲まれた状況はあまりにも過酷だった。小松は90分間を通してプレスの強度を一切落とさず、驚異的なスタミナでピッチを駆け回り、ストライカーとしての戦術的規律を全うしようと死力を尽くしていた。その献身性は誰もが認めるほどであったが、自陣からの配球に対してミドルサードでくさびのボールを引き出し、味方にクリーンに落としきるポストワークのフェーズにおいては、大迫との経験値や技術的な差が露見してしまった。加えて2人目までは顔を出せるものの、そこからギアをもう一段階上げて相手の壁の裏へと突き抜ける3人目の連動性を欠いたことも、ミドルサードでの基準点の確立に苦しんだ原因だった。
 この問題(大迫不在時に押し込まれる展開)に対する解決策は3つ考えられる。
 1つ目は、ロングボール周辺における「セカンドボール予測の徹底と距離感の補正」だ。前線の選手が「完璧に収めること」を前提とするのではなく、「相手ディフェンダーに競り勝てなくても、そのこぼれ球を必ずヴィッセルが回収する組織」を構築する。具体的には自陣からロングボールが蹴り出される瞬間に、両ウイングとインサイドハーフが目標となる選手の周囲10〜15メートルのエリアに絞り、距離感を徹底的に詰めたうえで、前向きの状態でセカンドボールを迎撃する構造だ。これであれば、前線の選手は「競ること」だけに集中できる。これを実現するためには、自陣で押し込まれた中でもボールを握り、「時間とスペース」を味方に渡す最終ラインの選手が不可欠だ。
 2つ目は空中戦でのギャンブルを排除する「地上戦」への切り替えと、アンカーをハブとした段階的前進だ。長いボールが収まらないのであれば、グラウンダーのパスを主体とした「レイヤードポゼッション」へと舵を切ることも選択肢となる。センターバックから、アンカーへ斜めの縦パスを細かく差し込みながら相手を引き付け、インサイドハーフがそこに顔を出す。この地上戦でのビルドアップの動線を整理することで、陣形をコンパクトに保ったまま敵陣へ進出するルートが確立されるはずだ。
 3つ目は、中央を強固に閉じてくる相手に対して有効な「レーンローテーション(偽ウイング)によるサイドからのミドルサード攻略」だ。中央のレーンで物理的にボールが収まらないのであれば、ミドルサードの攻略ルートをサイドの可変に求めるという考え方だ。サイドバックが、機を見て内側のハーフスペースへとポジションを取り、ゲームメイクに絡む。それによって空いた大外のレーンへ、インサイドハーフが流れる。このような「レーンの入れ替え」を流動的に行うことで、相手のマークの基準を狂わせ、中央のアバウトな放り込みに頼ることなく、サイドの数的優位を使ってミドルサードに確実なパスの逃げ道を確保することができる。
 いかにして「個人に依存しないシステムを整えるか」という課題の解決ほど、難しいことはない。しかし超過密日程の中で複数のタイトル獲得を狙う以上、これは避けて通ることのできない課題でもある。

流れを変えたベンチの眼力

 膠着状態にあった試合を動かしたのは、70分の選手交代だった。ここでピッチへと送り込まれた井手口陽介とジエゴが見せたパフォーマンスは、特筆に値するものだった。
 鍬先に代わってアンカーに入った井手口は、投入直後から異次元の存在感を放った。大田の選手たちが疲労からルーズになり始めたピッチの中央において、井手口は持ち前の圧倒的な危機察知能力を遺憾なく発揮した。広大なカバーエリアを1人で埋め尽くすようにピッチを縦横無尽に駆け回り、大田のカウンターの芽を次々と摘み取っていった。加えて目を引いたのが、ボールを奪い取ったあとの「前への配球」の質の高さだ。安全な横パスで逃げるのではなく、「奪ってすぐ縦に刺す」ことで、チーム全体のベクトルを前に向けた。
 井手口と同時に左サイドバックに投入されたジエゴの推進力もまた、チームを活性化した。疲れの見え始めた大田の右サイドに対して、強引にでも前へと持ち出す圧倒的なパワーと馬力を発揮。タッチライン沿いを何度もダイナミックに駆け上がり、大田のディフェンスラインを物理的に深く押し下げることに成功した。このジエゴの果敢な前への姿勢によって、大田は攻撃に人数を割く余力を奪われ、ゲームの主導権は完全にヴィッセルが握った。
 大田の動きが落ちてきたことを正確に見抜き、効果的な選手交代で試合の流れを取り戻したスキッベ監督の眼力は見事だった。
 また、この日の試合では、ヴィッセルの「未来」を象徴する極めて重要なピースがアジアのピッチへと送り込まれた。アカデミー所属の川端の起用だ。
 苦しい時間帯に登場した川端は、物怖じすることなく、その非凡な才能の片鱗を覗かせた。相手と対峙した局面で見せた身のこなしや、狭いエリアでもボールを失わないクオリティには、確かな「巧さ」が宿っていた。しかし、だからこそ次のフェーズへの期待を込めて、あえて課題を提示する。この日の試合で川端がペナルティエリア角付近でボールを握った局面が2度あった。そのいずれでも川端はクロスを選択したが、自らの力で勝負を仕掛けてもいい場面だったように思えた。ああいった局面でエゴイスティックにゴールを陥れにいく貪欲さ、すなわち「個での打開」を選択できるようになることこそが、川端を次のステージへと引き上げるだろう。
 それでも、若き大器がACL Eliteという大舞台で貴重なプレータイムを得たという事実そのものの価値は揺るがない。今、ヴィッセルはU-21リーグにおいて、アカデミーの選手を含む若い選手たちに実戦経験を積ませている。川端もそこで出場機会を得ている。自身が試合後に語ったように、「トップで学んだことをU-21でやって、U-21でできたことをトップでまたチャレンジ 」という、極めて合理的、かつ理想的な育成のローテーションが確立されつつある。川端がこの大舞台で堂々とプレーしたことこそが、クラブが近年推し進めてきたU-21やアカデミーへのアプローチが実を結び、戦力の底上げという果実をもたらしている証左に他ならない。

次戦に向けて

 完全アウェイの地で掴み取ったこの価値ある勝利は、過酷なロードを戦い抜くヴィッセルの「総力」の証明に他ならない。しかし、立ち止まっている時間は与えられていない。中3日のインターバルを経て、チームはすぐさま国内リーグの戦いへと引き戻される。次なる決戦の舞台は、J1リーグ・名古屋戦だ。この日、全員のハードワークで勝点3を奪い取った強い気持ちを、そのまま名古屋戦へと持ち込まなければならない。
 綺麗に勝つ必要はない。大田戦で見せたように、泥臭くゴール前では鍵をかけ、ワンチャンスを仕留めきるリアリズムこそが、連覇を目指す国内リーグでも最大の武器となる。アジアで証明した不屈のプライドを胸に、ヴィッセルの勢いを加速させてほしい。

今日の一番星
[小松蓮選手]

町田戦に続いてのフル出場で最終ラインをまとめ、決勝点をアシストした酒井も候補だったが、苦しい展開の中で決勝点を決めた小松を選出した。小松にとって、この日の試合は厳しい展開だった。自陣からのビルドアップが大田のプレスに嵌められ、ミドルサードで受けるアバウトなハイボールを味方に落としきれないノッキングに苦しんだためだ。15分の郷家からのクロスに点で合わせたシュートも、相手GKのビッグセーブに阻まれた。大迫と比較されるという重圧のなかで、空中戦のギャンブルに晒され、孤立を強いられる時間帯は、ストライカーとして焦燥感に駆られてもおかしくない過酷なものだったはずだ。しかし、小松の真価は、ボールが収まらない逆境でこそ激しく輝いた。どれだけポストワークで苦戦しようとも、インサイドハーフの郷家とともに、前線からのプレッシングの強度を落とすことなく、ピッチを縦横無尽に走り続けた。戦術的なノッキングを、身体の強さとインテンシティで相殺し続けるハードワーク。その愚直なまでの規律と執念が、試合終盤の83分のドラマを生み出した。右サイドでボールを持った酒井高徳が、左足で極上のクロスをゴール前へと送り込んだ。その瞬間、小松は最後のエネルギーを爆発させて、大田のディフェンスラインを左から右へと鋭く切り裂きながらゴール前へ突入し、その勢いのままに頭で流し込むようにしてゴール左のネットを揺らした。ゴール直後には足を攣り、セレブレーションを行うこともできない状態ではあったが、小松はその執念で試合を決め切った。この貴重な1点はチームのために泥臭く走り抜いたストライカーへの、「サッカーの神様からのご褒美」だったように思う。韓国の地でも輝きを放った「執念のストライカー」に敬意を表しての一番星。