
過密日程で問われる力
「現代のフットボールにおける最大の敵はカレンダーだ」という言葉を聞いたことがある。クラブ(特に強豪であればあるほど)にとって最大の難事は、対戦相手ではなく、容赦なく訪れる対戦スケジュールだ。ヨーロッパの強豪クラブに目を向ければ、国内リーグとカップ戦、そして長距離移動を伴うUEFAチャンピオンズリーグという「三重苦」の中での戦いが続く。そうした厳しい環境下で、いかにしてチームのクオリティを担保するのか。これこそが、クラブや監督に課された過酷な命題だ。
今シーズンのヴィッセルが置かれている状況は、ヨーロッパのメガクラブの縮図とも言える。ミッドウィークにはアジア最高峰の舞台であるAFCチャンピオンズリーグ・エリート(以下ACL Elite)で、韓国の強豪・全北現代を2-0という見事な内容で退けたのも束の間、ヴィッセルは息つく暇もなく国内リーグのアウェイ連戦に身を投じている。こうした日程はACL Eliteに出場しているクラブ全てに圧し掛かってくる。しかし今回のACL Eliteに出場しているJリーグクラブの中で、ヴィッセルだけが唯一、連続出場を達成している。つまり、今のヴィッセルは「日本一過密日程で戦い続けているクラブ」でもあるのだ。
そしてヴィッセルはこの日の試合を皮切りに「中2日での4連戦」という、凡そ常軌を逸したスケジュールで戦わなければならない。しかも4試合目は、韓国でのアウェイゲームだ。文字通り「チームの総合力」が問われている。そうした視座に立って考えてみると、この日行われた岡山との一戦は、単なる勝ち点3を争うゲームの枠を遥かに超えていたように思える。
この試合の本質は、ヴィッセルが名実ともに「王者」たるチームの厚みを備えているのか。そして指揮官であるミヒャエル スキッベ監督は超過密日程の中で、論理的にチームをマネジメントできるかという点にあったように思う。
2つの顔を持つ試合
この日の試合を振り返るうえでは、前半と後半が全く異なる流れであったことを押さえておく必要がある。試合を読み解く補助線は、両チームの「やりたいこと」だった。これを理解するために、まずは両チームのプランを整理してみる。
この日、岡山が見せた戦いを一言でいうならば「前に出て勝負する」ということになるだろう。岡山を率いる木山隆之監督はヴィッセルの強度を理解したうえで、それを受けるような戦いは選択しなかった。3-4-2-1という並びを考えれば、5-4のブロックを自陣で形成し、ヴィッセルの攻撃を跳ね返し続けるという選択肢もあったようには思うが、それでは守り切ることができないという判断だったのかもしれない。あるいは、ホームゲームで勝ち点1狙いの守備的な方策を選択することは避けたかったのかも知れない。岡山の特徴である前線からのプレスを活かしつつ、より前に出ることでヴィッセルの圧力を遠ざけるという戦いを、木山監督は選んだ。
これに対してヴィッセルは「いつも通り」の戦い方を選択した。カギとなったのはサイドの攻防だった。岡山のサイドがウイングバック1枚なのに対して、ヴィッセルはサイドバックとウイングの2枚を備えていた。この数的優位を活かし、岡山のウイングバックを低い位置に押し留め、最終ラインも高い位置に上げる。これによって前に向けて厚みのある攻撃を作り出すというのがスキッベ監督のプランだったように思う。
次に試合の流れを見てみると、前半は両チームともが、積極的に「やりたいこと」をやろうとしていたように思う。しかしどこか噛み合わないまま、時間だけが過ぎていった。その結果、ボールは激しく行き来していたが、どちらも試合をコントロールしきれないまま、スコアレスで前半を終えた。そして後半、試合の流れは得点をきっかけに動いた。49分に大迫勇也が技ありのシュートでネットを揺らすと、その後はほぼ一方的なヴィッセルペースとなった。そして56分、64分と立て続けに追加点を奪い、勝敗は決した。

勝因
試合後、スキッベ監督は「スコアほどの差があったとは思わない」とコメントしたが、その通りだと思う。噛み合っていなかった印象の前半ではあったが、その中で岡山がヴィッセル陣内へ攻め込む場面が何度もあったことは事実だ。ここでヴィッセルの視座から試合を振り返ってみると、勝因は3つあったように思う。
1つは先制点までの間、粘り強く耐え抜いた守備陣の奮闘だ。特に後半開始直後に迎えたピンチの場面では、GKの権田修一とセンターバックの山川哲史が見事な連携を見せた。試合後に岡山のウイングバックとしてチャンスメイクした白井康介は「決めるか決められないかの戦いだった」と試合を総括したうえで、このチャンスを決めていれば、その後の失点もなく、優位に試合を進めることができたのではないかという感想を口にした。岡山の選手がそう言いたくなってしまうのも理解できるほどのシーンではあったが、これに対処した山川の感想は異なっている。山川は権田との連携によって「全てを巧く消せたかなと思います」とコメントしている。この言葉からも判るように、ヴィッセルの守備は終始安定を保っていた。
2つ目の勝因だが、これはゲーム体力の差だったように思う。前記したように、岡山は前に出る守備をもってヴィッセルに対峙した。それに勢いがあったことは事実だが、後半になると岡山の動きが低下したように見えた。ひょっとすると失点で気落ちしたのかもしれないが、筆者にはゲーム体力が不足していたように思えた。前半の岡山は、ヴィッセルの前に出る動きを止めるために前線からボランチまで7人の選手が、プレスをかけ続けていた。それは「球際の勝負では負けない」という強い意志が込められていたようでもあり、激しさを伴っていた。その結果、ファウルを取られる場面も多かった。通常はファウルが続くと強度を落とすものだが、この日の岡山はそうではなかった。あくまでもヴィッセルを縦に潰すという意志をプレーに込めていた。ひょっとすると、この意志が強すぎたため、岡山はオーバーペースになっていたのかもしれない。この岡山に対して、ヴィッセルは終始、安定したペースでプレーを続けていた。これこそが「経験の差」なのかもしれない。この日のヴィッセルのプレーを見る限り、特別にペースを上げているように見えた場面はなかった。
そして3つ目の勝因だが、これは選手交代に因るものだ。詳しくは後述するが、後半頭からの岩本悠庵投入、それに伴うポジションチェンジは、確実に効果をあげていた。これに対して岡山の交代策は、チームの勢いを削いだように見えた。ワントップのルカオがベンチに退いたことで、ヴィッセルの守りはやりやすさを取り戻したからだ。これが後半の展開に大きく影響を与えたことは間違いない。木山監督は試合後に「結果的に見ると、ルカオを下げたことが采配ミスだったと言われても仕方がないと思います」とコメントしたが、その交代理由は2枚目のカードによる退場のリスクを避ける等、頷けるものだった。さらに言えばルカオに代わって投入されたレオ ガウショが後半最初のチャンスを決めていれば、「木山采配ズバリ」という評価になっていたことは間違いない。
岡山のプラン
ここで岡山のプランを細かく見直してみる。キーマンはルカオだった。ルカオ特有の「重戦車のようなパワー」を「縦の軸」としたうえで、2枚のシャドーがセカンドボールの回収を図り、2次攻撃につなぐ戦いでヴィッセルを押し込もうと企図していた。こうした相手に対してはセンターバックが1枚で寄せ切りたいところではあったが、ルカオのパワーが規格外のため、さしものマテウス トゥーレル、山川とも、距離を取りながらの対応を強いられており、1枚で取りきるまでには至らなかった。岡山はこのルカオを目標としたロングボールを加えながら、カウンターによる前進でゴールを奪おうとしていた。
この「縦の軸」を活かした攻撃に厚みを加える役割を担っていたのは、シャドーを務めた江坂任とナ サンホだった。ボールを握る力のあるこの両選手が、ルカオが作り出す混沌を使ってセカンドボールを回収、そしてウイングバックやボランチを呼び込みながら、厚みのある攻撃を作ろうとしていた。
ここで厄介だったのは、この2シャドーの狙った場所だった。木山監督は彼らの特徴を踏まえたうえで、彼らをヴィッセルのアンカーの脇、あるいはアンカーと最終ラインの間に立たせていた。ボール非保持時のヴィッセルは、インサイドハーフの井手口陽介がボランチの位置まで落ち、アンカーの鍬先祐弥とダブルボランチの関係を形成していたため、それだけであれば2対2になる。しかしここで木山監督はウイングバックの1枚をこの近くに入れるように設計することで、3対2の局面を作り出していた。
ヴィッセルの誤算
全北現代戦から1枚のみを変更したスキッベ監督だが、狙いは明確だった。左サイドではウイングの永戸勝也とサイドバックのジエゴが幅を使いながら、岡山のウイングバックを圧し潰す。そして中央ではインサイドハーフのエリキと前線の大迫が、事実上2トップのような形となり、中央での突破力を最大化させたいと企図していた。試合開始直後からややオープンな展開が続く中で、ヴィッセルが岡山陣内に攻い入る回数は多かったものの、決定的な形を作るには至らなかった。そこにはヴィッセルに発生した2つの誤算が影響を及ぼしていた。
1つはルカオの強さが想定以上だったことだ。ルカオは決してボールスキルが高い選手ではないのだが、191cm・96kgの体躯から生み出されるパワーは規格外だった。そのルカオがヴィッセルのセンターバックに身体を預けるようにプレーしていたため、ヴィッセルのセンターバックコンビはルカオに引っ張られる時間が続いた。そこへ岡山が何度もカウンター気味にボールを入れてきたことで、最終ラインを高く上げることができなかった。さらにヴィッセルのボランチコンビが、前記したような形で相殺されていたため、ここで時間を作ることも難しかった。そのため前線の大迫を目標としたロングボールで局面を打開しようとしていたのだが、これも岡山の中央を固めた5バックに阻まれ、時間を作るには至らなかった。そのためボールが両陣地を激しく往復する展開となり、ヴィッセルの陣形は間延びしていった。
もう1つの誤算は、大迫を目標としたロングボールでの攻撃に連続性が生まれなかったことだ。この理由は選手の配置にあったように思う。具体的にはインサイドハーフに入ったエリキの動き方だ。ボールに絡む回数は多かったのだが、エリキは本質的に、広大なスペースへ爆発的なスピードで飛び出すことで輝くアタッカーだ。しかし、岡山が中央を固めてスペースを徹底的に消してきたため、大迫がポストプレーのために下りてきた位置と、エリキが前を向こうとする位置が重なってしまった。ライン間で狭いスペースを共有する「静的な崩し」、あるいはボールを預かってタクトを振る「リンクマン」の不在により、ヴィッセルの中盤は停滞し、中央の渋滞を引き起こしていた。この「スペースの枯渇」によって、ヴィッセルの攻撃は単発に終わる回数が多く、前記した「ルカオが作り出す混沌」と関係しながら、ヴィッセルのサッカーを変質させていた。

岡山の誤算
ヴィッセル対策としては理に適っていたように思える木山監督の策ではあったが、前に出ることを意識しすぎたために起きた「ファウルの多発」が仇となったように思う。中でも開始早々の2分にルカオがイエローカードを受けたことは、木山監督にとって最大の誤算だったのではないだろうか。ヴィッセルの攻撃を受けるのではなく、パワーで押し込んでいくという選択をした場合、最も重要なのはテクニックだ。「球際に強く縦に勝負する」というプレーは、多くの監督が望むプレーでもある。しかしここでファウルを受けることなくボールを取り切るためには、ボールを奪うためのテクニックが必要になる。
ここでボールを奪うためのテクニックについて考えてみる。これには3つの方法がある。1つ目はボディコンタクトだ。ここでは身体を相手の前にねじ込むことが求められる。相手がタッチした瞬間や、ボールが身体から離れた隙を狙って一歩を深く踏み込み、相手の進行ルートを肩や背中でブロックする。2つ目はスライディングだ。これはかわされた場合、ピンチになる危険と隣り合わせだ。さらにはファウルを取られやすいというリスクもある。そのためタイミングが重要なのだが、それと同等に滑った後で自分の足の間にボールを収める、または味方の方向に転がすという意識を持っていなければならない。3つ目はインサイドタックルだ。相手と五分の状況で軸足を踏み込み、足の内側の広い部分を使ってボールに自分の体重を乗せるように蹴らなければならないのだが、同時に負傷リスクを下げるためには足首を固定しなければならない。
ここまでが技術的な要素だが、これだけではボールを奪い切ることは難しい。こうした技術を発揮するために大事なのが、戦術的なアプローチだ。まずはボールホルダーをしっかりと観察し、パスコースを予測して蹴った瞬間に前に飛びだす。また相手がトラップした瞬間を狙って距離を詰める。そして相手が動いているときは、半身の体勢で構え、相手のスピードを落とす。その上でタッチが大きくなった瞬間や、自分の意図通りに相手を誘導できたところで一気に仕掛けるといった原則を守らなければ、クリーンにボールを奪うことは難しい。
このようにボールを奪うためには、テクニックと正確な状況判断が必要なのだ。そしてチームとしてこれを身につけるためには、相当に練度を高めなければならない。因みに今季のヴィッセルがボールを奪う回数が多いにもかかわらず、反則ポイントがJ1リーグ最少となっているのは、こうしたテクニックをチームとして備えているためだ。
話を試合に戻す。試合後に木山監督は、ルカオ交代の理由として、早い時間でイエローカードを受けていたこと、試合の強度が高いため2枚目の警告を受ける可能性が低くないと判断した結果であることを明かした。この木山監督の判断は正しかったように思うが、ルカオの交代によって縦への軸が失われたことは事実だ。
守護神
前記したように前半をスコアレスで耐え凌ぎ、ゲームを決して壊させなかったことが、この試合を勝利に導いた。そこでの中心的な役割を果たしたのが、GKの権田だった。サッカーの格言に「優れたチームは優れたGKから始まる」という言葉があるが、この日の権田のパフォーマンスは、まさに2度のワールドカップを戦い抜いた守護神の「格」の違いを雄弁に物語るものだった。前半には岡山の鋭いショートカウンターや、左ウイングバックの山根永遠の無回転ミドルシュートなど、危険な場面が何度かあった。しかしここで権田が見せた対応は見事だった。
まず特筆すべきは、アングルを縮小する技術だ。相手選手と1対1になっても権田が慌てることはない。相手がファーストタッチでボールを大きく動かした一瞬の隙を見逃さず、細かく素早いステップで間合いを詰める。そして、相手がシュートモーションに入るまさにその瞬間、ステップを止め、自らの身体を大きく広げて面を最大化させる。この「ギリギリまで動かない、しかし一瞬で間合いを詰める」という静と動のコントロールによって、相手選手の視界から、ゴールの枠を消し去っている。
権田はハイボールの処理においても、卓越したテクニックを見せた。木山監督が仕掛けたルカオへのロングボール、そして両ウイングバックからの鋭いクロスという「ハイボール攻勢」に対し、権田は正確な予測によって、ディフェンスラインの頭上を支配し続けた。ボールがキッカーの足もとを離れる瞬間、その弾道と風の計算を終わらせ、最高地点でキャッチ、あるいは安全なエリアへと確実にパンチングでクリアし続けたのだ。この安定感こそが、守備陣に心理的余裕をもたらした。
スキッベ監督が志向する「相手陣内でのプレーの連続」は、守備ラインの背後に広大なスペースを生み出すという構造的問題を抱えている。しかし権田はペナルティエリアの外まで細かくポジショニングを上げ下げする「スイーパー・キーパー」としての役割を担うことができる。岡山のカウンターの起点となるロングパスに対し、ボックスを飛び出して足もとで処理、あるいは大きくクリアすることで、ピンチの芽を摘み取っていた。スキッベ監督の戦術を完遂するうえで、権田は大きな役割を担っている。

構造改革
試合の流れを一変させたのが岩本であったことは間違いない。スキッベ監督は後半開始から永戸に代えて岩本を投入した。そして岩本をインサイドハーフに入れ、これに伴ってエリキを左ウイングに移した。これは、単なる選手の疲労や調子を考慮しての交代ではない。前半にピッチ上で発生していた中央の渋滞、スペースの枯渇、カウンターの被弾といった戦術的ノイズをクリアするための、極めてロジカルな「構造改革」だった。
そしてこの交代によって、ピッチ上の景色は一変した。ヴィッセルは前線でボールが淀みなく、驚くほどのスムーズさで回り始めた。この現象を引き起こした最大の要因は、岩本がリンクマンとして、中央に配置されたことだ。前半、このポジションに立っていたエリキが「スペースへ飛び出して受けるストライカー」なのに対して、岩本は「狭いエリアでもボールを引き出し、前を向いて周囲を活かす出し手」だ。岩本は岡山の3バックとダブルボランチの間の空間に、絶妙なタイミングで顔を出していった。岡山のボランチが捕まえきれない位置で岩本が正確にファーストタッチを収めることで、後方からの縦パスの供給ルートも開通した。また岩本がトップ下のように動いたことで、井手口と鍬先はダブルボランチとして、岡山の狙いである中盤のスペースを消すことに専念できるようになった。
こうした岩本の動きによって動きやすくなったのが、最前線の大迫だった。前半の大迫は、中盤のつなぎの苦しさを解消するため、本来よりも低い位置まで下がってポストプレーを行わざるを得ず、ゴール前でのパワーをロスしていた。しかし岩本の登場によって、大迫は無理に下がることなく、岡山の3バックの中央における「最前線の基準点」としての仕事に専念できるようになった。これにより、前線まで強固な縦軸が通り、周囲の選手が大迫をターゲットとして使いながらパスを回すという「循環」が完成した。
また、エリキもウイングにまわったことで「アイソレーション」が成立した。スキッベ監督は、エリキを左サイドのタッチライン際に張らせることで、岡山の右ウイングバックである「白井との1対1」を意図的に作り出した。これによって岡山の攻撃をサイドから牽引していた白井は、前に出ることができなくなった。そしてエリキが縦への突破をチラつかせ、あるいは内側への鋭いカットインを仕掛けることで、岡山の守備陣を引っ張り出し、横へのスライドを強制した。狙いは岡山の3バック、あるいは5バックに亀裂を生じさせることだった。
ここでもう1人注目してほしいのが、ジエゴだ。エリキが内側へカットインした瞬間に、大外のレーンを爆発的なスピードでオーバーラップ、あるいは岩本とのパス交換によって岡山のプレスをインナーラップで剥がすなど、岡山の右サイドを蹂躙した。中央にボールを失わない岩本が配されたことで、リスクは激減し、チーム全体の重心が前に移った。これによって岡山を自陣のボックス内に完全に押し込み続ける「ハーフコートゲーム」が幕を開けた。
破壊力
大迫の2得点よって、スタジアム全体の空気が勝利を確信し始めた時間帯、ダメ押しとなる3点目を叩き込んだのが、守備の要であるトゥーレルだった。このゴールは、ヴィッセルの「勝負強さ」と「戦術的成熟度」を補完する一撃でもあった。
サッカーにおいては「2点差は最も危険なスコア」という警句がある。この言葉は、追いかける側がリスクを冒して前に出てきた中で1点を返されてしまうと、一気にゲームの流れがひっくり返る可能性があるということを示している。実際にトゥーレルの得点が生まれる少し前から、岡山はフレッシュな選手の投入を準備していた。トゥーレルのゴールは、そんな岡山の心をへし折った。
ディフェンダーでありながら、ここ一番の局面では前線に上がってパワーを発揮できるトゥーレルの存在は、王者の風格を体現するものだった。
次戦に向けて
素晴らしい勝利ではあったが、ヴィッセルには余韻に浸っている時間はない。中2日という常識外の日程で迎える次節はアウェイでの川崎F戦だ。高いポゼッションクオリティを誇る川崎Fを相手に、アウェイの地でいかにして勝ち点3を積み上げるか。超過密日程を勝ち抜くために、ヴィッセルには「現実的な対応」が求められる。具体的にはベンチワークによるタイムシェアやミドルブロックを巧く活用することで、体力を残しながら戦う工夫だ。中2日での4連戦には、美しいフットボールなど必要ない。この日の試合でも安定感を放った堅守をベースに、泥臭く勝ち点3を奪い取る。そのための冷徹なゲームマネジメントこそが、過密日程という死線を越え、戴冠へと突き進むための唯一にして最大のロードマップだ。


