覆面記者の目

ACL Elite MD2 vs.全北 御崎公園(10/14 19:00)
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  • 2
  • 1前半0
    1後半0
  • 0
  • 全北
  • 大迫 勇也(12')
    鍬先 祐弥(67')
  • 得点者


リバウンドメンタリティ

 最近は様々な場所で使われるようになった「リバウンドメンタリティ」という言葉だが、ルーツはアメリカの心理学者ロイ・U・デーヴィス博士が提唱した「リバウンド効果(理論)」にある。これは挫折を反動にして大きな成果を上げるためのメカニズムを意味している。これをベースに生まれた「リバウンドメンタリティ」という言葉については、Jリーグの新人研修などでも利用されているそうだが、そこでは単なる精神論や、元の地点に戻るだけの「回復力(レジリエンス)」とは異なり、「逆境という負荷を利用して、より強い自分へ成長する」という建設的な内省と改善行動にフォーカスする言葉だと説明されているという。

 奇しくもこの日の試合後、GKの権田修一はインタビューの中で開口一番、「柏戦の敗戦を受けて、もう一つヴィッセル神戸が強くなった姿をお見せできたのではないかと思います」とコメントした。これに呼応するように、ミヒャエル スキッベ監督は「今日の試合では自分たちの強さをもう一度出すことに重点を置きました」と語ったうえで、「今日のパフォーマンスについては非常に満足できる内容でした」と高い評価を与えた。自分たちのミスで喫した敗北を「単なる1敗」にしないことこそが、強豪と呼ばれるチームには求められる。その意味では、選手たちにとってこの日の試合は「自らのプライドをかけた試合」だったとも言えるだろう。

柏戦からの変化

 J1リーグを制するうえでライバルとなるであろう柏相手に喫した敗北が、ヴィッセルにとって非常に痛いものだったことは事実だ。しかしこの日の試合で選手たちが見せたパフォーマンスを見る限り、それは無事、「アジア制覇のための、最高のエッセンス」へと昇華されたようだ。「同じ過ちは二度と繰り返さない」という強いプライドと、スキッベ監督のリアリズムが、中4日という短い時間でチームのインテンシティを回復させ、頭脳的なクオリティをより高めたと言えるだろう。そしてこの変化には4つのポイントがあったように思う。

 1つ目のポイントは「リスク回避」だ。柏戦における失点の最大の要因は、自陣や中盤でのパスミスや引っかけからショートカウンターを浴びたことだった。これを受けて、この日のヴィッセルは自陣の低い位置でのビルドアップを極力排除し、シンプルに縦に動かしていった。そして全北現代の選手が出てこないときには、ボールホルダーが前に出ることでチーム全体を前に向け、時には敵陣奥にクリア気味のロングボールを蹴り出していった。これは「低い位置でボールを奪われてショートカウンターを受ける」という最も危険なシチュエーションを排除するための仕組みであり、それを徹底したことが「危険なミス」の発生を最小限に抑えた。

 2つ目のポイントはボランチの役割分担と、それによるリスク管理だ。この日の試合でボール非保持時にボランチを形成したのは鍬先祐弥と井手口陽介だった。ボール非保持時にはこの両者が最終ラインの前でフィルター役となり、全北現代の前進を食い止めていたのだが、注目すべきはボール保持に変わった瞬間の変化だった。サイドバックが深い位置にいるときには、この両選手はビルドアップの出口となるようにポジションを取っていたのだが、サイドバックが前に出た際には、どちらか1人が最終ラインの近くに残り、全北現代のカウンターに備えていた。そして前進する際には最終ラインを引き連れるように、距離を保ちながら前進したため、リスク管理をしたまま前方への厚みを作り出すことに成功していた。この場所での守備が安定したことによって、全北現代が前線に放り込んできたボールに対しても、山川哲史とカエターノのセンターバックコンビは跳ね返すことに集中できた。セカンドボールの回収をボランチに託すことができたためだ。これは守備力に定評のある鍬先と井手口のコンビならではなのかもしれないが、この日の試合における彼らの予測は的確で、味方のルーズボールに対しても、中盤の底でリカバリーできる守備網を作り出していた。

 3つ目のポイントはエリキのポジションだ。この日の試合でもインサイドハーフでスタートしたエリキではあったが、試合の中ではシャドーのようなポジションで動き続けた。結果から言えば、これがチーム全体の動きやすさにつながった。柏戦ではボール非保持時のエリキのポジションが安定しなかったため、チーム全体が縦に間延びしてしまった。これが柏の中盤にスペースを与えてしまった原因となっていた。スピードとテクニックを兼ね備えているエリキではあるが、ヴィッセルの特徴である攻守の切り替えという点においては、まだ後手を踏む場面が見られる。これを受けてスキッベ監督は微調整を加えたのだろう。そこでのキーマンは酒井高徳だった。この日の試合では久しぶりに右サイドバックに戻った酒井ではあるが、ボール保持時には終始高い位置を維持し、チーム全体を3-4-3の形で保ち続けた。これによってボール非保持に変わった瞬間も、中盤の守備には厚みが確保できた。加えてエリキを高い位置に残し続けたことで、ボール保持に変わった瞬間の攻撃にも迫力が出た。ボール保持に変わった瞬間のヴィッセルの並びを見ると、中盤の底には井手口と鍬先、その前には酒井と大迫勇也、前線はエリキを頂点に右に武藤嘉紀、左に永戸勝也という形が整っていた。この形を維持できたことが、前半に何度も見られた即時奪回からの攻撃を実現させた。

 4つ目のポイントは精神的な余裕だ。この日の試合では11分という、比較的早い時間に先制点を挙げることに成功した。この得点自体も、この日のヴィッセルの「戦略性の高さ」を表しているのだが、それについては後述する。ここでは先制点がもたらした効果に注目したい。早い段階でリードを奪うことができたため、各選手には落ち着きが生まれ、「自陣近くではセーフティーなプレーを選択をする」という余裕も生まれた。

「静」と「動」のセンターバックコンビ

 この試合では、全北現代の強力な攻撃を防ぎ切った守備陣の奮闘を高く評価したい。中でも山川とカエターノのセンターバックコンビの働きは見事だった。この日の試合でスキッベ監督は守備の要であるマテウス トゥーレルをベンチに控えさせた。強靭なフィジカルを武器にしている全北現代のフォワード陣が相手であることを考えれば、大きな賭けであったように思うが、山川とカエターノは完璧とも言えるディフェンスマネジメントを見せ、指揮官の期待に応えた。空中戦に対しては真っ向勝負を挑むのではなく、ポジショニングと身体のぶつけ方で「自由に跳ばせない」という守り方を徹底した。さらにカエターノが積極的に前に出て「動」の動きで潰したときには、その背後で山川の的確なカバーが「静」の動きを見せるなど、文字通りコンビネーションで守り抜いた。そして両者はその関係を90分間維持し続け、最後まで中央に鍵をかけ続けた。これがクリーンシート達成に大きく寄与した。

 またこの試合では両者の積極的なパスワークも光った。まずカエターノだが、得意の左足から放たれるパスの多くが、相手の傍を通すパスだった。これはインターセプトされる危険性と隣り合わせではあるが、通ったときには相手選手を一気に無効化できる。そしてこの試合のカエターノのパスは精度が高く、相手に引っかかる場面はほぼ見られなかった。また山川についても、ボール保持時には積極的に縦に上がる姿勢が目を惹いた。消極的なプレーで何度もピンチを招いた柏戦の反省に基づいたプレーだったとは思うが、山川が前に出ることで、チーム全体が高い位置を取れるようになり、それが主導権を握るうえで大きな意味を持っていた。

 柏戦の反省を数日で血肉に変え、クリーンシートを達成したセンターバックコンビの活躍は、ヴィッセルがアジアの頂点を狙ううえで大きな収穫だったように思う。

全北現代の狙い

 ここまではヴィッセルの戦い方における変化について考えてきた。ここで視座を変え、この日の全北現代の狙いを考えてみる。

 全北現代を率いるチョン ジョンヨン監督は試合前日の会見で「今大会初のアウェイゲームで勝点を積むのが目標」とコメントした。この言葉からも判るように、全北現代は「勝点1でもOK」という現実的な目標を立て、それを達成するための戦略を立てていた。その戦略を読み解くカギは3つだ。

 1つは徹底した割り切りだ。GKには韓国代表であり、かつて湘南でプレーしていた194cmのソン ボムグンを起用し、前半は高さと強さでゴール前を守り抜くという戦いを見せた。Jリーグの特徴でもあるハイプレスやクロス主体の攻撃を熟知しているソン ボムグンを中心にヴィッセルの攻撃を受け止め続けることで、ヴィッセルが前がかりになるのを待つという意図がそこにはあったように思う。事実、自陣でボール保持に変わったところでも、いきなり大きく前に蹴り出すような場面は想像より少なかった。チョン監督は、ヴィッセルが素早い攻守の切り替えを武器にしていることは把握していたはずだが、それでも攻撃の速度を一気に上げようとしなかったのは、「守り切る」という点を重視していたためであり、ヴィッセルに焦りが生じるのを待っていたように思う。この戦い方は、アウェイゲームであれば極めて常識的でもある。

 2つ目は制空権だ。全北現代にとって最大の武器が、前線のブルーノ モタとイタロ バルガスであったことは間違いない。特に194cmのモタは強さも併せ持った選手であり、柏を破ったAFCチャンピオンズリーグエリート(ACL Elite)初戦でもその能力を遺憾なく発揮していた。このモタを目標として放り込んでくるという戦い方に、ヴィッセルのセンターバックを力で捻じ伏せようという意図が込められていたことは間違いないだろう。ここでモタが勝利することが、全北現代の攻撃の前提となっていたように思う。そこにスピードとテクニックのあるバルガスを絡ませることができれば、ヴィッセルを押し込めるという思いを持っていたのではないだろうか。

 3つ目は、全北現代にとってもう1つの武器であるイ スンウを活かした攻撃だ。韓国代表にしてF.C.バルセロナの育成組織出身でもあるイ スンウは、「韓国のメッシ」とも呼ばれた選手だ。イタリアのセリエAやベルギーリーグでのプレー経験もある「チーム随一のテクニシャン」であるイ スンウをベンチスタートとした意図は明確だ。前半はヴィッセルの攻撃を受け止めながらも、モタを使った攻撃でヴィッセルの守備陣の体力を削り取る。そしてヴィッセルの最終ラインやボランチに疲れが出始める後半にイ スンウを投入し、バイタルエリアを制圧するという狙いだったのだろう。この2段構えともいうべき戦い方が、チョン監督がアウェイゲームで勝点を奪うために編み出した策だったのだろう。

先制点の意味と技術

 ここでもう一度話を先制点に戻す。このゴールはヴィッセルに戦いやすさを与えただけではなく、全北現代の狙いを空転させるだけの効果を持っていた。その理由は、前記したチョン監督の「勝点1狙い」という割り切りが崩れたためだ。これによって全北現代は攻撃に出なければならなくなった。これこそが、チョン監督が最も恐れていたシナリオだったはずだ。チョン監督はヴィッセルの前に出る力を把握していただけに、自分たちが前がかりになることはリスクを高めると理解していたと思われる。事実、後半の追加点は全北現代が前を向いた中で、背後のスペースを使われての失点となった。

 ここで先制点の場面を見直してみる。永戸が左足で蹴った右コーナーキックはゴールエリア外から巻くようなグラウンダーのボールだったが、これをファーサイドの大迫が右足でダイレクトに合わせてゴールに蹴り込んだ。大迫は永戸が蹴る前、自分の前に山川を立たせるようなポジションを取っていたのだが、これは試合後に大迫が「山川選手と2人でお互いがブロックすることを話していたので、その形をうまく出せました」と語ったように、両選手の打ち合わせに因るポジショニングだった。永戸が蹴るまで山川の前に立っていた全北現代の選手は、守備に戻っていたモタを含め3人いたが、山川のニアへの動きに釣り出され、大迫の前がわずかに空いた。この場面で見せた山川の動きは見事なタイミングだった。

 次に得点を決めた大迫だが、さすがの技術だった。バウンドして伸びてきたボールに対して蹴るのではなく、当てることで見事にコントロールした。大迫の前にはキム ヨンビンが立っていたが、その股を正確に抜くことで、相手GKに動くことを許さなかった。もしこの場面で足を振ってしまっていたとすれば、ボールはコントロールを失い、前に立っていた相手選手に当たっていた可能性が高い。これまでいくつもの経験を積み重ねてきた大迫ならではの判断力というべきだろう。

 そしてもう一点、この得点に関しては、コーナーキックを蹴った永戸にも注目してほしい。前記したように全北現代のチョン監督は、高さと強さを兼ね備えた守備陣を並べていた。これは純粋にヴィッセルの高さを警戒した布陣だったと思う。事実、永戸が蹴るとき、全北現代の守備陣はニアサイドの上を警戒しているような動きを見せていた。しかし永戸はその狙いを見抜いたうえで、全北現代の警戒網が及んでいないグラウンダーを選択した。しかもファー側にいた大迫を意識して伸びるボールを蹴り、完璧なボールを大迫の右足に届けた。これは単にキックが正確というだけではなく、「相手が何を警戒し、どこに隙があるか」を瞬時に見極めた永戸の頭脳が、全北現代の誇る「要塞」の土台を崩し去ったプレーだったと言える。

 このように見てくると、この先制点は全北現代の「高さ」という最大のストロングポイントを、セットプレーの工夫一つで完全に無効化した永戸の戦術プラン、スペースを作り出す山川のポジショニング、そして大迫の決定力が完璧に噛み合った見事なゴールだった。

苦しんだ後半

 前半を1-0で折り返すことに成功したヴィッセルではあったが、後半は一転して全北現代にペースを握られた。そのポイントは前記した「3-4-3」に対する対応だった。後半、チョン監督は両サイドの裏に狙いを定めた。これによって酒井とジエゴが前に出られない形に持ち込もうとしたのだ。ここで大きな意味を持っていたのが、後半開始から投入されたイ スンウだった。チョン監督はイ スンウには流動的に動くように求め、イ スンウは両方のサイドに顔を出しながら、酒井とジエゴの裏で起点を作り続けた。スプリントでヴィッセルの選手を振り切るようなことはなかったが、絶えず動きながらスペースに入り込み続け、そこから次のスペースに向けてボールを動かし続けた。そのためヴィッセルの選手にとって、イ スンウは捕まえるポイントを定め難い存在となっていた。このイ スンウの変幻自在ともいうべき動きは、試合の主導権をヴィッセルから取り上げつつあった。

 加えて後半の全北現代は、前線からのプレスを強めた。サイドの裏を狙う動きとセットであったとは思うが、狙いはヴィッセル陣内で試合を進めることにあったのだろう。ここで大きかったのは権田の存在だ。決定的なピンチを防いだことも素晴らしいが、それ以上にプレス回避のための選択肢となり続けた動きは見事だった。常にボールが自分に戻されることを想定してポジションを取り続けていたため、誰がボールを持ったときでも権田にはボールを受ける態勢が整っていた。そして相手選手が寄せてきたとしても、落ち着いてボールを縦に蹴り出していった。権田のキックは精度も高いが、それ以上にその先を計算している点に注目してほしい。ターゲットとなる味方が競り負けたとしても、別の味方がセカンドボールを拾える位置を計算して蹴っているため、権田のキックがそのまま返ってくることは、まずない。これは権田が常に味方の位置を把握しながらプレーしていることの証左でもある。

試合を決めた2点目

 嫌な流れになりかけた後半ではあったが、1つのプレーが勝敗を決定づけた。66分に最終ラインまで落ちたボランチのキム ジンギュが自陣深い位置から、ハーフウェーライン手前まで戻っていたイ スンウを狙った斜めのボールを鍬先がカットしたのだ。このボールを拾ったエリキはそのまま縦に上がり、前に相手2人を引き付けたうえでペナルティアークまで入り込み、背後の大迫にボールを戻した。大迫はこれを右に走り出していた武藤にパス。武藤はペナルティエリア内でこのボールを収め、中央左を上がってきた鍬先へ丁寧な横パスを通した。そして鍬先はこれを右足のハーフボレーでシュート。ゴールネットを揺らした。この2点目を奪ったことで、全北現代は傍目にも明らかなほど気落ちしていた。

 事実上試合を決定づけたこの得点シーンでは、関わった4人の選手が、それぞれ持ち味を発揮した。まずパスをカットした鍬先だが、このプレーは偶然ではない。キム ジンギュがボールを握っているとき、鍬先は首を振ってイ スンウの位置を確認していたのだ。そのうえでキム ジンギュとイ スンウを結ぶ線上に立ち続けた。前記したように、この時間帯に全北現代の中心点となっていたのはイ スンウだった。鍬先はそれを感じていたからこそ、ここにポジションを定めたのだ。そのうえで前にエリキが立っていたため、ボールをアウトで跳ね返し、エリキへとつないだ。

 次にエリキだが、鍬先からのボールを受けたとき、背後の相手選手から寄せられ、体勢を崩しかけた。しかしエリキは倒れることなく、そのまま前にボールを運んだ。倒れていてもおかしくない状況を体幹の強さでこらえつつ、足を前に出し続けるプレーは誰にでもできるものではない。低い重心で移動することのできるエリキの持ち味が存分に発揮されたプレーだった。さらに言えばボールを離した後、エリキはペナルティエリア内に入り込み、そのまま相手選手1人を自らの動きでボールサイドから遠ざけた。パスを出してなお、次のプレーに意識を向けるのはサッカーの基本でもあるが、誰にでもできるという類のものではない。

 そして大迫だが、こちらはエリキの動きに合わせて動くのではなく、背後にポジションを取ることで、攻撃の組み立て役になることを選択した。ボールを受けると、あらかじめ決めていたかのように、スムーズな動きで武藤につないだのだが、この時の大迫を映像で見直してみると、ボールを受ける直前、僅かに目を外に向けていたことが判る。それが最小限の動きであったため、相手選手はこれに気付くことなく後手を踏んだ。

 次は武藤だ。武藤について注目してほしいのは、動き出しのタイミングだ。武藤は、エリキからのボールが大迫に入る手前で、一気にスピードを上げた。これは相手の目が大迫に集まることを想定した動きではあるが、これが武藤にラストパスを出すための余裕を生み出した。これは武藤のセンスであると同時に、武藤が相手守備の動きをしっかりと見ていることを示している。ここで武藤が見せた動きは、サッカーをプレーしている子どもたちの良き手本となるはずだ。

 試合前日の会見でスキッベ監督は、「自分たちのサッカーを変えずにぶつかっていく」とコメントした。この試合を決定づけた2点目はタフな守備から、連動して複数人が前線へ湧き出る「神戸らしさ」が凝縮されたという点において、スキッベ監督の言葉を体現した得点でもあった。

勝利の意味

 この試合の勝利は、単なる勝点3の獲得という結果以上に、ヴィッセルにとって重要な意味を持っているように思う。

 まずは「修正力」だ。柏戦から中4日という短い時間で「いつものヴィッセル」を取り戻したという事実は、今のヴィッセルが精神的にも戦術的にも高いレベルで成熟していることを示している。この修正力は、情報の少ない相手との対戦が続くACL Eliteを戦い抜くうえでは、極めて大きな意味を持っている。

 さらには全北現代という東アジアの強豪を相手に、長い時間主導権を握りながら戦い、相手のストロングポイントを消し続けたという事実は、今後に向けての大きな自信となるはずだ。ヴィッセルを引き込んでのカウンターを狙う全北現代に対して、ボールを持たれることを許容しながらも、ミドルブロックで縦を切り続けた後半のプレーは、戦術上の勝利でもあり、これから対戦するライバルたちに強烈な印象を与えたように思う。

 そして何よりも、12チーム中8チームがリーグステージ通過となるACL Eliteのフォーマットを考えれば、2試合で勝点6を積み上げたことで、ステージ突破が求められるリーグステージの残り試合を優位に進めることができるだろう。

次戦に向けて

 次戦は中3日でのJ1リーグ戦だ。対戦相手は、この日行われたJリーグ ヤマザキビスケット ルヴァンカップ3回戦において、PK戦の末、名古屋に敗れた岡山だ。同じルーツを持つ「弟」との兄弟対決ではあるが、ヴィッセルにとってはJ1リーグ戦で上位に居続けるために、ぜひとも勝点3を積み上げておきたい試合だ。とはいえこの試合では、全北現代戦とは全く異なるアプローチが求められる。

 まずは選手のコンディション管理だ。全北現代戦でスキッベ監督は、交代カードを2枚しか切らなかったため、大迫や武藤など多くの選手がフル出場を果たした。岡山戦まで中3日ということを考えたとき、選手のコンディション回復が急務ではあるのは当然だが、それ以上に大事なのがコンディションの正確な把握だ。それをベースに、チームのインテンシティを落とさないようなメンバー選びが望まれる。

 全北現代戦ではボールを持たれることを許容する場面もあった。しかし岡山戦では、ヴィッセルが主導権を握るべきシチュエーションは増えることになるだろう。そのためにも「前線からの強烈なハイプレス」と「圧倒的な推進力」という、ヴィッセル本来のストロングスタイルに再度アジャストさせるための戦術的準備も求められる。

 岡山は組織的な守備とハードワークを持ち味とする手強い相手であり、年々着実に成長しているクラブでもある。「世界一ハートフルな兄弟喧嘩」ではあるが、ヴィッセルにとってはこの先も続く過密日程を乗り越えるための力強い一歩にしなければならない。

今日の一番星
[鍬先祐弥選手]

 先制点を挙げた大迫、それをアシストした永戸、難しいポジションをこなし続けた酒井、最終ラインで成長を見せた山川、度重なるファインセーブで勝利に貢献した権田も候補だったが、やはり今回は試合を決定づけた2点目を決めた鍬先を選出する。ここまでJ1リーグ戦9試合中4試合の出場(うち2試合は先発)にとどまっていた鍬先だが、久しぶりの先発出場で心中に期するものがあったことは間違いないだろう。アンカーとしてチームを支えてきた扇原貴宏が戦列を長期離脱する中、ボランチを本職とする鍬先は代役の一番手と見られていたためだ。しかし開幕節の福岡戦で負傷したことをきっかけに、コンディションの上がらない日々を送っていた。この自ら「歯がゆい時期」と称する時期にも「いつチャンスが来てもつかめるように、とにかく準備だけはしておこうと思って取り組んでいました」と語る実直さこそが、鍬先の真骨頂だ。ヴィッセルに加入以降、サイドバックなど、チームに求められるポジションに全力で取り組んできたことが、鍬先の成長を助けてきた。2点目のゴールシーンではボールが右に展開する間、一気にスプリントする、いわゆるサードマンの動きで中央左のスペースにフリーで侵入した。そして武藤からの横パスに対して力むことなくバウンドに合わせたフォワード顔負けの見事な右足ハーフボレーを決めた。このシーンで鍬先は「タフな守備」と「ゴール前に湧き出る連動性」という、チームの哲学そのものを体現して見せた。自らの戦術眼でピンチをチャンスに変え、自らの足で試合を決めた「努力を続けるコンダクター(指揮者)」の活躍に敬意を表して一番星。