
意味あるチャレンジ
今季初の複数失点によって、公式戦の連勝は8で途切れた。試合後にミヒャエルスキッベ監督がコメントしたように、敗因の多くが自分たちのミスであることは事実だ。その意味では酒井高徳が試合後に発した「自分たちのミスで負けたので、それだけかなという感じです」というコメントは、ある意味で正鵠を射ていると言える。しかしそのミスの発生原因を考えてみると、そこには「いつもと異なるヴィッセル」が影響を及ぼしていたように思う。この日の試合でスキッベ監督は新しい組み合わせを試みた。GKに前川黛也、そしてインサイドハーフにはエリキを置いて試合に臨んだのだ。前線のキャラクターと、最後方のピースの変更ではあったが、サッカーチームが11人の繋がりによる微妙なバランスによって成り立っていることを考えれば、全体に影響を及ぼす「大きな変更」だったと言える。このスキッベ監督のチャレンジにおいて、最大のポイントはエリキのインサイドハーフだったように思う。エリキの持つ圧倒的な推進力で中央から相手を破壊する、という超攻撃的な布陣であると同時に、サイドでポジションを崩す危険を回避するための策だったのだろう。しかし結果として、本来アタッカーであるエリキの中盤起用はネガティブトランジション時における守備のタスクや配置のズレという副作用を生み、それが結果的に自陣でのミス多発の引き金になった側面は否めない。ただ、この副作用を知ることもまた、投資の一部である。この日の試合を「首位決戦」ととらえるならば、スキッベ監督のこの選択は「危険な賭け」だったと言われてしまうのかもしれない。しかしこの日の試合がまだ9節であるという視座に立てば、ここで新しい形を試しておくのは決して悪いことではない。ましてリカルドロドリゲス監督の就任2年目で、緻密なポジショナルプレーと可変システムによりチームの練度を高めてきている柏が相手だったことを考えれば、今後に向けての改善すべきポイントが見つかったことを奇貨とすべきであるように思う。サッカーに限った話ではないが、シーズン序盤に新しい形を試すことは年間を通した伸び代を最大化するという意味で、大きな価値があるとされている。シーズンが進む中では相手によるスカウティングも進み、負傷者や出場停止といった不測の事態も発生する。それに備えるためにも、シーズンの早い時期にチーム内の選択肢を増やしておくことは、最終的な成否を分けるカギとなる。そして最も大事なことは、全てのチームがこうした取り組みをできるわけではないということだ。多くの場合は勝利を積み重ねることが最優先になるため、その余裕がない。また、基本形が固まっていないチームが新しい取り組みを見せた場合、それは混乱を招くだけの結果になることが多いためだ。そう考えれば、スキッベ監督がこの日の試合で新しい形を試したことは、シーズン終盤に最大の強さを発揮するための投資だったとも言える。そう考えれば、この日の試合は「意味あるチャレンジ」だった。
ミスの原因
この試合でヴィッセルには多くのミスが発生した。その多くはビルドアップ時のものではあったが、そこには柏を率いるロドリゲス監督の仕掛けとヴィッセルの構造的な歪みが影響を及ぼしていたように思う。まず柏の仕掛けだが、ロドリゲス監督はビルドアップ時に配置を動かす可変システムを準備していた。3バックで守る柏に対して、ヴィッセルは守備時には前線3枚にエリキを加えた4枚で圧力をかけようとした。ここで柏はボランチの2枚が、ヴィッセルの選手の間を使いながら落ちてくることで、ボールの脱出を図った。これは単純に枚数を増やしただけではない。ロドリゲス監督の最大の狙いは、ヴィッセルに守備の基準点を作らせないことにあった。ヴィッセルの前線の守備が機能するときは、相手の守備に対して誰が誰を捕まえるかが明確になっている。そして今季、この基準点を作り出してきたのが、この試合ではベンチに控えていた郷家友太だった。ボール非保持時には郷家が大迫勇也と並ぶ位置に立ち、そこからファーストディフェンダーとしての動きを見せる。これが効果的であるため、周りの選手は目標を定めやすくなる。しかしこの日の試合ではこうした役割が明確ではなかったため、ロドリゲス監督による基準点のずらしが奏功してしまった。その結果、ヴィッセルは前線で奪い切れないまま、相手に走らされる状態となり、ボール非保持時にはダブルボランチを形成する酒井と井手口陽介が前のカバーに奔走する場面が増えた。その結果、低い位置でボール奪取した際には陣形が間延びしており、後方の選手にとってはパスの出しどころが見つけられない場面が散見された。加えて柏が見せたネガティブトランジションの速さが、ボール保持時のヴィッセルを苦しめた。ヴィッセルの特徴でもある素早い攻守の切り替えだが、これは柏も同じものを備えている。その中で柏は全体がパスをつなぐことのできる距離を維持していたため、効果的にヴィッセルの選手を追い込んでいった。具体的には中川敦瑛と小西雄大のボランチコンビ、そしてシャドーの小泉佳穂が中心となり、ボールホルダーに素早く寄せることで、ヴィッセルの選手から前を向くための時間的余裕と位置的余裕を奪い取った。その中でヴィッセルの選手には焦りが生じていたように見えた。余裕のない状態でのパスが相手に奪われ、そこからショートカウンターを受ける場面が散見され、ヴィッセルは前に向けようとした矢印を折られていた。その象徴が3失点目だ。攻撃時に前線で行き詰ったため、後ろに下げて作り直そうとした場面で、酒井が山川哲史との交代でセンターバックに入っていたカエターノに戻したボールがミスとなり、そこから失点を喫した。直接的には酒井のミスではあるのだが、それを誘発したのは小泉の寄せだった。右センターバックのマテウストゥーレルからピッチ中央でカエターノがボールを受けたとき、小泉はカエターノに寄せつつ、カエターノが前に立つ酒井にボールを渡した時点で酒井とカエターノの間に立った。これで両者から余裕を奪い取ったのだ。ここで注目したいのは、小泉が寄せ始めた位置とスピードだ。ヴィッセルがボールを後ろに下げ始めた時点で、小泉はカエターノから30mほど離れた位置にいたのだが、ここから迷うことなくカエターノの方向に走り切った。この場面でのヴィッセルのボールスピードがそれほど速くなかったことも、小泉には好都合だった。ここまでは柏によって引き起こされたミスだが、最後はヴィッセルの構造的な問題によるミスだ。それはサイドの並び方だ。ヴィッセルのサイドは、サイドバックとウイングの2枚による縦関係で構築されている。これに対して柏のサイドは基本的にはウイングバック1枚ではあったのだが、ヴィッセルのボール保持時にはここにボランチ、シャドー、センターバックなど、複数の選手が顔を出していた。ヴィッセルのサイドを使った前進を阻害するのが目的だった。ここで大事なのはヴィッセルのサイドバックとウイングの選手の関係だ。5レーンで言うところのサイドとハーフスペースに分かれて立つことは、今や基本と言える。しかしこの試合でヴィッセルのサイドは、この「横ずれ」を使う場面が少なかったように思う。そのため柏の守備にとっては「狙いやすい」状態になることが多かった。その象徴が2失点目だ。ここでは左サイドバックのジエゴが永戸勝也に代わって左ウイングに入っていたジェアンパトリッキに入れたボールが、柏の右センターバックである戸嶋祥郎にインターセプトされたことから始まった。この場面でパトリッキにはタッチライン際が空いていたのだが、ジエゴと同レーンで正面に立ってしまっていた。そのため戸嶋は真後ろからパトリッキに寄せるだけで、ボールを奪うことに成功した。ここでパトリッキがボールを受けるためにタッチライン沿いに流れていれば、戸嶋はそれに合わせて斜めに動き、タッチラインを気にしながらボールにアタックしなければならなかった。この動きがあれば、あそこまで簡単にボールを奪われることはなかっただろう。このように見てくると、この日の試合で、ヴィッセルの選手が犯したミスの大半は単なる技術的なエラーではなく、柏の戦術や構造に嵌められた結果だったことが判る。前に出るパワーという点では、ヴィッセルが柏を上回っていたが、柏は配置によって確立した位置的優位を最大限に活かし、これを押し返していたと言えるだろう。

攻めきれなかった理由
瀬川祐輔は試合後に「僕らもサイドチェンジを使いながら攻めていったが、ジエゴとセンターバックの間がわずかに空くだけで、隙はなかった」と、ヴィッセルを崩しきれたわけではないという感想を口にした。この感想は、柏の選手に共通していた。藤尾翔太が「前半すごく押し込まれましたが、そこを(失点)0で抑えたというのはすごく大きかった」と語ったように、試合開始から20分ほどの間、ヴィッセルにはゲームの主導権を握るチャンスは十分にあった。しかし自らのミスの積み重ねでそれを手放した格好になってしまった。例えば2分に相手のクリアボールを正面で受けた井手口がまさかのトラップミス、6分には武藤嘉紀からペナルティエリア内の永戸への近距離の縦パスがミスになるなど、訪れたチャンスを潰してしまうようなプレーが多発していた。しかし、データ上では、ゴール期待値が柏の1.59に対して、ヴィッセルは2.10と上回っている。事実、ヴィッセルにはゴール前でのチャンスも多くあった。ではなぜヴィッセルは攻めきることができなかったのかを考えてみる。そこには3つの理由があったように思う。 まず1つ目は大迫を活かしきれなかったことだ。ヴィッセルがロングボールを使って前進するうえで、最も大きな戦力が大迫であることは誰もが認めるところだ。ハイボールへの競り合いの強さだけではなく、それを次の展開につなげる能力も高い。さらには卓越したキープ力を活かし、味方に時間とスペースを渡すこともできる。当然、ロドリゲス監督も、この大迫を使った攻撃を警戒していた。そのため柏は守備時には両ウイングバックが素早く下がり、5バックを形成、その上で大迫に対しては「1人が競り、1人がカバー、もう1人がセカンドボールに備える」という監視体制を敷いていた。これによって大迫を狙ったボールから攻撃につながる場面が激減した。併せて武藤とエリキへのルートに対しては、徹底的なカバーを見せた。これを避けるために大迫が下がってボールを引き出す場面もあったが、その場合も武藤やエリキへのパスコースを消すように動かれたため、効果的な攻撃にはつながらなかった。ロドリゲス監督が企図した「大迫を孤立させる」という作戦は、シンプルではあるが、柏の選手が90分間忠実にそれを遂行し続けたことで奏功したとも言える。 次に2つ目の理由だが、左サイドのポケットを攻略できなかったことだ。この日の試合でヴィッセルの攻撃は、左サイドが主となっていた。永戸とジエゴは、どちらもサイドバックを本職としている選手だ。それだけにボール非保持時には強さを発揮したが、問題はボール保持時だった。後半開始から登場したパトリッキは同じレーンに入ってしまったため、柏の選手を横ずれさせることができなかったのは前記したとおりだ。しかし永戸はジエゴとのレーンを変えることで、ジエゴとの間に角度を作り出し、パスを引き出していった。しかしこの両選手とも、ドリブラータイプではない。スペースを使って前に出ることはできるが、相手のブロックの中にドリブルで切れ込んでいくようなプレーを得意としているわけではない。そのため5枚で守る柏の最終ラインの外から、ゴール前中央の大迫を狙ったクロスという単調なプレーが増えてしまった。こうなると、柏における守備の要である古賀太陽の強さが活きてしまう。ここでクロスが主体になってしまったことが、ゴール前を固める柏の守備をさらに強固なものにしてしまい、ズレを生み出すことができなかった理由だ。 そして3つ目の理由だが、これはビルドアップの停滞に他ならない。この日の試合では前記したような理由でロングボールの効果が発揮されず、サイドからの攻撃も相手を慌てさせるところまでは至らなかった。その中で自陣からのビルドアップを試みる回数も多かったのだが、そこでミスが多発したため、相手を押し込んだ状態や相手を崩す時間を長くは作り出せなかった。その最大の理由は前記した「柏の素早い守備」だ。それでも相手の圧力をいなしながらボールを前に運ぶことができればよかったのだが、柏が守備時に見せたスピードと圧力の前に、ミドルサードより後ろでボールが動く時間が増えてしまった。

ビルドアップ能力の向上
過去数年間、ヴィッセルはJ1リーグの中心的な存在として戦っているが、この間、継続して積み残されている大きな課題がビルドアップ能力だ。今年からヴィッセルの指揮を執っているスキッベ監督は、この部分を改善しようと試みている。その甲斐あって、昨季以前と比較したときには確実にボールを前に動かすことができるようになった。しかしこの日の柏のようにスピードと強度を兼ね備えた相手と対峙すると、この改善がさらに急務であるという思いが強くなる。逆に考えれば、ビルドアップの能力の向上は、ヴィッセルにとって最大の伸びしろでもあるように思う。これを向上させるためには、技術力の向上だけでは足りない。そこに配置の柔軟性と意思決定の共有という、戦術的アップデートが必要となる。逆に言えば、それを鍛えることで現在の戦い方を崩すことなく、ビルドアップのクオリティを高めることができるのだ。以下でそのためのアプローチを考えてみる。 まずはビルドアップ時の3人目の作り方ということになるだろう。この日の試合ではヴィッセルのセンターバックコンビとアンカーに対して、柏が1トップ2シャドーという同数で、ヴィッセルのパスワークを制限してきた。これがビルドアップ時のミスを誘発するきっかけとなっていたように思う。これを打開するためには、「+1人」を自動的に作り出す可変システムをチームに組み込む必要がある。そのための解決策は2つだ。1つはボール保持時にビルドアップを助けるインサイドハーフの1枚(井手口)とアンカーのいずれかがセンターバックの間、もしくは横まで落ちて一時的に3バックを形成する。これによってセンターバックに寄せてくる相手のファーストディフェンダーに的を絞らせないようにする。もう1つはサイドバックがボランチの位置まで絞り、最終ラインからの出口を強制的に増やすことだ。この内側へのサポートによりボールを前方向に進めることができる。 次のアプローチは「落としのパスを連続させるトライアングル」の形成だ。この日の試合でもそうだったが、人を前に進めるパスがインターセプトされるケースが多い。これを防ぐためには、3人目の動きを徹底させなければならない。具体的には縦パスを前向きにトラップさせるのではなく、あえて相手を背負った選手に楔となるパスを打ち込み、サポートにきた選手(=3人目の選手)にダイレクトで落とす動きだ。この「出して、落として、前を向く」というトライアングルの距離感をチーム全体で共有することができれば、相手のプレスを少ない手数で無効化できる。実は既に試合の中でこの動きは見せているが、まだチーム全体での動きにはなっていないように思う。これをピッチ上のあらゆる場所で見せることができるようになれば、チーム全体がスムーズに前進できるようになる。 3つ目のアプローチはロングボールのパターンを増やすことだ。ヴィッセルにとって最大の武器が、大迫という傑出したターゲットであることは繰り返し述べてきた。これを使った意図的なロングボールは、ヴィッセルの攻撃における1つの形となっている。前記したようにロドリゲス監督は、これに対して細心の注意を払っていた。であれば大迫をあえて囮として使い、この日の試合で言えばエリキや武藤、後半であればパトリッキを前に走らせるロングボールを組み込んでも良かったように思う。ここで重要なのは、これを蹴る前には相手を十分に食いつかせることだ。後ろでボールを動かしながら相手を引き出し、相手の陣形が定まったところで大迫、エリキ、武藤などターゲットを変えながらロングボールを使う。これを繰り返すことで、相手は裏への意識が強くならざるを得なくなり、前線のプレスは緩くなる。そうなれば足もとでのビルドアップがスムーズになるという算段だ。 ここで重要なのは、ヴィッセルがチームとして目指している形だ。今のヴィッセルは、柏のようなポゼッション重視のチームを目指しているわけではない。日ごろからスキッベ監督が言うように「素早く相手陣内に攻め込むことによって、リスクを遠ざけながら戦う」というのが、チームの基本であることに変わりはない。そのためヴィッセルが目指すべきは「基本はショートパスの配置で相手を誘い出し、嵌められそうになったら大迫や武藤を使ってひっくり返す」という、言わばハイブリッド型とも言えるビルドアップだ。これをチーム全体で共有したうえで、「つなぐルート」と「飛ばすルート」の使用基準を、チーム全体で統一しなければならない。今はこの意思統一をピッチ上で行っているため、行き詰る場面が散見されるように思う。しかしこれがチーム内で統一されれば、文字通り状況に応じてオートマティックに動くことができるようになる。この先に控えるアジアの戦いまでをも見据えたとき、このビルドアップの改善は必須事項でもあるように思う。
前川黛也
久しぶりの先発復帰となった前川だったが、4失点というGKにとっては厳しい結果に終わってしまった。しかしその内容を見れば、悔やまれるのは4失点目であり、それ以外の失点は味方のミスに端を発したものだった。それだけに、失点を前川だけの責に帰すことはできないと思う。とはいえ課題がなかったわけではない。この日の試合で前川に突き付けられた課題は2つだ。1つはコーチングだ。ビルドアップの停滞時にリスクマネジメントを行うのは、最後方から試合を見ることのできるGKの役割だ。繰り返しになるがこの日の試合でヴィッセルはロドリゲス監督が準備した即時奪回を狙う動きに翻弄され、低い位置でつなごうとしては引っかかるという悪循環に陥っていた。ここで前川には、味方に対してつなぐのを止めて前に蹴り出すようなコーチングが望まれた。それによってチーム全体の呼吸を整え、柏のサッカーを拒否する「安全弁」的な役割を能動的に担ってほしかった。また同様に柏の選手にポケットを取られ、全体が下がってきた場面では、シュートコースを限定させるためのポジショニングを指示してほしかった。これは、シュートに対する対応と同等に重要なことだ。2つ目はビルドアップへの積極的な関与だ。この日の試合で山川は柏の狙いどころともなっており、ビルドアップ時には前を向くことが難しい状況に陥っていた。過去の試合では権田修一がそうした場面ではボールを引き取り、自らのキックで状況を好転させていた。この動きを前川には見せてほしかった。同数でプレスをかけてきた柏の狙いを空転させることができたのは、この時点ではGKである前川だったように思う。キックに対する不安があるのかもしれないが、前川が最終ラインからのボールを積極的に引き受け、そのまま前に蹴り続けることができていれば、それは状況を変える1つのきっかけになった可能性がある。

つないだ希望
「強いチームは負け方を知ってる」といわれるが、この日の試合を「ただの負けゲーム」に終わらせなかったことは、柏というライバルチームに複雑な思いを残した。瀬川は終盤に喫した2失点を「余計な失点」としたうえで、「決定力とかゴール前の質は高いから仕方ない部分もある」と語り、ヴィッセルの攻撃力は依然として脅威であると認識していることを窺わせた。こうした気持ちを残すことが、負け試合では重要になる。そしてそれをもたらしたのは、途中交代で投入された2人の選手だった。それが小松蓮と岩本悠庵だ。 まず小松だが、この日の試合では、スキッベ監督の「パワープレーへのシフト」というメッセージを完璧に体現した。投入された直後から前線の基準点として機能し、81分にはジエゴが左から上げたクロスを、高い打点のヘディングでゴールに叩きこんだ。この時間帯になっても大迫には徹底マークがついていたため、フレッシュな小松が相手の裏やギャップに力強く入り込むことで、柏の守備陣を慌てさせた。小松が短い出場時間の中で結果を残したことは、大迫に次ぐもう一門の『大砲』として機能することを示しており、過密日程を控えるチームにとっても大きな収穫だったと言えるだろう。 そして岩本だが、強度の高いプレーを見せる柏を相手にしても物怖じすることなく、堂々たるプレーぶりで、チームを前に向け続けたことは高く評価したい。この日の試合ではビルドアップ時に陣形が間延びしていたことは前に書いたとおりだが、岩本はこの問題に対する1つの解決策を提示した。自らが中盤のライン間に顔を出し、リンクマンとしての機能を果たし続けたのだ。さらには外でボールを受けた後、内側に絞りながらパスコースを作り出し、周囲の選手を前に走らせた配球は見事だった。その際にも必要以上にボールをこねることはせず、シンプルにプレーしたことで岩本は潤滑油としての役割を果たした。さらには相手のカウンターに対してもスピードで負けることなく競り合い、これを防ぐなど、攻守にわたって躍動した。過去の試合でもそうだったが、岩本は狭い局面でもボールを落ち着かせることができる。これこそがヴィッセルの中盤に最も不足していた部分であり、岩本がチームにとって不可欠な存在であることを示している。さらには短い時間の中で、正確に相手の嫌がる場所を見抜いた戦術眼も兼ね備えている。 この2人がピッチに登場して以降、ヴィッセルの戦いには勢いが生まれた。結果的に追いつくには至らなかったが、最終盤に奪った2得点は停滞していたチームを活性化し、先発した選手たちに刺激を与えたはずだ。

次戦に向けて
厳しい船出となった10月戦線だが、ここで留まっている時間はない。約20日間で7試合を戦うという「超過密日程」がヴィッセルを待ち受けている。そしてその中にはAFCチャンピオンズリーグエリート(以下ACL Elite)3試合、さらには上位対決となる町田戦も含まれている。この連戦を良い形で乗り切るためにも、「ヴィッセルらしい」戦いを貫かなければならない。 中4日で迎える次戦はACL Elite全北現代戦だ。グループリーグ初戦では柏を破っている全北現代はクロスやロングボールを多用し、高いフィジカル能力を前面に押し出してくるチームだ。こうしたチームとの対戦では「インテンシティ」と「インテリジェンス」の融合が試される。ヴィッセルらしいコンパクトな陣形を維持しつつ、球際での強さで全北現代のフィジカルを封じ込めなければならない。そしてそのためにも自陣でのボールロストを避けるための取り組みが求められる。具体的には無理につなぐことで相手を空転させようとするのではなく、「蹴るときには蹴る」という割り切りが求められる。そしてその意識をチーム全体で統一しておかなければならない。 次戦で東アジアの強豪を打ち破り、その先の試合を乗り切っていくための勢いを手に入れることができるか。次戦は単なるACL Eliteの1試合ではなく、ヴィッセルの未来をつかむための重要な試合だ。敗戦の後の試合は非常に重要だ。平日のナイターではあるが、1人でも多くのサポーターに、スタジアムでヴィッセルの選手たちの戦いを見届けてほしいと切に願う。

