覆面記者の目

明治安田J1リーグ 第8節 vs.G大阪 パナスタ(9/20 17:00)
  • HOMEG大阪
  • AWAY神戸
  • G大阪
  • 0
  • 0前半0
    0後半1
  • 1
  • 神戸
  • 得点者
  • (90')エリキ


決勝ゴール

 長い助走の終わりは、突然、鮮烈な歓声とともに訪れた。
 アディショナルタイム突入を目前にした89分。G大阪の右スローインから始まったボールを受けたのは、ボランチの美藤倫だった。美藤はそれを前に運ぼうと試みた。しかしハーフウェーラインを越えようとしたところで、プレスバックしたエリキが美藤の背後からプレッシャーをかけた。美藤はやや体勢を崩しながらも、右タッチライン沿いを縦に動き出そうとしていたデニス ヒュメットへのパスを狙った。しかしヒュメットをマークしていたマテウス トゥーレルが前に出て、このボールを蹴り返した。これには大迫勇也とセンターバックの中谷進之介が反応した。そして中谷が大迫よりもわずかに早く、これを頭でクリア。中谷の狙いは、前から戻ってきていたボランチの安部柊斗だった。ここで安部と競り合ったのは武藤嘉紀だった。武藤は安部を競り落とすと、後ろから追い越していったエリキの足もとにパスを通した。エリキは中谷と安部の間でこのボールを触り、2タッチ目に、中谷の目の前で、左斜め前にポジションを取っていた大迫へ差し込んだ。ここで大迫は時計回りにターンし、左サイドを上がってきたジェアンパトリッキの走路上へボールを入れた。パトリッキは身体を倒しながら、速いボールをディフェンダーとGKの間に通した。このボールにはセンターバックの福岡将太が走り込もうとしたが、その手前に入り込んだエリキが右足で角度を変え、ゴール右に突き刺した。ここまでにも何度かチャンスは迎えていたが、同じくらい、ひょっとしたらそれ以上にピンチもあった。決して思うように運ぶことができた試合ではなかったものの、全ての選手が全力で90分間、自らのやるべきことをやり続けてきた。その結果、ここまでの苦労は「助走」となり、歓喜をもって結実した。同時にこのゴールシーンは「ヴィッセルによるインテンシティの継続」と「G大阪の疲労に伴う決壊」が凝縮された、実に濃密なプレーだった。

悩めるライバル

 今季のG大阪は開幕戦で勝利して以降、J1リーグ戦では勝利から遠ざかっている。予想外の不調ではあるが、その背景には3つの理由があるように思う。1つ目は指揮官の電撃交代に伴う土台の喪失だ。明治安田百年構想リーグでも指揮を執っていたイェンス ヴィッシング監督がシーズン開幕1カ月前に退任という、正に想定外の事態によって、G大阪はそれまでの戦術的な土台を突然失うことになった。2つ目は指揮官交代に伴う戦術の変更だ。こうした事態に直面した時、「前任者の戦い方を受け継ぐ」という発言を耳にすることは多いが、それがうまくいくことは極めて稀だ。ましてやチームを受け継いだ明神智和監督は、これが初の監督就任だ。戦い方をシフトするのもやむを得ない。明神監督はそれまでの「ハイプレスとトランジションスピード」を軸とした戦い方から、「ブロックを作り自陣を守る守備」をベースとした戦い方へと方針を変えた。3つ目の理由は、急激な戦術変更が招く安定感の欠如だ。0-2で敗北を喫した千葉戦後に明神監督は「良い試合と悪い試合の差が激しい」とコメントしたが、まだ安定感のある戦いができるには至っていない。監督就任からの時間を考えれば無理からぬところではあるが、プレスラインを下げた結果、相手のビルドアップを阻害する力が弱まり、ディフェンスラインが下がってしまう傾向が見られる。そのため全体が間延びし、中盤にエアポケットが生まれてしまう。これらは移行期特有の「産みの苦しみ」とも言えるが、選手の質が高いだけに、ある種の「もったいなさ」を感じてしまうことも事実だ。特に安部やイッサム ジェバリといった90分間高いインテンシティを維持できる選手が、後ろに重い守備のタスクを背負うという構造的なズレが、選手の持てる力を発揮しきれていない理由であるようにも感じる。

思わぬ苦戦

 現時点のチーム状態を考えれば、ヴィッセルが優位に試合を運ぶという予想が多かったことは頷ける。しかし現実には、ヴィッセルは試合開始から思うように試合を運ぶことができず、苦戦を強いられた。ポイントは「セカンドボールの回収」だったように思う。ヴィッセルが試合を支配するうえでの武器となっている、セカンドボールの回収だが、この試合では思ったようにできず、それがヴィッセルの攻撃から連続性を奪っていた。こうした事態に陥った背景には外的要因と内的要因がある。まずは外的要因となったであろう4つの理由に就いて考えてみる。1つ目は日程的な問題だ。今季はヴィッセル、G大阪ともAFCチャンピオンズリーグエリート(以下ACL Elite)に出場している。先日行われたMatch Day1ではどちらも勝利し、白星発進を飾っている。異なるのは日程だ。G大阪がホームでの戦いから中4日でこの日を迎えたのに対して、ヴィッセルはタイでのアウェイゲームから中3日となっていた。タイでの試合後に、武藤が「明日は5時起きで帰国します」とコメントしていたが、試合終了が現地時間で21時半を回っていたことを思えば、ヴィッセルの選手たちは睡眠時間すら十分に確保できないまま、帰国の途に就いたことになる。その意味ではヴィッセルの選手にとってこの日の試合は、実質「中2日」といった感覚だったはずだ。ACL Elite自体がJ1リーグ戦から中4日だったことを思えば、その厳しさは想像に難くない。この日の試合でヴィッセルの選手たちが見せたパフォーマンスは気迫あふれる素晴らしいものだったが、どこか身体が重そうに見えたことは事実だ。試合後に山川哲史は「ヴィッセルとしてはかなりACL Eliteも経験してきていますし、連戦というのも何年間もやってきているので、そこに関しては特別疲労感は感じなかったです」とコメントしたが、これは選手たちの矜持ととらえるべきだろう。アジアの頂点を狙う日本屈指の強豪クラブとなった今、スケジュールで音をあげるようなことはしたくないというのが、選手たちに共通した思いであるように思う。その心意気は素晴らしく、リスペクトに値するが、肉体への負担は確実に蓄積されているはずだ。それがこの日の試合に影響を及ぼしたとしても、何ら不思議ではない。2つ目の理由はG大阪が見せた高密度な中央の守備だ。ここで大きな役割を果たしたのがジェバリだった。攻撃時にはペナルティエリア近くで攻撃陣を操り、自らも得点を狙うことのできるジェバリだが、ヴィッセルのボール保持時には前線に残り続けるのではなく、中盤のボランチの近くまで落ちて来る場面が多かった。これによってヴィッセルの中盤3枚に対して、安部&美藤のボランチコンビと3枚で噛み合わせる形が構築された。明神監督が見せたこの戦い方は「大迫対策」でもある。近年のヴィッセルは大迫が位置を落とし、後方からのボールを受ける形を取ることも多い。その場合、大迫が落としたボールを受け取るのは中盤の選手だ。そしてこれがヴィッセルにとっては、攻撃のスイッチともなっている。明神監督はジェバリの位置を落とすことで、この形を作らせないように企図したのだろう。結果として、この狙いを覆すことはできなかったように思う。3つ目の理由は、今のヴィッセルにとって新たな武器となりつつある右サイドバックの髙橋壱晟を起点とした攻撃への対策に苦しめられたためだ。髙橋がハーフスペースに絞ってビルドアップに関与する形は、確実にヴィッセルの攻撃に幅を加えた。ボールを握る力も高く、両足で蹴ることのできる髙橋が中に入ることで、ヴィッセルはそこから前に複数の道を作り出すことができている。これに対して明神監督はマッチアップする左サイドバックの初瀬亮と、左サイドハーフの食野亮太郎のタスクを明確化した。具体的には髙橋が中に入ったとき、食野はそれに食いつくのではなく、安部と美藤とのトライアングルの中で網をかける形を徹底していた。その際、初瀬は外側の道を塞ぐ役割を担う。これによって髙橋の動きを中に閉じ込めることで、ヴィッセルを窮屈にさせようとしたのだろう。4つ目の理由はスルーパス対策だ。今のヴィッセルは自陣からつなぎながら前進し、ミドルサードからアタッキングサードにかけては走力を活かしたプレーで相手を押し込むこともできる。ここで大きな役割を果たしているのがスルーパスだ。高いパススキルを持った選手も多く、前に動きながらボールを受けることのできる選手もそろっているため、これが効果を発揮している。しかしこの日の試合では、これがインターセプトされる場面が散見された。その理由は、G大阪の選手たちが見せた守り方にある。G大阪の選手たちは「人ではなくボールを見た守備」を徹底していた。通常であれば守備側の選手は、自分がマークしている選手の動きに合わせて動く。これは人を見ているためだ。しかしこの日の試合においてG大阪の選手たちはマークするヴィッセルの選手に前を取られても、慌てる様子は見られなかった。そして、前に出た選手を狙ったヴィッセルのパスをインターセプトしていった。この守り方にはボールが通ってしまったときのリスクがあるのだが、前記した高密度な中央の守備とセットで考えれば、理解できる。そのためインターセプトを狙っていたのはサイドを走らせるボールではなく、中に差し込むボールに対してだった。

もう1つの要因

 上記したような、G大阪による「ヴィッセル対策」が一定の効果を上げたことは事実だ。しかし今のヴィッセルは、それだけで絡めとられてしまうようなチームではない。この日の試合で思うように試合を運べなかった最大の理由は、日程や相手の対策といった外的要因ではなく、アンカーに入った酒井高徳の不調だ。これこそが内的要因だ。試合後にミヒャエル スキッベ監督は酒井について「万全の状態ではなかったものの出てほしくてスタメンに起用しましたが、交代せざるを得なかった」とコメントしたが、これは酒井に対する信頼の証でもある。4日前に行われたポートFCとの試合で酒井は、スターティングメンバーに名を連ねながらも、急遽入れ替えとなったように、万全とは言えない状態にあるのだろう。しかしプレーだけではなく、周囲への適切なアドバイスなど、酒井の存在がチームに与える影響は大きい。それだけにスキッベ監督は祈るような気持ちで、酒井を先発起用したのだろう。その酒井だが、試合の中でジェバリとマッチアップする場面が多かった。しかし、残念ながら有効な防波堤とはならなかった。いつも通りの酒井であれば先に身体を入れているであろう場面で、ジェバリに突き放される場面が散見された。チュニジア代表として長くプレーしたジェバリは、現在のJリーグにおいて「特別な力を持っている選手」の1人でもある。さすがの酒井とは言え、出場が危ぶまれるような状態では、止めることは難しかっただろう。それでもポジショニングでは確実にジェバリが嫌がる場所を取っていたことを思えば、この日の結果は単純なコンディショニングの問題だったと言える。今のヴィッセルにおいてアンカーは、チーム全体の動きを統率する司令塔でもある。ここでボールを握り切れなければ、全体にズレが生じるのも当然だった。

交代策

 上記のような理由が複合的に重なった結果、前半はG大阪にペースを握られていた。これを崩したのはスキッベ監督が見せた交代策だった。スキッベ監督は後半頭から酒井に代えて岩本悠庵、郷家友太に代えてエリキを、それぞれピッチに送り出した。これに伴い大迫とエリキの2トップ、右サイドハーフに武藤、左サイドハーフに永戸勝也、そしてボランチに井手口陽介と岩本という4-4-2へ布陣を変更した。この交代策こそが、G大阪のセカンドボール回収率を下げた勝負手だった。この采配が奏功した理由は3つある。1つはダブルボランチによる中央の制圧だ。傑出した運動量とボール奪取に優れた井手口、ボール配球能力の高い岩本の2人が中央に並んだことで、アンカーシステムの弱点である「脇のスペース」を消すことに成功し、中央に強固なフィルターが生まれた。これによって前半はG大阪に拾われることの多かったセカンドボールも、ヴィッセルが回収する場面が大幅に増えた。2つ目の理由は2トップでG大阪のセンターバック2枚をピン止めする態勢が整ったことだ。スピードと突破力を持つエリキが大迫の近くに立ったことで、それまで福岡を中心に大迫へのマークを強めていたG大阪守備陣はその対応を迫られることになった。具体的には大迫のポストプレーを抑えつつ、エリキの裏への抜け出しにも気を遣わなければならなくなったのだ。これでG大阪の最終ラインは高さが低くなり、ピッチ全体が間延びし始め、ヴィッセルが押し込む時間が増えていった。3つ目の理由は、武藤と永戸をウイングからサイドハーフに下げたことだ。これによってヴィッセルは、サイドの優位性を確立できた。特に右サイドハーフに移った武藤は、素晴らしい動きを見せた。サイドハーフになったことで、武藤は髙橋との物理的な距離が近づいた。その結果、コンビネーションを見せる回数も増加した。前半は食野と初瀬のコンビを前に、縦に出難かった髙橋だが、これによって武藤を使いながら前に出る回数が増えた。この選手交代によってダブルボランチがG大阪の中盤の体力を削り続け、2トップがG大阪守備陣に負荷をかけ続け、両サイドがチーム全体を高い位置に誘導した。これによって、G大阪の選手たちの足を止めることに成功した。

岩本悠庵

 酒井に代わってピッチに登場した岩本だが、ここで興味深いのは、その人選に至る考え方だ。ベンチには鍬先祐弥も控えていたのだが、ここで岩本を選択した理由は2つあると思う。1つは体力面と予定の兼ね合いだ。4日前に行われたACL Eliteで鍬先は60分間プレーしている。さらにこの試合から中2日で天皇杯・3回戦が控えているという事態を考慮すれば、「ここでは鍬先を温存する」という判断も合理的に思える。もう1つの理由は、前半は停滞気味だった攻撃を活性化したいという思いだったのではないだろうか。ジェバリと岩本のマッチアップについては、スキッベ監督にも不安があったのかもしれない。しかし井手口を含めた守備陣に対する信頼が、スキッベ監督に岩本投入を決断させたように思う。そして岩本は、指揮官の期待に見事に応えて見せた。ジェバリを前にしても怯むことなく、自らのプレーを続けた。ボール非保持時には相手のパスコースを消しつつ、球際勝負からも逃げなかった。そしてボール保持時には、密集の中でもボールを握り続ける力を発揮し、前に向けての配球を続けた。後半にヴィッセルがペースを取り戻していくうえで、岩本は大きな力となっていた。またこの日の試合では、これまでには見せなかった姿も見せた。それはスピードを活かした守備だ。この試合の前半、ジェバリと並んでヴィッセルを苦しめたのは、右サイドハーフの山下諒也だった。スピードが武器の山下は前に出たボールに対して快足を飛ばし、ヴィッセル陣内の深い位置に何度も侵入した。その山下に対して岩本は、全く引けを取らないスピードを見せた。47分にヴィッセルがG大阪陣内に攻め入ったところで、中谷が右サイドにクリアし、そこに山下がフルスピードで走りこんだ。これを追った岩本は山下に身体を寄せ数十メートルにわたって並走、最後はタッチラインに山下を押し出し、チームのピンチを救った。正直に言って、このプレーには驚かされた。筆者は、岩本がここまでのスピードの持ち主であるとは思っていなかったためだ。そしてこのプレーの影響は大きかったように思う。G大阪の選手にとって山下のスピードは「理不尽な武器」であったはずだが、この日岩本が見せたスピードは、そこから「理不尽」という言葉を取り上げる力があった。

無尽蔵のスタミナ

 岩本が輝きを見せた背景に、ボランチコンビを組んだ井手口の存在があったことは間違いない。この日の試合でも両チームを通じて最長となる距離(12.52km)を走り、武藤に次いで2番目となるスプリント回数(23回)を記録したように、井手口は走力を活かしてスペースを消し続けた。決して身体が大きいわけではないが、どんな選手に対しても当たり負けすることなく球際勝負を仕掛けることのできる「強さ」を持った井手口が近くにいるという事実が、守備に不安のある岩本にとっての安心材料であったことは想像に難くない。この試合における井手口のヒートマップを見ると、文字通り両陣のペナルティエリア間を埋め続けていたことが判る。ここで忘れてならないのは、その背景には、全体がゾーンの概念を持った状態で最適化されていたということだ。全体の高さを前半より下げ、相手をサイドに誘導したうえで圧縮し、効率的にボールを刈り取るという流れが生まれた。岩本と井手口のコンビも、この全体像の中で活かされた。井手口は第4節のC大阪戦以降、この日の試合で6試合連続でのフル出場を果たした。この6試合は中3日、中4日というインターバルで行われた。この過密日程の中で全試合にフル出場しているだけでも驚異的だが、それら全ての試合でチーム最長となる走行距離を記録している。そのスタミナはもはや「超人」の域に達している。この日の後半に見せた岩本とのコンビは、ヴィッセルの中盤の新しい形として、戦い方の幅をさらに広げたのかもしれない。

スピードスターの帰還

 この日の試合でもう1人忘れることができないのは、負傷からの復帰初戦で決勝点をアシストしたパトリッキだ。73分に永戸との交代でピッチに入ったパトリッキは、積極的な上下動を見せ、ヴィッセルの左サイドを活性化した。78分にはGKを起点としたカウンターに対応。一気に前線まで走り込み、最後はジエゴが左後ろから入れたボールを頭で合わせ、ゴールに流し入れた。この場面では競った相手に対するファウルを取られてしまい、ゴールとはならなかったが、そこに至る流れを含め、コンディションの良さを感じさせた。その後もパトリッキは躍動を続けた。84分にはペナルティエリア内で井手口が左に落としたボールに対して走り込み、身体を倒しながら、抑えの効いたボールを蹴り込んだ。これは相手GKのファインセーブに防がれてしまったが、枠をとらえた見事なシュートだった。圧巻だったのは 85分のプレーだ。ヴィッセルの右コーナーキックが逆サイドに流れ、これを拾った山下が前に出た。当初、山下はそのまま前まで運ぶつもりだったと思われるが、岩本が前に立っているのを見て、ハーフウェーライン手前から前線に蹴り出した。これが美藤、そして左を上がってきたデニス ヒュメットへとつながった。この間、敵陣から一気に戻り、ボールを追い続けたのがパトリッキだった。そして最後はヒュメットにつながったところで足を出して、タッチラインに蹴り出した。この場面でヴィッセルは完全に裏を取られていただけに、パトリッキの奮闘がチームを救った格好となった。持ち前のスピードを活かしたプレーで攻守にわたって活躍したパトリッキが戦列に戻り、復帰初戦で結果を残したことは、この先の戦いに向けての好材料だ。

愚直一途

 この日の試合では、複数回G大阪に決定的なチャンスを作られた。しかしGK権田修一の2度にわたるスーパーセーブ、トゥーレルと山川の鉄壁コンビが見せる守備は固く、最後までG大阪にゴールを許さなかった。明神監督は試合後に「決定力が勝敗を分けた」と悔しがっていたが、リーグ最少失点を続けているヴィッセルの守備力がG大阪を抑え込んだとも言える。この日の試合でヴィッセルの選手は、いつも通りに高いクオリティを発揮し続けた。そこでヴィッセルの選手が見せたのは「基本的なことを高いレベルで遂行し続ける」姿だった。ここでもう一度ゴールシーンを思い出してほしい。エリキのプレスバックで体勢を崩した美藤のプレーを正確に予測し、迷うことなく前に出たトゥーレルの積極性。中谷が弾き返したボールを受ける際、安部をコントロールしながらターンした武藤。ターンすることで視野を確保し、パスコースを見つけた大迫。GKとディフェンスラインの間という「最も嫌がられる場所」に速いボールを蹴り込んだパトリッキといった具合に、基本的なプレーを連続させるという姿勢を貫いた。そしてそれを試合を通して続けたからこそ、得点シーンまでの89分間でG大阪の体力を削り取ることができた。その結果、得点シーンでは、そこまで集中力を保ち続けてきたG大阪にスローインからのトランジションミスや疲労による判断のズレ、2トップにピン留めされたセンターバックの影響による布陣の間延びといったエラーを生じさせた。この得点シーンでG大阪に発生したエラーは単なるミスではなく、ヴィッセルが89分間もの間、負荷をかけ続けた結果として生じたものであり、このゴールは必然だったとも言えるように思う。この日の勝利は「思うように運べなかった試合でも、全員がやるべきことをやり続けたヴィッセル」の粘りが呼び込んだということになるのかもしれない。

次戦に向けて

 この日の勝利によって、ヴィッセルは公式戦の連勝を7へと延ばした。同日行われた他会場の結果を受けて、ヴィッセルはリーグ戦で首位に立った。とはいえ、スキッベ監督もコメントしているように、今の時点で順位表に大きな意味はない。それよりもここまでの公式戦で挙げた8勝のうち6勝が「1点差」であることに注目したい。この勝負強さこそが、今季のヴィッセルの特徴なのかもしれない。次戦は再びの中2日での天皇杯3回戦だ。ここまでの試合日程を考えれば、常軌を逸しているとさえ言いたくなるようなスケジュールだ。それゆえ、大幅なターンオーバーも予想される。対戦相手の鳥栖は、現在J2リーグで15位とやや苦しんでいる。それだけにヴィッセルとの試合で勝利してチームに勢いをつけ、J1復帰への足掛かりとしたいと考えているだろう。だからこそ、この試合に出場する選手たちには、今のチームの流れに乗って戦ってもらいたい。その中で自らの力を示すことが、チーム内の競争を激化させる。それは即ち、チーム力の向上でもある。天皇杯3回戦が、ヴィッセルの未来を照らす一隅となることを期待している。

今日の一番星
[エリキ選手]

難しい局面での登場にもかかわらず、見事なプレーを見せた岩本。その岩本をサポートしながら、走り切った井手口とも迷ったが、今回はヴィッセル復帰から間もない中、大きな仕事を成し遂げたエリキを選出した。エリキの得点力や突破力について疑いはない。どのチームでも確実に結果を残してきた、Jリーグでもトップクラスの力を持つ選手だ。以前ヴィッセルに在籍していた2025シーズンでも、チームトップとなる9ゴールを挙げている。そのエリキだが、以前はウイングでの起用が多かった。そしてそれはヴィッセルにとって「諸刃の剣」ともなっていた。ゴールへの意識が強すぎるがあまり、ポジションを捨てて中に入ってしまう傾向が見られたためだ。そして、そこが相手の反撃の起点となってしまうケースは、何度も見られた。しかしこの日、スキッベ監督はエリキを中央に配置した。ゴールへの最短距離を描きやすい中央に入ったことで、エリキはストレスなくプレーしているように見えた。スキッベ監督は早くもエリキ起用の最適解を見つけ出したのかもしれない。ゴールシーンでは最初から最後まで関与し、主役であり続けた。後半開始からの登場とはいえ、この試合最終盤の局面で美藤への猛烈なプレスバックをしかけたことで、ボール奪取の起点となり、武藤からのボールを引き出す走路取り、そして狭い局面で正確に大迫へ通すパス技術、ラストシーンで一気に福岡の前に出るスプリント力など、文字通り八面六臂の活躍を見せ、決勝ゴールを決めた。試合後にはヴィッセルそしてサポーターへの愛を口にした「帰ってきたストライカー」に、今後への期待も込めて一番星。