覆面記者の目

ACL Elite MD1 vs.ポート タマサート(9/16 21:15)
  • HOMEポート
  • AWAY神戸
  • ポート
  • 1
  • 1前半1
    0後半1
  • 2
  • 神戸
  • オウンゴール(45'+4)
  • 得点者
  • (10')小松 蓮
    (61')武藤 嘉紀



アジア制覇への道
 ヴィッセルにとって5度目となる、アジアへの挑戦が始まった。かつては夢だったAFCチャンピオンズリーグ・エリート(以下ACL Elite)の舞台だが、今やヴィッセルは「常連」になりつつある。これだけでもクラブの成長を実感できるが、ヴィッセルにとっての目標はあくまでも「アジア制覇」だ。明治安田百年構想リーグで優勝を決め、今回のACL Elite出場を決めた後、選手たちは「忘れ物を取りにいく」と口をそろえていた。ヴィッセルの選手たちにとって、今回のACL Eliteは、アジアへの挑戦といった生易しいものではないようだ。5カ月前、中東の地で喫した悔しさを晴らすための戦場であり、その力を自ら証明するための舞台なのだろう。

 このACL Eliteだが、普段戦っているJ1リーグとは全く異なる特殊性をもった大会だ。その主な特徴は3つだ。
 1つはJリーグとは比較にならない長距離移動と時差、そして異なるプレー環境だ。地域ラウンドは東アジアだけの戦いとはいえ、その範囲は広い。そこで生じる長時間のフライトや現地での時差は、蓄積疲労として選手を苦しめる。さらには気候の差、芝の長さや地面の硬さ、ピッチサイズ、スタジアムの雰囲気など、プレー環境の違いも選手たちには小さくないストレスを与える。
 2つ目はレフェリングの違いだ。ACL Eliteでは原則として、第3国の審判団が試合を運営する。そのためファウルやリスタートに関する基準は、試合ごとに大きく変わる可能性が高い。過去、多くのJリーグクラブがこれに悩まされてきた。
 3つ目は外国籍選手の数だ。ACL Eliteでは外国人出場枠の制限が撤廃されているため、チームによっては大半が外国籍選手であることも珍しくない。そうしたチームの場合、単純に「個の力」の集積になっていることが多い。組織的な戦いを得意とするヴィッセルのようなチームにとって、これは「手の合わない」相手となる可能性がある。

 こうした特徴を踏まえてヴィッセルの戦いを考えてみると、カギとなるのは「インテンシティの高さ」と「ハイプレス」であるように思う。この自分たちの「武器」を貫くことが重要なのはもちろんだが、それをピッチの環境やレフェリングに応じてその場で調整・修正する能力が問われる大会とも言えそうだ。そしてこの日行われたポートFC戦も、それが問われる試合だったように思う。

ポートFC
 この日対戦したポートFCだが、成長著しいタイのサッカー界を代表する強豪クラブだ。直近の25/26シーズンではリーグ戦で18勝6分6敗という素晴らしい結果を残し2位となり、さらに同年のリーグカップでは優勝を飾るなど、リーグ戦を制した絶対王者ブリーラム・ユナイテッドと並び、2強を形成している。
 その戦いの特徴を一言でいうと「攻撃力で圧倒する」ということになるだろう。それは25/26シーズンのリーグ戦で記録した30試合・59得点という数字にも表れている。高い位置でのボール奪取を得意としており、そこから一気に相手ゴールへ迫る「縦に速い攻撃」が持ち味だ。そして粘り強い守備も特徴となっている。かつては攻撃力が高い反面、守備は脆く、結果として「派手な試合を見せるエンターテイナー」的なチームだったようだ。しかし近年、外国人監督が指揮を執る中で、大崩れしない粘り強さを身につけたと評価されている。25/26シーズンでは失点を23に抑えた結果、得失点では+36を記録した。9月に開幕した26/27シーズンも2連勝スタートを飾っており、チーム状態も良好だ。

 タイ国内リーグのレギュレーションが、外国籍選手の起用を7人まで認めていることもあり、ポートFCは多国籍軍となっている。以下で主な選手を見てみる。
 チームを牽引しているのは、タイ国籍の3人の選手だ。まず名前が挙がるのは、この日の試合では出場機会のなかったボディン パラだ。そして司令塔を担っているのが、この日、75分に送り込まれたウォラチット カニスリバンペン。タイ代表でも司令塔を務めているカニスリバンペンは多彩なパスで攻撃を操る。そして次世代のエースと言われているのが、63分に登場した23歳のテーラサック ポエイフィマイだ。現地では「タイ代表を担う日も近い」と言われているこの若きストライカーの武器はスピードだ。この日のように途中出場も多いようだが、そのスピードを活かした攻撃で相手守備の裏に抜け出すプレーを得意としている。
 外国籍選手で注目されたのは、この日の試合でフル出場を果たしたエッサム アルスブヒだ。今季から加入した現役のオマーン代表でもあるアルスブヒは、この日の試合でも前線の基準点となっていた。また日本人ボランチの志村謄も、チームにとって欠くことのできない選手であるようだ。志村はこの日の試合でも見せたように、ボランチの位置でハードワークしながら相手の攻撃を潰し、多国籍の攻撃陣を後ろから支えている。

主導権
 こうしたメンバーのそろうポートFCではあったが、主導権は早い時間帯にヴィッセルが握った。4-4-2でセットされたポートFCに対して、ヴィッセルはパスをつなぎながら、その守備ブロックの間をついていった。ポートFCを率いるトリーパン サラーウット監督がヴィッセルの戦いを分析したうえでのものかは不明だったが、この試合におけるポートFCの陣形は低めにセットされていた。ヴィッセルの選手が能力値で上回っていると判断したためかもしれないが、昨季のタイリーグで見せていたような高い位置からのボール奪取を狙う場面が少なかったことも、ヴィッセルが主導権を握るうえでは意味を持っていた。
 早い時間帯に主導権を握ることに成功したヴィッセルだが、その最大の理由はインテンシティの高さだったように思う。パスをつなぎながらポートFC陣内に攻め入ったヴィッセルは、セカンドボールの回収時にこれを存分に発揮した。カウンターを狙っていたであろうポートFCだったが、随所で見られた球際勝負において強さを発揮したのはヴィッセルの選手たちだった。そこから再びパスをつなぎながらブロックの間にボールを通していったことで、ポートFCは前に出るチャンスを見つけられていなかった。

 この差を生み出した要因は「Jリーグ基準のプレッシング強度」と「ゲームモデルの継続性」だったように思う。ポートFCも技術やスピードにおいては素晴らしいものを持っていたが、Jリーグ特有とも言える「息つく暇のないインテンシティの試合」を日常的に戦っているヴィッセルの出足は、ポートFCのそれを明らかに上回っていた。ヴィッセルが見せる連続したプレスは、ポートFCの選手たちからビルドアップ時に必要な「考える時間」を奪い、ミスを誘発した。
 さらにヴィッセルはこの日の試合でも「縦に速く、サイドを使う」という、いつも通りのゲームプランを遂行した。ゲームプランの継続性は、この試合のように「未知の相手」と戦ううえでは、大きな力となる。ポートFCはセオリー通り、試合序盤はヴィッセルの出方を窺うという狙いを持っていたと思われるが、ヴィッセルの「自分を貫く」姿勢を前にしたとき、それは対応の遅れを引き起こしていたように思う。最後の部分ではセンターバックタイプを4枚並べたことで、ヴィッセルの攻撃を跳ね返していたが、そこから攻撃を組み立てる暇をヴィッセルが与えなかった。主導権を握っている時間帯に生まれた先制点も、このゲームプランを継続した結果と言えるだろう。



先制点
 試合開始直後に主導権を握ったヴィッセルは、10分という比較的早い時間に先制ゴールを挙げた。まずはこの場面を振り返ってみる。
 きっかけは、今や完全にヴィッセルの武器となったジエゴのロングスローだった。左からジエゴが投げ入れたボールは、ゴール前中央まで飛んだ。これを右サイドバックの髙橋壱晟が頭でファーサイドに逸らした。ファーポスト傍に落ちたこのボールに、前線中央の小松蓮に走りこみ、右足でダイレクトに流し込んだ。この小松のシュートは、身体を投げ出したGKの足に当たりポストを叩きながらも、ゴールに吸い込まれた。ジエゴのロングスローに関する情報をポートFCがどの程度持っていたかは不明だが、髙橋が頭に当てたあと、ポートFCの守備陣は全く動けなかった。ひょっとするとロングスローのスピードや精度に面食らったのかもしれない。ボールの落ちる位置を予測して走りこんだ小松の嗅覚、そして確実に右足のインサイドで正確に蹴った落ち着きも見事ではあったが、ポートFCの守備陣にとっては「初見ゆえの戸惑い」があったのかもしれない。このプレーの後、ジエゴのスローイン時にポートFCの選手たちが主審にカウントを早く取るように要求していたのは、これが脅威だと実感したためだったのではないだろうか。

 このロングスローからの勝負も、ヴィッセルの継続されているゲームプランではあるが、ここに至る過程にも注目してほしい。この得点シーンの1分半ほど前、ポートFCはヴィッセル陣内でのスローインを獲得した。右サイドバックに入っていたピーラワット アクラトゥムが投げ入れたボールを受けたのは、ゲームメーカーであるアルスブヒだった。ペナルティエリア右角付近でボールを受けたアルスブヒの前には、ヴィッセルの守備陣形が整っていたため、アルスブヒは中央を背後から上がってきた味方へのバックパスを選択した。そしてこれに反応し、一気に走りこんだのが右ウイングの飯野七聖だった。飯野はこのボールを受けようとしていた相手選手との球際勝負を制すると、そのままスピードを落とすことなく前に出た。これに呼応して、最後方に残っていたディフェンス2枚の間に立っていた小松も前に向けてスプリントを開始した。右に開くように動いた小松を見て、飯野はそこにパスを出し、自らは中央を上がっていった。小松はポート陣内のペナルティエリア5mほど手前で止まり、自分についてきたマルセル スカレゼを外した。もう1人のディフェンダーであるマヌエル ビールはボールを見ながら戻っていたため、飯野はペナルティアーク手前でフリーになっていた。そして小松は迷うことなく、飯野に左足でパスを出した。このボールを受けた飯野のシュートはビールにブロックされたものの、こぼれたところには背後から上がってきた右ウイングの永戸勝也が走りこんでいた。そしてゴールライン上から永戸が入れたクロスを、相手選手がヴィッセルの左タッチラインに蹴り出した。結果的にここからワンプレー挟んでジエゴのロングスロー、そして先制点へとつながっていったのだが、ヴィッセルの縦に速い攻撃が局面を反転させた好例と言える。

スピードキングからの脱却
 この試合で序盤、ヴィッセルの攻撃を牽引した1人が飯野だった。積極的に前に出る姿勢を貫きつつも、味方の位置を常に確認しながら、緩急をうまく使い分けることで、右サイドを制圧していた。かつてはスピードで前に出た後の展開に課題を持っていた飯野だが、そのスピードを活かしつつ、味方が前に上がる時間を作るプレーを習得したことで、単純な「スピードキング」ではなくなった。今の飯野は「サイドの槍」となって、ヴィッセルの武器となった。こうした飯野の成長も、継続されたプレーモデルがあればこそだ。
 この日の試合では調子も良さそうだっただけに、前半終了間際の負傷交代は無念だったことだろう。しかし飯野の力は十分に示された。今は軽傷であることを祈るのみだが、この日の感覚を忘れることなく、再びピッチに立ったときには躍動する姿を見せてほしい。



影響を及ぼしたピッチ状態
 この日の試合は、気温28℃・湿度84%という蒸し暑さに加え、試合前から降り続いていた強い雨の影響を受け、重いピッチでの試合となった。このような状況下ではグラウンダーのパスは途中で止まり、弾んだボールはイレギュラーバウンドするというリスクが生じる。しかしヴィッセルの戦いの幅が、ここでは活きた。前半はボールを持つ時間が長かったヴィッセルだが、前線へのロングボールという戦い方もあるため、ピッチ状態がもたらす不利を最小限に留めることができた。これに対してポートFCは、試合会場が自分たちのホームスタジアムではないということもあり、本来ホームチームが持っている「地の利」を活かすことができなかった。むしろポートFCの戦い方である「縦に速い攻撃」がスピードダウンする場面も多く、思ったような戦い方を貫くことができなかったように見えた。

 とはいえこの環境はヴィッセルにも3つの厄災をもたらした。
 1つは前記した飯野の負傷だ。ぬかるんだピッチは、選手の足にかかる負担を増大させる。芝が足に絡みつくような感覚となり、いつも以上にパワーを必要とする。そして飯野のようにダッシュを繰り返す選手ほど負荷がかかり、その影響を受けやすい。

 もう1つは失点だ。まずはそのシーンを振り返ってみる。前半終了間際、ポートFCに右コーナーキックが与えられた。ブラジル人選手のカカ メンデスが左足で蹴ったボールは、ゴール前中央でGKの権田修一がパンチングで弾き出した。これをペナルティエリア外で拾ったのが、左サイドハーフのブルーノ モレイラだった。ブルーノの前には、飯野との交代で入ったばかりの武藤嘉紀が素早く寄せたが、ブルーノは外に開くように動き、これをかわした。そしてペナルティエリア内に侵入して、切り返しから右足でのクロスを入れた。このボールはファーサイドを正確に捉えており、これにアルスブヒが頭で合わせた。このヘディングシュートがゴール前で跳んだ小松に当たり、ゴールに吸い込まれた。結果的に小松のオウンゴールとはなったが、侵入方向と逆に展開し、再度逆に振り直すという、守備側にとって守り難いボールであったことは事実だ。アルスブヒのシュートコース方向には権田が構えていたとはいえ、これはポートFCに崩された結果というべきだろう。
 このシュート場面でピッチ状態が影響したと思うのは、権田が弾き出したボールがブルーノのもとに飛んだシーンだ。ここでブルーノは寄せてきた武藤のベクトルを折るように動いたのだが、ボールが芝に食われ、ブルーノにとって「いい具合」に減速した。武藤の寄せ方は、ブルーノにボールをコントロールさせないだけのスピードとコースだったのだが、それを巧くかわされてしまった。そう考えればこの失点は「アクシデント」であるようにも思えるが、ここはポートFCのコンビネーションを素直に称えたい。

 もう1つは守備位置の乱れだ。そしてこれがこの試合における、ヴィッセルの最大のリスクだったように思う。
 前半はポートFCの選手にディフェンスラインの裏を取られる場面が散見されたが、これはヴィッセルらしくないプレーだった。それはそこに至る前のポジショニングが原因だ。前半はボールを支配していたこともあり、ヴィッセルの守備ラインは高いポジションを取っていた。普段であれば、GKもそれに合わせて高い位置を取る。これによって、裏にこぼれたボールはGKが処理するという態勢が整う。しかしこの日の試合ではGKがそれほど前に出てこないため、最終ラインの裏にこぼれたボールに対しての責任が曖昧になっていた。
 一般論的に言えば、ピッチ状態が悪い中でハイラインを採用する際は、通常時よりも失点リスクは高くなる。これを回避するためには4つの鉄則を守らなければならない。それは「プレスの徹底」、「ステップの余裕」、「バックパスの回避」、そして「GKの守備位置の調整」だ。ここで問題となるのは4つめだ。ハイラインの背後のスペースは、原則としてGKが飛び出してクリアする。しかしそこにはリスクがある。濡れたピッチではボールの挙動は不安定になる。さらにGKが飛び出した際に足を滑らせようものならば、即無人のゴールが生まれてしまう。そのためGKは通常よりも深い位置を取り、ボールの挙動を慎重に見極めることになる。こうした原則に応じれば、GKの権田のポジショニングは正しかったということになるのだが、全体が押し込んでいたことを思えば、山川哲史とカエターノのセンターバックコンビが作り出したハイラインも理に叶っていた。
 ここで筆者が問いたいのは、どちらが間違っていたかということではなく、GKとセンターバックの間で意思疎通ができていたかということだ。この日の試合ではカエターノの巧い対応もあり、裏にこぼれたボールから失点することはなかったが、この先の戦いを見据えたとき、こうした点については慎重に意思決定をしてほしい。

スキッベ監督の采配
 ヴィッセルは圧倒的に試合を支配しながらも、前半を1-1のドローで折り返すことになった。得点シーン以外にも複数回ゴールに迫る場面はあったが、自らのシュートミス、そしてポートFC守備陣のゴール前を固めた守りもあり、得点を奪うには至らなかった。その過程でピッチ状況が少なからず影響を及ぼしていたことは事実だ。そのためスキッベ監督は、このピッチ状況の中でも威力を発揮する「強力な武器」を投入した。それが後半頭から投入された大迫勇也だ。これによって大迫&武藤というヴィッセルが誇る2枚看板がピッチに揃った。彼らは卓越した技術の持ち主として知られているが、この日のようなタフなピッチでこそ真価を発揮する「フィジカルモンスター」でもある。相手選手が疲弊し、加えてピッチの重さで寄せが遅れる中、大迫の起点としての動きと武藤の前に出ていく強さは、確実にポートFCにとっての脅威となっていた。この先の日程を考えれば、大迫や武藤は温存したいという考えもあったように思うが、ACL Elite初戦で勢いをつけたいと考えれば。この両者の投入は合理的な判断ということになる。そしてこの2人が決勝点を生み出したことは、決して偶然ではない。



第3の男と決勝点
 大迫&武藤が決勝点を挙げるうえでは、もう1人の選手の果たした役割が大きかった。それは髙橋だ。この日の試合でも髙橋は抜群の動きで、チームを活性化し続けた。そして何より目を惹いたのは、この日のピッチコンディションを苦にしない力強さだった。この動きこそが「雪の中でもボールを扱える」と言われる青森山田高校出身者らしさなのかもしれない。この日の試合でも髙橋はハーフスペースにポジションを取り続け、サイドに蓋をするだけではなく、前に向けての起点となり続けた。

 決勝点のシーンで髙橋は、左からめぐってきたボールを右タッチライン際まで開いて受けた。そしてマークに来る相手選手が遅れているのを見て、敢えて一度動きを止め、相手を呼び込んだ。それによって相手守備の目を引き付けたうえで中に動き、中央を下がってきた大迫に楔のパスを入れた。
 次は大迫だ。それまでペナルティエリア内にいた大迫は、髙橋が中に切れ込んだのを見て一気に5mほどポジションを落とした。後ろ向きに3人を置き去りにした格好ではあったが、この動きによって相手の目を引き付け、その背後にスペースを作り出した。
 その大迫からのボールを受けた武藤だが、右足でボールを受け、そのままゴール方向に前進し、最後は相手GKの頭上を超えるシュートでゴールネットを揺らした。試合後に武藤は「相手の裏のスペースがウィークポイントに見えていた」と語ったが、その意識を大迫と共有できていたのだろう。そのうえでファーサイドの味方も見えていたが、寄せてきた相手選手の位置がクロスを防ぐ可能性が高いと瞬時に判断し、GKの頭上を通す意識で、相手のタイミングを外して撃った判断力と技術は「さすが」の一言に尽きる。
 このゴールにかかわった3人が3人とも、正確な状況判断と技術を駆使した結果であり、見事なゴールだった。

勝利の意味
 決して思い通りに運んだ試合だったというわけではないが、価値のある勝利だったように思う。劣悪なピッチ環境は技術的優位を消し去り、戦ううえでの足枷となる。しかしヴィッセルはその技術と「強固なフィジカルと高いインテンシティ」を兼ね備えた「戦闘集団」でもある。そのためこの日のような劣悪なピッチを、ロングスローや空中戦といった武器を駆使する場に変換できる。これこそが「何もかもがJリーグとは異なる」ACL Eliteのアウェイゲームにおける戦い方だ。アジアの頂点を狙ううえでは、こうした強さが必要なことを、ヴィッセルはクラブ全体が認識している。それを再認識することができた試合でもあったように思う。

レフェリング
 最後にレフェリングについても触れておく。ピッチ状態が悪かったため、意図せぬコンタクトプレーも多く、審判団にとっても難しい試合だったことは間違いない。この試合を運営した韓国を中心とした審判団は、最後まで抑制的に試合を運営しようと試みていた。しかしその基準がJリーグとは異なっており、判定基準は最後まで不明瞭だった。中でも72分に相手選手のシュートを至近距離から顔面に受けた権田に提示されたイエローカードは、理解に苦しむ。あの場面で主審は権田を気遣って試合を止めたものと思っていたのだが、権田の遅延行為と判断したのは明らかに判断ミスだったと思う。さらにその判定に対してVARが介入しなかったことも、この疑問を深くした。
 しかしゴルフ解説でお馴染みの戸張捷氏風に言うならば「これがACL Eliteです」ということになるのかもしれない。この日のような不可解な判定や、敗戦チームからMatch of MANが選出されるなど、我々には納得し難い出来事は、この先も起きる可能性が十分にある。しかしそうしたものを乗り越えた先にしか、アジアの頂点はない。

次戦に向けて
 ヴィッセルはこの日の試合から中3日で、G大阪とのアウェイゲームに臨まなければならない。タイからの移動距離を考えれば、過酷としか言いようのない日程ではあるが、今のヴィッセルにはそれを粛々と受け入れる選手がそろっている。過酷な日程は強豪チームの宿命であることを知っているためだ。そして過去の経験から、それが成績に対する言い訳にならないことも、選手たちを筆頭にクラブ全体が認識している。クラブの総力を挙げてリカバリーに取り組んだうえで、近隣のライバルとの一戦に臨むことになるのだろう。
 だからこそサポーターの皆さんには、1人でも多くスタジアムに足を運んでもらいたい。この日、タイの地でも響いていたヴィッセルサポーターの声援は、選手たちの疲れた身体を動かす原動力となるだろう。

今日の一番星
[権田修一選手]

この日も異次元の運動量でチームを支えた井手口陽介、決勝点の起点となった髙橋も候補だったが、何度もスーパーセーブでチームを救った権田を選出した。シュート数22対6という数字が示すように、展開としてはヴィッセルが圧倒していた。しかし劣悪なピッチ状態、スピードに優れたポートFCの外国籍選手を中心とした攻撃力を考えれば、一歩間違えれば引き分けもあり得た試合だった。しかしヴィッセルにはピンチを悉く防ぎ、チームを最後尾から支える権田がいた。72分にはゴール前のこぼれ球からルーカス トカンティンスが至近距離から放ったシュートに対して、権田は驚異的な反応を見せ、顔面でこれを防いだ。セカンドボールに反応したジエゴがピッチに足を取られるというアクシデントから訪れたピンチだっただけに、これを決められていたら試合結果は異なるものになっていた可能性もある。さらには前述した不可解な判定への落ち着いた対応は、経験値の違いを感じさせると同時に、安心感をチームに与えた。大迫と武藤が見せた「理不尽な個の力」が攻撃の勝因なら、「アジアのアウェイ」という魔物にチームが呑まれるのを防いだ権田の「個の経験値」が守備の勝因だ。1失点こそ喫したものの、濡れたピッチ、判定、一発のあるブラジル人攻撃陣という三重苦を前にして、好守を連発した権田の存在こそが、ヴィッセルに価値あるACL Elite白星発進をもたらした。未だセーブ技術は衰え知らずであり、キック精度も高いレベルを維持している。自らの言葉でチームを鼓舞することのできる「頼れる兄貴分」に敬意を表して一番星。