
勝利の意味
試合後の会見においてミヒャエル スキッベ監督は「Jリーグのトップチーム同士による、素晴らしい内容の試合になったと思う」としたうえで、「この試合のパフォーマンスに関しては心の底から満足していますし、今シーズンも競争力があるチームになってくれると期待させるような試合内容でした」と選手たちを称えた。どんな試合の後もネガティブな発言はせず、選手に対してのリスペクトを失うことのないスキッベ監督ではあるが、この日のコメントは額面通りに受け取ってもよさそうだ。
8月のシーズン開幕直後にヴィッセルが見せていた姿は、本来のものではなかった。理由は2つだ。1つは新しい戦い方への取り組みが途上であること、そしてもう1つは主要メンバーに負傷者が複数発生したことだ。言葉にしてしまえば簡単ではあるが、本来であれば、これは非常に危険な状態だ。こうした躓きから年間を通じて低迷したチームなど、それこそ枚挙に暇がない。しかしヴィッセルは、そこまでの事態には陥らなかった。その理由は、過去数年間にわたって様々な経験を積み重ねてきた選手たちの力があったためだ。これこそがチームの底力でもある。そしてヴィッセルはしぶとく勝点を積み重ね、第4節のC大阪戦から前節のV長崎戦まで3連勝を飾り、首位と勝点3差の2位へと順位を上げた。この間に徐々にではあるが、負傷者も戦列復帰を果たしつつある。さらには、昨季のJ1リーグでヴィッセルの一員として活躍したエリキも加入した。こうしてチームは戦力の厚みを増しながら、本来の強さを取り戻しつつある。
タイトル獲得を狙うヴィッセルにとって、この日の対戦相手の鹿島が「倒さねばならないライバル」であることは間違いない。Jリーグ最多の優勝回数を誇る鹿島には「勝者のメンタリティが根付いている」と評する人は多い。これは長期に渡り、勝利を積み重ねてきたが故の評価であり、それをクラブも誇りとしている。昨季のJ1リーグではヴィッセルの3連覇を阻み、先の明治安田百年構想リーグ(以下特別大会)でもタイトルを争った鹿島だが、今季は開幕から4連勝と好スタートを切った。しかし、ここにきて連敗を喫している。まだシーズン序盤であり、1つの勝敗に一喜一憂する時期ではないが、タイトル獲得を狙ううえで連敗を避けたいのは当然だ。さらに言えばこの日の試合会場であったノエビアスタジアム神戸は、特別大会プレーオフラウンド初戦で5失点を喫した場所でもある。この日の試合に際して、鹿島が並々ならぬ決意で臨んでくることは間違いなかった。
こうした条件が重なった試合でヴィッセルは勝利を挙げ、連勝を4へと伸ばした。この結果が、いよいよ開幕するAFCチャンピオンズリーグ・エリート26/27(以下ACLE)初戦に向けての弾みをつけると同時に、チームの勢いを加速させる原動力となることは間違いないだろう。
布陣におけるポイント
「J1リーグ連覇」を目指す鬼木達監督がこの大一番で選択したのは、基本布陣である4-4-2ではなく4-2-3-1だった。
この布陣変更の背景には、今季の鹿島が抱える戦術的ジレンマがあったように思う。今季清水から加入し、中盤の軸として期待されていたボランチのマテウス ブエノは、ボールを奪って前に出ていく爆発的な推進力、攻撃のクリエイティビティにおいて優れた能力を発揮するタイプだ。しかしその反面、ボランチの位置で相手の攻撃を正面から受け止め、スペースを埋め切るような「守備の粘り強さや管理能力」には不安を残しており、これが直近の試合では顕在化しつつあった。
そこで鬼木監督は「ブエノを1列上げることで、守備の負担を減らしつつ、彼の前に出る強さをトップ下で活かす」という決断を下した。しかし、ブエノはサイドアタッカーではないため、これをトップ下に据えるとなれば、必然的に2トップのどちらかを玉突きでサイドへ回さなければならない。ここで鬼木監督は、戦術的インテリジェンスとキープ力、ピッチのどこに顔を出してもクオリティを担保できる鈴木優磨を左サイドハーフに配置した。またレオ セアラのコンディション不良という事態を受けて、最前線には19歳の徳田誉を起用した。徳田は19歳とはいえ、その能力に疑いはない。鹿島ユース在籍時に2種登録選手として、トップチームでの出場を果たし、クラブ最年少記録(17歳6か月27日)でのゴールを挙げている。そして先般開催されたAFC U20アジアカップ予選でも、ヴィッセルの濱﨑健斗や瀬口大翔とともに全試合に先発出場、3試合で5得点を挙げる活躍を見せた。徳田は高い決定力に加えて、ポストプレーにも特徴を持った選手だ。そのため、前線での起点となることもできると鬼木監督は判断し、ワントップでの起用に踏み切ったのだろう。そしてボランチには守備に安定感のある三竿健斗と、若手の津久井佳祐を並べ、中央のプロテクトを試みた。これによって両チームのピッチ全体の均衡がとれた試合になったように思う。その結果、スキッベ監督が試合後に「我慢比べ」と評した前半の流れが決まったのだろう。
2つの勝因
この試合を勝ち切れた裏側には2つの要因があったように思う。それは「中央での勝利」、そして「右サイドの勝利」だ。これらは全て鹿島の狙いを潰しつつ、ヴィッセルの優位性を確立するうえで大きな意味を持っていた。以下で詳しく見ていく。
1.中央での勝利
この試合で鬼木監督が最も期待を寄せていたのは、前記したブエノだったように思う。ブエノの前に出る強さを活かすための布陣変更を行った以上、ここが攻撃の起点となり、ヴィッセルの最終ラインを押し込んでいきたかったはずだ。しかしここに立ちはだかったのが、この試合でもアンカーとして先発、フル出場を果たした酒井高徳だった。酒井がブエノの特徴を緻密に消し去ったことで、ブエノはなかなか前を向くことができず、攻撃に関与する回数も少なかった。ブエノ自身はこれまでよりもやりやすさを感じたようであり、試合後にはポジティブな言葉を残したが、存在をアピールするような場面はほぼ見られないままだった。
酒井がブエノを封じるうえで披露したのは、「球際の強さ」のような単純なプレーではなかった。そのポイントは2つあったように思う。
まずは鹿島のボランチである三竿と津久井がボールを持った際の対応だ。三竿、津久井ともブエノを使うにあたって意識していたのは、「ブエノを前に出す」ということだった。酒井はこれを理解していたため、三竿や津久井がボールを持った際には、ブエノの背後を取っていた。その際には自らの背中にブエノを置くように意識し、ブエノの動きに合わせてポジションと身体の向きを微調整し続けた。これによって三竿や津久井からブエノへのパスコースが消えたため、ブエノは「前に出ながらパスを受ける」ことができなかった。
次はブエノにボールが入った際の対応だ。背中でブエノを消し去れないとき、酒井はブエノがボールに触る直前を狙って身体を寄せていった。これ自体は基本的なプレーだが、ここで注目すべきは酒井の身体の向きの作り方だ。ブエノは受けたボールを前に運びたいため、酒井の来る方向を外しながら身体を半身にしてターンしようと試みていた。ここで酒井は敢えて寄せる方向を意識させた上で、軸足側に寄せていったのだ。要はアプローチする方向でブエノの動きを制御し、動かれる前に軸足側のスペースに身体を入れることで、反転するためのステップを踏ませなかった。この結果、ブエノは前を向くことができず、ボールを下げる場面が散見された。
こうした緻密なテクニックを駆使した酒井の守備対応によって、トップ下のブエノは中央で釘付けになった。いわゆる「ピン止め」という状態だ。この酒井のプレーは、中央の守備に連動性をもたらした。ブエノが酒井のマークを嫌い、左右のハーフスペースに流れてボールを受けようとしたとき、酒井は深追いすることなく、ポジションを落としてきた井手口陽介や郷家友太にマークを受け渡した。その上でブエノがボールを受けるときには、酒井が横から挟み込む形でボールを奪った。こうした酒井の対応によって、ブエノは逃げ場を失う時間が長くなり、鬼木監督が期待した、ブエノをハブとした攻撃は機能しなかった。それが鹿島の攻撃から厚みを奪い取り、中央の主導権をヴィッセルが握った。
「守備のマルチローラー」ともいうべき酒井の存在は、ヴィッセルにとって最大の武器とも言える。アンカーという、ヴィッセルの布陣における「肝」を酒井に任せるというスキッベ監督の采配は単なるスクランブル(緊急対応)ではなく、明確な防壁として設計されたものだった。

2.右サイドでの勝利
この日の試合でヴィッセルにとって最も警戒すべきポイントとなったのは、右サイドだった。理由は器用さのある鈴木がここに立ったためだ。鹿島の攻撃を見たとき、得点を挙げているのはレオ セアラではあるが、前記した特徴を活かし、そうした場を作り出しているのが鈴木であることは明らかだ。その鈴木をいかにして封じ込めるかという点は、鹿島と戦ううえでの最大のポイントとも言える。そしてこの日のヴィッセルは、緻密に設計された右サイドの守備で鈴木を封じ込めた。
鈴木は卓越したキープ力と得点力を併せ持つ万能型のアタッカーではあるが、純粋なウイングプレーヤーのようにスピードで大外を抜いていくタイプの選手ではない。そのため、どうしても守備の基準点をずらすために、外から内側のハーフスペースへと絞りながらボールを受け、そこからスルーパスや逆サイドへの展開を狙う動きが多くなる。ヴィッセルの守備陣はこの特徴を把握した上で、徹底して鈴木の中へのコースを切り続けた。これによって鈴木が得意とする「内側を向いて右足で展開する」形を封じたのだ。
ここで際立った活躍を見せたのが右サイドバックの髙橋壱晟だった。髙橋は、鈴木から逃げることなく内側へのコースを切りながら、何度もボールを刈り取った。そしてボールを奪った後は、巧い前進を見せ、戦場をゴールから遠ざける役割も果たした。こうして髙橋が鈴木を前線から消したことで、ヴィッセルは右サイドを主戦場として戦うことができた。
出場する試合では確実に期待以上の動きを見せている髙橋だが、この日の試合でも素晴らしい動きを見せた。中でもボール保持時のポジショニングは素晴らしく、鹿島の左サイドに難しい対応を迫っていた。
例えば21分のシーンだ。ハーフウェーラインより10mほど手前からのリスタート時、髙橋は鈴木を連れた格好でハーフスペースの右前に立っていた。そして山川哲史が中央のマテウス トゥーレルにボールを出したタイミングで外に開いた。当然ここでは鈴木も一緒に動いた。次にトゥーレルが山川にボールを戻したとき、山川は鈴木の正面に立った。両者の距離は15m程度あったと思うが、山川が縦に差し込む可能性を考え、鈴木は山川に目を向けた。ここで髙橋はゆっくりと動き出し、山川がボールを蹴ろうとしたときには、鹿島の最終ラインと同じ高さまで進出していた。そして左サイドバックの小川諒也と競る形で前に出て、体勢を崩しながらも競り勝ち、中央に柔らかいボールを入れた。この一連の動きの中で、ボールの位置から鈴木の視線を計算し、ポジションを外→縦と動かすことで、鈴木を無効化したのだ。そして試合後にコメントしたように、このプレーで鈴木と小川の縦の連携に難があると見抜いた眼力も素晴らしい。
また65分のシーンでは、ボールを縦に持ち運ぶことができる選手であることを示した。65分に左サイドを抜け出した松村優太が中央のチャブリッチを目がけてクロスを入れた。これはチャブリッチの前に出たトゥーレルがクリアしたのだが、そのボールを拾ったのが髙橋だった。このとき髙橋はゴールエリア右角という危険な位置におり、その前のペナルティエリア最外には井手口が立っていた。リスクを遠ざけるという意味では井手口に渡すという選択肢もあったのだが、ここで髙橋は冷静に状況を判断、自らがドリブルで前に出た。このとき髙橋は外に開きながら、両足どちらでも蹴ることのできる準備をしていた。そしてミドルサードに差し掛かる辺りまで前に出て、後ろにいた井手口に、自分を追い越すための時間とスペースを渡した。その上で相手を十分に引き付けてから井手口を使ったため、ヴィッセルはそこから右サイドを抜き、チャンスを創出した。
この場面で注目してほしいのは、髙橋が大きく蹴り出さなかったことだ。そうしたプレーが必要な時もあるが、それは時として、相手の反撃につながってしまう。かつてヴィッセルで指揮を執っていたフアン マヌエル リージョ氏が「慌てて蹴ったボールは、倍のスピードで敵と一緒に帰ってくる」と警告していたプレーだ。しかしこのシーンのように前にスペースがある場合、そこをボールホルダーが使って前進することができれば、それは危険を遠ざけつつ、チーム全体を前に向けることにつながる。「低い位置からの仕掛け」ができる髙橋の加入は、ヴィッセルの戦い方の幅を広げた。
武藤嘉紀
この日の試合で先発に復帰した武藤だが、得点に絡むことはなかったものの、コンディションが良化していることを感じさせてくれた。
攻撃時にはパワフルなドリブル突破で「右の鋭い矛」として機能しながらも、ボールが鹿島に渡ったネガティブトランジションの瞬間、凄まじいスプリントで自陣深くまでプレスバックを敢行し、ピンチの芽を摘み取り続けた。そして高橋が縦へ誘導した鈴木に対して、武藤が背後から、あるいは横から挟み込むことで、鈴木に自由な視野と時間を与えなかった。この武藤の存在があったからこそ、髙橋は鈴木との距離を測りながら守ることが可能になった。そしてヴィッセルの右サイドは最後まで優位性を保ち続けることができたのだ。
これによって、鹿島がボールを奪い返した瞬間、本来であればカウンターの基準点となるべき鈴木が低い位置にいる状態が頻発した。その結果、最前線の徳田も孤立する時間が長くなった。この日の試合はヴィッセルの中盤、および右サイドの組織的ハードワークが、鬼木監督のシステム変更の目算を狂わせた試合だったとも言えるだろう。
ジエゴの腕
ヴィッセルは前半から試合を優位に進めながらも、鹿島のセンターバックである植田直通とキム テヒョンの強固な中央ブロックを前に、流れの中からはあと一歩で得点が奪えずにいた。そんなゲームの均衡を破ったのは、この日も攻守にわたってエネルギッシュなプレーを続けていた左サイドバックであるジエゴの「腕」だった。
ジエゴは、この試合の陰の主役とも呼ぶことができる。得意のロングスローを使ってPK誘発、そしてゴールと全得点に絡んだためだ。ジエゴのロングスローは低く速いストレート系のボールだ。そのため相手がセットしていたとしても、対応は難しい。そのため強制的にゴール前にカオスを作り出すことができる。
50分、ヴィッセルは敵陣左サイドのタッチライン際でスローインを得た。ここでジエゴが投げ入れたボールは、鋭い弾道で鹿島のゴール前へと飛んだ。このボールに対しては、攻撃参加していた山川が、守備に戻っていた鈴木と空中で競り合った。ここでポイントとなるのはジエゴが狙った場所だ。植田やキム テヒョンといった純粋なセンターバックではなく、山川にとってはミスマッチとなる鈴木の頭上を狙ったのだ。この狙いは、山川の優位性を活かすという意味では理に叶っていた。そして、そこに正確に投げ入れたジエゴのコントロールも見事だった。
山川と鈴木が空中で激しく競り合った結果、ボールはどちらのモノにもならず、両者の真ん中の足もとへこぼれ落ちた。これにいち早く反応したのは、競り合いから着地した山川だった。山川は瞬時に身体を反転させ、右足を振り抜いてシュートを放った。この至近距離からのシュートは、鹿島のディフェンス陣が決死のブロックでクリアしたが、プレーが切れた直後、VARが介入した。山川のシュートに対してブロックに入った小川の右手にボールが接触していたためだ。そして長いチェックを経て、ヴィッセルにはPKが与えられた。
このPKを蹴ったのは、ヴィッセルの絶対的エース・大迫勇也だった。そして大迫は落ち着いて相手GKの動きを見極め、中央やや左上という難しい位置に蹴り込んだ。流れの中での崩しに手を焼いていたヴィッセルではあったが、ジエゴのロングスローという「飛び道具」によって、見事に鹿島の堅牢な壁をこじ開けた。
ジエゴの足と山川の頭
同点に追いつかれたわずか4分後の76分、今度はジエゴの「左足」と、この日ピッチ上で展開されたドラマの中心にいた山川の「頭」が、スタジアムを沸かせた。
きっかけはまたもやロングスローだった。ジエゴが再び左サイドから投げ入れたロングスローは、一度は鹿島の守備陣によってペナルティエリア外へと跳ね返された。しかし、ここでペナルティエリア外に構えていた酒井が、抜群の予測能力でこのセカンドボールを回収し、再び左サイドのタッチライン際に開いていたジエゴへとボールを戻した。ボールを受け直したジエゴの前には、途中交代で投入されたヤン マテウスとチャブリッチが並び、中への侵入を防ごうとしていた。ここでジエゴはクロスを上げるのではなく、ヤンとチャブリッチの間を縫うように、ペナルティエリア内の左ハーフスペースへ向け、斜めに鋭い楔のパスを差し込んだ。このパスに反応したのは、ロングスローに対してニアに立っていたトゥーレルだった。トゥーレルは身体の角度を変え、ワンタッチで左前方のスペースへとボールを丁寧に落とした。パスを出してすぐさまインナーラップを開始していたジエゴが、このトゥーレルの落としを鹿島守備陣の裏で受けた。鹿島の右サイドの守備組織は、このブラジル人コンビによる息の合った完璧な崩しによって、一瞬にしてステップを乱された。そしてジエゴは左サイドのポケット手前からワンタッチでクロスを入れた。これに対して鹿島の守備陣は前に出ることができなかった。そしてボールの着弾点に立っていた山川は、正確にボールの軌道に頭を合わせた。完璧にミートされたヘディングシュートは、ニアサイドの狭い隙間を抜けて、ゴール左へと突き刺さった。
ロングスローという個の武器から、酒井のセカンドボール回収、そしてジエゴとトゥーレルというディフェンス陣の組み合わせによる流麗なコンビネーション、最後はセンターバックの山川の見事なヘディングシュートという「戦術的再現性と個のクオリティ」が見事に融合した、素晴らしいゴールだった。
ホームゲームで試合を完全に支配しながらも、相手を崩しきれない中、漸く奪ったリードを、相手の交代策一発で同点に追いつかれたという事態は、普通であればチームの動揺を誘う。しかし、数々の修羅場を潜り抜けてきたヴィッセルというチームが持つメンタリティは、並のクラブのそれを遥かに凌駕していた。同点弾からの4分間、誰一人気落ちすることなく前に出続けた気持ちの強さが生み出した勝ち越しゴールだったと言えるだろう。
失点シーンでの対応
時計の針を少し戻す。先制を許し、このままでは3連敗を喫することになる鬼木監督は、交代策によって流れを変えようと試みた。
65分に鬼木監督は大幅なメンバー交代と布陣変更に踏み切った。布陣を鹿島の基本形である4-4-2に戻し、右サイドバックに小池龍太、右サイドハーフにヤンを入れた。そして鈴木を前線に戻し、ブエノもボランチへと戻した。そして鈴木の相方としてチャブリッチを投入した。これによって鹿島の右サイドは全て入れ替わった。このユニット交換が同点弾を生み出した。
この同点弾を生み出した功労者は、やはり鈴木だった。鹿島の左スローインを受けるためにポジションを落とした鈴木は、ダイレクトで逆サイドに展開した。鈴木の動きに気付いた井手口がその後を追ったが、間に合わなかった。右サイドでこのボールをきれいに受けた小池はそのまま前に開き気味のロングパスを送った。これを受けたのはヤンだった。ヤンは右ペナルティエリア角付近で、マークについていたジエゴをストップアンドゴーでかわし、中央にクロスを入れた。これを受けたチャブリッチには山川がついていたが、背中で山川を止めながらこのボールを受け、反転してのシュートをゴールに流し込んだ。
鈴木がサイドを変えてからわずか15秒足らずの間に完結した「電光石火」とも呼ぶべきこのゴールは、戦術的な劣勢を鈴木のインテリジェンスとフレッシュな選手が放つパワーで跳ね返したゴールでもあった。しかしこれはヴィッセルにとって悔やまれる失点でもあった。試合後に山川が「安い失点だった」と振り返ったように、チャブリッチのスクリーンへの対応には若干の問題があったように思う。
まずは身体の角度だ。チャブリッチのように身体の強さを持ったストライカーに対して真後ろから正対するのは、スクリーンの餌食となりやすい。理想を言えば、半身の体勢を取り、チャブリッチの肩越しに自分の身体と足を潜り込ませるべきだったのだろう。さらに言えばあの場面ではボールの進行方向が軸になる可能性が高かったため、チャブリッチの左側に足を差し込んでおけば、スムーズにターンすることは防げた可能性が高い。
もう1つの可能性は、敢えて半歩程度の間を空けてのディレイという方法だ。チャブリッチに後ろを向かれていたことを思えば、そこに身体を当てるのではなく、行動を見極める距離を取ってもよかったのかもしれない。それによって軸足と回転方向を見定めていれば、反転した瞬間に合わせて、足や身体を出すこともできたのではないだろうか。
次戦に向けて
この日の試合でヴィッセルは無事に勝点3を積み上げて、勝点を16へと伸ばした。昨季から続く鹿島とのライバル関係を考えたとき、シーズン序盤に内容の伴った勝利を挙げたことは、大きな意味を持っている。そしてこの試合で得た勢いをもって、中4日で待ち受けているACLE初戦に臨めることは幸いだ。
中4日というスケジュールもさることながら、タイへの遠征という「長距離移動」による疲れも心配される。そして何よりそこから中3日でG大阪とのアウェイゲームという、殺人的なスケジュールがヴィッセルを待ち受けている。成績を残したチームが背負う宿命ではあるが、これを乗り切るためには文字通り「チーム一丸」となって戦わなければならない。その意味ではここまでのリーグ戦7試合と天皇杯1試合で、ヴィッセルは多くの選手を試すことができた。そしてそこで起用された選手たちが結果を残してきたことを考えれば、高いモチベーションをもって、この「過酷すぎる連戦」に臨むことができそうだ。
次戦、キックオフは日本時間21時30分と遅い時間ではあるが、1人でも多くの人に「アジアへの挑戦」を見届けてほしい。


