
千慮一失なき戦い
中国の司馬遷によって編纂された歴史書である「史記」の中に、こんな話がある。漢の将軍である韓信が「背水の陣」で趙の国を破った際、趙の兵法家である広武君を生け捕りにした。広武君の才能を高く評価していた韓信は彼の縄を解いて師として迎え、今後の戦略についての教えを請うた。広武君は謙遜しながらも、韓信に次の言葉を伝えた。「智者も千慮に必ず一失有り、愚者も千慮に必ず一得有り」。これはどんなに賢い人でも、千回も考えれば一度くらいは失敗する。逆に、どんなに愚かな人でも、千回も考えれば一度くらいは良い知恵が出るという意味だ。ここから、どんな人にも失敗はあるという意味の「千慮一失」という言葉が生まれた。
この日対戦したV長崎へのリスペクトを持った上で言うのだが、ヴィッセルにとってこの日の試合は「絶対に勝たなければいけない試合」だった。
2018年以来2度目となるJ1リーグでの戦いに挑んでいるV長崎だが、開幕節以来勝利から遠ざかっているように、今のチーム状態は決して良いとは言えない。メンバーとしては、2023年、ヴィッセルの主将としてJ1リーグ優勝をもたらした山口蛍をはじめ、2022年にJ1リーグ得点王を獲得したチアゴ サンタナや、2025年にJ2のMVPを受賞し、J1昇格の立役者のひとりであるマテウス ジェズスなど、要所にタレントがそろいつつある。しかし、前節ではG大阪を相手に90分まで2点のリードを保ちながら、後半のアディショナルタイムに追いつかれたように、まだチーム自体も若く、隙も多い。現時点でのチーム状態や完成度を考えれば、ヴィッセルにとって「勝ち点3」を取らなければならない試合だったことは間違いない。
そしてこの日のヴィッセルは、V長崎の弱点を衝くべく緻密に設計された戦い方で終始圧倒して見せた。「全ての選手がやるべきことを忠実にやり切った」この日の戦いぶりは「千慮一失なき戦い」と評するに値するだろう。
5人のサイドバック
シーズン序盤の不安定さが影を潜めつつあるヴィッセルだが、この2試合はサイドバックを本職とする選手が5人先発メンバーに名を連ねている。5人とは右サイドバックの髙橋壱晟、左サイドバックのジエゴ、アンカーの酒井高徳、右ウイングの飯野七聖、左ウイングの永戸勝也だ。各ポジションの専門性が高まっている中、こうした配置が機能している理由は3つあるように思う。
1つ目は彼らの高い戦術理解度とタスク処理能力の高さだ。かつては90分間上下動するスタミナにフォーカスされたサイドバックだが、今やそれだけでは十分に戦うことができない。ボール非保持時には従来と同じようにサイドに蓋をする動きをしつつも、ボール保持へと局面が変わった際にはアンカーの横に入り込み、ビルドアップに加わる。これによって中央でのプレッシャーを分散し、味方のビルドアップ時の優位性を確立する。そこでボールを失った際には、カウンターの芽を摘み取る役割も求められている。さらに敵陣では中に入り込むことで、相手の守備を中に釣り出さなければならない。これによって、前に立つウイングにスペースを与えるためだ。これらの動きは、いわゆる「偽サイドバック」と呼ばれる動きではあるが、ヴィッセルの選手たちは、その感覚を日常的に養っている。それはミヒャエル スキッベ監督がチームに加えようとしている「自分たちでボールを動かしながら試合を支配する」戦い方を習得するためだ。この感覚があるため、酒井や飯野、そして永戸は本職ではないポジションに入ったときも、周囲との距離感を狂わせることなくスペースを埋め、使うことができている。
2つ目の理由は高いインテンシティを担保しているためだ。スキッベ監督の求める戦いにおけるベースが「攻守の切り替えの速さ」と「球際の強さ」であることは、過去にも指摘したとおりだ。そしてこの「5人のサイドバック」は、いずれも90分間スプリントを繰り返すことのできるスタミナと、1対1の守備強度の強さを持っている。そのため飯野と永戸がウイングに入った際には、高い位置で相手のサイド攻撃の芽を摘み、セカンドボールの回収率を高める一助となっている。この日の試合ではV長崎が5バックになる時間も長かったが、そこで両ウイングがサイドに蓋をし続けたことも、V長崎が前に出られなかった一因だ。
3つ目の理由は高いクロスの技術だ。この日の試合では、3得点のうち2点がクロスからの得点だった。この日の試合でも飯野や永戸は本職のウイングが見せるようなドリブル突破ではなく、相手守備が嫌がるクロスをアタッキングサードから入れており、それがV長崎の守備陣をゴール前に釘付けにした。さらにはこの日の試合で先発に復帰した大迫勇也や2得点を挙げた郷家友太、さらには大迫に代わって途中出場した小松漣など、ヴィッセルにはゴール前でのターゲットとなることのできる選手が複数いる。飯野や永戸が見せた質の高いクロスは、チームの特徴とも合致している。
こうした彼らの能力が凝縮していたのが、3点目に至るシーンだ。51分にGKの権田修一が蹴ったセンターサークルから左に開いた郷家を狙ったボールに対しては、V長崎の選手が前に出て、これを跳ね返した。これは前に立つマテウスを走らせるボールでもあったのだが、ジエゴが長い足を上げ、これをマテウスの前でカットし、内側に落とした。これを受けたのが酒井だった。流れの中で最終ラインまで引いていた酒井は、ジエゴを外側に出し、自らが中に入り込むことで、前に展開するための角度を保っていた。酒井はマテウスを引き付けて、斜め右へのパスを通した。これを受けたのは髙橋だった。ここでまず注目してほしいのが、酒井と髙橋の幅だ。酒井と髙橋はセンターサークルの右下と左上、ちょうど時計の7時と2時の位置に立ち、パスをつないだのだ。アンカーの酒井が中央に立っているのは当然としても、サイドバックの髙橋がこれだけ中に入ってスムーズにプレーできるのは、前記したように髙橋が「偽サイドバック」の動きを習得しているためだ。この髙橋のポジショニングが3点目を呼び込んだ。酒井は戻りながらボールを受けたのだが、右に立つトゥーレルのところにはサンタナがついていたため、酒井には自分でボールを前に出す必要があった。さらに左からはマテウスが追ってきていたため、酒井にとってスムーズにボールを出すことができるのは、右前方だけとなっていたのだ。ボールを受けた髙橋は右に展開せず、前にいた井手口を経由する選択をした。この選択には2つの理由があったように思う。1つは右から岩崎悠人が来ていたこと、そしてもう1つはV長崎の視線を中央に惹きつけることだ。これによって右に開いていた飯野のプレッシャーを軽減した。ここで井手口、大迫とボールを中央で経由させたことによって、飯野はノープレッシャーで高い位置から勝負することができ、郷家のゴールへとつなげた。
4つのポイント
完勝と言っても差支えないような勝利ではあったが、この日の試合には4つのポイントがあったように思う。
1.先制点
1つ目は何といっても「先制点」だ。右サイドから投げ入れたジエゴのロングスローは、ニアに立っていたマテウス トゥーレル、そしてそこに走りこんだ山川哲史を狙ったものと思われるが、これはわずかに高く、ペナルティエリア内中央に位置していたV長崎のシャドーストライカーである岩崎のもとにこぼれた。岩崎はこれを頭で逆サイドに出そうとしたのだろうが、十分にヒットせず、岩崎の斜め後方にポジションを取っていた永戸の足もとにこぼれた。永戸はこれをダイレクトでシュートした。縦蹴りのような形のアウトサイドでのキックではあったが、正確に枠を捉えており、クリアしようとした相手選手の頭をかすめ、そのままゴール右に突き刺さった。このゴールについて山口は「あれが全てだったと思います」と語り、最大の敗因であったことを認めた。
このゴールの意味だが、ヴィッセルを「格上」と認めたうえで試合に入っていたV長崎にとっては、試合を難しいものにした。勝利のためには2点以上が必要になったためだ。V長崎は、ある程度攻め込まれることを想定したうえで、それを防ぎ続け、試合を膠着させたかったのではないだろうか。そして、後半の疲れが見え始めた辺りでタレントを投入して得点を奪い、それを守り切りたいというのが、V長崎を率いる高木琢也監督の思惑だったように思う。
またこのゴールがジエゴのロングスローから生まれた得点であるという点は、その後の試合運びに影響を与えた。今季のヴィッセルにとって新たな得点源となっているジエゴのロングスローだが、これが脅威であることをV長崎の選手に強く印象付けた。そのためこの後何度かあったロングスローの場面でのV長崎は、カウンターを意識した備えではなく、確実に弾き出すという守り方に変わっていたように見えた。これによってヴィッセルは前への圧力を強めやすくなった。
さらにこのゴールにおいて見逃すことができないのは、大迫の動きだ。この日の試合で先発に復帰した大迫だが、この得点シーンでは山口を引っ張り出すことに成功した。ジエゴが投げ入れる前、ペナルティアークに立った大迫の前には、その動きをよく知る山口が立っていた。そして大迫は山口が跳んだ時点で、山口の外側を通るように動いた。この動きによって、山口は大迫について動かざるを得なくなった。そしてボールをクリアしようとした岩崎を追い越したことで、永戸の前が空いたのだ。もし大迫が最初から前に張るような形であったとすれば、山口は永戸のシュートコースを消すように動いた可能性が高い。しかし、大迫の怖さを知っている山口としては、多少のリスクがあっても大迫を離すことはできなかったものと思われる。先発復帰初戦で大迫がこうした巧い動きを見せたという事実は、この先に控える試合に向けての明るい材料だ。

2.郷家友太
決勝点を含む2得点を挙げた郷家は、この試合におけるキーマンだった。まずは得点シーンを振り返ってみる。
最初の得点は34分だった。相手のクリアボールを拾った井手口陽介が縦に差し込んだボールを永戸が左ペナルティエリア角で受けた。そして永戸からのクロスに対して、中央やや左で受けた郷家はワンタッチでの技ありゴールを決めた。このシュートについて郷家は試合後に「インサイドで流そうと思いましたが、パワーが伝わらないと思ったので、インステップでボールの中心を蹴って、流し込みました」と振り返った。一見するとボールのコースを変えただけのように見えるシュートではあるが、インステップでボールの中心を打ち抜いたことで、ファー方向にスピードを落とすことなく角度のついたボールを蹴ることができた。これは咄嗟の判断ではあるが、郷家の非凡なセンスの表れでもある。
2点目はポジショニングのセンスが光ったゴールだった。52分に大迫からのスルーパスに反応した飯野が右サイドを高く上がり、ゴールライン手前の高さからクロスを上げた。郷家はここでGKの前に入り込み、頭でゴールに流し込んだ。大迫からのスルーパスを飯野が追うのを見て、郷家は左ハーフスペースから斜めに走路を取り、ゴール前に走り込んだのだ。この場面では、郷家が見せた速度に注目してほしい。
この得点について郷家は「飯野を信じて、GKの前に入った」と試合後にコメントした。こうしたクロスに対しては「GKの前に入れ」と言われるが、これが意外と難しい。それは相手の警戒するポイントでもあるためだ。大迫がパスを出したとき、郷家は相手最終ラインの近くにいたため、ボールを見ながらゴール前に戻ろうとする相手守備に追いつくことは十分に可能だった。しかしここで敢えてその後ろをついていくことで、相手の目線が完全に外れるまで我慢した。そして相手守備が飯野の方向に目を向けたところで、郷家は相手守備の間にポジションを取ったのだ。これは何気ないプレーのようではあるが、サッカーにおける「走る」という動作の複雑さを示している。ここでの目的は「取りたい場所=相手守備の間」に立つことであり、そのために選手は走る。単純なスピード勝負でそこに走り込む方法もあるが、この場合はスタミナを消耗する。しかしこのシーンで郷家が見せたように、全力では走らずとも、相手とのタイミング勝負に持ち込むことさえできれば、スタミナの消耗を押さえつつ、目的を達成することはできる。
郷家はボール非保持時にはファーストディフェンダーとして、ボール保持時には2列目として、常にスペースを潰しながら自らが動くことで、チーム全体の立ち位置を整理する役割を担っている。こうした難しい役割をこなすセンスに加え、フィジカル、テクニックともに優れたものを持つ郷家については、スキッベ監督も「チームのために全て身を粉にして、やってくれている」と高い評価を与えている。その献身的な動きが、プロ入り後初となる「1試合2ゴール」という形で報われたことは、実に喜ばしい。
3.中央支配
個々のレベルにおいてはヴィッセルが優位性を持っていたが、V長崎は走力でそこをカバーする狙いを持っていたと思われる。シャドーストライカー、ボランチ、ウイングバックの6枚が中盤を走り回り、ヴィッセルの狙いを潰そうと企図していたのだろう。このV長崎の狙いを無効化したのが井手口のスタミナとボール奪取技術、そして大迫のポジショニングだった。
まず井手口だが、この試合ではV長崎の司令塔である長谷川元希とサンタナのパスを遮断し続けた。この日の試合で両チームを通じて唯一となる12km超えの走行距離、そしてこれまた唯一の20回を超えるスプリント回数が示すように、井手口は走り続けた。そこでこぼれ球を回収し、相手の出足を潰すといった「中盤の要」の仕事をやり続けたことが、V長崎に攻撃の形を作らせなかった。
そして大迫だが、この日の試合では中盤までポジションを落とし、そこから組み立てる時間も長かった。対戦相手の中に「大迫へのマークを外す」チームはない。どこにいてもボールを収める圧倒的な強さと高い技術を併せ持っているためだ。それだけに大迫がポジションを落とすと、相手はマークを受け渡すのか、それともセンターバックがつき続けるのかという点で迷いが生じる。この日の試合では、大迫がポジションを落とした際は山口が受け取ることになっていたように見えたが、大迫は顔を出すエリアを広げることで、山口がつききれないように工夫していた。大迫はこうして動くスペースを確保しつつ、攻撃の司令塔としてボールを効果的に動かし続けた。前記した3点目のシーンだけではなく、2点目のシーンでも大迫のパスが局面を変えた。
この両選手が中盤を攻守両面で支配したことも、この試合の流れを作り出すうえで大きな意味を持っていた。
4.局面を変えるキック
地味ながら、この日の試合で主導権を握り続けるうえで見逃すことはできないのが、GKである権田の存在だ。V長崎が前から奪いに来る場面は多かったが、それを権田はキックで裏返していった。それができた理由は2つだ。1つは権田のキック精度だ。この日の試合でも権田のミスキックは1つだけだったように思う。どんな体勢から蹴ったとしても、ほぼ確実に味方の位置につけることができる。精度が高いため、競り負けたとしても、周りの選手は守備位置を定めやすく、それがヴィッセルのセカンドボール回収率を高めていた。
また権田は全体のプレーに合わせて、自らの位置を上下動できる。この日の試合ではヴィッセルが押し込む時間が長かったのだが、権田がハーフウェーライン近くまで出て、バックパスを引き取る場面が散見されたのはその証左だ。その際もキックの精度が高いため、ヴィッセルは攻撃の時間を延ばすことに成功していた。
権田がこの試合で輝いたもう1つの理由、それは大迫の存在だ。ロングボールに対して確実に競ってくれる大迫がいるからこそ、権田の高精度ロングキックは活きてくる。試合後、局面を何度も権田のキックで裏返されたことについて、山口は「単純に大迫が強いということではありますが」と答えていたが、権田と大迫のラインを使うことで、ヴィッセルは相手の狙いを簡単に外すことができていた。
このキック技術を持つ権田は、ボールを自陣から遠ざける戦いにおいては欠かすことのできない存在だ。ヴィッセルに所属している若いGKには、権田の技術をぜひとも盗み取ってほしい。それはGKとしての大きな財産になり、選手生命を引き延ばしてくれることにつながる。
ゲーム終盤の戦い方
試合後に永戸は、最終盤に足が止まってしまったことを反省点として挙げていた。試合終了直前に喫した失点がミスによるものであることは事実だが、この時間帯にはヴィッセルの足が止まっていたことも事実だ。これは「真夏の連戦」という事情を考えればやむを得ないとも言えるが、過酷な状況も乗り越える「技」をつけておかなければ、AFCチャンピオンズリーグエリートを含む4つの大会全てで好成績を収めることは難しい。その意味では、最終盤に押し込まれ、失点を喫したこの日の試合は画竜点睛を欠いたとも言える。
ではヴィッセルはどのように戦うべきだったのだろう。これについて考えるために、後半にV長崎が見せた布陣変更を確認する。高木監督は後半から布陣を3-4-2-1から4-4-2に変更、シャドーストライカーをサイドハーフに移し、前線はサンタナとマテウスの2トップとした。ここには3つの狙いがあったように思う。
1つ目は前線を2枚にすることで、ヴィッセルのセンターバックへの圧力を高める狙いだ。前半はワントップであり、2列目が前に出る場面も少なかったため、トゥーレルと山川は余裕をもってプレーできていた。まずはここへのプレッシャーを高めることで、自由な配球を阻害したかったのではないだろうか。
2つ目はサイドに、サイドハーフとサイドバックの2枚を置くことで、ヴィッセルのウイングに対して2対1を作る狙いだ。前半、V長崎がやられたのは飯野や永戸が作り出した「サイドでの優位性」が一因であると判断し、まずはここを止めるという目的だったのだろう。
3つ目は戦い方をシンプルにするという狙いだったように思う。3バックシステムの場合、自陣深くに攻め込まれた段階ではウイングバックが落ちて5バックを形成する。しかしそこでボールを奪ったとしても、ウイングバックが再び出ていかなければ、攻撃に迫力は生まれない。ましてやヴィッセルのサイドのスペシャリスト4枚配置した布陣に対しては、反撃のタイミングを見つけるのも難しい。そのため攻守の役割がはっきりしており、ゾーンが明確な4-4-2にすることで、チーム全体で前に行く体勢を整えたかったのだろう。これを補完するように、高木監督はマテウス、ノーマン キャンベル、松本天夢といった攻撃的な選手を逐次投入してきた。これによってV長崎のシュート数が伸びたことを思えば、高木監督の狙いは正しかったとも言える。
こうした状況下で「足が止まった時間帯」にはどう戦うべきだったのだろう。1つには低い位置で4-4のブロックを組み、スペースを消して、前に出るV長崎の選手を網にかける戦いが考えられる。もう1つは前線のキープ力を使う方法だ。大迫に代わって投入されていた小松を目標として長いボールを蹴り入れ、そこでファウルを取る、あるいは粘った上でタッチラインに蹴り出すことができれば、ヴィッセルの選手には時間が生まれ、息をつくことができたように思う。
これらの方法は一般論であり、これがそのまま巧く嵌った保証はないが、足が止まっている時間帯にも前に出ようとしたことは、結果的に布陣を間延びさせたのではないだろうか。いずれにしても最後の失点は、中央でのマークのズレやこぼれ球への反応の遅れが原因であり、「足が止まっている」状況での「役割の再確認」が必要だったことは間違いない。

ルーキーの課題
アディショナルタイムに喫した失点の直接の原因は、途中出場を果たした岩本悠庵のクリアミスだった。左に開いたキャンベルのクロスは、ゴール前で網にかけたが、ここで岩本のクリアが目の前に立っていた松本へのパスのような格好となり、松本に切り替えされ、ゴールへと蹴り込まれてしまった。ここで岩本が採るべきだった対応策について考えてみる。それは2つだ。1つはタッチラインに逃げるプレーだ。あの場面で残されていた時間はわずかであり、斜め外に蹴り出すことでプレーを断ち、ゴール前の陣形を整える時間を作るべきだったように思う。もう1つの方法はプレッシャーの来る方向に身体を入れ替え相手のファウルを誘う、あるいはセンターバックやGKに安全に戻すというやり方だ。
とはいえこの場面でヴィッセルの足は止まっており、岩本のサポートができる位置に選手は不在だった。岩本のプレーが失点の直接原因だったことは事実だが、ここは若き才能を責めるだけではなく、岩本を孤立させていたチーム全体のミスとしてとらえるべきであるようにも思う。
岩本にとっては苦い経験となっただろうが、ここでJ1所属の選手が見せる必死の力を知ることができたことは、今後の成長に大きく寄与することになるだろう。
次節に向けて
無事にJ1リーグ戦3連勝を飾り、順位も2位へと上昇した。まだシーズンは始まったばかりであり、順位を気にしている選手は1人もいないだろうが、理想的な位置にヴィッセルはつけている。
次戦は大一番だ。タイトル争いの最大のライバルになると思われる鹿島をノエビアスタジアム神戸に迎えての一戦となる。まずは連戦の疲れを癒すことが最優先になるだろうが、同時に戦い方も、今一度検証してほしい。この日の試合では、疲れの出た終盤ではあったが、4-4-2の布陣に対して手を焼いていた。そこには疲労だけではなく、布陣の違いが生み出すミスマッチなども影響していたように思う。まずは4-4-2でセットされた鹿島の戦いを再検証し、衝くべきポイントを見定めてほしい。
この日の試合で戦列に復帰した武藤はヴィッセルについて「勝てるチームになってきた」という印象を話したうえで、「ここからは生半可なプレーをしてしまったら負けるような、一瞬でも気が抜けないような強い相手との戦いになるため、真の力、チームとしての力を発揮しなくてはならない」と力強く話した。この言葉通り、ピッチに立つ選手全員が、90分間、最適解を出し続けなければならない。スキッベ監督がどのような布陣で臨むかは不明だが、持てる力を発揮することができれば、勝機は十分に見出せるだろう。
平日のナイターという厳しい条件ではあるが、サポーターの皆さんにはぜひともスタジアムに足を運んでもらいたい。そして「大一番」に臨む選手たちに最大限の勇気を届けてもらいたい。


