
勝点1の意味
試合後の会見でミヒャエル スキッベ監督は「2度追いつき、引き分けにできたことを嬉しく思う」と振り返った。「ホーム開幕戦」、「2万6千人を超える大観衆」という舞台を考えれば、勝利で飾って欲しかったというのが本音ではある。しかしどんなチームであれ、思うように運ぶことができない試合はある。そして世界でも類を見ないと言われるほど、全てのチームの力が拮抗しているJ1リーグにおいて結果を残すためには、1つでも多くの勝点をつかみ取る粘り強さが求められる。その意味ではこの日の試合においてヴィッセルは、その強さの源のひとつである「日本一諦めの悪いチーム」の姿を示したとも言える。
先の明治安田百年構想リーグ(以下特別大会)を制したヴィッセルだが、ここ数年の成績の結果、現在は他チームのターゲットとなっている。当然ライバルたちは、その戦い方へのスカウティングを続けている。そういった状況の中で結果を出し続けるためには、進化をし続けなければならない。選手たちもそれを痛感しているからこそ、特別大会の優勝を決めたプレーオフ第2試合後に酒井高徳は「試合をコントロールする術を身につけなければならない」と語り、権田修一は「チーム全体が『まだやらなければならないことがある』と感じた試合であり、今日見えた課題はチームとしての宿題」とコメントしたと思われる。
そしてこの日の試合でも、いくつかの課題に直面した。詳しくは後述するが、まだ現在のヴィッセルが目指す戦い方には至っていない。キャンプ、そして日々のトレーニングで選手たちが全力を尽くしていることに疑いはないが、課題克服のためには時間、そして実戦経験が必要なことは事実だ。そう考えれば、今の時点で問題点が顕在化することは決して悪いことではない。そして大事なことは、そうした過程の中でも勝点を積み上げていくことだ。そこにこそリーグタイトル奪還への道がある。そう考えれば、この試合で得た勝点1という結果は、決して悪いものではないと言える。
松橋力蔵監督
この日の試合を振り返るうえで、最大のキーマンはFC東京を率いる松橋力蔵監督だったように思う。松橋監督は過去にもヴィッセルの前に壁として立ちはだかった。ヴィッセルが初めてJ1リーグ優勝を果たした2023年、新潟を率いていた松橋監督は敵ながら見事な作戦を立て、当時J1リーグを席巻していたヴィッセルの勢いを止めた。個々の選手の能力ではヴィッセルが上回っていたと思うが、スコアレスドローに持ち込まれたのだ。そしてこの試合で松橋監督が見せた戦い方は、この時に新潟が見せた戦い方と本質的には同じだったように思う。
戦前、松橋監督がヴィッセルについて最も警戒感を示していたのは、ヴィッセルの前線からの連動したプレスだった。すでにおなじみとなった形ではあるが、ヴィッセルはボール非保持時に3トップの中央に位置する大迫勇也と左インサイドハーフの郷家友太を前線に置き、もう1人のインサイドハーフである井手口陽介がボランチに下がることで4-4-2の形に変化する。その上で高い位置でのボール奪取を目的に、前線から連動したプレスをかけていく。ヴィッセルのサッカーが変質(進化)する中で、以前よりもメリハリをつけているとはいえ、ここという場面で見せるプレス、そしてボール奪取後のチーム全体で前に出る迫力は相変わらず強烈だ。ボールを保持しながら戦いたい松橋監督が、これを警戒するのは当然だった。
松橋監督のプレス対策はシンプルだった。一言でいうならば「寄せられる前に蹴る」ということになるのだろうが、その上でたとえプレスを受けたとしても、それを連続させないという点を徹底していた。その上でポイントとなったのは「マイナス方向の活用」、そして「5レーンの活用」の2つだ。
まず「マイナス方向の活用」だが、これを遂行するために松橋監督は、ボールホルダーの背後に人を残すことを徹底していた。その上でボールホルダーは最初のプレスを横の動きでかわす。そして次のプレスが来る前にボールを下げる。そしてヴィッセルの選手が離れるのを待って、ボールホルダーとの間にパスコースを作る。このボールを受けた2人目の選手はボールを持ちすぎることなく、縦に差し込むというのが基本だった。いわば前後に向けてジグザグにボールを動かしていくのだ。選手たちが連動しながらこの動きを行うことによって、FC東京は「プレスを受ける人数」を「プレスに来る人数」よりも多くしていた。
次に「5レーンの活用」だが、これはFC東京が前進するうえでの肝となる部分だった。ヴィッセルのプレスは人につく性質があるため、プレスを連続する中で密集することがある。そのため前記した方法でプレスを回避しつつも、選手が5レーンを意識して立つことで、自分たちの進路を確保していた。これを活かすうえでは、FC東京の4-4-2の布陣が活きた。ヴィッセルの4-1-2-3においてサイドに立つのは、最終ラインのサイドバックと前線のウイングだ。この間には距離があるため、連動して動くためには、どちらかが大きくポジションを変えなければならない。これに対して4-4-2においてはサイドに立つサイドバックとサイドハーフの距離は近く、連動して動きやすい。そしてこの両者がサイドとハーフスペースに分かれて立つため、サイドにおける数的優位を作りやすくなっていたのだ。ここまでは新潟時代と同じだ。この試合でそれをかつてとは異なるものに変えたのは、際立った個性を持つ5人の選手の存在だった。
5人のキーマン
攻撃の軸となったのは3人の選手だった。右サイドハーフの佐藤恵允、左サイドバックのバングーナガンデ佳史扶、そしてフォワードのマルセロ ヒアンだった。彼らの共通点はスピードということになるだろう。そして松橋監督は、彼ら3選手を軸として攻撃を組み立てていた。ヴィッセルのプレスを回避しながら運ぶのは、センターサークル手前まであり、そこからは彼らを縦に走らせることで、ヴィッセルを押し込んでいったのだ。中でもマルセロは、ヴィッセルにとって厄介な存在だった。ボール保持の局面ではピッチ中央付近までポジションを落とし、パスのつなぎ役となったうえで、ボールホルダーを追い越すように動いていく。シンプルではあるのだが、卓越したスピードがあるため、ヴィッセルの守備陣は常に背後を気にしながらの戦いを強いられた。
シンプルだが、確実にヴィッセルの出足を止め続けた攻撃にさらなる厚みを加えていたのは2人の選手だった。それがこの日の試合で2得点を挙げた長倉幹樹と左サイドハーフの本間至恩だった。彼らはカウンターの起点ではなく、そこに厚みを加えるのが役割だったと思われる。ヴィッセルの最終ラインの前まで運んだボールに対して顔を出し、そこで仕掛けていった。前に運ぶのがマルセロたちの仕事であるとすれば、前で動き回り時間を作る。あるいはペナルティエリアの中にボールを持ち込むのが長倉と本間の仕事といった風に、攻撃の役割分担が成されていたことが、ヴィッセルの選手たちに守り難さを与えていた。
ここでFC東京の守備を振り返ってみると、前線からのプレスはそれほど厳しいものではなかったように思う。ボールを奪い切る以上に、時間を作ることが目的であったようにも見えた。そしてボール非保持に変わった瞬間、全体が自陣に戻り4-4-2のミドルブロックを形成し、ヴィッセルの侵入を防ごうとしていた。そのブロックの中に入りこまれた際には、ボールを奪った時点で前に蹴り出し、マルセロたちを中心にカウンターを仕掛けるというのが基本的な約束事だったのだろう。
それを象徴していたのが35分の失点シーンだ。ヴィッセルが右サイドでFC東京のプレスをかわし、右ウイングの武藤嘉紀がドリブルでペナルティエリア前まで攻め入った。そこでのパスをカットし、佐藤がヴィッセルの左サイドをドリブルで駆け上がり、逆サイドへクロスを入れた。それを、ここに走りこんでいた前線の長倉が流し込んだ。
特別大会では東地区の2位に食い込んだFC東京だが、その攻撃を牽引したのが長倉だった。大学を卒業後、地域リーグでプレーしたのを皮切りに、J2、J1と、自らの力でプレーするカテゴリーを上げてきたこの苦労人は前線での運動量も豊富であり、さらには相手のスペースを見つけ、そこに入り込むことができる選手だ。最初の得点シーンでは、佐藤に対するヴィッセルの守備を見て、走りこむスペースを決めていた。佐藤がカウンターで抜け出したとき、これに対応することができたのはアンカーの鍬先祐弥、そしてマテウス トゥーレルと山川哲史のセンターバックコンビだった。ここで長倉の内側を走っていた山川がやや内側に走路を取ったのを見て、長倉はわずかに外に開き気味に走路を変えた。確実にヴィッセルの守備から距離を取るためだったのだろう。GKの権田修一はその狙いに気付き、長倉のシュートコースを切るように動いたものの、わずかに間に合わなかった。
この得点をお膳立てしたのが本間だった。手前で行われたヴィッセルの攻撃に対しての戻りは遅れたものの、その結果、味方が跳ね返したボールが本間の足もとに落ちてきた。ここで本間の前には山川が立つ格好になったが、その寄せを受ける前に、正確に逆サイドの佐藤の走路上にボールを供給した。小柄ながら、独特のリズムでボールを動かすことのできる本間は、ペナルティエリア前で仕事をさせたときには厄介な存在だ。小柄であるがゆえに、身体を使った守備に対してはファウルを取ってもらいやすい。そのためペナルティエリア近くでは、相手守備は慎重な対応を要求されることになる。自らの体格を活かしたプレーとも言えるが、自在にコースを変えながら動く本間に対してはマークの受け渡しを正確に行わなければならない。この試合でヴィッセルはそれはうまく行っていたが、本間がFC東京の攻撃に動きを加える役割を果たしていたことは事実だった。

新しい攻撃の形
この日の試合でヴィッセルは、スピード感のあるカウンターに翻弄された。FC東京の攻撃にスピードがあったことは事実だが、ヴィッセルらしくない姿だと感じた人もいたのではないだろうか。過去にもスピードを頼りに攻めてきたチームはあるが、ヴィッセルはそれも難なく跳ね返してきたイメージがある。しかしこれは決してネガティブな変化ではないと思う。言うなれば、進化する過程にあるが故の姿だったように思える。
以前のヴィッセルはロングボールを主体に攻撃を組み立てていた。そのため最終ラインを中心とした選手たちが、相手の選手を見る位置に立つ場面が多かった。しかしそれは攻撃の人数が限定され、ともすると攻撃パターンの少なさにもつながっていた。そのためスキッベ監督は選手たちにボールを持つことを要求し、主体性をもって攻め込む時間を増やそうとしている。最初の失点シーンに至る前の形には、それが表れていたように思う。
自陣ペナルティエリア前でセンターバックが幅を取り、その中央に権田を入れるような形を整えた。この疑似3バックのような形でビルドアップを開始したのだが、ここでFC東京の前線3枚を両センターバックと右サイドバックの酒井、鍬先の4人で囲むような形が整っていた。ここで注目すべきは酒井と鍬先の位置だ。両者ともFC東京の選手の背後に高さを取っていたため、実質的にセンターバック2枚で3人の選手を消すことに成功していたのだ。そして山川を経由したボールを酒井が受けたとき、鍬先との間の位置に井手口が相手を連れて落ちてきたことで、FC東京の中盤の背後に大きなスペースが生まれた。この結果、ハーフウェーライン上で右に開いた武藤はフリーになった。酒井は前に立つ相手を引き付けたうえで内側の井手口を使い、武藤にボールを届けた。そこから武藤が中に走路を取って前に出たとき、武藤の左斜め前には大迫、遠いサイドには郷家、最前線には左ウイングの永戸勝也、さらに逆サイドにはジエゴという並びができあがっていた。特に郷家とジエゴは間に立つFC東京の選手を背後に置いていたため、実質この両者はフリーとなっていた。さらに武藤の右外には酒井、背後からは井手口と鍬先も上がってきており、確実に厚みを持った攻撃を仕掛ける態勢が整っていたのだ。これこそが、今のヴィッセルが手に入れようとしているものだ。
正直に言ってまだ攻撃時に見せるボールの動かし方は、スムーズとは言えない。前記したシーンでもペナルティエリアの前で広く展開した味方を使うことができず、それが失点につながってしまったことは事実だ。しかしここ数年間の課題であった厚みのある攻撃、それも自分たちで主体的にボールを動かしながら作り出す厚みが生まれつつあることは事実だ。そして注目すべきは、この日の試合に出場していた選手のほぼ全てが、その意図を理解して動くことができていたという点だ。このヴィッセルに生まれつつある変化は、決してネガティブなものではない。半年余りでこの形を作り出すに至ったことは、選手たちの能力の高さを証明している。

変化の連鎖
これはサッカーに限った話ではないが、何かを新たに加えようとしたときは、別の部分に影響が起きる。これを成功させるためには「変化の連鎖」を理解しなければならない。この「変化の連鎖」には3つの要素がある。まずは「全体最適」だ。一部を変えると、全体のバランスや関係性は自然と再構築される。次に「トレードオフ」だ。何かを得ることで、別の何かを失うことは決して不自然なことではない。最後が「予期せぬ副作用」だ。意図した結果とは別に、予想外の効果や問題が表面化する。大きな変革に取り組む際は、この3要素を考えたうえで取り組まなければならない。
ここで前提とすべきは、ヴィッセルは完全なスタイル変更を目指しているわけではないということだ。国内最強とも称される強力なプレスとロングボールを活かした攻撃は、確実にチームの軸となっており、これからも1つの形として残り続けるだろう。ここに新しいやり方を加えることで、そこに偏りすぎないようにするというのが、ヴィッセルの方針であるはずだ。これを踏まえたうえで、この日の試合を振り返ってみると、松橋監督がロングボールを主体としたヴィッセルの攻撃への対応を行えることが解っていただけに、主体性を持った攻撃で崩そうとしたことは正しかったことが判る。
次にこの主体性を持った攻撃を完成させる上で、各ポジションに起きる連鎖反応について考えてみる。そのためにも、まずは各ポジションが手に入れなければならない能力を確認する。まず最終ラインだが、これはクリアの強さに加えて、相手のプレスをいなす技術とビルドアップ能力が不可欠だ。次に中盤だが、セカンドボールを拾う運動能力だけではなく、狭いスペースでもボールを受けて前を向くという技術が必須となる。最後にフォワードだが、ここでは前線でパスの起点となり、周囲と連動して崩していく能力が求められる。
このように各ポジションに求められる要素を見ていくと、ヴィッセルにとっては決して高いハードルでないことが判る。まず最終ラインだが、ここでは権田の存在が大きい。この日の試合では3枚でプレスをかけようとするFC東京のファーストディフェンスに対して、センターバックと権田の3枚で剥がす場面が散見された。さらにトゥーレルはこの日の試合でも「前が空いたら前進、相手が寄せてきたら引き付けてリリース」という基本動作に忠実に動くことができることを示した。また山川のパス精度は、この日は高いとは言えない部分もあったが、それでも縦に差し込む意識は確実に根付いているように感じられた。
次に中盤だが、ヴィッセルにはその回答となる選手がいる。それが途中出場を果たした井出遥也と濱﨑健斗だ。特に井出は左ウイングでの出場ではあったが、確実にボールを動かしながら相手の中に入り込み、前にボールを動かして見せた。また濱﨑も、独特のリズムを持ったドリブルでボールを動かすことで、相手の布陣を乱そうと試みていた。前に入る場面はそれほど多くはなかったが、確実にボールを握り続ける技術があるため、前へのベクトルを確立した際には、中盤の軸ともなることのできる選手だと思う。
そして前線だが、ここでは大迫の存在が大きな意味を持っている。この日の試合ではアレクサンダー ショルツに徹底したマークを受け続けたが、それでもポジションを落とすなどの工夫で、前線のリンクマンとしての役割も果たした。この大迫をフリーにする相手はいない。事実この日の試合でも大迫がポジションを落とすのに合わせ、ショルツもポジションを変えてきた。ということはこの時点でFC東京のゴール前からショルツは消えていたわけであり、そこを使うことができるようになれば、強固な守りを見せるチームも崩すことができるようになるということだ。
繰り返しになるが、今ヴィッセルに起きつつある変化は「変えるのではなく、加えること」であるという点が重要だ。J1リーグにおいては、ヴィッセルと対戦する際にはブロックを組んで守備を固めるチームも少なくない。こうしたチームに対しては、主体性をもって崩していくという方法を見せつつ、AFCチャンピオンズリーグエリートでの対戦相手のように自分たちも出てくるチームに対しては、これまで通り前からの連動したプレスとロングボールで効率的に崩していく。この硬軟両面ともいうべき方法を身につけるというのは理想ではあるが、それに取り組むことのできるチームは決して多くはない。しかしそれに耐えうるだけの選手層を誇るヴィッセルならば、それを完成させることも可能なのかもしれない。
新戦力・髙橋壱晟
この日の試合では、後半4分に酒井が負傷、髙橋壱晟がヴィッセルでのデビューを果たした。前所属の千葉では右サイドバックとしてチームをJ1復帰に導いた髙橋だが、そのプレーの特徴の一端が見えたように思う。その特徴とは「ボールを捌く」点にある。自らが前に出るのではなく、ボールを動かしながらチーム全体を前に向けようとするプレーは、ヴィッセルの右サイドバックに新しい風を吹かせる可能性が高い。酒井や飯野七聖が自らボールを運んでいくタイプであるのに対して、髙橋は確実性の高いパスを使いながら前進していくタイプであるようだ。こうしたタイプのプレーヤーが右サイドに入った場合、前に立つ右ウイングのポジショニングが大きな意味を持ってくる。右ウイングに入ることの多い武藤とのコンビネーションで考えると、髙橋をハーフスペースに入れ、武藤が外に張り出すことができれば、右サイドから斜めに複数の攻め手が生まれる可能性が高い。パスを捌くタイプの選手には、なるべく広い角度を与えることができれば、攻撃の道筋は増加するためだ。
試合後に髙橋自身は左右両足からのクロスが武器であるため、それを今後は発揮していきたいという意欲を語っていたが、その際に高い位置を取らせるためにも、髙橋の前に立つ選手との関係性に注目したい。

攻撃時の流動性
この日の試合でウイングは右に武藤、左に永戸という布陣で臨んだことはここまで触れたとおりだが、主体的な攻撃で崩していくのであれば、攻撃に入る位置には工夫が必要であったように思う。これまた前記したようにFC東京は4-4-2のミドルブロックを組んでいたのだが、ウイングの中に入るタイミングが早すぎたように見えたことは事実だ。永戸と武藤のプレースタイルを考えれば無理もないのだが、結果的に両サイドの深い位置を使う場面は少なかったように思う。この日のFC東京のようにブロックを組んだ相手を崩す場合、左右だけではなく、前後にも相手を広げることでブロックに緩みを生じさせるというのは、効果的な方法だ。試合終盤には深い位置を使う場面も増えたが、そこでの攻撃には可能性があったように見えた。であればこそウイングが中に入るのであれば、サイドバック、もしくは中央の大迫をサイドの深い位置に動かすような流動性も見せてほしかった。
そこで期待したいのが、まだヴィッセルでのデビューを飾っていない渡辺皓太だ。ボールを握る技術の高さは誰もが知るところであり、動きの多さもこれまで対戦相手として目にしてきた。パスによって全体を動かす技術にも期待が持てる。この日のFC東京のようなブロックを崩すうえでは、チームに流動性をもたらすことのできる渡辺は大きな武器となるように思う。
次節への期待
試合後に武藤がコメントしたように、この日の試合結果は満足できるものではなかった。しかし2度追いつくというしぶとさを見せ、勝点1を得たことはポジティブに評価したい。そのゴールが大迫、そして武藤という両エースがもたらしたものであることは、チームに好影響を及ぼしたと思う。相手のバックパスの乱れを見逃さず、最後まで詰めたことでゴールを陥れた大迫の粘り、そして難しいハーフボレーを打つ際、ボールの中心をコンパクトに打ち抜くことで正確にコントロールした武藤の技術には拍手を送りたい。
この両エースが手繰り寄せた勝点1を活かすためにも、次節の横浜FM戦では勝利が求められる。ジエゴが試合後にコメントしたように、横浜FMもボールの動かし方に特徴を持ったチームだ。新監督を迎えた今季、変化は生じているだろうが、それをしっかりと見極めたうえで、ヴィッセルらしさを発揮してほしい。どのようなメンバーになるかは不明だが、この試合でも「成長するヴィッセル」を見せてくれることを期待している。

新しい取り組み
試合とは直接関係はないが、この日の試合でヴィッセルが見せた新しい取り組みについても触れておく。それは空調設備試験稼働だ。この日は28年の全面稼働に向けた試験であり、スタジアム全体を冷やすものではないことはアナウンスされていたが、こうした取り組みはヴィッセルらしいと思う。暑さが厳しさを増し続ける中、多くの競技が古い基準での運用を続けている。そうした点に注目し、スタジアムそのものを冷却することで、暑い時期のパフォーマンス低下を防ごうとする取り組みが注目されるのは当然のことだ。これが上手くいった際には、日本のスポーツの基準が塗り替えられるかもしれない。積極的なチャレンジは2004年に三木谷浩史会長が経営に乗り出して以降のヴィッセルの特徴でもあり、それらがJリーグに新しい風を吹かせてきたことは事実だ。今回の取り組みについても、ぜひとも注目してほしい。

