覆面記者の目

明治安田J1リーグ 第1節 vs.福岡 ベススタ(8/8 19:00)
  • HOME福岡
  • AWAY神戸
  • 福岡
  • 0
  • 0前半1
    0後半0
  • 1
  • 神戸
  • 得点者
  • (23')大迫 勇也

新シーズンの難しさ
 いよいよ2026/27明治安田J1リーグがスタートした。夏開幕となった今回のカレンダー変更には3つの目的があった。1つは欧州の移籍市場とタイミングを合わせることだ。欧州の主要リーグとカレンダーをそろえることで、シーズン途中での主力選手の流出を防ぎつつ、日本における移籍市場を活性化するという狙いだ。2つ目は、これはヴィッセルには大きく関係していることだが、AFCチャンピオンズリーグエリート(以下ACLE)との日程のズレを解消するというものだ。既にACLEが秋春制で行われていることを考えれば、これは当然の措置だったと言えるだろう。そして3つ目は異常ともいえる猛暑から選手や観客を守るという狙いだ。

 ここで問題となるのは3つ目だ。6月から8月に走行距離やスプリント回数が低下することは、過去のデータからも明らかであり、選手の疲労度も考え併せれば夏場の開催を避けるというのは当然だろう。しかし6、7月は回避したものの、開幕は酷暑真っ只中の8月となった。スケジュール消化を考えれば仕方のないことであったのだろうが、実際にプレーする選手はもちろん、その周辺環境を整えるクラブにとっては、新しい課題を突き付けられたとも言えるだろう。
 今回のカレンダー変更によって、選手の体力面において生じる難しさは3つ考えられる。それは「夏場の開幕ダッシュ」、「来る冬季の寒暖差とコンディション維持」、そして「ウインターブレイク前後でのコンディション調整」だ。ここで今回取り上げたいのは、最初の「夏場の開幕ダッシュ」だ。シーズンを通じて好成績を収めるために、開幕ダッシュが重要であることは言うまでもない。ライバルたちのチーム作りが進む前に勝点を積み上げておくことで、シーズンを通じてアドバンテージをもって戦いたいというのは当然の戦略だ。その開幕ダッシュを決めるためには、シーズン直前のトレーニングが不可欠だ。しかしこのスケジュール下では、気温と湿度が高い6月~7月にそれを行わなければならない。選手の疲弊や負傷のリスクは当然高くなる。ヴィッセルは比較的うまくそこを乗り切ったようだが、クラブによっては既に複数の負傷者が発生している。
 この時期のプレーは、どの選手にとっても身体的負荷は高く、クラブは難しいコンディション管理を強いられることになる。そう考えれば、今回のカレンダー変更によって、これまで以上にクラブの総合力が試されていると言えるだろう。
 この夏開幕について大迫勇也は「欧州でもプレーしていたので、僕はこっちのほうが好きですね」としたうえで、「どのチームも順応してくると思う」と感想を述べた。大迫の言うように結局は慣れの問題なのかもしれないが、開幕時のコンディション調整がこれまで以上に重要なファクターとなったことは間違いない。

新ルールの難しさ
 変わったのはカレンダーだけではない。競技規則の変更もあった。それによって、これまでとは異なる難しさが生まれている。その1つが「新ルール下で生じる試合テンポの変化への対応」だ。今シーズンから適用されているルール改正の狙いは、アクチュアルプレーイングタイム(実際のプレー時間)の増加にある。具体的には「選手交代10秒」、「スローイン5秒」、「ゴールキック5秒」、「負傷時の1分待機」といったものだ。これらのルール改正によって、これまで無意識に行っていたプレーや交代がペナルティ対象になる可能性が高まった。
 また今回の規則変更では、他の選手がシュート・パスしたボールや、自分自身がクリアしたボールが「至近距離の味方・相手の体、または自分の足や体に当たって明確に軌道が変わり(ディフレクション)、その後に不意に手や腕に当たった場合」は原則としてハンドの反則とはしないことが明記された。これによって守備の選手の動きも変わってくるだろう。これまでは「不自然に体を大きくしている(腕を広げている)」とみなされれば、跳ね返りであってもハンドと判断されるケースが多く、守備の選手にとって理不尽な判定が少なくなかった。しかし今回の変更によって、これらを「予期せぬ偶発的な接触」として救済する形になった。最初から意図的に手を広げてブロックしていた場合や、ディフレクションしたボールを手や腕を使って意図的に触ったと審判に判断された場合は、これまで通りハンドの反則を取られることになるが、これまで見られたようなペナルティエリア内で手を後ろに組んで過度に小さくなる必要が減少したことは事実だ。これによってペナルティエリア内でも積極的なブロックが可能になった。
 今回の規則変更によって試合がよりエキサイティングなものになる可能性は高いが、同時に選手にとっては厳しい側面もある。特にリスタートを利用して息を整えるといった行為が難しくなるため、酷暑の続く今の時期は、相当に体力が削られることになるだろう。またスローインに際して、味方同士で戦術を確認することも難しくなった。それだけ選手は個々に判断を求められることになる。選手にとっては頭と身体の両面で厳しさが増すことになるが、それだけ選手の質がピッチ上で反映されやすくなったとも言える。

支配と膠着
 この試合で最大のポイントは選手交代だった。19時スタートのナイトゲームだったにも関わらず、30度を超える暑さの中での試合だったこともあり、スタミナを含む選手の体調管理が大きなカギを握っていることは間違いなかった。そして福岡が交代枠5枚を使い切ったのに対して、ヴィッセルは2枚に留まった。これについては、試合後の会見でも質問が飛んだが、ミヒャエル スキッベ監督は「今日は本当にみんながうまくプレーしていたと思いますし、出場している選手たちで試合をしっかりコントロールできていた印象です」と語り、最後まで戦い抜いた選手たちを称えた。この言葉には、この日の試合の難しさが表れているように思う。
 この日の試合をかみ合わせという視座に立って見たとき、決していい試合だったとは言えない。4-1-2-3のヴィッセルに対して福岡は3-4-2-1でセットされており、サイド、そして中盤にギャップが生まれていたためだ。そして両チームがそのギャップをどう使うかがポイントだった。これをヴィッセルのサイドからもう少し説明すると、ポイントは攻守それぞれに1つずつあったように思う。攻撃面においては「サイドの数的優位をどのように活かすか」。そして守備においては「中盤(アンカーの脇)をどのように守るか」ということになる。これについてもう少しだけ詳しく説明する。
 まず攻撃面だが、福岡のサイドを守るのはウイングバック1枚だった。ヴィッセルはここに対してサイドバックとウイングの2枚をぶつけることができるため、この連動によってサイドに数的優位を作り、前への進路を確保することが最初の目的となる。その上で3バックの脇のスペースを使うことになるのだが、そのためにはウイングバックとセンターバックの間にインサイドハーフを潜り込ませなければならない。この試合においては、右サイドでこの形を作る場面が多かった。サイドバックの酒井高徳とウイングの武藤嘉紀が見せる連動によって、試合開始直後から福岡の左ウイングバックである藤本一輝を引っ張り続けた。福岡の中盤がこれをフォローに来る場面も多かったが、酒井のポジショニングと武藤の突破力は、それを上回っていた。
 こうして相手の重心をヴィッセルの右サイドに寄せたうえで、逆サイドに展開する場面も作り出していた。ここで大きな力を発揮したのが、左サイドバックのジエゴだった。前に出る力のあるジエゴが高い位置をキープし、そこで起点となりボールを動かす場面も多かった。
 逆に守備に際しては福岡の2シャドーは、鉄則通りアンカーの脇のスペースを奪いにきた。これに対してはインサイドハーフの井手口陽介が中心となり、この位置を守る体制を整えた。またアンカーで先発した鍬先祐弥も粘り強い守備を見せ、福岡の狙いを外し続けた。そしてボールを奪った際には無理に前に入れるのではなく、状況に応じて後ろも使いながら、ボール保持の局面を増やすように意図したプレーを見せていた。
 こうしたプレーがはまり、ヴィッセルが主導権を握ったまま、前半を終えることができた。 
 様相が一変したのは後半だった。福岡を率いる塚原真也監督は、ハーフタイムに特別な変更は行っていないと試合後に明かしたが、攻撃方法をシンプルに整理することで押し返しを図ってきた。福岡にとって攻撃時の武器が、岡山から加入したウェリック ポポであることは明らかだった。ポポは190cmの長身を活かした高さに目が向きがちだが、足もとの技術にも長けた選手だ。長いコンパスを利用してボールを巻き込むように握ることができるため、ボールをコントロールできるレンジが広い。さらに細かい動きもできるため、前線での起点となるには十分な能力を持った選手だった。福岡は前半からこのポポを目標にしたロングボールを使いながら攻撃を組み立ててきたが、後半それを加速させたのが、もう1人のフォワードである名古新太郎だった。後半開始直後には一気にポケットを取る動きを見せ、ヴィッセルの最終ラインを下げさせた。スピードを活かして動くことのできる名古がリスクを冒して前に出たことで、試合は膠着状態に入った。
 前半は組織的にボールをつなごうとしていた福岡だが、後半はスペースに蹴り出しながら、走力でそれを活かそうとしてきた。これによって、試合は「ピッチ全体を使った個人戦」の様相を呈した。それでもヴィッセルの選手たちは小さなフィールドでの連携を保ちながらそれを食い止めていたが、ピッチ全体が微妙なバランスに支配されていたように思う。これこそがスキッベ監督を悩ませた最大の要因だったのではないだろうか。

指揮官の思惑
 この試合でヴィッセルは23分という、比較的早い時間帯に先制することに成功した。しかしその後の追加点を奪うことができなかった。そのため福岡が前に出てきた後半、ヴィッセルは1点のリードを守る戦いを余儀なくされた。そして前記したようにピッチ全体が「個人戦」の様相を呈していたため、スキッベ監督は交代カードを切り難くなったように思う。
 膠着した試合においては、選手交代が試合の流れを一変させることが多い。バランスが変わるためだ。それが良い方向に出た時には、一気に流れを引き寄せることができるが、逆に出たときにはピンチに晒される。もしこれが同点やリードを許した状態であれば、スキッベ監督は迷うことなく交代カードを切っていただろう。しかし1点のリードという微妙な状態であったため、リードしているはずのヴィッセルが新しい策を打てなくなっていたように見えた。利益を得る喜びよりも、失う痛みを強く感じるため、リード側の脳が恐怖に支配されて守りに入るという「損失回避性」バイアスに、ヴィッセルは置かれやすい状況にいたと言える。
 しかしスキッベ監督は敢えて「交代させない」という決断を下した。ピッチ上が個人戦の集合体のようになっている状況を見て、このままで勝てると判断したのだろう。だとしてもこの決断は重かったように思う。万が一同点に追いつかれる、あるいは逆転を許す結果になっていたとしたならば、スキッベ監督の決断が敗因として挙げられる可能性は高かったためだ。それでもスキッベ監督は顔色を変えることなく、ピッチサイドから戦況を見つめ続けた。スキッベ監督が2枚目のカードを切ったのは90分だった。このスキッベ監督の姿勢は、80分までに5枚のカードを使い切った敵将とは対照的だった。この日の試合は、スキッベ監督が勝負師であることを、改めて印象付けたように思う。

試合を動かしたファウルスロー
 この試合を決めたのは23分にエース・大迫が決めたゴールだった。そしてこのゴールに至る流れの中では、新ルールが影響を及ぼしたように思う。この大迫のゴールはジエゴが投げ入れたロングスローから生まれたのだが、このスローインは福岡のファウルスローによって獲得したものだ。このファウルスローの背景には5秒ルールがあったのではないだろうか。事象だけを見れば、福岡の右ウイングバックである前嶋洋太が投げ入れる際に手を滑らせ、正しく投げることができなかったということになるのだが、その背景には5秒以内に投げなければいけないというプレッシャーがあったように思う。前嶋が投げる方向に目をやったとき、これを受けるはずの重見柾斗がポジションを下げているのが目に入ったのではないだろうか。そしてその位置が前嶋の想定よりも低い位置であったため、前嶋は投げる動きを調整しようとしたように見えた。その結果としてボールをつかみきれず、ファウルスローになったように思える。もし5秒ルールがなければ、前嶋は投げる動作自体を止め、投げ直したのではないだろうか。
 この一連の動きについて「息が合わなかった」と言ってしまえばそれまでなのだが、こうした「事故」が試合を左右することを、このプレーからは学びたい。ヴィッセルの選手たちには、この一連のプレーを他山の石として、選手間の連携をより高めてほしい。

大迫勇也
 ジエゴのロングスローは、正確にゴール前に入った。これをマテウス トゥーレルが頭ですらし、ゴール前中央に走りこんだ大迫がこれをゴールに流し入れた。これについて試合後に大迫は「簡単なゴールでした」とコメントしたが、決してそんなことはない。ジエゴがスローインを投げ入れる際、大迫はペナルティスポットの近くに立っていた。この時、左センターバックの辻岡佑真が大迫をぴったりとマークしていた。そしてトゥーレルにボールが入る直前、大迫はニア側にステップを踏んで動いた。これに合わせて辻岡もニア方向に動いた。ここで大迫は、元の位置に戻るようにバックステップを踏んだ。辻岡もこれに合わせて反転したのだが、その際に一瞬だけボールサイドに目をやった。この瞬間を逃さずに大迫は前に出て、ファーポストを守るように立っていた藤本の前に入った。そしてトゥーレルがすらしたボールを右足のアウトでゴールに流し込んだのだ。
 ここで大迫が見せた動きは、マークする相手を外すためのお手本のような動きだ。細かく動いて無理に相手を外そうとするのではなく、引き連れるように動きながら、その中で隙を窺うという高難度のプレーだ。難易度は高いが、この動きができると、ペナルティエリアのように密集したエリアでもスペースを作り出すことができるようになる。
 この日の試合では前線3枚の中央に入った大迫だが、これまでと同様に、ポジションを流動的に変えながらプレーする姿が目立った。大迫のチャンスクリエイト能力が高いことは誰もが承知しており、それだけに試合を通じて大迫には厳しいマークがつき続けたが、相変わらずのテクニックでボールを収め、そこから攻撃を組み立て続けた。68分に見せた相手の前でフリーになっている味方の方向にターンするプレーなどは、状況把握能力の高さと、それを遂行する技術力の高さが詰まったものだった。今季も大迫がヴィッセルの攻撃の中心であることは間違いないだろう。

新ルールで活きる守護神
 この日の試合でゴールマウスを守ったのは権田修一だった。明治安田百年構想リーグ(以下特別大会)の終盤に活躍を見せた権田だが、この試合でも安定した守備でクリーンシート達成に大きく貢献した。ゴール前にこぼれたボールに対しては果敢に飛び込み、確実にボールを収めて見せた。さらに最終ラインの裏にこぼれたボールに対しては迷うことなく飛び出し、ピンチの芽を摘み取っていった。GKにも素早い反応が要求される新ルールの中では、権田のキックテクニックは大きな武器となる。この日の試合でも権田のキックは精度が高く、狙いを外したと思われるキックは1本だけだったように思う。前線の大迫を狙ったキックも正確であるため、相手守備にクリアされたとしても、後ろに控える選手たちは予測を立てやすい。さらに相手のプレスを掻い潜り横に出すキックもスピードと精度を併せ持っているため、局面を裏返すことができる。それが表れていたのが20分のプレーだった。右からのスローインを受けた山川哲史が戻したボールを受け取った権田は、そのままジエゴを前に走らせるパスを出した。このパスは名古が狙って動いていたのだが、名古は届かず、ジエゴが追いつける位置に正確に早いボールを入れた。そのためヴィッセルは、澱みなく前に向けてプレーすることができた。多くのGKが準備時間とキック精度が正比例の関係にある中、準備時間にかかわらず常に精度を担保できる権田は、新ルールに最も対応できるGKと言える。
 しかし権田にしても、チーム内での地位は絶対ではない。昨季まで多くの試合でゴールを守り続け、タイトル獲得に大きく貢献してきた前川黛也とのハイレベルなポジション争いがこれからも続くこととなる。4年後のワールドカップを目指すと公言している権田にとって、ヴィッセルは研鑽を積むためには絶好のチームだと言える。

安定感のある最終ライン
 後半のヴィッセルは守りに回る時間も長かった。しかし最後まで決定的な場面を作らせることはなく、その意味では守り勝った試合だったと言えるのかもしれない。特別大会で最優秀選手に輝いたトゥーレルを中心とした守りは堅く、福岡に「攻めきれなかった」という印象を与えた。特にトゥーレルは70分にはポポに抜かれたものの、88分には逆にタッチライン際で見事に前進を止めてみせた。36分には左タッチライン際の攻防で身体をターンさせながら、ボールを奪いに来た前嶋を制御し続けるという巧さも見せた。スピードと強さを兼ね備えたトゥーレルは、こうしたプレーで今季もヴィッセルの守備の強さが健在であることを示した。また特別大会では負傷し、終盤は戦列を離れていた山川も復帰し、見事な守備を見せた。トゥーレルとのコンビネーションは変わらぬ安定感を誇っており、高さで勝るポポに対してもその動きを封じ続けた。

職人芸
 こうした中でひときわ光っていたのが、酒井の守備だった。トゥーレルのようなスピード、山川のような強さがあるわけではないが、ツボを心得た守備力は依然として日本人トップクラスであり、そのテクニックは他の追随を許さない。それをいかんなく発揮したのが67分のシーンだ。ここでは自陣から見木友哉が大きくクリアしたボールがヴィッセルの左サイドに流れ、そこに途中出場の師岡柊生が走りこんだ。ヴィッセルが福岡陣内に攻め入っていた局面であったため、これに酒井は一人で対応することになった。師岡は投入されてから10分足らずだったこともあり、勢いでは酒井を上回っていた。酒井はそれを見て、アタッキングサードに入ったあたりで外に開く師岡を追うのではなく、その進路を消す選択をした。そしてペナルティエリア角手前から師岡の進路に合わせ、身体を半身にして対応を続けた。ここで酒井が飛び込んでいたとしたら、かわされていた可能性もあっただけに、この選択は正しかった。そして何より師岡との距離を保ちながら、ボールに合わせて身体の軸を移動していく動きは見事だった。右手前から左手前へと体勢を変えながら守っていたのだが、この間の足の運びに注目してほしい。腰を軸にして細かくステップを踏みながら、身体だけを時計回りに回転させていたのだ。こうした場面では相手との距離を詰めるために、軸そのものを変えたくなってしまうところだが、それをしなかったことで師岡が酒井の周りをまわるような動きになっていた。身体の向きだけでボールホルダーとの主客を逆転させ、相手をコントロール下に置いた見事な守備だった。

今後への改善点
 最後まで集中した守備を見せ続けたヴィッセルではあったが、今後に向けての改善点となると中盤の守備ということになるのかもしれない。1点を追って前に出ようとする福岡に対して、前に出て守ろうとするのはいいのだが、そこでかわされる場面が散見された。最終ラインの強さがあるため、これがピンチに直結したというわけではないが、ここでのプレーはチームに与える影響が大きい。ここでボールを奪うことができれば、それは攻撃の起点となる。またボールを奪えなくとも相手を留める、あるいは後ろを向かせることができれば、それは守備陣形を整える時間を作ることにつながる。
 中盤での守備において意識すべきは2点だ。それは「見極め」と「リスクケア」だ。今、Jリーグの判定は球際の激しさを容認する方向に進んでいる。同時にアフタータックルや手を使ったプレーについては、これまで以上に厳しい見方がされている。この日の試合で福岡にファウルが多かったのは、こうしたプレーが多かったことも一因だ。足もとに厳しくいく中で、ヴィッセルの選手のアクションが早かったため、アフターで足をかける、足を踏む、手で身体を掴むといった事象が目立っていた。その意味では、この日のジャッジは極めてオーソドックスだったように思う。こうした状況を踏まえ、選手はファウルにならない激しさを見極めなければならない。その上で後ろの状況を考え、「奪い切る」のか、それとも「遅らせる」のかを瞬時に判断しなければならない。

次節に向けて
 無事に開幕戦を白星で飾ったヴィッセルだが、ACLEを含む複数のタイトル獲得を狙う今季は、これまで以上に「王者らしい戦い」を見せなければならない。この「王者らしい戦い」については、かつてプロ野球の指導者から4つの要素があると聞いたことがある。その4つとは「主導権の掌握」、「高い再現性」、「勝負どころの見極め」、「慢心の排除」だ。これをヴィッセルに置き換えると、常にチャレンジャーであるという意識を持ち続けながら、ボールではなく試合を支配しつつ、個人の調子に左右されない形で得点を奪い、勝負どころで集中した戦いを見せるということになるのだろう。そしてこれらは実現可能であると思う。この先の戦いでは、それを証明していかなければならない。その意味でも次節のFC東京戦は、試金石となる。特別大会では東地区の2位と健闘したFC東京だが、開幕節では大敗を喫している。それだけに必勝を期して乗り込んでくることは間違いない。優れたタレントがそろうチームであるだけに、気を抜くことはできない。最大の注意を払いつつ、いかにして相手の勢いを削ぎ、隙をついて仕留めていくのか。それが問われる試合となるだろう。
 ホーム開幕戦となるこの試合で、さらに強さを増したヴィッセルの姿が見られることを期待し、応援したいと思う。

今日の一番星
[井手口陽介選手]

 決勝点を挙げた大迫、安定した守備で相手のエースを抑え込んだトゥーレルと最後まで迷ったが、最も「ヴィッセルらしさ」を体現したという意味において、井手口を今季最初の一番星に選出した。この日の試合でも井手口はピッチ上のあらゆるところに顔を出し、ボールに関わり続けた。32分には井手口らしい見事なボール奪取を見せた。センターサークル付近でトゥーレルとポポが競り合い、こぼれたボールを福岡がヴィッセルの右ハーフスペースに出した。これを受けたシャドーの重見が前を向いたところで、背後から酒井が寄せた。重見は動きを止めることでこれをやり過ごしたが、その瞬間を狙って飛び込んできたのが井手口だった。この場面を映像で見直してみると、重見がドリブルを開始した瞬間、井手口はセンターサークル付近から一気に重見の方へ動き出している。そして酒井が重見に背後から寄せた瞬間、走路を変えていた。それは重見とボールの間に距離ができることを予測していたかのようであり、見事なボール奪取だった。さらに井手口は大迫がサイドや後ろにポジションを変えたとき、その穴に入ることを意識していた。前の厚みを保とうと考えていたためだろう。守備的な部分での評価が多くなる井手口だが、今季はこれまで以上に前に出る意識が高いように見えた。ボール保持時にはスペースを意識して動き、非保持時にはボールや相手の進路を予測して動くことができる井手口は、文字通りヴィッセルの心臓となっており、90分間戦い続ける「ヴィッセルらしさ」を体現している。今季も走り続けてくれるであろう「港町のダイナモ」に、さらなる活躍への期待を込めて一番星。