どんなチームにも、長いシーズンの中では「絶対に勝たなければならない試合」というものが存在する。今季のヴィッセルにとっては、この日の試合がそれだったのかもしれない。こう書くと、直近の新潟戦やその前の鹿島戦こそ勝たなければならない試合だったという反論を受けるかもしれない。しかしその2試合がドローで終わってしまった以上、この日の試合こそがヴィッセルにとって最後の分水嶺だったように思う。
ヴィッセルにとってこの日の勝利は、公式戦5試合ぶりの勝利だった。前に勝利したのが10月1日に行われたAFCチャンピオンズリーグエリート25/26(以下ACLE)のメルボルン戦だったことを思えば、実に1カ月以上もの間、ヴィッセルは勝利から遠ざかっていたことになる。今のヴィッセルの陣容や実力から考えれば「長すぎたトンネル」という表現も、決してオーバーなものではないだろう。そしてこの間、メンバーを大きく変更して臨んだACLE江原戦を除けば、勝利を逃したような試合ばかりだったことも事実だ。どの試合でも選手たちは勝利を目指し、全力を尽くしていた。しかしそれを結果に結びつけることができなかった。
将棋界のレジェンドである羽生善治九段は、インタビューの中で「敗戦には2種類ある」と語っている。それは「実力不足による敗戦」、そして「自らの不調による敗戦」の2種類だ。羽生九段によれば前者の対処法は明確だ。実力をつけるための努力を続けるだけだ。問題は後者だ。多くの場合で精神的な部分に原因があると言われるものの、その原因を特定することは難しい。原因が特定できない以上、対処法も見つけ難いというわけだ。そしてこの1カ月間のヴィッセルが後者であったことは間違いない。ミクロな視点で見た時には、全ての試合でキーとなるプレーはあったが、視点をマクロに移してみれば、チームとしての本来の力を発揮することができていなかったためと言える。
あらゆる競技において、この「勝てるはずだった」という試合が続くことは、最も怖いことだと言われる。これについて優勝経験を持つプロ野球の元指導者から「敗因が解らない試合の後、選手は『今日は運が悪かった』と開き直ることもできるが、これが続いてしまうと選手の中に『疑念』が生まれてしまう」と聞いたことがあるが、正にその通りだと思う。そのため彼は、そうした状況下では流れを断ち切ることに注力したという。この「流れを断ち切る」方法は複数あるが、最も効果的なのは、試合内容は別として「勝利」という結果を得ることだ。これによって選手はひとまず自信を取り戻すことができる。
そう考えれば、この日の勝利はヴィッセルの選手たちが自信を取り戻すきっかけになったのではないだろうか。もちろん現時点でこれは仮説にすぎない。これが正しいかどうかは、この先に控える試合の結果によって判断される。しかし試合後の選手たちの様子を見る限り、この日の勝利によって安堵感を得たことは間違いなさそうだ。ここ2年間、ヴィッセルは結果を残し続けてきた。手痛い敗北を喫することもあったが、その直後には流れを取り戻すような勝利を挙げてきた。そのリバウンドメンタリティーは、多くの関係者の称賛を浴びてきた。今の選手たちにとっては、これほど勝てない時期が続くことは想定外だったはずだ。それだけにチームが自信を失うことを、吉田孝行監督も恐れていたのだろう。試合後には準備に奔走したスタッフを称え、この日の試合を「チーム全員でなんとか乗り切った素晴らしい試合」と胸を張った。
この日の勝利によって、ACLEリーグステージでは首位に立った。リーグステージ突破に向けて、大きく前進したと言えるだろう。そうした意味でも、大きな勝利だったと思う。

勝利という結果が持つ意味は大きいが、試合そのものを振り返った時、ヴィッセルは未だ回復途上にあると言えるのかもしれない。それは前半の戦いに色濃く表れていたように思う。
この日のスターティングメンバーはGKに前川黛也。最終ラインは右から鍬先祐弥、山川哲史、マテウス トゥーレル、永戸勝也の4枚。中盤は扇原貴宏をアンカーとして、インサイドハーフには井手口陽介と宮代大聖を置いた。そして前線は右から佐々木大樹、大迫勇也、ジェアン パトリッキという、J1リーグ戦同様の布陣で臨んだ。この日の試合から中3日でJ1リーグ戦・G大阪戦が控えていることを思えば、少々意外な感じもしたことは事実だ。これについて吉田監督は試合後、翌日にオフを予定していること、そしてG大阪戦はアウェイとはいえ近隣であるためと、その意図を明かした。しかしこれだけが理由ではないだろう。恐らく吉田監督としてもまずは勝利を得ることによって、前の試合までの悪い流れを断ち切りたいという思いもあったのではないだろうか。また前の試合から中9日と、少し間隔が空いたため、ここで主力選手たちに試合勘を取り戻しておいてほしいという思いも込められていたように思う。
このヴィッセルに対して、蔚山は直近のリーグ戦からメンバーを9人入れ替えてきた。既に韓国Kリーグ1においてはBグループの戦いに入っている蔚山だが、Kリーグ2との入替戦出場となる10位の水原との勝点差が2という状況に置かれている。そのため、かつてヴィッセルでもプレーしていたチョン ウヨンらの主力選手はリーグ戦に向けて温存という判断を下したようだ。
このメンバーだけを見れば、ヴィッセルの優位性は明らかだったように思う。果たして、試合はその流れ通りに推移した。キックオフ直後からヴィッセルの前に出る守備が機能し、蔚山を自陣内に押し込めていった。特に大迫と宮代の見せるファーストディフェンダーの動きは見事で、蔚山の最終ラインに対して効果的にプレッシャーをかけ続けた。4-3-3でセットしていた蔚山ではあったが、ボランチに対しては井手口と扇原のコンビがプレスをかけ、最終ラインからのボールを何度もカットして見せた。その結果、蔚山のボランチであるミロシュ トロヤクは最終ラインに吸収される形となり、5バックで守る時間が長くなった。また両サイドはヴィッセルのサイドバックが抑えきっていたため、蔚山は自陣から効果的にボールを出すことができないままに試合は進んだ。こうした形が整っていたため、ヴィッセルの最終ラインも高い位置を取ることができていた。山川とトゥーレルのセンターバックコンビはハーフウェーライン付近で構え、蔚山が蹴り出したボールを確実に回収し続けた。
この時間帯に見せた守備の形は「ヴィッセルらしい」ものだった。10人のフィールドプレーヤーが動き続けたことで、球際では複数の選手で挟み込んでボールを奪う形が整っていた。このボール奪取の形が整ったということは、選手のフィジカルコンディションが良好であることを示している。
このようにヴィッセルの守備は蔚山を押し込んでいたのだが、蔚山にとってこれは想定内だったようだ。それを示していたのが、蔚山の前線の位置だ。この試合のように押し込まれる展開であれば、前線を高い位置に出し、ロングカウンターで局面の打開を図るシーンがあってもおかしくないのだが、蔚山の前線はヴィッセルのアンカーである扇原の僅かに背後を取るところまでしか出てこなかった。これであると、例えボールを受けたとしても、前には山川とトゥーレルのコンビがいることになり、崩しきることは難しい。それでも前線をこの位置に留めておいたということは、ノ サンレ監督のプランが、前半は失点を防ぎ、後半に勝負をかけるというものであったためだろう。

この時間帯に目を惹いたのは山川だった。前記したように相手のプレスが緩かったこともあるだろうが、山川は高い位置から縦に速いボールを差し込むシーンが目立った。蔚山のブロックが後ろに厚かったこともあるが、これが効果的にヴィッセルの2列目を動かしていった。山川のこうしたプレーを引き出したのは、ヴィッセルが見せた前線からの守備だ。これが各所で連動しながら相手を抑え込んだため、山川にとっては前を見やすい環境が生まれていた。以前にも指摘したことだが、最終ラインに対してプレスをかけられ続けた時、ヴィッセルの反攻は勢いが生まれ難い。それは最終ラインからのビルドアップの形が整備されていないためだ。その背景には、精度の低いボールでも収めることのできてしまう大迫の存在があるわけだが、これはあくまでもリスク回避のための1つの方法でしかない。最終ラインが起点となった攻撃が機能すれば、チーム全体が前を向くことができ、吉田監督が目指す厚みのある攻撃につながりやすい。そしてその態勢をさらに強固にするのが「前線からの守備」というわけだ。これだけを見ても、サッカーにおいて攻撃と守備がシームレスの関係にあることは理解できる。
この時間帯に厚みのある攻撃ができた理由として、井手口の復活が挙げられる。新潟戦で戦列に復帰した井手口だが、この試合では「井手口らしさ」を完全に取り戻していた。この日の井手口は、前記したように高い位置でのボールカットも多かったが、そこから前に出ていく姿も目立っていた。その中でペナルティエリア付近まで進出し、積極的にシュートを放つ姿が印象的だった。シュートはいずれも枠を捉えることはできなかったが、それでもタイミングは合っており、この井手口の押し上げがヴィッセルの攻撃に厚みをもたらしていた。そしてボール非保持時には豊富な運動量とスピードを活かし、ボールホルダーに対して効果的なプレスをかけ、蔚山のカウンターを遅らせていた。26分に見せたマティアス ラカバの前進を止めたシーンは見事だった。右ハーフスペースで斜め後ろからのボールを受けたラカバに対して、最初に寄せたのは永戸だった。ラカバはターンでこれをかわし中央に向けて動いたのだが、ラカバがターンをした瞬間に中央のコースを消すように動いていた井手口が、これに身体を当てて止めた。ファウルの判定ではあったが、このプレーは大きかった。ラカバに井手口の存在を意識させたことで、この後、ラカバの進路から中央が消えた。その後も効果的な守備を見せ続けた井手口は、何度かは寄せ切れない場面も見られたが、新潟戦時と比較した時、コンディションが格段に良化していることは明らかだった。この「中盤のダイナモ」の復活は、残る試合を戦う上でも心強い。
この山川と井手口の活躍が「幻のゴール」を演出した。10分を過ぎたところで獲得した左スローインで、永戸はマイナス方向のトゥーレルにボールを戻した。これを受けたトゥーレルは逆サイドの山川にボールを渡した。山川はセンターサークルを越えた辺りから縦にボールを差し込んだ。これを受けたのは佐々木だった。ペナルティエリア右角辺りでボールを受けた佐々木は、一度は足を止めきれず、ボールを後ろに残す格好になったが、すぐに反転し、中央の大迫を目がけ、左足でクロスを入れた。しかし大迫のすぐ斜め前には最終ラインに吸収されていたミロシュがいたため、大迫はこれを胸トラップで浮かせ、ゴールエリア前に上がってきた井手口に浮き球で渡した。井手口はこれを丁寧に頭で、ミロシュとの距離を取った大迫に戻した。そして大迫は、このボールの落ち際を狙ってダイレクトにシュートを放った。地面でバウンドさせることで相手守備の脇を抜きつつ、正確に枠内に蹴りこんだ見事なシュートだった。これがゴールネットを揺らしたが、ここでVARが介入。結果的にシュートコース近くでオフサイドの位置に立っていたパトリッキがプレーに関与したと判断され、得点は取り消しとなった。
個人的には、シュートを放つ前に相手GKは動いていたため、パトリッキが影響を与えたとは思えなかったのだが、パトリッキが足を止めきれず、僅かにシュート方向に動いてしまったことが影響したのだろう。結果的に得点とはならなかったが、一連の流れは見事であり、ヴィッセルらしいスピード感のある「幻のゴール」だった。

井手口と同様に、この試合で復活を印象付けたのが佐々木だった。試合の中で何度かポジションを移した佐々木だが、佐々木らしく前に出て巧く周りを使うプレーでチャンスを創出し続けた。それを象徴していたのは34分のプレーだった。蔚山が自陣でボールを戻した時、これを受けたチョ ヒョンテクに寄せたのが佐々木だった。佐々木はここでヒョンテクの視界を塞ぐように寄せたことで、パスミスを誘発した。ヒョンテクのパスは距離感が狂っており、ここに素早く井手口が寄せた。井手口は左斜めに正確なパスを供給、これを受けたパトリッキが右に折り返した。この時、ボールに合わせて大迫が跳んだことで、相手の守備は一瞬足を止めた。そして外に流れたボールを拾った佐々木は大迫とのパス交換から、逆サイドにクロスを入れた。ここには宮代とパトリッキがいたのだが、その手前で相手選手が頭に当てた。これを拾ったのはペナルティエリアまで入り込んでいた永戸だった。永戸はこのボールを頭で右に折り返した。ボールは大迫の手前でバウンドしたが、これに対して大迫は落ち着いてダイレクトでシュートを放った。シュートはバーを叩き、ここでも得点とはならなかったが、このシーンにも「ヴィッセルらしさ」は詰まっていた。大迫がシュートを放った時、ペナルティエリア内には6人もの選手が入り込んでいた。そこには永戸も入っていたように、ボールと逆サイドの選手が前に出ることで、攻撃に厚みをもたらすという基本が徹底されていた。また永戸が空けたスペースは扇原とトゥーレルが見ており、リスク管理も十分にできていた。
そして何よりもこのシーンにおける佐々木はディフェンダーとしての動きで相手のミスを誘い、ボール保持に変わってからは前線で司令塔としてボールを動かしていった。要は攻守の起点として機能していたのだ。さらに言えば、いずれのボールタッチも柔らかく、精度も高かった。大迫をはじめとしたアタッカー陣を動かす上で、佐々木の復活は大きな意味を持っている。本来は佐々木自身もアタッカー的な存在ではあるのだが、佐々木はそれをお膳立てできるセンスの持ち主でもある。万能型という意味では大迫と同型の選手とも言えるだろう。ここ数試合、アタッキングサードでのアイデアが不足気味だったヴィッセルだが、その解決策とも言える佐々木の復活も、ヴィッセルにとっては明るい材料だ。
こうして振り返ってみると、前半のヴィッセルは複数得点を奪うに相応しい攻撃を見せていたことが解る。前半だけで10本のシュートを放ちながらも、それを得点に結びつけることができなかったのは悔やまれる結果だ。しかし過去の数試合とは異なり、力強い守備でボールを奪い、素早く厚みを持った攻撃を仕掛ける。そしてそれを繰り返すことで試合の流れをつかみ、相手を押し込んでいくという「ヴィッセルらしさ」を、この試合では見ることができた。形は整っていたものの、得点を奪うことはできなかったという事象からは、冒頭で書いたように、ヴィッセルが未だ回復途上にいることが解る。しかしその回復のスピードは早い。残る今季の試合で、それを結果に結び付けてくれる可能性は存分に見せてくれたのではないだろうか。実はこれこそが、この日の試合における最大の収穫であるように思う。
決勝点はパトリッキの左足から生まれた。まずはそのゴールシーンを見てみる。ここで起点となったのは宮代だった。58分に扇原が左に散らそうとしたボールが、相手守備に引っかかった。しかし直後に宮代が背後からボールホルダーに寄せ、巧くボールを回収した。扇原のボールが相手の網にかかってから僅か6秒後のプレーだった。即時奪回を果たしたことで、蔚山は態勢が崩れた状態からの守備を余儀なくされた。宮代は中央の大迫にボールを預けたのだが、ここで大迫は相手選手を背負いながらも、難なくボールを収め、右に出た。そして上がっていた鍬先にボールを預けた。鍬先はダイレクトに低く浮かせたボールを中央に入れた。前を向いていたミロシュがこれを収めようと足を止めたタイミングで、その背後から出てきたパトリッキがボールを収めた。そして左に流れながらターンして、左足を振りぬいた。このシュートは正確にゴール左に吸い込まれた。
この得点シーンでは5人の選手に注目してほしい。まずはボールを奪回した宮代だ。この試合でも宮代はボールスキルの高さを存分に発揮した。今の宮代は足もとの深い位置でボールを握りながら、前に出ることができる。この足もとの深い位置というのは体幹直下でもある。そのため相手に寄せられたとしても、ボールを握り続けることができるのだ。前進する時にはボールを前に置き、相手とのデュエルの場面では体幹直下に移す。これができているため、宮代はボールを運ぶことができ、奪われることもない。そして逆にボールを奪う場面では身体を入れつつ、ボールの真上を取ろうとしている。足先で奪うのではなく、体幹で奪う。これこそがボール奪取における鉄則だ。
次は大迫だ。いまさら説明不要ではあると思うが、どんな場面でもボールを確実に収める技術、そしてそれを味方に確実につなげる技術。いずれも衰えることがない。
そして鍬先だが、昨季から最も成長した選手の1人が鍬先であることに異論はないだろう。ヴィッセルでのプレーが自身初のJ1への挑戦ということもあり、当初はスピードと強度に戸惑っている様子も見られたが、今や試合の中で自らの特徴を出すことができるまでになっている。加えて本職のボランチに留まらず、サイドバックやインサイドハーフもこなすユーティリティー性の高さも見せている。この試合では後半、一回り以上大きな身体を持つマルコンに対しても臆することなく寄せ、粘り強い守備を見せていた。この粘り強さこそが鍬先の持ち味なのかもしれない。

そしてゴールを決めたパトリッキだが、このゴールはパトリッキ自身にとっても大きな意味を持っていたのではないだろうか。試合後に吉田監督は「最近は迫力を失っている試合もあった」とパトリッキの課題を指摘したが、これはその通りだ。エリキの加入以降、負傷の影響もあり、出場機会が減っていただけに、パトリッキもコンディション調整に苦労していたことは間違いないだろう。それだけに、久しぶりに主力メンバーとしての出場となったこの日の試合にかける思いは強かったのだろう。試合序盤から持ち前のスピードを存分に発揮していた。この勢いこそがパトリッキに必要だったのだ。最大の特徴でもある爆発的なスピードは、技術型の選手が多いヴィッセルにおいては貴重な存在だ。パトリッキ自身が認めているように、ヴィッセルでのポジション争いは厳しい。思うように出場機会がつかめない中で、コンディションを上げていくのは難しかったとは思うが、こうした貴重なゴールを決めたことが、パトリッキにとっての大きなきっかけとなるのではないだろうか。
5人目はトゥーレルだ。扇原のパスをひっかけた選手に素早く寄せたのはトゥーレルだった。ここでトゥーレルが寄せたことで、相手選手のパスは僅かに乱れた。これが宮代のボール奪取につながった。この試合でもトゥーレルは別格の存在感を見せていた。カウンターで裏を取られそうな場面でも、トゥーレルが戻り、見事な対応で蔚山の攻撃を食い止め続けた。この日の試合ではこぼれたボールを拾い、ペナルティエリア付近まで上がっていく場面もあったが、その際にも周囲の状況は確認しており、リスク管理も徹底されていた。スピードと強さを兼ね備えたトゥーレルは、今やJ1リーグでもナンバーワンのセンターバックだ。過去2シーズンと比較した時、得点力が低下している今季のヴィッセルだが、トゥーレルを中心とした守備力がチームを支えている。
試合終盤、システムを4-4-2に変更し、シンプルに前に出るようになった蔚山だが、前記した通り、これは予定通りの行動だったのではないだろうか。その中で何度かピンチを迎える場面もあったが、そこでは前川が落ち着いた対応を見せ、ゴールを守り切った。シュートストップに限れば日本人最高クラスの能力を持つ前川だが、この試合でもその能力を遺憾なく発揮した。
冒頭でも書いたように、この試合の結果、ヴィッセルはACLEグループリーグ突破に向けて大きく前進した。この勝利によって、チームにも勢いが戻ってきたことは間違いないだろう。次はこの勢いを加速させ、持続させなければならない。そのためにも中3日で行われるG大阪戦は大一番となる。シーズン終盤にきて好調を維持しているG大阪には、宇佐美貴史を筆頭に能力の高い選手が揃っている。この「力のある近隣のライバル」から、相手のホームゲームで勝利を奪うことができれば、間違いなくヴィッセルにはさらなる勢いが生まれる。今はJ1リーグ優勝を争うライバルチームの動向を気にすることなく、この難敵を倒すことに集中してほしい。それこそが奇跡への唯一の道だ。


