覆面記者の目

ACL Elite MD7 vs.上海海港 御崎公園(2/11 19:00)
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  • 4
  • 1前半0
    3後半0
  • 0
  • 上海海港
  • 武藤 嘉紀(11')
    鍬先 祐弥(54')
    汰木 康也(56')
    大迫 勇也(81')
  • 得点者

「やはりヴィッセルは強かった」
 これは試合後に多くの関係者が口にしていた言葉だ。3日前に行われた富士フィルム・スーパーカップ(以下SC)ではスターティングイレブンに野心的なメンバーを並べ、主力選手中心の広島と対峙したが、「神戸らしさ」を見せることないままに敗戦を喫した。しかし主力選手で臨んだこの試合では、中国サッカー・スーパーリーグの覇者である上海海港を全く寄せ付けることなく4-0と快勝した。


 この試合の勝利は、AFCチャンピオンズリーグエリート(以下ACLE)リーグステージ突破を決めただけに留まらない。1週間後に行われるリーグステージ最終戦が消化試合となったことで、わずかではあるが、過密日程に緩みが生まれた。加えてその試合は、ステージ突破にむけてギリギリの戦いを続けている上海申花とのアウェイゲームだ。これをチーム強化を目的とした試合にすることも可能になった。実はこれこそが、今のヴィッセルにとっては最も重要な点であるように思う。

 試合の詳細は後述するが、この試合でヴィッセルが見せた戦いは「らしさ」に満ちていた。ボール保持時には長短織り交ぜたボールで相手ゴール方向に速い攻撃を仕掛け、上海海港に陣形を整える暇を与えなかった。そしてボール非保持時には素早く4-4-2に変化し、前線からの連動した守備でボールを奪取。そこから再び速い攻撃を仕掛けることで、上海海港を押し込んでいく。これを繰り返すことで、相手の体力を奪い、試合を通じて主導権を握り続けた。

 こうした戦いを目の当たりにすると、SCで顕在化した「戦力の均衡」という課題の解決が急務であることに改めて気づかされる。今季のヴィッセルには「J1リーグ3連覇」、「アジア制覇」など、多くの期待がかけられている。この試合を戦ったメンバーで1年間、全ての試合を戦うことができるのであれば、特段問題はないのかもしれない。しかし、現実にはシーズンインからいきなりの8連戦を迎えたように、昨季以上の過密日程がヴィッセルを待ち受けている。その中でチームとしてのパフォーマンスを維持するためには、「控え選手たち」が今以上の力をつけなければならない。この点は吉田孝行監督にとっても、最大の懸案事項となっている。試合後の会見の席上、今後のチーム強化について尋ねられた際には「自分たちの目標を達成するためには、2チームが必要だと感じています」と発言した。その上で「自分にできること(やるべきこと)はみんなを成長させることだと感じています」と、控え選手たちの成長にフォーカスしていることを明かした。
 こうした試合の後であるだけに、成長を期待されている選手たちは今、大きなプレッシャーを感じているのかもしれない。しかし焦りは禁物だ。今はヴィッセルに認められた自らの能力を信じて、日々のトレーニングに打ち込んでほしい。

先日、偶然視聴した動画の中で、メジャーリーグで活躍中の菊池雄星が面白いことを言っていた。菊池は「(野球は)徐々にうまくなるのではなく、いきなりうまくなると思う。そこにはきっかけをつかむ瞬間がある。そのきっかけに出会うチャンスを増やすために練習を続けている」というのだ。吉田監督が会見の中で名前を挙げた扇原貴宏のことを考えた時、この菊池の言葉は正鵠を射ているように思う。吉田監督も認めたように、ヴィッセル加入直後から、扇原はチームにフィットしない日々が続いた。技術的にはそれ以前に完成されていた選手であるだけに、扇原自身ももどかしさを感じていたことだろう。しかしその中でも扇原は実直にトレーニングに取り組み続け、一昨年、そのきっかけをつかみとった。そして今ではチームに不可欠な柱へと成長した。
 今のヴィッセルにはかつての扇原と同様に、十分な実績を持ちつつも、未だレギュラーの座を勝ち取れていない選手もいる。苦しさもあるだろうが、今は辛抱の時だ。大いに考え、質の高い(=明確な目的を持った)トレーニングを続けてほしい。使い古された言葉だが、努力が嘘をつくことはない。

 次に試合を振り返ってみる。試合前日、吉田監督の発言からは、勝利にこだわる姿勢が感じられた。前記したような理由もあったと思われるが、週末のJ1リーグ開幕戦に向けて、チームのムードを高めておきたいという思いが強かったのだろう。その思いはメンバー選考に表れていた。GKは前川黛也。最終ラインは右から酒井高徳、山川哲史、マテウス トゥーレル、本多勇喜の4枚。中盤はアンカーに扇原、インサイドハーフは右に鍬先祐弥、左に佐々木大樹。前線は右から武藤嘉紀、大迫勇也、汰木康也という並びだった。負傷者もいるとされる中、これが現時点でのベストメンバーということだろう。
 これに対して上海海港は4-2-1-3の並びだった。昨年まで在籍していたブラジル代表のオスカルはチームを去ったが、前線のグスタボを中心とした強力な攻撃力で、昨季には中国サッカー・スーパーリーグを制している。


 試合はキックオフ直後から、ヴィッセルが主導権を握った。後方からポゼッションしながらボールを運びたい上海海港に対して、ヴィッセルは大迫を中心としたファーストディフェンスが機能した。後方でゆっくりとつないでくる際には、佐々木が上がる形の4-4-2に変化させ、高い位置からプレスを敢行することで、パスコースを限定。これに応じてチーム全体が高さを調整していったため、上海海港を自分たちのエリア内に閉じ込めることに成功した。その上でプレスを連続させていったことで、ほぼ全てのボールをボランチまでの間で奪い切ることに成功していた。そしてファーストディフェンダーが間に合わない時には、瞬時にミドルゾーンで構える形に切り替えていた。ヴィッセルの最終ラインの裏を狙う動きに対しては、2枚のセンターバックが警戒した上で、低い位置からプレスを開始。この時にも全体はコンパクトに保たれていた。そのため、球際で競り合ってこぼれたボールに対しても、ほとんどの場合でヴィッセルの選手が先に反応しており、そこでボールを取り切っていた。こうした動きを序盤から発揮することができたことで、上海海港は後ろ向きに走らされる場面が多く、ボールを奪ったとしても、攻撃の形を作ることができずにいた。
 上海海港を率いるのは、一昨年まで横浜FMの指揮を執っていたケヴィン マスカット監督だった。ヴィッセルのリーグ戦初優勝時、優勝を最後まで争ったライバルチームを率いていたこの指揮官は、ヴィッセルのサッカーを理解している。それだけに戦前から警戒感を滲ませていたのだが、この日ヴィッセルが見せた強さは、マスカット監督の記憶以上だったようだ。一昨年は個々の選手が見せる球際の強さを主な武器としていたが、今ではそこに連動が加わりつつあるためだ。マスカット監督は早い段階で低い位置からつなぐことを諦め、中盤にいるブラジル人選手の突破力を使うべく、戦い方を切り替えてきた。しかし、それに対してもヴィッセルの守備は慌てることなく対応し、上海海港の思い通りにボールを運ばせることはなかった。その結果、試合を通じて上海海港の攻撃を抑えきった。上海海港のシュート数3本という数字が、それを表している。
 この日、ベンチやスタンドから試合を見ていた控え選手たちには、この試合でヴィッセルが見せた守備を忘れないでほしい。ボールホルダーに対して強度の高いプレスをかけるということは、そこでボールを取り切ることも大事だが、後ろの人間の選択肢を減らすことを意識しなければならない。これを身につけるためにもトレーニングでロンドを行う際、ボールホルダーに向かう身体の角度を意識してほしい。そしてこの動きを無意識に行えるところまで、自らに刷り込まなければならない。

 守備で試合の主導権を握ったヴィッセルは、ポジティブトランジションにおいても速さを見せた。守備の際も常にベクトルが前に向いていたため、そのまま攻撃に移行する際も無駄がなかった。ここに「ヴィッセルらしさ」を発揮するための、もう1つのカギがある。
 ヴィッセルのサッカーの特徴を語る際、素早い攻守の切り替えを挙げる人は多い。特にボール非保持に変わった際のスピードは印象的だが、実はボール保持に変わった際のスピードも劣らずに速い。これを維持するためには、この試合で見せたような「前を向いた守備」が求められる。
 これを象徴していたのが5分のシーンだ。上海海港の右サイドでのスローインに対して、タッチライン近くで頭に当てた選手が中央のマテウス ビダルに落とそうとした。このボールに対して扇原が足を伸ばし、コースを変えた。ビダルはこのボールに合わせて走ったのだが、ビダルをマークしていた鍬先がそれよりも一歩早く動き、先にボールを触った。この時、鍬先はビダルをマークしつつも意識を前に向けていたため、迷うことなく左前方にボールを蹴り出した。これこそが、「前を向いた守備」における身体の使い方だ。鍬先の動き方であれば、ビダルにボールを触られたとしても、そこに対して球際で勝負できる体勢になっていたため、自由な攻撃を許した可能性は低いだろう。
 鍬先からのボールを受けたのは佐々木だった。佐々木は相手のスローインに合わせて後ろに戻ることができる状態を保っていたが、鍬先がマテウスよりも先に動いた瞬間、身体を半身にして前に上がることができるように体勢を切り替えていた。そして鍬先がボールを蹴る際には相手選手3人が作る三角形の重心の位置に立ち、3人に対して動き難さを与えた。その上で鍬先がボールを出してくることを信じ、走り出している。鍬先が蹴る時点では右センターバックのジャン リンポンがボールの落下地点に近い位置にいたが、佐々木は素早い動き出しによって、優位性を確立したのだ。佐々木のドリブルは、ジャンのスライディングによって止められたが、その背後からスピードに乗って走りこんできたのが汰木だった。汰木はジャンがカットしたボールを拾い、そのままスピードを落とすことなくペナルティエリア横まで走りこんだ。
 汰木がペナルティエリア横に着いた時、ペナルティエリアの中では(2+1)対2の関係ができあがっていた。GKの前に立っていたのは左センターバックのリー アンと左サイドバックのリー シュアイだった。高さのあるアンの前には大迫が立ち、シュアイの前には武藤が立っていたのだが、この背後から上がってきていたのが+1にあたる酒井だった。汰木の入れたグランダーのボールに対して、大迫はボール方向に動き、アンを釣り出した。そして武藤はフェイント気味に左足で外にポジションを取っていた酒井にボールを託した。これはひょっとするとミスショットだったのかもしれないが、いずれにしてもボールは外側でフリーになっていた酒井が回収。最終的に酒井のシュートはクロスバーを叩き、得点とはならなかったものの、澱みのない素晴らしい攻撃だった。
 そしてここで見逃すことができないのが、鍬先の動き方だ。汰木が前に上がり始めた瞬間、相手選手の目がボールホルダーである汰木の方を向いたのを見て、猛然とスピードを上げて前線に近いところまで走りこんだ。そして武藤がボールを酒井に流した瞬間には、ペナルティエリア内に入り、こぼれ球に反応する体制を取っていた。この場面ではボールに関与することはなかったが、こうした動きを誰一人さぼることなく続けることで、ヴィッセルの攻撃には厚みが生まれていた。この原動力となるのが、「前への意識」だ。これがあったからこそ、スローインという相手ボールの局面から、一瞬でこの形に持ち込むことができたのだ。
 切り替えの早さを象徴するシーンはもう1つあった。7分のフリーキックのシーンだ。武藤が受けたファウルによって、ヴィッセルはフリーキックを得た。右タッチライン近くから扇原が蹴りこんだボールを、ファーサイドで相手選手がクリア。このボールがカウンターの起点となるために、ラインよりもヴィッセルゴール側に立っていたビダルの足もとに落ちた。そしてビダルがボールの動きに合わせる形で前を向こうとした際、その5mほど後ろから猛然と詰めたのがトゥーレルであり、10mほど後ろに位置していた山川だった。そしてビダルがボールを触る際には、この二人でビダルを挟み込み、ボールを奪った。ボールは右タッチライン方向にこぼれたのだが、これを山川が前に出し、再び前に走り出したトゥーレルがボールを触った。結果的にはトゥーレルが触った時点でタッチラインを割っており、再びの攻撃につなぐことはできなかったのだが、このわずか10秒足らずの間に両センターバックが走った距離とスピードは、旧来のセンターバックであればあり得ないものだった。センターバックにもスピードが求められる昨今ではあるが、このように常に前を向く意識が、ヴィッセルにおいては全ての選手に求められることを示す好例と言えるだろう。


 今季、ヴィッセルの初ゴールを決めたのは、昨季のJリーグMVPを獲得した武藤だった。11分に酒井が左足でサイドを変えた。このボールを受けた汰木はマークする相手を振り切って、左足でクロスを入れた。このボールは跳んだ相手選手の頭上を越え、武藤の足もとに入った。このボールを武藤は落ち着いて、右足で相手GKの股を抜き、ゴールに蹴りこんだ。昨季、チームを優勝に導いた男が、今季もチームに勢いをもたらす初ゴールを決めた。文字通り「役者の違い」を示した格好だ。SC後は厳しい言葉をチームメートに投げかけた武藤だが、そうした言葉よりも厳しい評価を自らに下すことができる選手でもある。どれだけ活躍しようとも、自らを律することを忘れないからこそ、30歳を超えてなお、武藤は成長を続けることができているのだろう。

 武藤同様に自らを律しつつ、チームを鼓舞し続ける選手がヴィッセルには複数人いる。その代表的な存在が酒井だ。この試合では序盤から積極的に前に上がりつつ、相手の攻撃に対しては厳しくも的確な寄せで、相手の攻撃を寸断し続けた。試合後にはSCの流れを正すという使命感を持って試合に臨んでいたことを明かした酒井は試合中に、相手のサイドがボールに引っ張られやすい傾向を見抜き、意図的にファーサイドを取り続けていたという。強い使命感を抱きつつも、冷静に相手を分析し、それをプレーで体現して見せる能力はさすがの一言だ。感情に左右されない冷静さを保ち続ける能力は、若い選手にはぜひ見習ってほしい部分だ。

 最初の得点シーンでも見ることができたが、この試合ではサイドチェンジの方法を複数試していたように見えた。ここでのキーマンは本多、酒井、汰木の3選手だ。彼らの縦関係をずらしつつ、カット気味のボールでサイドを変えながらボールを前進させていた。これによって昨季まで初瀬亮(シェフィールド・ウェンズデイFC)に委ねていたサイドチェンジの新しい形を作りつつある。この試合では、相手がボールサイドに引っ張られる傾向にあったため奏功したが、精度とスピードを高めていくことができれば、面白い形ができあがる可能性を感じさせてくれた。

 後半に入っても、ヴィッセルの攻撃は勢いを持続した。2点目を決めたのは鍬先だった。山川のロングフィードを大迫が前で収めることから始まった攻撃は、ペナルティエリア付近で何度もボールを動かし、最後はペナルティエリア前まで上がった本多からのパスを巧く受けた鍬先が強烈なシュートを叩きこむことで完結した。嬉しいヴィッセルでの初ゴールを決めた鍬先は、「気持ちよく足を振ることができた」と、試合後に声を弾ませていた。冒頭で紹介した扇原と同様に、鍬先もチームにフィットするまでには時間を要した選手だ。自身初めてのJ1への挑戦ということもあり、気負っていた部分もあったのかもしれないが、そんな中でも自分の特徴を正確に把握し、チームの中でそれを活かす方法を模索し続けたからこそ、今がある。扇原も同様だが、新しいチームに自らを適合させる上では、自己分析を含め、物事を正確に判断する能力が不可欠だ。かつて日本サッカー協会の会長を務めた岡野俊一郎氏(故人)は「サッカーは身体と同じくらい頭が汗をかく」と言っていたが、成功するためには足だけを鍛えても難しい。


 試合に止めを刺したのは、ヴィッセルの絶対的エースだった。試合開始直後から前線で起点となり、時にはサイドに流れながら、見事なパスを供給し続けた大迫が、これまた大迫らしい難易度の高いゴールを決めた。81分に自らが倒されて得たFKのチャンスを決めて見せたのだ。右タッチライン近くからのFKを蹴ったのは扇原だった。斜め背後から入ってくるボールに対し、大迫は相手の裏に抜け出し、右足でダイレクトに合わせ、ゴール左に流し込んだ。右背後からくるボールに対して、右足をダイレクトに合わせてボールをコントロールするというのは、もはや「大迫だから」としか説明することができそうにない。映像で見直してみると、ボールは脛の辺りに当たっているように見えるのだが、このボールをコントロールできてしまうのが大迫という選手だ。
 このゴールも素晴らしかったが、ここに至る流れを見た時、大迫の凄みが理解できる。このゴールの3分ほど前、大迫はPKを止められていた。冨永虹七が獲得したPKではあったが、これを大迫が蹴ることにはだれも異論はなかったことだろう。卓越したシュート技術を持つ大迫に委ねるということは、ゴールの確率を高めることであるためだ。勝敗は決していた感もあっただけに、チームに大きなショックはなかったと思うが、これを大迫の立場で考えると話は違ってくる。後輩が獲得したPKを託されたという責任感、エースとしての使命感などを思えば、大迫自身がショックを受けたとしても無理からぬところだ。それを顔に出すほど甘い選手でないことは重々承知していたが、それでもこうした高難度のプレーで取り返してしまう精神力には脱帽だ。

 冒頭でも書いたように、今季の目標を前に、吉田監督は控え選手の底上げを真剣に模索している。それは試合交代にも表れていたように感じた。3点のリードを奪った後、飯野七聖、山内翔、冨永、日髙光揮を投入したのだ。彼らはいずれも、SCで期待に応えきれなかった選手たちだ。前の試合の課題を明確に覚えている間に、実戦に投入し、課題解決を図ってほしいという吉田監督の願いが込められていたのだろう。そしてこの試合で彼らは、短い時間ながらも存在感を示した。この繰り返しこそが、彼らを成長させる。

 この日の勝利によって、ヴィッセルは気持ちよくJ1リーグ開幕戦を迎えることができる。対戦相手は、今年も大型補強を敢行した浦和だ。難敵相手の開幕戦ではあるが、ヴィッセルには、Jリーグ史上2クラブ目となる「リーグ戦3連覇」の期待がかかっている。その偉業を成し遂げるためにも、ここでライバルの頭を叩き、チームに勢いをもたらしてほしい。スタンドをクリムゾンレッドで埋め尽くすであろうヴィッセルサポーターとともに、再びJの頂点を目指す航海が始まる。最高の船出となることを信じて、試合を見守りたい。



今日の一番星
[汰木康也選手]

得点者以外にも、最終ラインで素晴らしいプレーを続けた本多、トゥーレル、山川など候補が目白押しではあったが、その中でもひときわ輝きを放ち、左サイドを活性化し続けた汰木を、今季最初の一番星に選出した。この試合で左ウイングに入った汰木は、序盤から積極的に前へ仕掛ける姿勢が目立った。自ら仕掛けてゴール前に入っていくプレーは吉田監督から常に望まれていることと、試合後にコメントしていたが、以前よりも突破には力強さが感じられた。卓越したドリブルの技術を持つ汰木だが、天才肌の選手にありがちなボディコンタクトを嫌う傾向が、以前は見られた。しかしこの試合では球際でのプレーにも強さが感じられ、巧みなボールコントロールと合わせ、相手のサイドバックを押し込み続けた。また本多とのコンビネーションも良く、背後のスペース管理も安定していた。思えば、昨季もこのように素晴らしいコンディションでシーズンに突入したが、柏戦での接触によって長期離脱を強いられた。本人も忸怩たる思いはあったことと思うが、今年もしっかりとコンディションを整え、最高のシーズンインとなった。得点シーンでは、ハーフウェーライン付近で大迫がボールを受けた瞬間、右の武藤と呼応するように一気に前に出た。そして武藤からのクロスボールを、落ち着いてゴールに流し込んだ。武藤からのクロスはスピードに乗ったボールだったが、汰木は足首の角度をつけることで、勢いを活かすことを選択した。ここでコースを優先してしまったとすれば、もうひと手間かかっていた可能性もある。ここは瞬時に最適解を選択したクレバーさを高く評価したい。スピードで攻めることの多いヴィッセルの攻撃陣において、技術で変化をつけることのできる汰木は最高のアクセントとなる。今季のヴィッセル浮沈のカギは、この左サイドの槍が握っているように思う。アイドル顔負けの爽やかな笑顔を持つ天才の覚醒に大いなる期待を込めて一番星。