今季のヴィッセルにとっての大きな目標の1つであった「J1リーグ3連覇」の夢は潰えた。それを告げるファイナルホイッスルが吹かれた瞬間、ヴィッセルの選手たちは一様に呆然としていた。
こうした試合の後、メディアはきまって「今の率直な気持ちは?」と尋ねる。実に残酷な質問だと思う。「悔しい」以外の言葉が出ることなどないと解った上での質問であるためだ。それでもヴィッセルの選手たちは気丈に振舞っていた。悔しさを素直に認めた上で、それぞれが考える課題を口にしていた。今季もエースとしてチームを牽引した大迫勇也は、年間を通してフルで戦えなかった点を反省点として挙げた上で、「しっかりとした状態で試合に臨めればまだまだ結果を出す自信はある」と語った。またチームの精神的支柱でもある酒井高徳は要因を1つに特定することはできないとしながらも、「優勝するには1つ2つ足りないシーズンだった」とコメントした。
こうしたインタビューに応じた全ての選手が、反省点のベクトルを自分たちに向けていた点に、筆者は「王者の矜持」を見た気がした。今季のヴィッセルを語る上では「短すぎたオフ」、「シーズンイン直後からの超過密日程」、「負傷者の続発」といった「外的要因」に目が行きがちであるが、選手たちはそうした「外的要因」に触れることはなく、自分たちの力不足を目標達成に届かなかった原因として挙げている。これは厳しい環境すらも自分たちならば乗り越えられるはずだったという思いが強いためであり、それこそが「2連覇」を達成した王者としての誇りなのだろう。

この「ヴィッセルプライド」とも呼ぶべきものは、試合の中でも発揮されていた。前日に行われた他会場の結果によって、ヴィッセルが優勝の可能性をつなぐためには、この日の試合に勝利しなければならないことは解っていた。その中で80分に先制点を奪われてしまった。それまでの拮抗した試合内容を考えれば気落ちしてもおかしくないシチュエーションではあったが、ヴィッセルの選手は誰一人として諦めてはいなかった。そして89分、佐々木大樹が難しい角度から、見事なシュートを決め、同点に持ち込んだ。この試合の前まで、今季のG大阪は先制した全ての試合で勝利を収めていたのだが、その牙城を崩して見せた。結果的にこのゴールが勝利に結びつくことはなく、目標達成が不可能となったわけだが、この佐々木のゴールはヴィッセルが見せた「意地の一撃」だったように思う。ヴィッセルアカデミー出身で、今季からエースナンバーを背負う佐々木のこのゴールは「来季の栄光」に向けての約束だと信じている。
ドロー決着とはなったが、この試合は今季のヴィッセルが抱えている課題がまだ解決されていないことを示す内容だった。
この日、G大阪が見せた戦い方は、これも「ヴィッセル対策」の1つと言えるものだったように思う。それは「球際の強さ」と「素早い切り替え」を軸にした戦い方だ。この2つはヴィッセルの十八番ともいうべき戦い方だが、G大阪を率いるダニエル ポヤトス監督は、敢えて同じスタイルのサッカーをぶつけてきた。最近のG大阪はこうした戦い方で勝利を積み重ねていただけに、これ自体に驚きはなかったが、その強度は筆者の想像よりも高かった。そもそもG大阪は、ヴィッセルに劣らないだけのタレントが集っているチームだ。その選手たちがヴィッセルと同様の戦い方を見せた結果、試合は膠着状態に陥った。ボールは忙しく動き、両チームともアタッキングサードまでは入っていくのだが、最後の部分ではセンターバックを中心とした堅い守備がそれを阻み、ゴールを脅かすには至らないという流れが続いた。

そもそもヴィッセルの「素早い攻守の切り替え」と「球際の強さ」は、ヴィッセルが試合の主導権を握るための大きな武器だった。しかしこの日の試合ではその部分がイーブンだったため、ヴィッセルの優位性を確立するための力とは成り得ていなかった。試合後にポヤトス監督は「ヴィッセルのタレント性、デュエルでの激しさはありましたが、そこに対抗して強気な気持ちをしっかりと出してやってくれたなと思っています」と、ヴィッセル相手に一歩も引かなかった自チームの選手を称えた。これに呼応するように満田誠は「ヴィッセルがアグレッシブに来ることは分かっていましたし、そこで自分たちが消極的だったり、呑まれてしまうと難しい展開になることも分かっていたので、自分たちもアグレッシブに立ち上がりからプレーすることは意識していました」とコメントした。このG大阪の選手が見せた強度がヴィッセルの選手にとって予想外だったのかは不明だが、これに押されるような形で試合が進んだことは事実だ。これについて、この試合ではベンチスタートとなった酒井は、試合後に「セカンドボールなど、大事にしなければいけないところで相手にボールを渡してしまい、リズムが作れていないと思っていた」と語っている。この酒井の言葉が全てだったように思う。相手のアグレッシブな寄せを受ける中で、ボールを落ち着かせることができなかったことが、この日の試合では大きく響いた。
ここで大きな役割を果たしていたのが、G大阪の前線だった。中でもワントップのイッサム ジェバリと右サイドハーフの山下諒也の存在は厄介だった。元チュニジア代表のジェバリは高さがある上に、ボールの収まりも良く、ヴィッセルの最終ラインの前で起点となる動きを見せ続けた。そして山下は持ち前のスピードを武器に、縦の突破を試みていた。この両選手の動きそのものから失点する危険性はそれほど感じられなかったが、ヴィッセルの最終ラインから落ち着きを奪うには十分だったように思う。特に山下は、マッチアップした本多勇喜をかわすまでには至らず、縦の動きそのものは止められていたのだが、ボール非保持に変わった瞬間、ボールを追って走ることで、ヴィッセルの最終ラインにとって厄介な存在となっていた。ポヤトス監督の狙いとしては、この両者の動きでマテウス トゥーレルを釣り出したかったのではないだろうか。ヴィッセルの最終ラインの中で要とも言うべき存在であるトゥーレルをジェバリが引き付けた場合には山下が突破を図り、そこに山下と同じ2列目の食野亮太郎と満田を絡めることで押し切る。逆にトゥーレルが山下への対応でゴール前から流れた場合には、ジェバリでもう1人のセンターバックである山川哲史と相殺し、そこに食野と満田を飛び込ませるという考えだったように見えた。このジェバリと山下の動きでヴィッセルのセンターバックを釣り出し、そこにヴィッセルの守備陣をまとめることができれば、ボランチの安部柊斗を使ってミドルシュートからの展開も狙えるという考えもあったのではないだろうか。
これを裏付けるようにポヤトス監督は、ヴィッセルの中でマークすべき選手として井手口陽介の名前を挙げていた。豊富な運動量を活かし、時には最終ラインまで戻って守備をすることのできる井手口を高い位置で引き付けておくことが、ポヤトス監督の作戦上の肝だったのではないだろうか。そしてその役割を、もう1人のボランチである美藤倫に委ねていたようだ。それがある程度は奏功したという感想を持っていたためだろう。ポヤトス監督は試合後、この美藤に対しても高い評価を与えていた。
こうしたG大阪の戦い方におけるキーワードは「スピード」だ。ヴィッセルの守備陣にもトゥーレルや飯野七聖といったスピードのある選手はいたが、全体的には強さの方が際立っているメンバーだった。ここがヴィッセルを崩すポイントと、ポヤトス監督が考えたとしても不思議はない。このようにポヤトス監督はヴィッセルの戦い方を研究した上で、弱点を突く戦い方を準備していた。結果として試合は落ち着かない展開となった。ピッチ上の各所で両チームの選手が激しくボールを奪い合い、奪った側は素早く相手ゴールを目指す。この繰り返しとなった。展開の速い試合とも言えるかもしれないが、全般に精度を欠いた試合だったとも言える。

ここで前記した酒井の言葉を思い出してほしい。「大事にしなければいけないところで相手にボールを渡してしまい、リズムが作れていない」。これが前半の戦いをピッチの外から試合を観ていた酒井の感想だ。この「大事にしなければいけないところ」というのは、攻撃の起点となるパスと換言することもできそうだ。奪い合いを制し、ボールを握った直後は、相手の守備陣形は整っていないことが多い。かつてのように攻撃と守備が分離しているサッカーならばともかく、現在、そのようなサッカーを見せるチームはない。ボールの奪い合いに参加していない選手は、味方がデュエルに勝利した時に備え、前に出ることのできる態勢を取っている。もちろんリスク管理も頭には入っているが、完全に守備陣形が整っていることは極めて少ない。だからこそ、ボールを奪った直後のパスは、瞬間的に趨勢を定めることができる。ここで効果的な場所に打ち込むことができれば、一気に前への圧力を強め、相手の守備陣形が整う前に、相手ゴールに襲い掛かることができるのだ。しかしこの日の試合について言えば、そのパスが精度を欠いていたため、ヴィッセルの攻撃のスピードは上がり切らなかったように思う。
ここでの問題点は2つある。1つはチームとしての問題、もう1つは役割の問題だ。
まず前者だが、これはチーム全体の距離を意味している。ヴィッセルがハイプレスを敢行した際、最終ラインはハーフウェーライン付近にポジションを取る。そしてインサイドハーフの1枚が前に出て、もう1枚のインサイドハーフがアンカーの横に下がることで4-4-2の形を整える。その上で前線の2枚で相手のGKとセンターバックに対してプレスを敢行する。これに呼応してサイドハーフへと役割を変えたウイングが、相手のサイドを消すように動く。これによって相手のビルドアップを阻害する。そして縦に蹴ってきたボールに対しては2枚のボランチとセンターバックで対応する。この時、サイドバックはボール回収と同時に前に動くことで、その後の攻撃に厚みを加えるというのが基本的な動き方だ。これが巧く嵌っている時であれば、4-2-4のような形となり、相手への圧力を強めていく。
またハイプレスをかけ難い時には、ミドルゾーンでブロックを形成する。4-4-2の形になるところまではハイプレス時と同様だが、ここではファーストディフェンダーである前線がハーフウェーライン近くまで下がることになる。その上で、相手が自陣に入ってきたタイミングでプレスをかけていく。
この両者を、ヴィッセルは状況に応じて使い分けているのだが、両者に共通しているのは「ボールを奪った直後、素早く前に攻める」というアクションがセットになっているという点だ。そしてそれを成立させるためには、全体がコンパクトに保たれていなければならない。これが前提にあってこそ、迫力のある攻撃は生まれる。しかしこの日の試合でも顕著だったが、今季は選手間の距離が長くなる場面も多く、それゆえパスの精度が低かったように思う。前線の選手を前に走らせるボールならばともかく、ボランチからウイングへのパスのような組み立てを意識したボールがカットされてしまうのでは、チーム全体でのスピード感のある攻撃が繰り出せないのも当然だ。この原因はポジショニングの崩れだ。
2年前、この戦い方を導入した当時、ヴィッセルの選手たちはコンパクトな陣形を保ちつつ、全体が1つの生き物であるように動いていた。これが原動力となり、ヴィッセルはJ1リーグを制した。しかしこのサッカーに相手が対応してくる中で、選手個々には工夫が求められ、形は徐々に変化していった。それ自体は当然のことなのだが、崩してはいけない「パスコースの確保」までもを失ってしまったのかもしれない。それでもヴィッセルは個人の能力で、こうした部分をカバーしてきたが、今季終盤にきて、それをカバーしきれなくなったのが、ここ最近の試合結果であるように思う。直近で行われたAFCチャンピオンズリーグエリート25/26(以下ACL)・蔚山線でその問題が露見しなかったのは、ヴィッセルに対する備えの差だろう。スカウティングでのみヴィッセルを把握している蔚山とは異なり、過去からヴィッセルとの対戦を続けてきたJ1リーグのライバルたちは、ヴィッセルの各選手の特徴を把握した上で、ヴィッセルの変化につけこむことができていた。
そしてもう1つの問題である役割だが、これは選手にかかる部分が大きい。ここ最近の試合で望むような結果を出せなかった背景には、攻撃パターンの少なさがあったように思う。ヴィッセルにはボールスキルが高く、シュート技術に優れた選手が多く存在している。しかしシンプルに裏に抜けるような動きを見せる選手は少ない。そうした動きができるエリキが戦線を離脱後、この傾向は顕著になっている。今は攻撃の大半がサイドからのクロスによるものだ。大迫以外にも武藤や佐々木など、高さで勝負できる選手がいるため、クロスに頼りたくなる気持ちは理解できるが、それも程度次第なのだと思う。この日の試合でG大阪の山下が見せたような縦への突破は、シンプルではあるが、シンプルゆえの強さもある。山下がそうであったように、多くの場面では止められてしまうものの、相手にとっては嫌なシチュエーションでもある。万が一、スピードに乗った状態でペナルティエリアに侵入でもされた場合には、慎重に対応しなければPKを取られかねない。
スピードのある選手が不在であったとしても、縦に攻めていくことはできるはずだ。ボールホルダーを中心に全体で前に上がり、相手のブロックに対して波状攻撃をかける。こうしたシンプルな攻撃が、今季は少なかった印象だ。本来であれば、そうした縦の攻撃において威力を発揮する武藤が負傷によって長く戦線を離脱、復帰後もコンディションが戻り切れていないことも、ヴィッセルにとっては不幸だった。技術に長けた選手が多いのはヴィッセルの持ち味でもあるが、時にはシンプルな攻撃を織り混ぜていかなければ、相手に対応されてしまうのは当然でもある。
こうしたいくつかの事態が影響し、今季のヴィッセルが得点力を落としたことは事実だ。23年にはリーグ2位、昨季は3位と上位を誇っていた得点数だが、今季は8位へと急降下している。それでもシーズン最終盤まで優勝争いを続けることができた理由は、トゥーレルを中心とした守備の安定感があったためだ。これも「チームとしての強さ」と言えることは確かだが、吉田監督が目指したチーム作りとは異なる方向に進んでいるのではないだろうか。昨季までの2シーズン、ヴィッセルはその攻撃力で、ライバルたちを圧倒してきた。この日の試合後、各メディアは、昨季のような強さが見せられなかった理由を様々に記しているが、その答えは「攻撃力の低下」に他ならない。そこには負傷による選手の戦線離脱が相次いだことも大きく影響しているが、クロスへの比重を高めすぎてしまったことも一因となっているのではないだろうか。そしてこれこそが、シーズンを通して課題となった「戦い方の幅」を示しているように思う。

今季は様々なチームが見せる「ヴィッセル対策」に苦しめられたことは事実だ。「前線の大迫を徹底して消す」、「引いた位置で守備ブロックを形成する」、「自陣深い位置で徹底して中央を固める」、「サイドを厚くしてクロスの出所を潰す」、「中盤で扇原貴宏の自由を奪う」など、様々な方策に対してきたが、この日G大阪が見せた「同じスタイル、同じ強度で勝負する」というのも、その1つだ。J1リーグ連覇を果たした時点で、今季こうした対策を受けることは、吉田監督も想定していたはずだ。しかしそれに対する対応策が十分だったのかという点は、もう一度検証してほしい。1つのやり方を突き詰めることで、ライバルたちを乗り越えるというのは理想的ではあるが、過去に何度も書いているように、J1リーグはチーム力が拮抗したリーグでもある。23年にヴィッセルが、前年の13位から一気に頂点に立ったように、今季は、昨季ギリギリで「J1残留」を決めた柏が優勝争いを演じている。このように実力が拮抗したリーグの中で勝ち続けていくためには、戦い方の幅を広げていく他ない。
吉田監督が志向するヴィッセルのサッカーは、一見シンプルではあるが、様々な点が細かく設定されている。例えば後方からのロングボール1つにしても、その着弾点に応じて、各選手の立ち位置は細かく設計されているようだ。守備においてもファーストディフェンダーの守備開始位置に応じて、各選手の守備範囲が定められているようだ。こうした細かな設計があるため、単純なキック&ラッシュに陥ることはない。しかしこの細かい設計があるがゆえに、新しくチームに加わった選手は慣れるまでの時間を要する。今季、新戦力の台頭が少なかった背景には、この細かな約束事の影響があったのかもしれない。これ自体はポジティブな話ではあるのだが、それがゆえに戦い方の幅を広げることが難しかったのだとすれば、見え方は変わってくる。
さらに言えばベンチメンバーを見た時、もったいないという思いが多く残ったことも事実だ。この日の試合だけでも正確なロングフィードを蹴ることのできる岩波拓也、前線でのつなぎ役になることができる井出遥也、サイドでリズムを変えることのできる汰木康也、ピッチ上での汗かき役を担うことのできる鍬先祐弥など、流れを変えてくれる可能性を秘めた選手がベンチには名を連ねていたが、彼らを起用することなく、試合を終えてしまった。過去にも書いたように、選手の状態を最も近くで見極めている吉田監督の判断に疑いはないが、こうした選手たちを起用した時の戦い方も策定しておくことは、来季の巻き返しに向けての必須事項であるように思う。軽々に「誰を使ってほしい」ということは言いたくないが、ヴィッセルに所属している選手の組み合わせ方次第では、まだ新しい可能性が見出せるのではないだろうか。
冒頭にも書いた佐々木のゴールだが、これは技術的にも非常に優れたものだった。この試合では途中出場となった永戸勝也からの対角線のロングフィードを、ペナルティエリア右外で武藤が受けた。武藤はこれをダイレクトに浮き球で中に入れた。ここでゴールエリア右外に入り込んだのが佐々木だった。佐々木は一度バウンドしたボールの落ち際を右足でシュート。これがゴール左上に吸い込まれた。このシュートの難易度は高い。コースも限られている中で、斜め後方からのボールを止めることなく、コントロールショットを打てる選手は、そう多くはない。
今季はヴィッセルの誇る2枚看板である「大迫&武藤」が戦列を離れる期間も長かったが、そこで攻撃を牽引したのが「佐々木&宮代」コンビだった。本来はゴール前で得点に絡む動きが期待されている佐々木ではあるが、宮代とのコンビでは「取らせる役」に徹していた。「体幹の強さ」と「足もとの技術」を兼ね備えている佐々木だが、狭い局面の中でスペースを見つける能力にも優れたものを持っている。それを活かし、宮代の得点につなげた。ヴィッセルアカデミー出身の佐々木は、ヴィッセル愛の深い選手でもある。自身がゴールを挙げた試合の後は、どんなに疲れていてもサポーターの前でのパフォーマンスを欠かさない。そしてホームで勝利した試合の後では、誰よりも楽しそうに神戸賛歌を大きな声で熱唱している。その佐々木にとって、ヴィッセルが目標を達成できなかったという事実は、何にも増して悔しい事態だったのだろう。試合後に見せた哀しそうな表情は、普段の楽しそうな表情とのギャップもあり、見ている側が辛くなるものだった。

この佐々木とのコンビで2年連続となる二桁ゴールを記録した宮代だが、この試合ではインサイドハーフとしてボールを引き出すようなプレーが多かった。本来であれば、もっと高い位置でプレーさせたい選手ではあるが、足もとの技術が高く、一人でボールを前に運ぶこともできる選手であるため、今の戦い方の中では、こうした役割を担う場面も多くなってしまう。試合最終盤、カウンターを仕掛けたジェアン パトリッキが中央でポジションを取っていた宮代を見つけることができていれば、試合結果は異なるものになっていたかもしれないだけに残念な気持ちは残ってしまうが、宮代はこの試合でも存分に存在感を発揮していた。
この試合の結果、Jリーグ史上2クラブ目となる「3連覇」への道は断たれた。しかしここまで様々なハンデを乗り越え、優勝争いに加わり続けたヴィッセルの力は高く評価されるべきだ。そして試合後に吉田監督もコメントしたように、まだ2位の可能性は残されている。1つでも上の順位を目指すことは、プロとしての義務でもある。さらに天皇杯は連覇の可能性を残している。そして現在、首位に立っているACL・グループリーグの試合も残されている。ヴィッセルには落ち込んでいる暇などないのだ。一時は目標達成が視野に入っていただけに、気持ちの切り替えは決して容易いことではない。それでも今は、残る試合でヴィッセルの強さを示すという点に全ての選手がフォーカスしなければならない。吉田監督にとっては、選手のメンタルケアこそが、今の重要事項であると同時に、来季の復権のための第一歩でもある。
次戦は1週間後。天皇杯準決勝を、この日と同じパナソニックスタジアム吹田で戦う。対戦相手は、ヴィッセルと同様、今季は超過密日程に苦しめられた広島だ。広島は元々力のあるチームだが、今はヴィッセルと同質のモチベーションをも持っているはずだ。決して楽な戦いにはならないだろうが、ヴィッセルのプライドにかけても、負けることは許されない。最後まで王者としての誇りをもって、ヴィッセルらしい強さを見せつけてほしい。それこそが「王者の矜持」というものだ。

