これはスポーツに限った話ではないが、何らかの競技を行う上で「ルールやレギュレーションを熟知しておくことは、勝利を引き寄せる」と言われる。昭和を代表する野球マンガ「ドカベン」の中に、それを象徴する印象深いシーンがあった。主人公の所属する野球部が絶体絶命の場面で、思わぬルールの穴をつく形で得点を挙げた。細かい説明は省くが、これは連載当時に野球関係者の間でも大きな話題となったようだ。同作品の愛読者でもあり、「野球博士」と呼ばれるほどルールを熟知していた野村克也氏(故人)も当初は作者の間違いだと思ったそうだが、後に調べてみるとその通りだったため驚嘆したという。後に作者の水島新司氏(故人)はルールブックを見ていたところ、偶然その「穴」に気づき、作品に反映したことを明かした上で、「『打ち勝つだけ』、『守り勝つだけ』が野球ではないことを伝えたかった」と明かしている。なぜこんな話を書いたかと言えば、今季のJリーグにおいては、ルールやレギュレーションと同等に重要とも言える「判定基準」が勝敗を分ける大きな要素となっているように感じているためだ。

消化試合数にバラツキはあるが、J1リーグもほぼ4分の1を消化した。暫定ながら現在首位に立っているのは福岡だ。次いで京都、川崎F、岡山、柏、広島、町田と続いている。これらのチームに共通しているのは、いずれも対人強度の高い守備を見せているという点だ。逆に横浜FMや新潟といったゾーンの中でボールを奪い、それをつなぎながら展開したいチームが下位に低迷している。
今季のJリーグの特徴としては、新しい「判定基準」が挙げられる。実際に球際での競り合いの中で反則を取らない場面が増えたように感じている人も多いのではないだろうか。シーズン前にJリーグはプレー強度の向上と試合中の実際のプレー時間を増やすことを目指し、激しい接触があってもファウルでなければプレー続行を促す指針を示している。3月に日本サッカー協会の審判委員会が開いた説明会の中では、このJリーグの方針の影響で、取るべきファウルを流した場面があったことを認めていた。その上で「判定の標準を上げたい」という説明があった。
プレースピードや強度が上がっていく中、判定を下す難しさは筆者にも理解できる。説明会の中で「審判も悩みながらプレーしている」という説明もあったように、今季の「判定基準」は審判にとっても厳しい要求なのだろう。かつてのように倒れるだけで笛が吹かれ続けるようなストレスに比べればマシなのかもしれない。しかし今季序盤のヴィッセルが、この「判定基準」に悩まされたことは事実だ。ディフェンディングチャンピオンであるヴィッセルに対しては、どのチームも強度の高い守備を見せる。それはヴィッセルに対するリスペクトではあるが、中には明らかなファウルもあった。本来であれば審判は判定によって、激しいプレーの中で選手を守らなければならないはずなのだが、それが果たされていないように感じる場面が少なくなかったことは事実だ。しかしこれが今季の「判定基準」である以上、これに対応しなければならない。
ヴィッセルの選手たちにとって、これに対応することは決して易しくはなかったはずだ。シーズン開幕直後からAFCチャンピオンズリーグエリート(以下ACLE)の戦いもあり、そこではJリーグとは異なる判定基準が見られたためだ。しかしヴィッセルの選手たちは、これにも対応しつつある。ここ数試合は相手の厳しい寄せに倒れたとしても、そこからすぐに立ち上がり、プレーに復帰する姿が目立っている。試合を重ねる中で審判の示す「判定基準」も落ち着きつつあるように見えるが、同時にヴィッセルの選手たちも新しい「判定基準」に対応したプレーを見つけつつあるのかもしれない。その意味では高強度のプレーを選手に求める長谷部茂利監督が率いる川崎Fを相手にして、互角以上に戦い切ったこの日の試合は、この先の戦いにおける基準となるのではないだろうか。
試合後に長谷部監督は会見の冒頭に「相手(ヴィッセル)の方が良かった。いいリズムでできていたんじゃないかと思います」と語った上で、巧くいかなかった理由として「(ヴィッセルの)圧力に押されていたんじゃないかと思います」と述べた。これと呼応するように家長昭博も「セカンドボールを拾いに来る相手に全部拾われて、押し込まれて。前半苦しそうにやっているのを(ベンチから)見ていた。そのぶん後半、相手は体力が残っていて、うちは消耗していた。90分間を通して少し後手な感じがあった」と試合を振り返った。好調なスタートを切った川崎Fにここまで言わしめたのは、前半の守備にある。
この試合に際して吉田孝行監督は、エースである大迫勇也をベンチスタートとした。蓄積された疲労を考慮した結果ではあるが、結果的にこれが奏功した。攻撃時におけるボールの収まりどころである大迫を外すというのは大きな決断だったと思うが、吉田監督は川崎Fの勢いを止めるために「元気な選手による守備ありき」でメンバーを選んだのではないだろうか。かつてに比べるとバランスが取れてはいるものの、川崎Fが自分たちでボールを動かしながら崩していくスタイルであることは変わっていない。そのため、試合序盤にそのリズムを崩すことが、この試合における吉田監督の狙いだったように思う。
そして大迫に代わって先発で起用されたのは佐々木大樹だった。3トップの中央に入った佐々木だが、キックオフ直後から川崎Fの守備ラインに対して見事なプレスをかけていった。この佐々木と呼応して動いたのが、左インサイドハーフで先発した宮代大聖だった。ヴィッセルの基本形とも言うべきボール非保持時の4-4-2ではあるが、ここで前の2枚が連携してパスコースを限定していくことが、ヴィッセルのサッカーにおいては最も重要だ。この日の佐々木と宮代は2枚で巧く連動しながら、川崎Fのパスコースを消していった。4-4-2でセットされた川崎Fだったが、その狙いは明らかだった。センターバックとボランチの2-2でボールを動かしながらヴィッセルの守備を引き付け、そこからサイドへ展開するという戦い方を狙っていた。これに対して佐々木と宮代はセンターバックとボランチのパスコースを切りながら動き続けたことで、川崎Fの出足を潰していった。これが最初のポイントだった。

次のポイントはヴィッセルのボランチだった。アンカーに入った鍬先祐弥とボール非保持時には鍬先の横に落ちてくる井手口陽介のコンビが前に出る形で守備を続けた結果、川崎Fのボランチである山本悠樹と河原創にはプレッシャーがかかり続けた。この結果、山本と河原は後ろに下がった状態でしかボールを受けることができなくなったため、川崎Fはボールの出所付近に圧縮される格好となった。鍬先と井手口の背後には脇坂泰斗という、一人で違いを作り出せる選手が立っていたため、前に出るリスクはあったと思うが、このプレスが効果的だった。そのため、逆に脇坂を低い位置に引っ張りこむことができたのだ。この中央の4枚がスピード感を失うことなく動き続けたことが、この試合の最初のリズムを作り出した。
ここでもう1つのポイントとなったのは両ウイングの動きだった。前記したように川崎Fは「中央で作り、サイドで仕掛ける」という狙いを持っていた。そのため中央で押し込まれた場合にはサイドバックにボールを逃がし、そこから展開するという逃げ道もあったのだが、そこに対してはエリキと汰木康也の両ウイングが、やはり前に出ることで川崎Fの両サイドバックを押し込むことに成功した。まず右ウイングの位置で三浦颯太と対峙したエリキだが、持ち前の前に出るプレーを見せ続けたことで、三浦を引き付け続けた。三浦にとっては攻撃を成立させるためには、エリキを捨ててでも中央に入らざるを得なかったが、これは現実的に無理な話だった。エリキはボールを持った際には、縦に仕掛ける姿勢を崩さなかったためだ。そしてもう一方の汰木だが、こちらは佐々木旭とのマッチアップとなった。汰木はエリキのように縦に仕掛けるわけではないが、持ち前のボールスキルを発揮し、佐々木の前でボールを握り続けることで佐々木を足止めした。そして隙があれば前に出て積極的にクロスを狙う姿勢を見せ続けたことで、佐々木も前に出ることができなくなった。
ここまでの6枚の動きで川崎Fを自陣の深い位置に押し込むことはできたわけだが、それだけで守り切れるものではない。ここで意味を持っていたのは最終ラインが見せた高さだった。この試合の前半、ヴィッセルの平均ポジションは高さを保っていた。最終ラインがハーフウェーライン近くまで進出することができていたのだ。川崎Fの前線にはエリソン、マルシーニョという、スピードと決定力を持った選手がいた。彼らのカウンターを警戒するのであれば、ある程度背後をケアできる位置までしか出られなくなるところだったが、ここで勇気をもって前に出たことが、ヴィッセルの守備に強さを与えた。「勇気をもって」と書くと気合で乗り切ったように思われてしまうかもしれないが、そういう意味ではない。前線の高さに呼応して前に出ることで、チーム全体がコンパクトになることができる。そうなると人数的な優位性も生まれやすくなる。それに伴いセカンドボールの回収率も高まる。それが解っているからこそ、前に出ることができたのだ。とはいえ強力なストライカーを背負って前に出るということは、ミスが許されないということでもある。その意味での勇気だ。加えて最終ラインの背後にこぼれたボールに対しては、GKの前川黛也がカバーする体制も整っていたことも、両センターバックを前に押し出す一因となっていた。
マテウス トゥーレルと山川哲史の両センターバックコンビは、両者とも対人の強さを持っている。さらにトゥーレルにはスピード、山川には読みを活かしたカバーリング能力がある。特にこの試合における山川のプレーは見事だった。8分にセンターサークル付近でボールを受けて前を向いたエリソンを追い始めたトゥーレルが転倒したシーンでは、山川がその背後をカバーしており、エリソンがペナルティエリアに入ったところでボールを奪った。山川については、一点付記しておく。東京V戦でも見られた傾向ではあるが、山川は身体の向きとは異なる方向にボールを蹴り出すように意識しているようだった。この試合でも身体はサイドに向けながらも、まっすぐ縦にボールを入れる場面が何度か見られた。まだどこかプレーし難そうに見えたことは事実だが、相手が寄せ難くなるように意識したプレーを続けた。そしてこの試合では、積極的に前に上がる姿勢も見せていた。今やJ1の平均レベルを遥かに超えるレベルのセンターバックに成長した山川だが、ウイークポイントを潰していこうとする向上心は高く評価したい。目標を高い位置に置いているためかもしれないが、こうした努力は、必ず山川をワンランク以上アップさせるだろう。ルーキー時代から弛まぬ努力を続け、様々な課題を克服してきた山川の姿勢は、若い選手、中でも現在ヴィッセルアカデミーでプレーしている後輩たちにもいい影響を与えるはずだ。

最後に注目すべきはサイドバックだが、これは酒井高徳、本多勇喜がそれぞれの特徴を活かしたプレーで、左右に異なる色を着けた。まず左サイドバックの本多だが、前記したように汰木が川崎Fのサイドバックである佐々木を足止めはしていたが、ここにフォローに入ろうとした伊藤達哉の動きを巧く管理した。本多は伊藤の立ち位置から自らのポジションを定めていた。そして伊藤がポジションを落として、汰木が1対2を迎えそうになった時には、汰木からのボールを受けられる位置に上がった。逆に伊藤が前に出た際には、その走路の斜め前に立つことで、中に入る動きと縦に抜ける動きの双方に対処できるように動き続けた。
一方右サイドバックの酒井だが、マルシーニョが前を意識していたこともあり、酒井は高い位置を取ることができていた。そして攻撃にも積極的に関与していったのだが、ヴィッセルはここまで書いてきたような形で、ピッチ上のあらゆるところで川崎Fの狙いを消すように守ることができていたため、酒井は浮き上がるような形になっていた。そしてそれを活かし、高い位置で攻撃の起点となり続けた。この酒井の動きに対しては、川崎Fもこれを潰そうとしていたが、それをエリキとのコンビネーションで外し続けた。
このように、この試合におけるヴィッセルの守備は見事だった。サッカーにおいて攻撃と守備は表裏一体の関係にあるため、こうした守備によって攻撃の形も整った。その意味でもこの日の勝利は「守備の勝利」と呼んでも差し支えないだろう。吉田監督は「球際、セカンドボール、プレスバック、すべてにおいてみんながやるべきことをやってくれたと思います」と、選手たちが見せた動きを称えた上で、こうした動きができた要因を選手たちの勝ちたいという気持ちに求めていた。ここで誤解してはならないのは、気持ちだけでこうした素晴らしい守備が実現したわけではないということだ。この試合で見せた戦い方は日常からトレーニングの中で吉田監督が求め続けてきた戦い方であり、その理屈がチームに浸透していた結果でもある。
とはいえ、選手たちの気持ちがいい意味で高ぶっていたことは間違いないだろう。試合前日に本多は川崎F戦に臨む気持ちを尋ねられた際「本当に負けられない試合です。負けたらどんどん離されると思っているので、何としても勝ちたいです。優勝を狙って3連覇するためには、明日の試合が大一番だと思っています」と語っている。様々な要因が絡み合った結果、ここまで思うような戦いができていないことを全ての選手が認めた上で、上位陣との戦いを「6ポイントゲーム」と捉えることができていたからこそ、この日の試合に対して前向きに臨むことができたのだろう。この試合ではベンチスタートとなった扇原貴宏は、試合後に「前半あれだけみんながハードワークしていましたし、あのベースをしっかり続けていければ本当に負ける相手はいないなとベンチから見ていても感じていました」と語ったが、漸くヴィッセルは本来の力を取り戻しつつあるようだ。そしてこの勢いをもたらしたものは、4日前に行われた東京Vとの試合だった。ここで苦しみながらも勝利したことで、復活の手ごたえをつかむことができたのだろう。
この試合で最初の得点を決めたのは、チームのムードメーカーでもある佐々木だった。シーズン開始からのハードスケジュールで疲労が蓄積し、精彩を欠いた試合もあったが、この試合では再び見事な動きを披露した。得点シーンでは、エリキが落としたボールを受け、右ペナルティエリア角からシュートを放った。足に乗せるような形で回転をかけたボールは前に立つ相手選手に当たり、そのままゴールに吸い込まれた。蹴る瞬間にはスペースがあったとはいえ、落ち着いてコースを意識した見事なシュートを見せた。得点を決める1分ほど前には、GKへのバックパスに詰めてボールを奪ったエリキからのパスを決めることができなかった佐々木だったが、すぐに先制点を決めたことで、これを挽回して見せた。このゴールが決まるまで、押し込み続けながらも最後の部分で決定的な形は作れずにいたため、多くの選手がもどかしさを感じていたと思う。しかしこの先制点が、そうした嫌な空気を振り払った。佐々木は試合後に「大迫や武藤嘉紀に常に頼っているようでは自分も成長しませんし、チームとしても成長していかないと思う」とコメントしたが、この気持ちこそが佐々木らしさなのだと思う。大迫や武藤が厳しいマークを受けることは明らかである以上、佐々木や宮代といった若い選手たちが攻撃をけん引するようになることが、3連覇への条件となるだろう。
決勝点となった2点目は、トゥーレルが頭で決めた。45分に汰木が蹴った右コーナーキックのボールが混戦の中でこぼれたところを、頭でループ気味に決めて見せた。映像で見直してみると、当たり自体はやや厚かったようにも見えたが、それによって巧くループ気味の弾道になったようだった。この試合では前半のみでピッチを退いたトゥーレルだが、それ以前に見せ続けた身体を張った守備も見事だった。その中でエリソンとは何度も激しいコンタクトがあったが、そこで勝ち続けたことがチームに勢いを与えた。

そのトゥーレルに代わって後半から左センターバックに入ったのは、左サイドバックの本多だった。その本多は、後半ギアを上げてきた川崎Fの攻撃に対して、落ち着いた対応を見せ続けた。トゥーレルのような強さは感じさせないが、ツボを心得た動きで相手の狙いを潰していくプレーは、この試合でも健在だった。特に、裏を狙う相手の動きに対する本多のポジション取りは見事だった。常に相手の動きの先を読み、そのスペースを消していく動きは、相手選手に苛立ちを与える。決して高さがあるわけではないが、高い跳躍力と抜群のタイミングで競り負けることもない。サイドバックとセンターバックのいずれでも、確実な仕事を見せる本多の存在は、チームを成り立たせる上で大きな意味を持っている。
試合をクローズさせる過程で大きな役割を果たしたのは、61分に汰木との交代でピッチに投入された大迫だった。後半開始からトゥーレルに代わって扇原が投入され、センターバックに本多、左サイドバックに鍬先、アンカーに扇原という布陣に変わった。この結果、ボランチが縦関係を作るようになり、ピッチ上のバランスは変化した。それを見て長谷部監督は積極的に交代選手を投入し、その変化を活かそうと企図してきた。前記した本多の活躍などもあり、大きく破綻する可能性は感じられなかったが、必勝を期す吉田監督は手を打った。疲れが見え始めていた汰木に代えて大迫を投入し、佐々木を左ウイングに移したのだ。その大迫は前線でボールを収め、時間を作り続けた。ハイボールへの競り合いにいつものような強さが感じられなかったことは事実だが、それでも大迫にはできることが多い。流動的にポジションを変えながら、前線での起点となり続けた。コンディションは万全ではないのかもしれないが、それでも足もとでボールを握る力や寄せてくる相手をハンドオフで制しながらボールを動かしていく力は別格だ。川崎Fの守備陣にとって大迫は、やはり無視できない存在であり、その意識が川崎Fの前に出る力を抑えた。
守備面においては申し分のない試合だったように思うが、攻撃面においては改善すべき点がまだ残されている。そのうちの1つはポジショニングということになるだろう。具体的にはアタッキングサードに入った際、ボールホルダーを追い越していく選手の走路だ。基本的にはボックスの幅に広がってほしいのだが、ボール周りに集中してしまう傾向がこの試合でも見られた。攻撃の選手の動きは守備で構える相手の立ち位置から決められるべきであるため、一概に広がるだけが正解というわけではないのだが、この試合では相手が密集しているところに、さらに複数人の選手が入ってしまう場面が何度か見られた。やはり基本は相手のいないところに入ってパスコースを作るということになる。それによって密集した相手を釣りだすことができれば、ボールホルダーにはシュートコースも生まれる。逆に相手が密集を解かないのであれば、動いた選手はスペースでボールを受けることが可能になり、そのスペースの中で複数の選択肢を持つことができる。ゴール近くでは、気持ちがボールの位置に集中しがちではあるが、そんな時こそ周りを見る余裕を持ってほしい。
もう1つはクロスの質だ。アーリー気味に入れる場合は、相手のラインが揃っていないことが条件になる。アーリークロスが効果を発揮するのは、相手選手が、ゴール前で構える味方とボールホルダーを同一視野に捉えられない時だ。そうした状況が整っていれば、守備の選手はどちらかから目を切ることになるため、アーリークロスは効果を発揮する。しかし相手の体制が整っている中では、それが得点に結びつく可能性は低い。敢えてクリアさせ、そのセカンドボールを拾うことで、ゴール前から相手を離すという方法もあるため、一概にこれが間違えているということではないが、クロスを入れる場所やタイミング、その質についてはもう少し工夫の余地があるように思う。
こうして上位に位置する難敵の川崎Fに勝利したヴィッセルだが、決して楽な試合ではなかった。前記したように長谷部監督はヴィッセルのリズムで試合が進んだことを認めていたが、それはヴィッセルが最後まで守備を緩めなかった結果だ。ACLEのノックアウトステージを控えている川崎Fは、現在7連戦の真っ只中であり、その影響もあったように思う。以前よりも強度の増した川崎Fは、やはり強敵であり、次も巧くいくという保証はない。しかし、ヴィッセルがこの日のような強度を保つことができれば、次の対戦でも互角以上に戦うことができるだろう。そうした意味でも、この日の試合は「ヴィッセルが保つべき強度」を実感できたという点において、単なる「勝点3」以上の意味があったように思う。
この日の勝利を意味のあるものにするためにも、中3日で行われる町田戦は結果が求められる。現時点での町田との勝点差は2。この試合に勝利して上にいくことができれば、ヴィッセルには本当の意味での「勢い」が生まれるだろう。試合後に扇原は「東京V戦から距離感が良くなり、攻撃と守備が連動し始めた」という感想を口にした。百戦錬磨のベテランの見立てだけに、これは心強い言葉だ。チームとして連動できる距離感を保つことができれば、町田相手にも十分に戦えるはずだ。契約の関係上、この試合にエリキは出場することはできないが、代わりに出場する選手には「常に前にボールを運ぶ」という意識を強く持ってほしい。昨季は武藤がこの役割を担うことが多かったが、ボールを前に運ぶ選手を中心に戦場を相手ゴール方向に移動し、そこで圧力を高めていくのが「ヴィッセルらしい」戦い方だろう。
家長をして「スタジアムの圧力を受けてしまった」と言わしめたヴィッセルサポーターの熱を受けたヴィッセルの選手たちが、町田を相手に躍動する姿を見ることができることを、今から楽しみにしている。
