覆面記者の目

明治安田J1 第13節 vs.横浜FM 日産ス(5/21 19:03)
  • HOME横浜FM
  • AWAY神戸
  • 横浜FM
  • 1
  • 1前半1
    0後半1
  • 2
  • 神戸
  • 喜田 拓也(43')
  • 得点者
  • (19')エリキ
    (51')大迫 勇也

改めて「サッカーの難しさ」を痛感する試合だった。
 今季のJリーグにおける最大のサプライズは「横浜FMの低迷」だ。この試合前の時点で15試合を消化していた横浜FMの勝点は8。勝利数はわずかに1。数年前まで川崎Fと「2強」を形成していたチームとは思えないような不調に陥っている。だが予兆はあった。一昨年にはヴィッセルと最後まで優勝を争い、2位に入った横浜FMだが、昨季は9位へと順位を下げた。戦績は15勝7分16敗と負け数が勝ち数を上回った。全体の流れを見れば、ここ数年間、横浜FMが退潮傾向にあったことは数字の上からも明らかだ。その理由は「サッカーの変質」だったように思う。


 ここ数年間、横浜FMのサッカーと言えば、ポゼッションをベースにした戦い方だった。敵陣で戦うことに主眼を置き、ボール保持の時間を長くする戦いを志向してきた。自陣では確実にボールをつなぐことを重視、そして相手陣内に入った後は、高い位置を取ったサイドバックとウイングが連携しながら時間を作り、多くの人数を前に呼び込む。相手が前に出てきたときには、ウイングのスピードを活かし、その裏を狙う。こうした攻撃の時間を長くするため、ボール非保持に変わった瞬間に、全ての選手が即時奪回を目指し、相手のボールホルダーに襲い掛かる。この戦い方で、複数のタイトルを獲得してきた。横浜FMの変質を感じたのは昨季だった。一言でいえば「前への推進力」が低下してきたように感じられたのだ。それでもアンデルソン ロペスを中心とした外国籍選手の突破力で相手に対して脅威を与えてはいたが、それまでのように「全体で襲い掛かってくる」迫力は薄れてきたように感じた。その原因は恐らく、横浜FMが数年間同じスタイルを貫いてきたことによる「対戦相手の慣れ」と構造的な問題だろう。
 前者は単純な印象論なのだが、後者には明確な理由がある。ポゼッションを志向するチームが陥りやすい罠と言えば「ボールをつなぐ意識」だ。ボールを握り続ける上では当たり前のことのように思われるかもしれないが、実はボールのつなぎ方次第では落とし穴に嵌ってしまう。ボールをつなぐためには、ボールホルダーに対して複数のパスコースを提示し続けなければならない。そのためにボールホルダーの周りの選手は動き続けなければならないのだが、その際にボールを失うことを恐れるがゆえに、パスコースを提示することだけに専心してしまう傾向がある。しかしこの場合、相手に対する脅威とはならないことが多い。ボールを受ける選手はその先の展開を考えた上で、相手に対する位置的優位を確立しなければならない。そのためにはボールホルダーは周りの選手に対して「動くための時間とスペース」を渡す必要がある。要はポゼッションはポジショニングとセットで取り組むべき戦い方なのだ。しかし指揮官の交代や選手の入れ替えによって、こうした部分は手段が目的化するなど、変質しやすい。それを防ぐためには、明確なマニュアルが準備されていなければならないのだが、横浜FMはそこまでには至っていなかったのではないだろうか。
 以上は筆者の推測に過ぎないが、1つの戦い方を貫くことの難しさを横浜FMは示しているように思う。

 しかし横浜FMが大きな力を持ったチームであることは、紛れもない事実だ。各ポジションにはテクニックのある選手が揃っており、上位に進出してもおかしくないだけの陣容を今でも誇っている。吉田孝行監督も試合前日、横浜FMについて「メンバーを見ても優勝できるだけの個の力を持っていますし、そこの歯車がちょっと狂っているだけだと思います」とコメントしている。またかつて横浜FMに在籍し、タイトル獲得に大きく貢献した扇原貴宏は「今は状態が悪いですが、良いチームですし、力を出せれば脅威となるチームです」と、その潜在能力を認めた上で「横浜FMのことを気にするほど自分たちが良い順位にいるわけでもないですし、自分たちにしっかりとフォーカスするだけだと思います」と、戦いに臨む姿勢を語った。
 現在の横浜FMのように「力はあるが、それを発揮できていない」チームは、1つのきっかけで大きく変貌を遂げることを、我々は知っている。今の横浜FMの姿は、3年前のヴィッセルの姿と似通っているためだ。ヴィッセルも3年前は開幕からリーグ戦11試合未勝利と苦しんだ。シーズン前には優勝候補の一角に予想されながら、大きく出遅れたという点では、横浜FMと同じだ。しかしヴィッセルが秋には5連勝を飾り、一気に「J2降格圏」を抜け出したように、横浜FMもひとたび歯車が噛み合えば、その力を遺憾なく発揮するだろう。それだけに扇原がコメントしたように、相手の好不調を考えるのではなく、自分たちの戦い方にフォーカスすることが、この日の試合においては重要だった。

 試合前、横浜FMは戦い方の変更を示唆していた。試合前日、この日の試合に左サイドハーフとして出場していた宮市亮は「マリノスの戦い方ではないかもしれないが」と前置きした上で、「やることが明確になった。あとはこれを遂行するだけ」とコメントしていた。こうした状況を受けて、吉田監督も試合直前には「マリノスがどういった戦い方をするかわかりません」と語っていた。
 蓋を開けてみれば、横浜FMはこれまでのスタイルを捨て、シンプルに前を目指す戦い方を見せた。これは実際にプレーする選手にとっては、ある種のやり難さがあったと思う。頭では理解していても、実際に横浜FMの選手を前にしたとき、割り切って動くことはそう簡単ではなかっただろう。


 こうした想定外の事態に対処するためには2つの方法がある。1つは想定の範囲を広げておくことだ。そしてもう1つは相手に合わせるのではなく、自分たちのやり方を貫くという方法だ。前者が理想的ではあるが、実際にそれを実現することは難しい。となると後者が現実的な対処法ということになるのだが、これは今のヴィッセルにとってはやりやすい方法でもある。吉田監督が2年半の間、基本的な部分を変えることなくチーム作りを進めてきたためだ。事実、この試合でもヴィッセルは、横浜FMの変化に合わせるのではなく、いつも通りの戦いを続けようとした。プレスの開始位置など、細かな点では変化させていた部分もあったようには見えたが、基本的な戦い方は変わらなかった。それゆえにヴィッセルの戦い方には安定感があったが、同時に内容的に満足できる結果とはならなかった。これを裏付けるように、試合後に山川哲史は「自分たちがやりたいことをやれなかった」と語り、扇原も「内容が悪いなりに勝ち切れたことは大きい」とコメントした。しかし、これこそが今のヴィッセルの強さであるように思う。
 横浜FMの戦い方が予測できていれば、異なる対処法があったであろうことは容易に想像がつく。しかし「攻守の素早い切り替え」、「ベクトルを前に向ける」といったチームのベースとなっている部分は、どんな相手と対戦しても有効な「サッカーの基本」とも言うべきものだ。これを高いレベルで続けてきた今のヴィッセルには、自分たちのやり方を貫きさえすれば、どんな相手とでも戦える強さがある。この日の試合は、それを再認識させてくれる試合でもあった。
 そしてもう1点、ヴィッセルのスタイルはシンプルではあるが、修得することは難しいということを示した試合でもあった。この試合における横浜FMはロングボールも積極的に使いながら、シンプルにヴィッセルゴールを目指してきた。その中から前半にはチャンスも作り出していたが、後半になると動きは目に見えて低下した。さらに選手交代などによって動きにバラツキが生まれた。ヴィッセルの選手はそのギャップを使いながら、横浜FMの前に出る意思を空転させ続けた。これはヴィッセルの選手の巧さでもあるが、同時に1つのスタイルを身につけることの難しさの証左でもある。これが冒頭で書いた「サッカーの難しさ」を感じた理由だ。

 前記したように、試合序盤から横浜FMはシンプルにヴィッセルゴールを目指してきた。スペースに向けてロングボールを蹴り、そこに選手が飛び込むことで攻撃の回数を増やそうとしていた。これについて宮市は「ゴールキックは全て前に蹴って、それに競って、セカンドボールを回収する狙いでした」と、試合後にその意図を明かしている。その言葉通りの戦い方で、横浜FMは試合開始直後からヴィッセルゴールに迫った。開始直後の1分には、ゴールキックに抜け出した宮市が、そのままシュートを放った。そして11分にはヴィッセルの縦に差し込んだパスをカットし、シンプルに前につけ、これを受けた植中朝日が中央に切れ込んでシュート。このプレーで得た右コーナーキックのこぼれ球を、永戸勝也がペナルティアークからダイレクトシュートと立て続けにヴィッセルゴールを脅かした。特に植中のシュートは、その動きに守備陣がついていけない中で放たれており、シュートは枠を捉えていたが、これはGKの前川黛也が指先で弾き出した。そして次の永戸のシュートもバーを叩いたように、この時間帯は横浜FMにゴールの予感が漂っていた。
 この試合では両チームとも、先制点にいつも以上に大きな意味を見出していた。ヴィッセルにとっては、悪い流れの中に身を置いている横浜FMの不安感を増大させるため、そして横浜FMにとっては新しいやり方への自信を得るためだ。それだけに、この試合開始から10分あまりの時間をしのぎ切ったことは、ヴィッセルにとって大きかった。

 この後、ヴィッセルはいつも以上にネガティブトランジションの意識が強くなった。横浜FMがシンプルに前を目指してくるというやり方が明らかになったためだ。それでも守り難さは、ヴィッセルの守備陣には残っていたように思う。それは横浜FMのロングボールが人を目標としていなかったためだ。GKの飯倉大樹を含めた横浜FMの守備陣は自チームの選手ではなく、ヴィッセル陣内のスペースを狙ったロングボールを蹴ってきた。それによって、ヴィッセルの守備陣とのスピード勝負に持ち込むことが狙いだったように思う。横浜FMの前線にいる植中や宮市のスピードを使って、優位性を確立しようと企図していたのだろう。
 こうした中で怖かったのは、大きく弾むボールだ。こうしたボールに対して、守備の選手はバウンドに合わせてクリアすることになるのだが、ボールが弾んでいる間に攻撃の選手も落下地点に入ることが可能になる。そして守備の選手に背中を預けることで、イーブンの状態にを作り出すことができる。一見すると守備側の選手が優位なのだが、ボールに対して跳ぶ瞬間、密着した相手との絡み方によってはファウルを取られることになる。そのため競る位置が自陣深い位置の場合、守備の選手は積極性を発揮し難くなる。そのためこうした状況下では、周囲の選手がボールの周りを固め、攻撃側の選手にボールを握られた後の動きに対処することになる。この試合について言えば、ヴィッセルの選手が見せたネガティブトランジションの速さが、この態勢を作り出す上で大きな意味を持っていた。

 両チームが似たようなサッカーを展開する試合となったが、勝負を分けたのは経験の差だったように思う。後半横浜FMの動きが落ちたと前記したが、これはヴィッセルが動くべき場面で動けたのに対し、横浜FMは試合を通して全力で動き続けたため、パワーをかけるべき場面で動きがわずかに足りなかったという意味だ。両チームの走行距離やスプリント回数を比較すると、わずかにヴィッセルが上回ってはいるが、大きな差があったわけではない。しかしヴィッセルにはこうした戦い方をする上で2年半の積み上げがあったのに対し、横浜FMにはそれが足りなかった。それだけの差であったように思う。実際に試合を通じてのゴール期待値では、横浜FMがヴィッセルを上回っていた。前記したように試合序盤、複数回ヴィッセルゴールに迫りながらも、ゴールを奪えなかった横浜FMに対して、ヴィッセルはここという場面でゴールを奪った。その意味では、この試合におけるヴィッセルのゴールは、時間帯も含め効果的だった。


 最初のゴールは19分だった。前記したように植中、ウォルシュにゴールを脅かされた直後、数少ないチャンスを活かし、ヴィッセルは先制点を奪った。佐々木大樹が左サイドの深い位置から入れたクロスは横浜FMの守備陣にクリアされたが、それを扇原がペナルティエリアの外で拾い、中央に移動しながら、前に立っていたエリキにパスを通した。これをエリキが落とし、そのままシュートを決めた。このゴールには扇原、エリキそれぞれのテクニックが詰まっていた。
 扇原はクリアボールを左足のアウトで落とし、そのまま左足で細かく動かし、最後も左足で縦にボールを差し込んだ。この場面で最初に扇原が中を向いた時、前には相手選手がいた。そこで小さく向きを変えた。これによって扇原には、右側の1人と前の2人が向かってくる格好となった。特に前からくる選手はエリキとの間に立っていたのだが、ここで前に引き出したことで、扇原にはエリキへのパスコースが見つかった。小さな動きではあるが、相手の密集の中でボールを握ることで、エリキの位置的優位性を高めた見事な動きだった。
 次にエリキだが、こちらは扇原からのボールを巧く落とし、GKの飯倉に対する優位性を確立した。扇原からのボールはストレートの浮き球で、自分から遠くに離れていく軌道だった。これに対して後ろ向きに立っていたエリキは右足を伸ばし、ボールの勢いを殺した。ここでゴールから遠ざかっていく方向にボールを落としたことで、エリキは背後に立っていた永戸が届かない位置を確保した。これによって永戸のスライディングをかわしたエリキは、正面から飛び込んできた飯倉の上を通すボールをゴールに流し込んだ。
 そしてこのゴールには、もう1つの伏線があった。このプレーは左スローインから始まっていたのだが、そのスローインを入れる直前、スローワーの本多勇喜はポジションを主審によって修正された。当初、本多がボールを入れようとした時点では、ペナルティエリアの中には大迫勇也と佐々木だけが入っていた。しかし修正されたのを見て、マテウス トゥーレルや宮代大聖、エリキも中に入った。これを見て横浜FMもペナルティエリアの中の人数を増やしたのだ。当初の位置からスローインを入れた場合、どのようになったかは判らないが、この変更によってペナルティエリア外にいる横浜FMの選手は減り、それが扇原がボールを拾う際には有利に働いた。主審の指示が影響したというわけではないが、こうした些細なことによって状況は大きく変わる。
 繰り返しになるが、この直前まで横浜FMは複数回ヴィッセルゴールに迫っていたため、この先制点はこの試合にかける横浜FMの勢いを削いだ。

 決勝点は51分だった。佐々木が松原健に左タッチライン近くで倒されて得たフリーキックがきっかけだった。キッカーの扇原がボールをセットした時、大迫は中央でラインの外側に立った。これは狙いを相手に悟らせないためだ。そして扇原が蹴った瞬間、外に開くように動き、ファーサイドから頭で飯倉を超えるようなボールをゴールに流し込んだ。このゴールについて大迫は「狙い通りだった」とコメントしていたが、セットプレー時に横浜FMの守備がニアに寄りがちになるという分析があったのだろう。とはいえ、そこに正確なボールを供給した扇原のキック技術と、そのポジションに入り込む大迫の技術なしには生まれない得点だった。さらに言えばこのシュートシーンで大迫は首を振るのではなく、まっすぐに頭に当てつつも、わずかに顎を引くようにすることでボールの軌道をコントロールしていた。このシュート技術の高さは、さすが大迫という他ない。
 扇原に「サコくんのジャンプのタイミングだったり、ヘディングの技術の高さのおかげ」と言わしめた大迫のゴールは、ヴィッセルに勢いをもたらした。試合中に手を負傷し、出血が続いていた中でも、それを感じさせない気迫は、大迫が誰よりも勝利にこだわっているが故だ。2戦連発となったこのゴールは、エースの完全復調を印象づけた。


 そしてこのゴールに関して見逃すことができないのは、大迫の動きをアシストした山川の動きだった。扇原がボールをセットした時、大迫がラインの外側にいたことは前記した通りだが、ここで大迫には山根陸がマークについていた。山根に課されていた役割は、大迫のマークだったのだろう。そして大迫が動き出した時、山根は僅かに遅れてこれを追った。しかしラインを超える際、山根の前を山川が横切ったことで、山根は完全に後れを取ったのだ。ボールが蹴られる前、山川は山根の背後に立っていたのだが、ボールが蹴られた瞬間、中央に向かって動き出した。山川が山根の走路を塞ぐ意図をもっていたかは定かではないが、この動きが大迫をフリーにした。前記した通り、セットプレー時に横浜FMのファーサイドは狙いどころとなっていたようだが、その中で大迫をフリーにするための動きとして、チームで準備してきた動きだったように思う。であるならば、このゴールはヴィッセルの作戦勝ちだったとも言えるだろう。
 そしてこのゴールは、不慣れな戦い方を続けている横浜FMの疲労度を、一気に引き上げたのではないだろうか。前半終了間際の43分に喜田拓也のスーパーゴールで同点に追いついた横浜FMは、希望をもって後半に臨んでいたはずだ。それだけに後半開始5分で再びリードを奪われたという事実は、横浜FMの選手たちに少なからず落胆を与えただろう。この後、前半に見せたような勢いのある攻撃を見せることができないままに試合を終えたのは、ヴィッセルのエースが挙げたゴールの破壊力が大きかったことの証左だ。

 繰り返しになるが、ヴィッセルも思ったような試合運びができなかったことは事実だ。横浜FMが見せた「変化」に面食らったのかもしれないが、多くのパスをカットされ、本来の前に厚みのある攻撃を見せる場面は少なかった。しかし扇原がコメントしたように「悪い中でも勝点3を奪った」ことは、チームに勢いが出てきた証ととらえたい。シーズンを通して戦わなければならないリーグ戦で結果を残すためには、こうした「不思議の勝ち」が必要であることを、ヴィッセルは過去2シーズンの経験で理解している。そして試合を重ねる中で弱点を補いながら、強さを増していかなければならない。試合後の修正作業を行う上では、ポジティブな気持ちで取り組んだ方が高い効果を上げることは間違いない。その意味で、山川がコメントした「勝って修正できることは嬉しく思いたい」という言葉は正鵠を射ている。

 この試合に勝利したことで、ヴィッセルは暫定ながら順位を6位へと上げた。勝点2差で直上に位置する広島とは消化試合数が揃った。そして首位に立つ鹿島との勝点差は10。鹿島よりも消化試合数が1試合少ないことを考えても、まだ差は開いている。しかし今は上との差を考えるのではなく、目の前の試合に勝ち続けることで、上位陣にプレッシャーをかけていくことに徹するべきだろう。そのためにも次節の清水とのアウェイゲームも、結果にこだわってほしい。戦う気持ちを前面に出すタイプの秋葉忠宏監督の率いる清水は、J1復帰初年度を戦っている。清水にとっては、ディフェンディングチャンピオンであるヴィッセルから勝利を奪うことは、チームに自信をもたらす上で大きな意味を持っているはずだ。激しい試合になることが予想されるが、ヴィッセルには激闘の中で積み上げてきたプライドがある。自分たちの戦い方に自信を持ちつつも、常に一歩先を目指し続ける姿勢を失うことがなければ、勝機は十分にある。




今日の一番星
[扇原貴宏選手]

決勝点を挙げた大迫、広いエリアをカバーし続けた井手口、横浜FMの先制点を防いだ前川も候補だったが、この試合で挙げた2得点をアシストした扇原を選出した。この試合でもアンカーに入った扇原は、試合を通して前を向き続けた。中盤を省略するような横浜FMの戦い方は、扇原にとっては上下動を要求される厳しいものだったが、それでも自陣では巧くボールを引き出しながら、そこからボールを散らし、ヴィッセルに前への推進力を与え続けた。球際の強さを持ち、そこから正確なボールを配球することのできる扇原の存在は、相手のベクトルを逆に向ける上で大きな力となっている。ポジショニングではなく、ボールによって優位性を確立する今のヴィッセルのサッカーにおいては、扇原のように相手の急所にボールを打ち込むことのできる選手の存在が攻撃の要となる。その意味では、この試合で扇原が前を向き続けたことが、ヴィッセルの勝因だったとも言える。ボール非保持時には井手口とのコンビネーションで広いエリアをカバーし、そこから前にベクトルを向けなおし続けた扇原のプレーは、横浜FMの勢いを寸断する上で大きな効果を発揮した。かつてのホームスタジアムで、古巣を相手に健在振りを示した「ヴィッセルの心臓」のさらなる活躍に期待を込めて一番星。