覆面記者の目

明治安田J1 第38節 vs.京都 サンガS(12/6 14:03)
  • HOME京都
  • AWAY神戸
  • 京都
  • 2
  • 1前半0
    1後半0
  • 0
  • 神戸
  • マルコ トゥーリオ(38')
    ラファエル エリアス(77')
  • 得点者


 「シーズン最後の試合で勝てたというのはもちろん素晴らしかったですが、何より今日の試合は内容が良かったと思います」
 これは試合後の会見における曺貴裁監督の第一声だ。続けて曺監督は「ヴィッセル神戸という素晴らしいチームに対して向かっていく気持ち、相手コートで自分たちが爆発的なプレーをするってことで言うと、概ねラインの高さやファーストディフェンダーは最後までよくやってくれたと思います」とコメントした。京都を率いて5年になる曺監督は、以前からヴィッセルについて「素晴らしい能力を持った選手たちが、強度の高いプレーをサボることなく続けている素晴らしいチーム」と高く評価した上で、ヴィッセルを「乗り越えるべき目標」と公言していた。それだけにこの日は内容的にも満足できる試合運びを見せ、クラブ史上最高位となる3位を達成したことが嬉しかったのだろう。

 今のヴィッセルを目標としているのは曺監督に限った話ではない。筆者の知る限りだけでも、二桁にのぼる指導者がヴィッセルについて「今、最も強さを感じるチーム」と評している。しかし高い評価を受けるということは、目標として狙われる存在であるということでもある。そして、今季はそれを嫌というほど感じさせられた。
 ほぼ全てのチームが何らかの「ヴィッセル対策」をもって試合に臨み、ヴィッセルを抑え込もうとした。これに対してヴィッセルは、春先にはAFCチャンピオンズリーグエリート24/25、そして秋口からはAFCチャンピオンズリーグエリート25/26(以下ACLE)という戦いと並行しながら、ライバルたちを迎え撃った。その戦いは過去2シーズンとは比較にならない厳しさに満ちていたが、それでもシーズン終盤までJ1リーグ戦では優勝争いを繰り広げ、天皇杯でも決勝進出を果たすなど、王者の名に相応しい戦いを見せた。

 しかし、ヴィッセルにかかわるすべての人が、この結果に満足はしていないだろう。あくまでもヴィッセルの目標は優勝であったためだ。特にJ1リーグ戦においては33節の浦和戦に敗れて以降、6試合勝利のないままシーズンを終えてしまった。そしてこの間、6試合で挙げた得点数は3に留まっている。このシーズン終盤に訪れた「攻撃面の不調」が、今季の目標達成を阻んだことは間違いない。そしてそこには対戦相手が見せた「ヴィッセル対策」があった。この日の京都がそうであったように、ヴィッセルの戦い方を分析した上で、徹底してその強みを消してくる戦い方の前に、ヴィッセルは本来の攻撃力を発揮できないままだった。
 考えられる理由は2つだ。1つは起爆剤となるような選手の登場が見られなかったこと、そしてもう1つは戦い方、特に攻撃面での幅を加えることができなかったことだ。


 前者については複数の理由が考えられる。1つには吉田孝行監督が志向したサッカーの難易度が挙げられる。この日の試合後に山川哲史がコメントしているように、吉田監督の志向するサッカーは守備面に難しさがある。ボール非保持時には前線から連動したプレスをかけていき、高い位置でボールを奪う。ボール保持から非保持に変わった瞬間には、素早く守備に切り替えるのと同時に、全ての選手が決められたポジションを取りつつ、ボールホルダーを複数の選手で挟み込み、相手の前進を阻む。これを実践することは、言葉で聞く以上に難しいことだ。しかしこれがあるからこそ、ヴィッセルはJ1リーグ最少の反則ポイントでありながら、リーグで3番目に少ない失点数を記録することができている。そして吉田監督が常々口にしていた「基準は変えない」という言葉は、これが修得できなければ試合には使わないという意味でもある。能力の高い選手が揃っているヴィッセルとはいえ、この「吉田基準」をクリアすることは容易ではない。この厳しさがヴィッセルの強さを担保した一方で、リーグ戦で出場機会をつかむことの難易度を引き上げたように思う。
 しかし吉田監督もシーズン前に「すべてのタイトルを狙うために、2チームを準備したい」と語っていたように、多くの選手たちに出場機会を与えてきた。それが天皇杯だ。ここで出場した選手たちが、相当な覚悟を持って試合に臨んでいたことは間違いない。しかし今年の天皇杯では、思ったような結果(試合内容)を見せることはできなかった。その象徴が、3回戦の甲府戦だったように思う。雨中での戦いとなったこの試合では、試合の入り方で勢いをつけることができないまま、J2所属の甲府に主導権を握られた。最終的には主力選手6人を投入し、延長後半に試合を決めることに成功したが、この試合で先発した多くの選手にとって悔いの残る試合だったことは間違いないだろう。ここで誤解してほしくないのは、彼らの技術レベルに問題があったわけではないということだ。あくまでも試合に巧く入れなかったことで、リズムを掴み損なったに過ぎないのだ。しかしこうした試合の結果は、選手から勢いを奪ってしまう。昨年の天皇杯では、同じようにリーグ戦で出場機会を得られていない選手を中心に戦いながらも、準々決勝では主力選手中心の鹿島相手に完勝を収めている。そしてこの勝利がチーム全体に勢いをもたらし、J1リーグと天皇杯の2冠をもたらした。しかし今季は、そうした勢いを得ることができなかったように思う。

 そしてこれ以上に大きな要因は、2つ目の攻撃面での幅を加えることができなかった点にある。ヴィッセルの攻撃にはいくつかの方法論があるが、そのベースとなる考え方は「自陣で過ごす時間を短くするために、相手陣内に素早く攻め入る」というものだ。そのためのロングボールであったり、縦に差し込むパスであったりするのだが、これはアタッキングサードに入るまでの方法論だ。最後に仕留める上では、サイドからのクロスを多用する傾向にあったことはこれまでにも書いてきた通りだ。どんなチームにも特徴はあり、サッカーにおいてクロス攻撃が効率的な攻撃方法であることは事実だ。しかしそのクロスの方向性には、若干の工夫が必要だったように思う。
 この話を解りやすくするため、アタッキングサードを奥行きで3分割する。そしてゴールラインに近い方から奥、中、手前と呼ぶ。これを前提にヴィッセルの攻撃を見てみると、多くのクロスが手前あるいは中から放たれていることが判る。この日の試合でもそうだったが、こうしたクロスに対しては、多くの場合で相手選手が優位性を持っている。出し手と受け手を同一視野に捉えているためだ。さらに言えばペナルティエリアの中で勝負する選手が背後や斜め後ろからくるボールに反応しなければならないのに対して、守備の選手はボールに向き合う形で対応できてしまう。ヴィッセルには大迫勇也というペナルティエリアの中で無類の強さを発揮することのできる選手がいるため、シンプルにそこを使うという考え方に一定の合理性はあるが、相手がそれを警戒しているだけに他の方法も必要になるのではないだろうか。


 ここで筆者が思う他の方法とは「逆サイドを使う攻撃」だ。逆サイドの選手が相手守備の裏を狙うように動き、ファーサイドの裏でクロスを受ける形を作り、そこからの崩しを狙うという方法だ。ウイングやインサイドハーフの選手が相手守備の裏側に抜けて、そこでボールを収めることができれば、その時点で「ポケット」と呼ばれるペナルティエリア内ゴール横を取ることができている可能性は高い。この「ポケット」を取ることができれば、そこから中の選手にグラウンダーでのパスを通すことができる確率も上がる。当然それは相手ゴール前での決定的なチャンスとなる。
 次に奥からのクロスだが、この場合も前記した「ポケット」を如何にして取るかということがカギになる。しかしポケットが取れない場合でも、この位置からのクロスは自然とマイナス方向になるため、相手には守り難さが生まれる。ここでマイナス方向のクロスに対して、2列目以降の選手が飛び込んでくる形を作ることができれば、それも大きな武器となるのではないだろうか。
 ここで留意しなければならないのは、カウンターへの備えだ。この日の試合でもそうだったが、クロスを跳ね返された後、一気に蹴りこまれることでピンチを迎える場面が見られた。この日の試合では守備時にはダブルボランチ的に動く井手口陽介と扇原貴宏がペナルティエリア外に構え、その背後に最終ラインの選手2枚が構える形が多かった。しかしここで京都が見せた対応策が、試合を通じてヴィッセルの守備を苦しめた。前線に残したラファエル エリアスを狙ったロングボールで、局面をひっくり返そうとしたのだ。こうしたチャレンジは精度が低くとも、守る側にとって嫌な感情を植え付ける効果はある。相手がフットサル仕込みのテクニックとスピードを併せ持つラファエルであるだけに、これをマークしたマテウス トゥーレルと山川にとっては気を抜くことのできない時間が続いた。

 ここまではクロスについて考えてみたが、こうした工夫を加えた上で縦に攻め込む場面も増やしていく必要があるように思う。大迫という万能型の選手の存在を考えればサイドからのクロスを重視することは理解できるが、それを活かすためにも縦に抜ける場面を増やしてほしい。序盤から両チームの守備が跳ね返し続けたこの日の試合では、ヴィッセルがカウンターを仕掛ける場面もあった。しかしその場合も、アタッキングサードに入った時点でサイドに展開してしまう場面が目立っていたように思う。京都の守備がヴィッセルのカウンターを警戒し、備えていたことは事実だが、それでも時には強引に縦に抜けてシュートを狙う姿勢も見せておく必要があったように思う。たとえそれ自体が得点に結びつかなくとも、複数の攻撃パターンを見せておくことが、相手の守備に迷いを生じさせるためだ。
 そしてこのカウンターを有効なものにするためには、ボールホルダー以外の選手の動きが重要な意味を持っている。鉄則的に言えば、ボールホルダーは中央を進み、周りの選手はそこから離れるように動く。そうすることで、相手の守備の間を抜ける斜めの道を作り出す。これだけで全てが解決するわけではないが、守備の堅いチームと戦う際には、隙を作り出す工夫こそが求められる。
 ヴィッセルには、武藤嘉紀やエリキといった「縦で勝負できる選手」も複数いる。彼らが縦に仕掛けることで相手選手を引き出すことができれば、その周りの選手には攻撃のためのスペースが生まれる。対戦相手がヴィッセルの戦い方を研究し尽くしている以上、こうした複数の攻撃を組み合わせることで、相手の予測の上をいくことこそが、得点力の復活には欠かせないのではないだろうか。

 この日の試合を振り返ってみると、ヴィッセルはボールを前進させるための方法を見いだせないままだったように思う。冒頭でも書いたように、ヴィッセルの戦い方において基本となっているのは、相手陣内での時間を増やすという考え方だ。そのためのロングボールであるはずだったが、それを効果的なものにするためのセカンドボールの回収が、この日の試合では巧くいかなかった。その理由は京都が見せた「ヴィッセル対策」にあったように思う。前記した通り、この日の京都は自陣で奪ったボールを蹴り返すという点が徹底されていた印象だ。目標は前線のラファエル、そしてマルコ トゥーリオだったのだが、ここにつなぐというよりも、ヴィッセルに前を向かせないことに重きが置かれていたのではないだろうか。これを実現するためだと思うが、京都が蹴り出すボールはアンカーの扇原を超えるボールが多かった。中盤の底に位置する扇原がセカンドボールを回収した場合、そこから長短のパスを織り交ぜながら、チーム全体を前に押し上げることができる。これこそが曺監督が最も恐れていた展開だったと思う。


 こうした展開の中でヴィッセルにとって痛かったのは、インサイドハーフで先発した宮代大聖を前に上げることができなかった点だ。この試合ではシュートを打つことができなかった宮代だが、長い時間を低い位置で過ごすことになってしまった。ここにシーズン終盤、ヴィッセルが苦しんだ理由の1つがあるように思う。
 今のヴィッセルにとってボールを前に運ぶ際、最も多い形は大迫を目標としたロングボールだ。高い位置で大迫が構えた場合のマークは昨季から厳しいものがあったが、今季は大迫がポジションを相手ボランチの後ろまで落としたとしても厳しいマークを受けることが多かった。それはたとえ低い位置であったとしても、大迫がボールを収めることができれば、そこからチーム全体を前に上げることができるためだ。大迫には高いキープ力があるため、ボールを握りながら時間を作ることができる。そしてそこから正確なパスを出すこともできるため、大迫がボールを持った際の周りの動き方が攻撃の厚みを生み出すためのポイントとなる。しかしこの日の試合では、ここで大迫を追い越していく動きが少なかったように思う。正確には追い越す選手はいたのだが、その多くがサイドに流れてしまっていたため、中央を上がる選手が少なかった。
 加えてこの日の試合では、サイドも思ったような上がりを見せる場面は少なかった。ヴィッセルと同じ4-1-2-3でセットした京都は、サイドバックとアンカー、インサイドハーフの3枚でサイドに蓋をする形での守備がメインとなっており、ヴィッセルのサイドの突破に対しては密集を作り出すことで対応してきた。密集となってしまった場合、そこから脱出するためにはそれなりの人数と時間が必要になってしまうため、素早く相手ゴールに迫るという、ヴィッセルが目指す攻撃の形を作り出すことがなかなかできないままとなった。
 また最終ラインから押し上げていく際、最も効果的だったのはトゥーレルの持ち上がりなのだが、これは京都もスカウティング済みだったため、巧くコースを消されてしまった印象だ。GKの前川黛也からのロングフィードで大迫を狙うボールは、相手選手も警戒していたため、五分の競り合いとなっていた。曺監督が言及したように京都の前線3枚がヴィッセルの前進を阻むのであれば、やはりGKを加えた形で数的優位を作り、そこから前進させていく方法も見せてほしかったという思いは残った。


 ここまで書いてきたように、京都の見せた「ヴィッセル対策」に苦しめられた試合ではあったが、ヴィッセルにとって最も厳しかったのは前からのプレスが嵌らなかったことだ。「嵌らなかった」と書いてしまうと、ヴィッセルの守備に問題があったかのように思われてしまうかもしれないが、そうではない。あくまでも京都がヴィッセルの高い位置でのプレスを回避し続けたという意味だ。それは前記した「とりあえず前線の外国籍選手」という高精度とは言えない設計だったため、ヴィッセルの守備が裏を返されるといった場面に直結していたわけではないが、ヴィッセルにとっての生命線とも言える「前からのプレス」を回避されたことが、ヴィッセルがリズムを掴み切れなかった一因と言えるだろう。
 このヴィッセルに対する「プレス回避」は、今季、複数のチームが見せた対策でもある。これに対してヴィッセルは、時にはプレスの開始位置をミドルゾーンに落とすなどの対応を見せてきた。これは全体をコンパクトに保つことを優先した結果であり、プレス回避のために跳ね返してくる相手に対しての対応としては定番でもある。しかしこの日京都が見せた戦い方は、そこまでを想定したものであったように思う。ヴィッセルのプレス開始位置とは無関係に、プレスに来たタイミングで縦に差し込んできた。これは連動したプレスを見せるチームが避けて通ることのできない「縦のズレ」を狙ったものだったのではないだろうか。この「縦のズレ」とは「ジャンプ」と呼ばれることもあるが、プレスをかけていく段階で発生する「前後間でのマークの受け渡し」のことだ。京都はこのズレが生まれる箇所に向けて、強いボールを蹴ることを徹底していた。そのため精度は決して高くはなかったのだが、速くて強いボールを蹴ってくるため、ヴィッセルの選手もトラップが大きくなるなど、スムーズな対応を取ることは難しかった。これこそが京都の狙いだったように思う。試合の大半がピッチ上のボールの往復になることを許容した上で、ヴィッセルに落ち着く時間を与えないための策だったのではないだろうか。その上でセカンドボールを回収するために、京都の選手は走り続けた。試合前、曺監督は「走り勝った方が試合に勝つ」という見方を示していたが、その言葉通りの戦い方だった。この試合における走行距離を比較すると、それは明らかだ。走行距離が10kmを越えた選手がヴィッセルでは扇原1人だったのに対して、京都は6人の選手が10kmを越えており、そのうち3人は11kmを越えていた。さらに言えば前線のラファエルと原も10kmを越えており、彼らがボールを収める裏側には走力があったことが判る。

 この「個々のプレー精度を走力でカバーする」という曺監督のチームらしい戦い方の前に、ヴィッセルはリズムを掴めなかったと言えるだろう。京都がこうしたプレーを選択できたのは、前記した通り前線にボールを収め、そのまま攻撃を完結させることのできる外国籍選手2名がいたこと。加えて原大智という高さを持ちながら、前線を走り回ることのできる選手がいたためだ。そして試合を決定づけてしまった2失点目は、この3人だけで完結されたものだった。リスタートでGKが蹴ったロングボールに対して191cmの原が競り勝ち、これを原の前で受けたラファエルが外のマルコに渡すと同時に、自らはゴール方向に走り出した。マルコはヴィッセルの選手の間を縫うような斜めのパスをラファエルに戻した。ラファエルはこれを自ら持ち込み、マークについた飯野七聖を抑えながら左足を振りぬき、ゴールに突き刺した。この3人の選手、特に外国籍選手2名の走力と技術がヴィッセルの守備を上回った場面だったと言うべきかもしれないが、この大きくはない可能性にかけ続けた曺監督の執念を超えることができなかったとも言えるのではないだろうか。試合後に山川は「セカンドボールを拾われる回数が多く、ミスもあったことで、カウンターを受ける回数が多かった」と試合を振り返ったが、京都の戦い方を思い返せば、全体が低い位置で構えてのミドルプレス、或いはロープレスからのカウンター狙いの戦い方でも良かったように思えてしまう。

 そしてもう1つこの試合を難しくしたのは、判定基準だったように思う。この日の笛は基準が不明瞭であり、妙なタイミングで試合が止まる場面も散見された。特に大迫や佐々木大樹は手を使って倒される場面も多かったように見えたが、そうしたプレーの多くがノーファウルと判定されたことも、ヴィッセルのプレーに影響を及ぼしていたように思う。これが敗因であるとまでは思わないが、球際の強いチーム同士の対戦という思い込みが、判定に影響していたように思えてしまう。
 これに関連して言うと、激しいデュエルが至る所で散見された試合ではあったが、ヴィッセルが警告を受けなかったことは評価されるべきだろう。今季のJ1リーグにおけるファウル数を見てみると、ヴィッセルは浦和、C大阪と並び圧倒的な少なさを誇っている。さらに言えば警告数はJ1リーグ最少だ。最もファウルの多かった京都に対してファウル数が6割程度の数字に収まっているという現実は、厳しくボールを奪いつつも、無駄なファウルは犯さないという吉田監督の方針がチームに浸透していた証左だ。タックル総数はJ1リーグで上位にありながらも、反則ポイントが唯一のマイナスであるという結果は、ヴィッセルがクリーンに戦っていたことを如実に示しており、誇るべき数字だ。

 シーズン終盤に苦しんだヴィッセルだが、今季は5位でのフィニッシュとなった。「J1リーグ3連覇」という目標達成はならなかったものの、シーズンを通して安定した強さを見せることはできたのではないだろうか。ホーム最終戦後に三木谷浩史会長がコメントした通り、ここ数年間で基盤が強化されたことは間違いない。同時にここまでリーグを席巻してきた「ヴィッセルの戦い方」に対するライバルの対応も定まりつつある。次はこの基盤の強さの上に、「ヴィッセル対策」を乗り越える方法を加える作業が待っている。決して簡単なことではないが、これこそが「王座奪回」への道だ。


 いよいよ次戦が2025年のラストゲームとなる。神戸市御崎公園球技場(ノエビアスタジアム神戸)にて行われるACLE・成都蓉城戦は、吉田監督のラストゲームでもある。既にACLEリーグステージ突破は濃厚となっているヴィッセルではあるが、年内ラストゲームを勝利で飾り、リーグステージ単独首位を守ったまま年を越したいところだ。中2日という日程を考えれば、何かを変えることは現実的に難しいだろう。しかしヴィッセルの強さを体感していない成都蓉城に対しては、これまで通りの戦い方でも十分に戦えるように思う。3年半の時間をかけて吉田監督が作り上げたチームの集大成でもあるこの試合で、存分に「ヴィッセルらしさ」を表現し、来季に向けて弾みをつけてほしい。そして勝利で吉田監督の花道を飾ってほしい。選手たちの一層の奮起に期待している。