この日の勝利によって、ヴィッセルは今季初の首位に立った。これについて吉田孝行監督は「一番上に立つのは気分がいいこと」としながらも、「最後に何位で終わるかが重要なので、気を緩めずに今後もみんなで戦っていきたい」と慎重な姿勢を崩さなかった。まだJ1リーグ戦は14試合も残っていることを思えば当然の反応だ。とはいえ見ている立場としては、J1リーグ戦連覇を経て、逞しさを増したヴィッセルの成長は誇らしい。

素晴らしい勝利ではあったが、一方で画竜点睛を欠く試合となってしまったこともまた事実だ。その理由はもちろん試合最終盤の失点だ。この失点について吉田監督は、その前から流れを渡していたことも含め「もったいなかった」と評した。また扇原貴宏は「最後の失点シーン以外は良い守りができたと思います」、「ちょっと後味が悪くなってしまった」とクリーンシートを達成できなかったことを悔やんだ。
この失点シーンを見直してみると、そこには理由があったように思う。
まず1つは中盤での守り方だ。失点の直前、センターサークル付近に進出した岡山の左センターバックの工藤孝太が左ウイングバックのブラウン ノア 賢信にボールを渡した。ここで工藤はそのまま中央を上がり、ボールを受けたブラウンは前に立った鍬先祐弥を避けるように中央に逃げ、背後の宮本英治にボールを預けた。ここで宮本は左に張っていたウェリック ポポにボールを届けた。この時ポポは完全に浮いていた。ヴィッセルの最終ラインは保たれていたものの、その前の守備については完全に形を失っていた。本来ここを守るべき鍬先はブラウンに引っ張られて中央に入ってしまっていたため、ポポに対しては右ウイングに入っていた山内翔が対応し、鍬先が戻るまでの時間を作った。しかし山内がポポの中を切ったため、ポポは外を回っていた工藤に渡した。これによって鍬先は戻る距離が延び、僅かに間に合わず、工藤にクロスを入れさせてしまった。鍬先がブラウンを中央に追いやった時、外にポポがいたことを思えば、鍬先はブラウンを早めに味方に渡し、自分のポジションに戻るべきだったのではないだろうか。
さらに言えば、ゴールを決めた江坂任へのマークも曖昧だった。ボールがサイドに展開する前、江坂の位置を確認した扇原は横にいた井手口陽介に対して江坂をマークするように指示をしていた。しかし井手口は一瞬江坂の位置は確認したものの、サイドに流れたボールに目をやり、江坂を離してしまった。これによって江坂にフリーで抜け出されてしまったのだ。この失点の前から岡山は前への圧力を強めていたため、ヴィッセルは低い位置に構えていた。そのため人数は十分に足りていた。このプレーが94分を過ぎた時間だったことを考えても、明確に4-4のブロックを組んで守るべきだったように思える。
実際に試合を観ていた方のほぼ全てが、この試合でヴィッセルは「力の差」を見せつけて勝利したという感想を持ったと思う。これは筆者も同じだ。事実、この失点は岡山の「意地の一発」であり、試合の趨勢を左右するような類のものではなかった。ではなぜ冒頭でこんなことを書いているのかと言えば、ヴィッセルには「戦い方」を明確にしてほしいと考えているためだ。
ここで4日前に行われた甲府との天皇杯を思い出してほしい。この試合でヴィッセルは思わぬ苦戦を強いられた。そこには天皇杯特有の難しさがあったことは否定しないが、戦い方がなかなか嵌らなかったためととらえるべきだろう。ここで「ヴィッセルの戦い方」について考えてみる。
ヴィッセルの基本布陣は一昨年から4-1-2-3で固定されている。時には4-4-2や3バックシステムを用いることもあるが、それは限定的だ。そして布陣だけではなく、戦い方も固定されている。ボール保持時にはベクトルを前に向け、ボール非保持に変わった瞬間には全員が守備モードに切り替える。そして相手のボールホルダーに対して強くプレスをかけることで、高い位置でのボール奪取を狙う。これが嵌った結果、過去2シーズンで3つのタイトルを獲得した。この日の試合でも明らかになったように、レギュラーメンバーが揃ったときには、ほぼ全ての局面で動きを間違えることはない。一言で言うならば「高い完成度」を誇っている。しかし甲府との試合時のようにメンバーが変わると、強さを発揮できないことがある。これは「選手の違い」と考える人は多いように思うが、そこに筆者は違和感を感じてしまう。
何度も繰り返し書いてきたように、ヴィッセルの選手は総じて高い能力を持っている。しかし当然のことながら、選手個々は異なる個性を持っている。だからこそ「ヴィッセルの戦い方」も、起用された選手や状況に応じた変化が必要なのではないだろうか。
こうした話を書く時には、戦術と人の関係について考える必要がある。まずどのチームにも「戦略」がある。これは「目標」と換言することもできる。この「戦略」を達成するための手段が「戦術」ということになる。「戦術」は具体的な行動計画であり、サッカーにおいては選手個々に対する指示となって表れる。そしてこの「戦術」を具現化するのが選手だ。そう考えると戦術を立てる際には、選手の個性やスキルを考慮しなければならない。その上で選手を最適に配置し、明確な役割を与えることで「戦術」の効果は最大化される。同時に「戦術」には柔軟性も求められる。サッカーのように刻々と状況が変化する競技においては、戦況に応じて選手が臨機応変に対応できるような余裕を持たせておくことも重要な要素だ。
話をこの日の試合に戻すと、後半のアディショナルタイムに突入した時点で試合の趨勢は定まっていたと言えるだろう。もちろん油断することはできないが、局面単位で見た時、ヴィッセルの優位性は定まっていた。ゴールを奪うチャンスがあるのならば、それは積極的に狙うべきではあるが、この時点での最優先事項は「試合を静かにクローズする」ことだった筈だ。攻撃と守備の優先度は時間帯や局面によって変わるものだが、あの時間帯に優先すべきだったのは「反撃を試みる岡山の勢いを受け流す」ことだった。まず守るべきは守備隊形であり、カウンターを狙うというのは次の目標だったはずだ。しかしその優先順位が曖昧になり、守備隊形が不安定になっていたことから、岡山に得点を許してしまった。
ヴィッセルの選手に限って、油断はなかったと思う。むしろ戦う意思が強かったからこそ、攻撃に意識を残してしまっていたのかもしれない。選手は闘争本能の塊であり、あの直前に汰木康也が絶好のシュートチャンスを迎えていたように、まだ得点を積み重ねられる可能性はあった。そう考えれば、選手の意識が切り替わらなかったことは責めるには値しない。だからこそ最終盤には、吉田監督から明確な指示を送ってほしかった。
秋には「AFCチャンピオンズリーグエリート(以下ACLE)」が開幕する。何が起きるかわからないこの戦いを勝ち抜いていくためには、一分の隙も見せることはできない。それを今年初めのACLEでヴィッセルは学んだはずだ。この大舞台でリベンジを果たし、アジアの頂点に立つのであれば、こうした細部にもこだわった戦いを続けていかなければならない。上を見すぎて足もとを掬われるようなことがあってはならないが、常に上を意識して戦うことは、チームを次のステージへと押し上げる。

続いて試合を振り返ってみる。
川崎製鉄水島サッカー部を源流に持つクラブ同士の「兄弟対決」となったこの日の試合だが、ヴィッセルは概ね「J1リーグの先輩」としての貫禄を示した。木山監督が試合後に「自分たちがもっと力を磨いていく、力をつけていく、という必要性を感じることが多い試合だったかなと思います」とコメントしたように、ヴィッセルはあらゆる場面で力の差を見せた。それを最も感じさせたのが守備の部分だった。木山監督は試合後の会見の中で「外から見て感じる以上に、選手たちはピッチ上で圧力を感じていたと思う」とコメントした。これに呼応するように、岡山の選手たちは「圧力をかけられ続けて、難しい展開となってしまった」と口を揃えた。事実、試合開始直後からヴィッセルの選手が見せた球際の強さは、岡山を圧倒していた。岡山は早く前にボールを送り、それを前線のルカオや2列目の江坂任や木村太哉に拾ってほしかったのだろうが、ヴィッセルの守備がそれを許さなかった。ボールホルダーに対しての寄せは速く、さらに複数の選手で挟み込む形が整っていたため、岡山は思った形でボールを動かすことができなかった。またルカオにボールが入った際も、足もとで競り合う形を作り、ルカオに突破を許さなかった。これを続けたことで、ヴィッセルは前半被シュート0という数字を達成することができた。
この守備の局面で目立った活躍を見せたのが左ウイングで先発した広瀬陸斗とインサイドハーフの井手口だった。
まず広瀬だが対面した佐藤龍之介を抑える役割を果たした。18歳にして、先日開催されたE-1選手権の日本代表に選出されたこの俊英に対して、経験値の違いを見せつけるような守備だった。右のウイングバックに入っていた佐藤がタッチライン際でボールを受けた際には、まず中へのコースを切りながら、球際の勝負を仕掛ける。その際もいきなり勝負するのではなく、まず佐藤の動きを抑えるように動くことで、背後に控えている左サイドバックの永戸勝也や中にいる井手口を呼び込む。そして最後は複数人で挟み込んでボールを奪う。そして奪った後はベクトルを縦に向けているため、佐藤は守備に戻らざるを得なくなる。これを繰り返すことで、岡山の推進力を奪っていった。
またこの試合における広瀬は、守備のスイッチを入れる場面も目立った。岡山がボールを中央から下げた際、最終ラインの選手に対して広瀬が猛然と寄せ、守備のスイッチを入れた。これは戦場が中央や逆サイドにある時、広瀬が高い位置を取っていたためにできた動きだ。前記したように岡山がヴィッセルの圧力を感じていることを察知した上で、そこに緩みを作らないように意図していたのだろう。岡山は足もとでつなぐ場面は少なく、ある程度ラフに前に蹴ってくるため、最終ラインの選手に時間を与えてしまうと判断していたように思う。岡山の前線における起点となるルカオは、傑出した身体の強さを持っているため「この辺」というラフなボールを攻撃の起点に変えることができる。これに付き合い続けてしまい、守備が疲弊してしまったチームも少なくない。前記したようにヴィッセルの守備陣はマテウス トゥーレルを中心にルカオに対しては巧く守ってはいたものの、これを繰り返していると事故が起きる可能性はある。しかし広瀬が中心となり、前線の選手が巧いタイミングで岡山の最終ラインを潰していったことで、ヴィッセルは岡山を機能不全に陥らせることに成功した。
そして井手口だが、こちらは持ち前の運動量を披露し、ピッチ上にスペースを作らない役割を果たした。この試合における井手口のヒートマップを見てみると、ピッチ中央から左後ろにかけて斜めに色が濃くなっている。これは岡山の狙いがサイドにボールを入れてきたためではあるが、同時にルカオが流れることが多かったヴィッセルの左エリアをカバーしたことを示している。この井手口の動きがあったからこそ、永戸は守備に忙殺されることなく、前に意識を向けたプレーを続けることができた。加えて井手口は攻撃時にも積極的に前に上がる姿勢を見せた。そして前線の後ろにこぼれてくるボールを回収し、二次攻撃から三次攻撃へとつなげる役割を果たし続けた。このピッチ上のどこにでも顔を出すことのできる井手口の運動量があればこそ、今のヴィッセルの戦いは成立している。

この試合において攻撃時に目立っていたのは右サイドだった。右ウイングのエリキと右サイドバックの酒井高徳が絡む攻撃が多かったのだが、ここでも井手口が「3人目の動き」を果たす場面が多く見られた。エリキと酒井から等距離を保ちながら、常に両者から見える位置に立ち続けることで、パスの選択肢となり続けていた。ひょっとすると、この動きこそがこの試合の主導権を握る上で最も大きな意味を持っていたかもしれない。ヴィッセルの4-1-2-3に対して、岡山の配置は3-4-2-1。これを岡山の視座に立って考えると、狙うべきはアンカー(扇原)の脇のスペースだ。ウイングバックを含めた中盤の4枚が一緒に上下動し、2枚のボランチが扇原へのプレッシャーを強める。そこでボールを奪い、ウイングバックに渡し、そこから前に動くというのが攻撃時の狙いとなる。逆に注意すべきはウイングバックの周囲だ。ヴィッセルがウイングとサイドバックの2枚で攻撃を仕掛けるのに対して、ウイングバック1枚が対峙することになるためだ。もちろん中央からボランチが流れる、背後からセンターバックが出るといった形で対処するしかないのだが、これは中央エリアの人数を剥がすということでもある。その後の攻撃を考えれば、ここでサイドを制圧されてしまうことは、ヴィッセルの得点チャンスを増やすことにも直結している。だからこそここで井手口が「3枚目の動き」を見せ、サイドでの圧力を強める助けとなったことは、配置によって生まれるギャップをヴィッセルが活かした要因となったと言える。
この右サイドの動きについて1点付記すると、この試合におけるエリキの動きは見事だった。以前にも指摘したことがあるが、エリキはストライカーの本能ゆえか、中に入りすぎてしまう傾向があった。それでも大事な場面で得点を挙げることができるため、その動きをチームとして許容してきた。その分、背後の酒井が歪みを引き受けていたのだが、この試合ではエリキは中に入りすぎることはなく、左サイドで酒井とのズレを作りながら巧くポジションを取り続けた。その結果、酒井が攻撃に力を割くことができ、これが先制点を生み出した。ついにエリキもヴィッセルの戦い方をマスターしたのかもしれない。だとするならば、この先の戦いにおいてこの右サイドは脅威となり続けるだろう。エリキ、酒井とも単体でも相手を上回る力を発揮するのだが、ここに連携が生まれたとなると、これほど心強いことはない。
その酒井から生み出された先制点だが、これはヴィッセルの良さが詰まったゴールでもあった。ゴールキックをクリアしたボールを受けたのは、右センターバックの山川哲史だった。ハーフウェーライン上でボールを受けた山川にはルカオが厳しく寄せたが、山川は身体を倒すことでその圧力を抜き、倒れながら前線に蹴り出した。このボールは長いかと思われ、岡山の最終ラインの選手がスピードを緩めたのに対し、全力で走りこんだのはエリキだった。エリキはゴールライン上でこのボールを収め、マイナス方向に蹴った。このボールは相手に渡った。この時、酒井もアタッキングサードまで出ていたため、岡山はこれを2列目の左でプレーする江坂につなごうとした。この狙いを察知していたのは扇原だった。扇原は中央から右に向けてまっすぐ走り、これをインターセプト。ダイレクトで酒井につないだ。酒井はエリキとのワンツーでペナルティエリア外を縦に上がり、ペナルティエリア内にポジションを取っていた佐々木大樹につないだ。佐々木は胸トラップからリフティングを挟み、これをペナルティエリア角に入ってきた酒井に戻した。酒井はそこから数歩中に入って左足を一閃した。軸足を飛ばして放たれた強烈なシュートが枠に飛んだが、これは相手GKがセーブ。しかしここに走りこんでいたのがエリキだった。エリキは佐々木が後ろ向きにボールを動かし、相手守備の目がボールに向いている間に前に上がり、ニアで相手選手の間に入り込んだ。そして酒井のシュートをセーブした球がこぼれてきたところに走り込み、これをゴールに突き刺した。関わったすべての選手が自分の特徴を発揮し、それが淀みなく続いたことで生まれた素晴らしいゴールだった。
このゴールに関しては特筆すべき選手が2人いる。それは山川と佐々木だ。
まず山川だが、ルカオに寄せられながらも正確に前にボールを送ったプレーは、前にボールをつけていく意識が高まっていることを証明した。あの場面も、以前の山川であればルカオを避けて、後ろに下げていたのではないだろうか。この試合の中で山川は前が空いているときには積極的に縦にボールを差し込んでいった。それが2得点目の起点となった。常に努力を続け、課題を克服してきた山川らしい成長だと思う。
そして佐々木だが、この試合でも佐々木は大事な場面で巧く周りを使い、2得点ともに絡んだ。高いボールスキルと強靭なフィジカルを活かし、周りの選手に「得点を取らせる役」を見事にこなしている。その役割に徹しているため、相手からは厳しいマークを受け続けているが、それにも耐え続けている。特に2得点目を挙げた宮代大聖とのコンビネーションは、試合を重ねるごとに高まっており、シームレスにボールを受け渡しすることができるようになっている。大樹と大聖の「大・大コンビ」は、どちらも卓越した技術があるため、相手が密集した中でも力を発揮することができる。大迫&武藤に続くゴールデンコンビの誕生は、ヴィッセルの強さを1段階引き上げたと言えるだろう。

そしてこの試合でもう1人特筆すべき動きを見せたのが、途中交代でピッチに送り込まれた小松蓮だ。81分に登場した小松は、ファーストタッチでゴールネットを揺らした。これは惜しくもオフサイドとなってしまったが、この「幻のゴール」は、小松の非凡な能力を示すものだった。井手口との挟み込みによって、自陣でルカオからボールを奪った山川が相手選手の間を通すパスを、前に立っていた宮代に供給。宮代はドリブルで前に出つつ、右に走った小松に浮き球でパス。これを受けた小松はダイレクトに左足を振りぬき、ゴールに突き刺した。この場面で小松は宮代がボールを受けた時、宮代の前に立っていた。オフサイドポジションにいたため、小松とすれば一瞬止まってから走り出すという選択肢もあったはずだが、ここで小松は右に流れた。実はこれこそが正解だ。岡山の最終ラインは宮代を見ながら下がっていたため、もし小松がステイしてしまったとすれば、守備の選手には態勢を整える時間が生まれていた。ここで相手から遠ざかるように右に流れた小松の動きは、ヴィッセルの前に出るスピードを保つ上で有効だったのだ。さらに言えばこの場面では右側のスペースが大きかったため、そちらに出ることで小松の視野角は広がり、シュートコースは増えた。この動きを咄嗟の判断でできる小松は、得点の取り方を知っている選手であると言えそうだ。加えてシュートシーンでは、シュートを打つ寸前に身体を開き、相手GKに狙いを定めさせないようにしている。
ヴィッセルでの「初ゴール」は次戦以降にお預けとなったが、小松の能力を考えれば、歓喜の時は近そうだ。
冒頭でも書いたが、この勝利によってヴィッセルは首位に浮上した。これについて扇原は試合後に「まだシーズンは途中であり、嬉しさはない」としながらも「シーズン開始時には負傷者も多く苦労した」とした上で「チーム全員でここまで勝点を積み上げることができたのは、チームの成長だと思う」とコメントした。確かにシーズン開幕前、ヴィッセルに対する下馬評はそれほど高くはなかった。超過密日程、勤続疲労による負傷者の発生など様々な理由をもって、ヴィッセルのJ1リーグ3連覇は難しいだろうという声が多く聞かれた。しかしそうしたネガティブファクターを、ヴィッセルは文字通り「一致団結」して乗り越えてきた。そしてその中で「大・大コンビ」に象徴されるような若手選手の成長も見せた。そして何よりも、この試合ではロングボールを警戒する相手に対して、地上戦でつなぐ戦いを見せ、相手の出足を潰したように、戦い方の幅が広がっている。
この先、複数のタイトルへの挑戦が待ち受けているヴィッセルに気を抜く余裕はないが、未来への希望が試合を重ねるごとに大きくなっていることは事実だ。
最後に一点付記しておく。この試合における判定基準は「流しすぎていた」ように思う。悪意のあるプレーではないが、ヴィッセルの選手がボールを握った時、岡山の選手に手で倒されるような場面が散見されたが、そのほとんどがノーファウルという判定だった。これは岡山の選手も同じ感想を持っているのかもしれないが、接触に対して緩すぎたように思う。その結果、選手にストレスを与えていたのではないだろうか。ルカオがトゥーレルを小突き倒したプレーなどは、そうしたストレスの表れだったように思う。試合をエキサイティングなものとするため少々の接触を流すことは理解できるが、それ以上に選手をケガから守ることは「審判に課せられた義務」であることを忘れないでほしい。
次戦は天皇杯Round16。対戦相手は大学勢としては史上初の「J1クラブ2連続撃破」を成し遂げた東洋大学だ。技術面ではヴィッセルが確実に上回っているが、東洋大には若さと勢いがある。試合開始と同時に力で押し込むのか、それとも慎重に相手を見極めながら戦うのかは不明だが、いずれにしてもここで国内トップカテゴリーの力を見せることは、ディフェンディングチャンピオンに課せられた義務でもある。F.C.バルセロナとのフレンドリーマッチも巧く活かし、さらなるチーム強化を図り、その先に待ち受けている夏の戦いに臨んでほしい。
