「この試合で得た勝点1をポジティブに捉えたい」
これは試合後の会見で吉田孝行監督が口にした言葉だ。
2025年のJ1リーグも終盤戦に差し掛かった。この日の試合でヴィッセルは28試合を消化した。ここまでの戦績は15勝5分8敗。勝点は50で、順位は4位。これを昨季の28試合消化時点と比較してみる。昨季は14勝7分7敗。勝点は49で、順位は3位とほぼ同じ数字だ。次に上位との勝点差を見てみる。現在暫定ながら首位に立っている鹿島との勝点差は1。鹿島がヴィッセルよりも消化試合数が1試合少ないことを考慮すると、勝点差は最大で4となる。ちなみに昨季はこの時点で首位との勝点差は5だった。これまた、昨季とほぼ同じ状況だ。

この日の試合後、武藤嘉紀はJ1リーグの混戦状況について尋ねられた際に「去年はもうチャンスがないと思われる状況から逆転して優勝までいったので、何が起こるか判らない面白みがある」とコメントした。常にポジティブな思考を見せる武藤らしい言葉だとは思うが、正鵠を射ているとも思う。エリキも試合後にコメントしていたが、J1リーグ最大の特徴は、チーム力が拮抗している点にある。世界中の多くの国のリーグには、強豪と呼ばれるいくつかのクラブがあり、ほとんどのシーズンにおいて、優勝争いはその中だけで展開されることが多い。これに対してJ1リーグはどのクラブにもタイトル獲得のチャンスがあり、どのクラブにも降格の危険性がある。そんなリーグであるからこそ、タイトル争いはスリリングな展開を見せることが多い。そしてその中では「勝点1」が大きな意味を持つ。

そこで紹介したいのが2005年のJ1リーグだ。ヴィッセルサポーターにとっては、ヴィッセルがクラブ史上初の「J2降格」の憂き目を見た年として記憶されているかもしれないが、優勝争いは劇的だった。最終節を前に優勝の可能性を残していたのは勝点58のC大阪、勝点57のG大阪、勝点56で並ぶ浦和、鹿島、千葉の5クラブだった。そして最終節はこの5クラブ全てが違う会場での試合となっていた。C大阪はFC東京を相手に88分までリードを保っていたが、89分に同点ゴールを決められてしまい、引き分けに終わった。他の4クラブが全て勝利したため、優勝は勝点60のG大阪となった。そしてC大阪を含めた4クラブは勝点59で並ぶという大混戦だった。残り数分の時間までタイトルに手がかかっていたC大阪だが、得失点差により最終順位は5位に終わった。後日、C大阪の関係者が「どれか1試合でも負けを引き分けにしていれば」と悔やんでいたことを覚えている。
今のヴィッセルを「日本一諦めの悪いクラブ」と呼ぶ人たちがいる。昨季終盤に見せた粘り腰は、その名の通りの戦いだった。今季も決して安閑としていられる状況ではないが、ヴィッセルには優れた力を持つ選手たちと過去に積み上げてきた経験がある。その力を信じて、残り10試合を戦い抜く他ない。この日の結果が悔しすぎることは事実だが、残る試合で勝利を積み重ねていくことに集中してほしい。「人事を尽くして天命を待つ」ではないが、それこそが今のヴィッセルにできる唯一のことだ。
この日の試合を左右した要素は「日程」だった。これはチャンピオンチームの宿命でもあり、それを勝てなかった理由として挙げることにはいささかの躊躇いはある。しかしこの猛暑の中での「中2日」という日程は、あまりに過酷すぎた。しかも3日前の広島戦が文字通りの「激闘」であったことも、この日のヴィッセルにとってはネガティブファクターとなってしまった。さらにこの日の試合は7連戦の3試合目。この先も中3日、中2日での戦いが続くため、吉田監督には選手の体力のマネジメントも求められている。この日のスターティングメンバー選びには、それが表れていた。
前節からの変更は5か所。右サイドバックの鍬先祐弥、アンカーの扇原貴宏、左インサイドハーフの井出遥也、右ウイングの武藤、左ウイングのジェアン パトリッキだ。鍬先は前節ではアンカーとして先発していたが、この試合ではサイドバックでの出場となった。吉田監督のプランは体力が残っている早い時間帯に先制点を挙げ、その後は交代カードを使いながら、リードを守る「先行逃げ切り」だったと思われる。それを示すように、試合序盤からヴィッセルはハイプレスを敢行、それが奏功した。
C大阪ボールで始まった試合だが、ヴィッセルが自陣から大きく蹴り出したボールが相手GKに渡った。ボールをつなぎたいC大阪は2枚のセンターバックが開き、幅を取った。C大阪のGK福井光輝は左の畠中槙之輔にボールをつないだ。ここで宮代大聖が畠中にプレスをかけた。畠中は福井にボールを戻したのだが、ここで宮代がボールの軌道をトレースするようにそれを追ったため、福井は右の井上黎生人にボールを出した。これがヴィッセルの狙いだった。ここで井上に対しては外を切るようにパトリッキが寄せた。これによって、井上は外に張っていたサイドバックのディオン クールズへのパスが出せなくなった。井上は中に向きを変えたのだが、背後から宮代が追ってきていたため、一瞬動きが止まった。そこを見逃すことなくパトリッキが寄せていったため、井上は不完全な体勢で福井にボールを戻そうとした。このボールが宮代に当たり、勢いが弱まったところでパトリッキが前に出てボールを奪った。パトリッキはそのまま間髪おかずにシュートを放ったのだが、これは福井にセーブされてしまった。
キックオフから1分にも満たない時間でのプレーではあったが、結果的にこのビックチャンスを逃したことが、試合を大きく左右した。井上よりも前に出ていたことを思えば、パトリッキはさらにもう一歩前に出ても良かったように思う。井上が強引に止めにいけばファウルとなっていた可能性も高い。さらに福井はパトリッキが前に出た時点でシュートストップの態勢に入っていたため、そのままパトリッキが右に流れたとすれば、その動きについていくことは難しかっただろう。
その後もヴィッセルのハイプレスが奏功する時間が続いた。その過程で大きな役割を果たしていたのが井出だった。C大阪の最終ラインの前のスペースを井出が埋め、C大阪のボランチを消しながら前のバランスを取っていた。そのためヴィッセルの前線は背後を気にすることなく、プレスに徹することができたのだ。こうした流れが5分ほど続いたが、この時間帯がヴィッセルにとっては「攻め切るべき時間」だった。この時間帯に先制点を取れていれば、その後の試合の流れは変わっていたと思われるだけに残念だ。
試合の流れを変えたのはC大阪のパスワークだった。ヴィッセルのプレスに対して人数を確保するため、GKの福井を使いながらプレスを無効化していった。突破口はサイドだった。まずサイドバックにボールを入れ、そこにボランチの選手が絡みながらヴィッセルの選手をサイドに引き付けていった。そして複数人を引き付けたところで、逆サイドへ展開する。これを繰り返される中で、ヴィッセルの守備は後手を踏み、セカンドボールの回収率が低下していった。この流れの中で大きな存在感を見せたのが、元日本代表の香川真司だった。相変わらずの高いキープ力を活かして扇原をサイドに引き付けたかと思えば、ボールを引き取って逆サイドへ正確に展開と、その能力を遺憾なく発揮していた。結果的に香川を摑まえることができなかったことが、ヴィッセルが主導権を握り返せなかった最大の理由だ。
ここで1つの問題が表層化した。それはメンバーに応じた攻撃方法が確立されていないという点だ。具体的には前線中央に入る選手の存在がポイントとなる。
この日の試合では宮代が前線の中央でスタートした。高いシュート技術を持つ宮代だが、ロングボールの目標となるようなタイプの選手ではない。宮代を活かすには高い位置に起点を作り、そこからゴールを目指す流れの中に組み入れることだ。足もとの技術にも優れているため、相手を背負ってのボールキープも難なくこなす選手ではあるが、ドリブルで距離を稼ぐようなタイプの選手ではない。ゴール近くで見せる一瞬のキレで相手をかわすといったプレーが、宮代の持ち味だ。これが発揮された時、宮代の高いシュート技術が活きる。こうした特徴を考えた時、最後方から宮代にロングボールを入れることには、さしたる意味はないように思う。この試合のメンバーを見た時、バランサーとしての能力も高く、ラストパスも出すことができる井出をインサイドハーフに配したのは、井出を使って宮代を活かす意図が込められているのだと思った。となればボール保持時には扇原が配球役となり、地上戦を中心にC大阪の守備に挑むものと予想していた。しかし実際は全く異なっていた。ヴィッセルの選手は多くの場面で宮代を目標としたロングボールを蹴っていたのだ。ひょっとすると何度もC大阪に押し込まれる中で、地上戦での脱出は困難と判断して、リスクを遠ざける意味でのロングボールだったのかもしれない。いずれにしても、宮代を目標としたロングボールが、ヴィッセルの攻撃を停滞させたのではないだろうか。
宮代がロングボールに競り合うタイプでないことは前記した通りだが、その結果、C大阪に蹴り返される場面が増えた。そして、これが井出を無効化してしまった。過去の試合を振り返ってみても、井出を活かすためには前線でボールを落ち着かせる必要がある。例えば大迫勇也のようにラフなハイボールであっても収めてしまう選手の横に立った時、井出は相手の急所でボールを持ち、味方同士をつなぐプレーで攻撃を活性化する。しかし味方の蹴ったボールが井出の頭を飛び越え、それを蹴り返した相手のボールも井出を越えていく状況では、井出の特徴は発揮されない。それを嫌ったためか、何度か井出がボランチの位置まで落ちてボールを受けていたが、そこから押し上げるメソッドが確立されていないため、これも効果的な動きとはならなかった。
今季、宮代を「得点を取る役」として動かしてきた佐々木大樹が戦列を離れている中、宮代の活かし方を考えることは、ヴィッセルをこの先待ち受けている複数のタイトル争いを制するためにも、絶対に必要なことだ。ヴィッセルには大迫、武藤、エリキなど特別な能力を持った攻撃的な選手が揃っている。当然、宮代もその1人だ。そして彼らの共通点は「点を取る役」であるということだ。もちろんどの選手も高いボールスキルを持っているため、アシストを決めることもある。しかし基本的な性質は「得点を取る役」なのだ。これに対して佐々木は「得点を取らせる役」を担うことができる選手だ。相手のライン間やレーン間に立ち、そこでボールを受けることができる。本来であれば佐々木自身はゴールを決めたいタイプだと思うが、チームの状況に応じて「取らせる役」をこなしてきた。
ヴィッセルに佐々木のようなタイプの選手は多くはない。ではどうするべきなのか。1つには後半何度か見られたように、大迫がポジションを落としてプレーするという方法が挙げられる。昨季アシスト数でリーグ2位になったように、大迫はラストパスを供給することもできる。相手に寄せられても高い技術でボールを握り続け、そこから正確なパスを繰り出せる大迫ならば、宮代を活かす形を作ることもできるだろう。しかし大迫を目標としたロングボールが有効な手段の1つである以上、大迫のポジションを落とすことのデメリットは大きい。
ではどんな解決方法があるのだろうか。井出を使う方法など複数考えてみたのだが、選手配置まで含めて考えてみると、やはり大迫と宮代のコンビネーションを熟成させるのが最も近道ということになるのかもしれない。いずれにしてもこの試合で見られたような、宮代を「取らせる役」にすることは、チームの最大値を発揮する上では避けるべきだろう。難しい問題ではあるが、吉田監督にはこの問題の解決を早期に図ってもらいたい。

これに関して1点付記すると「自陣からのボール脱出」、そして「ビルドアップの確立」も解決すべき問題だ。プレスに来る相手をかわしながら、地上戦で前進することが安定的にできるようになれば、ヴィッセルのサッカーには多様性が生まれる。ヴィッセルのロングボールを使った攻撃に対する備えをライバルたちが整備してくる中で、それを突き詰めて上回っていくことも王者の戦い方ではあると思うが、どんなスタイルにも対応できる多様性を身につけることも、また王者らしさではある。これをメインにする必要はないと思うが、この日のC大阪のように効果的なプレスと球際の強さで勝負を仕掛けてくる相手との試合で苦戦している現状を鑑みると、やはりピッチ全体を使ったビルドアップの整備は急務であるように思う。
これを整備する上で1つのヒントは、この日C大阪が見せた戦い方だ。相手の前線が敢行するプレスに対しては、センターバックが幅を取り、GKを使ってこれをかわす。そして左右のサイドバックがセンターバックの斜め外に立ち、幅を取った上でボールを引き取る形を整える。そしてボランチはボールサイドに対してのフォローを行う。ここでサイドバックとボランチ、そして前に立つインサイドハーフの選手でトライアングルを形成することができれば、今よりも地上戦でボールを運ぶことはできるようになると思う。この動きは極めて基本的ではあるが、ヴィッセルの選手ほどのボールスキルがあれば、これだけでもある程度は戦えるのではないだろうか。
次に失点シーンを見ていく。ここでのポイントが、試合後に吉田監督も指摘したようにパトリッキの動きだったことは事実だ。右サイドバックのクールズにボールが通ったところで、パトリッキは前に行こうとした。しかしクールズとの距離を考えれば、間に合うはずはなく、パトリッキも無理に追うほどのスピードは見せていない。やはり吉田監督が指摘したように、パトリッキが斜めに下がって、背後から縦に走路を取った吉野恭平をマークするように動くことができていれば、ルーカス フェルナンデスが中に入ってくることはできなかっただろう。
問題はその前にもあった。左サイドバックの大畑歩夢にボールが渡った後の対応だ。大畑がボールを受けた時、ここは井出がマークについた。ここで大畑はコースを見つけることができず、一度GKまで下げたのだが、この時、井出が大畑から離れて中に入ってしまったのだ。その結果、井出は相手のGKを含めたトライアングルの中心に立つ格好になってしまった。ここで井出が大畑を離さなければ、C大阪の前進を防ぐことができた可能性は高いように思う。
吉田監督がコメントしたように、こうした問題は「誰が悪い」という類のものではなく、チームとしての問題だろう。そしてこうしたミスは、実戦の中で養われる感覚の不足が原因の1つであることも事実だ。そうした意味ではパトリッキ、井出とも、負傷の影響もあり、今季は十分な出場機会を得ることができていなかったことが災いしたとも言える。しかしこうした試合を経験することで、必要な勘も養われる。その意味では、この試合を正しく振り返ることさえできれば、この日のミスは特段問題になることではないように思う。
前記したように、この試合における吉田監督のプランは「先行逃げ切り」だったように思う。しかしリードされた状態で前半を終えたため、プランの変更を余儀なくされたようだ。吉田監督は後半開始から大迫とエリキをピッチに送り込んだ。そしてこの2人が後半開始直後に大きな仕事をして見せた。GKの前川黛也が蹴ったロングボールに対して、ペナルティアーク前でエリキが井上と競った。ここでは高さに勝る井上が頭に当てたのだが、ここに走りこんでいたのは大迫だった。大迫は斜め左に流れるように走りながら、右にいたエリキにワンタッチで斜めのパスを通した。これに反応したエリキがGKとの1対1を制し、同点ゴールを決めた。

この得点はヴィッセルに勢いを取り戻すだけではなく、C大阪の守備陣に嫌な感情を植え付けた。ボランチを務めていた田中駿汰は試合後に、この形は想定内だったとした上で「まんまとやられたという感じで、とても悔しい」とコメントした。またC大阪を率いるアーサー パパス監督も試合後の会見の席上、ヴィッセルの決定力を評価しつつ「99%は巧く守ることができていたが、1%にやられた」と悔しさを滲ませていた。まさに吉田監督の采配が当たった得点だった。
攻撃に関して言うと、この試合では大きな収穫があった。それは大迫と武藤のコンディションの良化だ。このヴィッセルの誇る2枚看板のコンディションは、そのままチームの力を左右するだけに、これは今後の戦いに向けて大きな力となるだろう。
まず大迫だが、得点シーンでのアシストもそうだが、それ以上にボールの収まりが良くなった。背後からのボールを収めてしまう技術はもちろんだが、相手に寄せられながらもボールを握り続ける姿が見られたことは「大迫復活間近」を印象付けた。体幹直下でボールを握ることのできる大迫のキープ力は、まさに身体の状態を表している。どんな体勢からでもボールを収め、中盤の選手顔負けのパスを出すことのできる能力は、足もとの技術以上に、身体の使い方の巧みさに支えられている。この試合では畠中という経験と実力のある相手とのマッチアップも多かったが、そこで負けなかったということは、コンディションが急速に回復していることの証左だ。現実にロングボールが大きなウェイトを占めているヴィッセルの攻撃においては、前線で起点となることができる大迫のコンディション良化は不可欠だ。試合後に吉田監督が明かしたように、この日は予定時間以上にプレーした大迫だが、最後まで動きの質が落ちることはなかった。
そして武藤だが、こちらは復帰3戦目にして大きくコンディションを上昇させてきた。第9節以来となる先発復帰を果たし、79分までプレーを続けた。武藤自身は長い時間プレーできたことは自信になるとしつつも、コンディションはまだ戻り切っていないと感じているという。確かに武藤本来のスピードや、相手を弾き飛ばして前進する力強さは戻り切っていないかもしれないが、それでもボールを引き出す動きなどは武藤らしい動きだったように思う。身体の角度をつけ、相手からボールを隠しながら、足もとの力で前に出る動きが見られたことは、コンディション良化の象徴だ。また右サイドで酒井高徳や井手口陽介を使いながら相手を引き付け、裏にこぼれたボールを深い位置から中に運ぶ動きは、体軸が整ってきたことを感じさせた。
その武藤は試合後に「脳が怖さを覚えていた」とコメントした。手術を必要とするほどの負傷を経験したことを思えば、無理もない。これは柔道のメダリストから聞いた話だが、大きなケガを経験すると、プレーに変化が生じるという。その変化とは悪い意味の変化だ。無意識のうちに負傷した箇所をかばうようになってしまう。そのため身体にはそれまでとは別の箇所に負担が生じる。その結果、別の箇所を負傷するといった具合に「負の連鎖」に陥ってしまうという。そこから逃れるためには、意識的に負傷した箇所を庇わないようにプレーする他ないというのだ。恐らく武藤も、これと同じような状態だったのだろう。それでもこの日の試合で長時間プレーしたこと、痛みが出なかったことで「一つ殻を破ることができた」と本人が捉えていることは、武藤の復活ロードへの福音となる。
前記した大迫と同様に技術は確かなものを持っている選手であるだけに、コンディションさえ整えば、前線で相手に対する脅威となってくれるだろう。冒頭で書いたように、昨季と今季の成績は極めて似通っている。しかし1つだけ異なっているものがある。それは得点数だ。28試合を消化した時点で、昨季は43得点を挙げていたヴィッセルだが、今季は36得点に留まっている。約15%の低下だが、これはそのまま「大迫と武藤が挙げるべきゴール数」と言っても良いだろう。この「2枚看板」がこのまま良化を続け、本来の力を発揮した時、ヴィッセルにはブーストがかかるのではないだろうかと期待してしまう。

後半は開始直後から大迫とエリキが加わったことによってヴィッセルがペースを握り返したように見えたが、やはり試合経過とともに疲労の色は隠せなくなった。70分頃からヴィッセルの運動量は目に見えて低下し、そこで再び主導権はC大阪に移行した。仕方のないことではあるが、吉田監督が今後の戦いを見据えて、選手の出場時間をマネジメントするような交代を余儀なくされたことも、主導権を握り続けることができなかった一因であったように思う。
このように試合を振り返ってみると、この試合の勝ち点1という結果はベストではないが、決して悪いものではなかったように思う。試合後、香川が「神戸はコンディションが万全ではなかったと思う」と口にする状態の中、最後まで粘り切ったのは、チームの底力と言えるのかもしれない。欲を言えば試合開始直後、若しくは後半開始からの20分の間に得点を奪ってほしかったが、この試合に集中して臨んだC大阪は手強かった。
ヴィッセルにとって、現在が難しい局面であることは事実だ。しかし中3日で迎える次戦が天皇杯であることは救いなのではないだろうか。対戦相手はJ3所属の相模原だ。相模原へのリスペクトと警戒は持ち続けなければならないが、主力選手の体力をマネジメントするという視座に立てば、この試合を有効に使いたい。
大幅なターンオーバーが予想されるが、ここで出場機会をつかむ選手たちには、自分たちが今季のヴィッセルの命運を握っているという自覚を持ってほしい。多くの実力者が揃っているだけに、リーグ戦で出場機会をつかむことが難しい状況であることは理解できる。しかしそれを乗り越える力(選手)こそが、チーム力を向上させることも事実だ。その意味でも、天皇杯に起用される選手の活躍を誰よりも待ちわびているのは、選手を送り出す吉田監督なのだ。次戦で起用される選手が見せる活躍こそが、チームをタイトル獲得に近づける。だからこそ、出場する選手たちには大いなる野心を持ってプレーしてもらいたい。彼らが、金色のエンブレムが付いたクリムゾンレッドのユニフォームを身に纏うことを許された力の持ち主であることを誇りとして、相模原のピッチで躍動してくれることを楽しみにしている。