覆面記者の目

明治安田J1 第6節 vs.湘南 レモンS(3/16 15:03)
  • HOME湘南
  • AWAY神戸
  • 湘南
  • 1
  • 0前半2
    1後半0
  • 2
  • 神戸
  • ルキアン(51')
  • 得点者
  • (24')エリキ
    (37')エリキ

試合後、吉田孝行監督はこの日の試合に対して「内容よりも結果が大事だと思っていた」とコメントした。これはチーム全体に共有されていたようだ。それを言葉にしたのは、大迫勇也と武藤嘉紀だった。この試合にどんな気持ちで臨んだのかという質問に対して武藤は「今日負けたらズルズルといってしまうと思っていた」と語り、大迫は「ここでどういう反応をするかというのを、プロサッカー選手として問われる試合だったと思う」とコメントした。この両エースが共通して抱いていた危機感こそが、この試合を考える際の1つ目のカギだった。

 4日前に味わったAFCチャンピオンズリーグエリート(以下ACLE)敗退は、ヴィッセルに大きなダメージを与えた。アジア制覇という大きな目標が断たれたことはもちろんだが、その過程にも納得できないものがあったためだ。
 以前、「負け方」というテーマで複数人のアスリートに話を聞いたことがある。そこで共通していたのは、敗戦という同じ事象にも「ショックが残る負け方」と「ショックの残らない負け方」があるということだった。「ショックが残る負け方」の共通項は2つだった。1つは「相手との実力差がない場合」、そしてもう1つは「外的要因によって敗れた場合」だった。今回のヴィッセルのACLE敗退は、この2条件を満たしている。
 こうしたショックからの立ち直りについて、最近ではリバウンドメンタリティという言葉が頻出する。結果を残しているアスリートやチームは共通して持っているという文脈で語られることの多いリバウンドメンタリティだが、これを手に入れる方法は様々だ。メンタルコーチと契約するなどして、個人でそのマインドを手に入れようとする選手もいるが、サッカーのようなチームスポーツの場合には、所属する全ての選手がそれを持たなければならない。そして全ての選手がそうしたマインドを手に入れた時、「チームとしての強さ」が手に入る。
 それを目指す中で大きな力を発揮するのが、ベテラン選手の存在だ。かつて西武ライオンズ(現 埼玉西武ライオンズ)を率いて1980年代から90年代にかけて黄金期を築いた森祇晶氏は、当時の強さの源は石毛宏典、辻発彦という2人のベテラン選手にあったと話してくれた。石毛と辻が若い選手を時には優しく導き、時には厳しく叱咤することで、常にチームに緊張感をもたらしてくれたため、当時のライオンズは戦闘集団であり続けることができたという。
 これは今のヴィッセルも同様だ。ACLE敗退直後に、新井章太がSNSで発信した言葉はニュースでも取り上げられた。その中に書かれていたように、今のヴィッセルには「諦めの悪さ」が根付いている。大迫、武藤、酒井高徳といった実績と経験を持つ選手たちが、誰よりも勝負にこだわり、若い選手にも強くなることを要求し続けている。それが常態化しているため、全ての選手が「敗戦のショックから立ち直るには勝利を挙げるしかない」と理解し、さらに強くなるための努力を続ける。その姿を吉田監督も認めている。試合後には「(ACLE敗退で)1番落ち込んだのはもしかしたら僕だったかもしれないですが、本当に選手たちは切り替えてここまでやってくれたので、僕自身も勇気をもらったと思います」とコメントし、選手の強さを称えた。
 勝利にこだわった結果、今季のJ1リーグ戦初勝利を挙げることができた。これは素晴らしい結果ではあるが、まだスタートラインに立ったに過ぎない。もう1つの大きな目標である「Jリーグ史上2クラブ目となるJ1リーグ3連覇」を達成するためには、サッカーの内容も先鋭化していかなければならない。


 この試合を考える際の2つ目のカギは「左サイドの攻防」だ。
 この試合に際して吉田監督は、4日前に行われた光州戦から3人の選手を入れ替えた。大迫、井出遥也、岩波拓也をベンチスタートとし、代わって武藤、井手口陽介、エリキを先発起用した。そしてこれに伴い、選手の配置にも手を加えた。左サイドバックには鍬先祐弥を起用し、インサイドハーフは井手口と宮代大聖、そして前線は中央に佐々木大樹を置き、右に武藤、左にエリキという並びとしたのだ。
 初先発となったエリキは2本のシュートを放ち、2得点を挙げる活躍で、ヴィッセルに勝利をもたらした。エリキは前への推進力を持った選手だ。ボールが出てくるタイミングを計り、前に飛び出すことができる。加えてドリブルの技術も高い。21分に見せたシーンが象徴的だが、足もとで細かく動かして相手を翻弄するのではなく、スピードを維持しながら動き続けることで、局面の主導権を握る。そのため動きは直線的に見えるが、相手は身体を入れることができない。そんなエリキだが、守備面においてはまだヴィッセルの動きを習得しきっているとは言えない。チーム合流からの日数を考えれば当然ではある。ボールホルダーに対してプレスをかけていく際に、それが背後の選手の動きと連動するには至っていない。時にはボールホルダーを追いすぎてしまい、結果としてピッチ上にスペースを作り出してしまっていた。吉田監督はこうなることを承知の上で、エリキの攻撃力を活かすという選択をしたのだろう。
 吉田監督が決断できた背景には、鍬先の存在があったと思う。湘南がそのスペースを使いながら攻めてくることも想定した上で、エリキの背後に鍬先を置くことで、最後の部分は凌ぐことができると考えたのだろう。これは鍬先の守備力に対する、指揮官の信頼の表れとも言える。実際にこの試合の中で、鍬先は見事な守備を見せた。エリキの背後に生まれるスペースを管理するために、エリキの位置に合わせて高さを調整しながらプレーを続けた。そして攻撃を仕掛けてくる相手に対しては、距離をとって遅らせるのではなく、前に出て守り続けた。試合後、鍬先は「スピードがある選手に対して躊躇して前のスペースを空けてしまうと、それこそ相手の思うツボだと思ったのでまずは寄せることを意識しました」とコメントしたが、この守り方こそが後ろに控える選手に対して守りやすさを与える。
 スピードのある相手に対して、距離を取りつつ対峙することで足を止めようとする選手は多いが、実はこの守り方は事故を招きやすい。相手の出足をいったん止めることができたとしても、それは他の相手選手に対して動くための時間を渡してしまっているためだ。毎回のように書いていることではあるが、サッカーにおいてボールを運ぶ際には「味方に時間とスペースを渡す」ことこそが、最も大事なことだ。逆に守備側は相手から「時間とスペースを奪う」ことで、相手の攻撃を無効化する。この鬩ぎ合いこそが、試合の中で最も時間を費やす部分でもある。この試合で鍬先が見せたような前に出る守備は、相手から選択肢を奪うことにつながる。
 鍬先がこうした動きを続けたため、鍬先サイドのセンターバックであるマテウス トゥーレルは、鍬先がかわされたことを想定した動きができた。ここで鍬先が距離を取るような守り方をした場合、トゥーレルにはその間に走りこんでくる相手選手にも対処する必要が生じる。要はやるべきことが増えてしまうのだ。選択肢は少ない方が集中できるため、ミスが発生し難くなるのは当然だ。実際に鍬先がかわされる場面もあったが、そこに至るまでの動きに迷いがなかったため、トゥーレルが見事なカバーを見せ続けた。この左サイドを守り抜いた守備が、この日の勝利を引き寄せた最大の要因と言えるだろう。


 3つ目のカギは「中盤でのボール奪取」だ。この試合で先発に復帰した井手口がインサイドハーフに入ったことで、ヴィッセルは中盤でのセカンドボール奪取率を高めた。広いエリアをカバーしつつ、前に出てボールを奪うことのできる井手口の守備が、ヴィッセルに「連続性」をもたらした。これこそがシーズン開幕からのヴィッセルに不足していた部分だった。ヴィッセルの戦い方においては、ボール非保持時には4-4-2に変化する。そして局面がボール保持に変わった瞬間に4-3-3に戻るのだが、この切り替えに際して2列目の人数が不足する瞬間がある。ここが相手にとっては狙いどころとなるのだが、ここで前に出てボールを奪いにいける選手がいると、そこで相手の出足を止めることができる。こうしたプレーは理屈では理解できても、実際に動くためにはスタミナと勘がなければできない。ここでいう勘とはヤマ勘的なものではなく、相手の動きからボール奪取位置を定める予測に近いものだ。これを持っている選手というのは、そういるものではない。そして井手口はそれを持った選手だ。G大阪のアカデミー時代から井手口のボール奪取は優れていたが、当時はスタミナを評価する声が多かった。しかしそれだけでできるプレーではない。局面を正確に把握・分析した上で、アクションに移すことができる頭脳が要求されるためだ。井手口が高校2年生にしてトップチームに2種登録された際、当時チームメイトだった宇佐美貴史が関係者に対して「怪物」と井手口についての感想を口にしたのは、そうした能力を高く評価してのことだ。
 井手口が戦線に復帰したことで、ヴィッセルの形は整いつつある。

 中盤に関連して言うと、宮代大聖のコンディションが回復してきたことは、ヴィッセルの攻撃力を高めた。光州戦ではコンディションが回復途上にあると思われたが、実戦を経験したことで、回復速度は急速に上がったようだ。この試合では2点目をアシストするなど、結果も残したことでコンディションのさらなる上昇も期待できる。この日の宮代はボールの収まりも良く、前線の近くで時間を作る場面も多かった。アシストの場面では右に立った佐々木からのボールを右足で走路方向に動かし、そのまま柔らかいタッチで相手選手の間に差し込んだ。宮代の良さの1つは「ボールを止めない」プレーにある。これによって宮代は、動くボールの勢いをそのまま次のプレーにつなげることができる。その際、タッチの強さを調整することで、受けたボールを自らがプレーしやすいボールへと変化させる。アシストの場面では、これが存分に発揮された。
 インサイドハーフが適正ポジションかは未だに判然としないが、シュート技術も高い宮代が2列目に控えることで、相手には守り難さが生じる。宮代のコンディションが回復したことは、ヴィッセルにとってそのまま攻撃力の上昇となる。

 4つ目のカギは「大迫不在」の戦いだ。試合後に自らが明かしたように、大迫は痛みを感じていたため、吉田監督は先発起用を見送った。その結果、佐々木を前線中央とした形になったのだが、これがこの試合の前半には巧く作用したように思う。前半風上に立ったヴィッセルだが、ロングボールを使う場面は少なかった。前記したように宮代のコンディションが回復したこともあり、後ろからつなぎながら前への圧力を強めていった。そして佐々木の位置だが、この試合ではそれほど高い位置を取ることはなく、相手の最終ラインを見ることのできる位置を保っていた。
 この佐々木のポジショニングには、2つの理由があったように思う。1つは相手との高さ勝負を避けたためだ。3バックで守る湘南だが、センターバックには高さのある選手が並んでいた。中でも3枚の中央に位置していたキム ミンテは高さと強さに定評がある。ここと無理に勝負をするのではなく、その手前から仕掛けることで崩すという狙いは正しかったように思う。そしてもう1つの理由は守備だ。前記したように左ウイングのエリキは、
まだヴィッセルの守備を体得しているわけではない。守備時には5バックになることも多い湘南を相手にした場合、エリキのサイドは2対1を作られる可能性も高い。佐々木はそのフォローも意識していた。
 結果的にこの形が奏功した。湘南の最終ラインの前=アンカー脇のスペースを宮代が使う場面も多くなった。そして足もとでボールをつなぐ場面も多かったため、結果的にエリキのスピードを活かすことができた。ここまでを吉田監督が計算していたかは不明だが、ヴィッセルはロングボールを主体に攻めてくると想定していた湘南に肩透かしをくらわせた格好になった。さらに佐々木がエリキのフォローを意識して動いたことで、守備は全体にコンパクトになった。そのため湘南はボールを前進させるための道筋が見つけ難くなり、なかなか攻撃にスピード感が生まれなかった。
 こうした戦い方は「大迫不在時の戦い方」としては悪くはない。問題は大迫がピッチに立った際のエリキとの共存方法だ。エリキがヴィッセルの戦い方をマスターするまでの時間をどのように過ごすかだ。事実、後半に大迫が投入されて以降、前でロングボールを処理する大迫とエリキの距離は遠かった。エリキ自身の疲れも影響していたかもしれないが、エリキのポジションが定まらない時間が続いたことは事実だ。
 解決策の1つは、大迫の役割を一時的に「決める人」から「決めさせる人」に変えることであるように思う。大迫はサイドに流れても、そこでクオリティーを保つことのできる選手だ。さらにはパス能力も中盤の選手と遜色ないものを持っている。であればこそ、大迫にボールが入った後は、大迫とエリキがポジションを変えることで、形を維持するのは1つの方法であるように思う。しかしこの場合、ボール非保持に変わった瞬間のファーストディフェンダーの役割を誰が担うかという問題が生じる。それに対する解決策は、左インサイドハーフの選手が握っている。このポジションに入る可能性があるのは宮代、佐々木、井出といったところになるだろうが、彼らはいずれもファーストディフェンダーとしての動き方は理解している。もしエリキが中央に入った場合、エリキに動きやすさを与えるためにも、彼らが巧く相手に制限をかけなければならない。
 いずれにしてもエリキの突破力を活かしつつ、大迫と共存する形を作り上げることは、ヴィッセルの攻撃力を格段に引き上げる。吉田監督の手腕に期待したい。


 この日の試合では難しい役割を担った佐々木だが、攻撃時にミスが目立っていたことは事実だ。特にシュートチャンスで枠を捉えることができなかったことは、自身にとっても反省材料だろう。そして佐々木について1点付記すると、前線でボールを受ける際の動き出しについては、もう一度見直してもらいたい。この日の試合の中で、佐々木が後ろからのボールを受ける前にカットされる場面が何度か見られた。これは佐々木がボールを待ってしまう癖を持っているためだ。攻撃位置を高く保つために、下がるという選択が取り難いことは事実だが、攻撃を連続させることが重要だ。そのため後ろからのボールを受ける際には、相手よりも前に出てボールを受ける必要がある。こうした場面で大迫は、それほど下がることなくボールを受け切れている。それは味方がパスを出す前に周囲の相手選手の位置を把握した上で、その走路を塞ぐように動いているためだ。これは大迫の名人芸とも言うべきプレーではあるが、この動きを佐々木にも身につけてもらいたい。佐々木には足もとの技術があり、相手との競り合いの中でもボールを失わない強さもある。これらの能力を活かすためにも、相手をブロックしながら後ろ向きにボールを受けるプレーを習得してほしい。これを身につけることができれば、佐々木にはさらにチャンスが増えるだろう。


 この日の試合で強い気持ちを見せたのが武藤だった。自身が試合後に語ったように、決してコンディションは万全ではなかった。しかし自陣に戻っての守備、そこからの力強いドリブルなど、チームを救うプレーを見せ続けた。冒頭で紹介した言葉にもあったが、この試合にヴィッセルの浮沈がかかっていることを強く意識し、それを自らのプレーで周りに伝え続けた。気持ちをプレーの中で表現できる武藤ならではの行動だ。
 武藤はメンタルやコンディションがプレーに直接現れる選手でもある。この試合では右ウイングの位置でスタートしたものの、多くの時間帯で中に入り込んでいた。自らの突破力で相手の守備を崩したい気持ちの現れではあるが、コンディションが良い時の武藤であれば、中に入るタイミングはもう少し遅くなる。そして右サイドを深くまで抉るため、相手の守備の形を崩すことができる。

 その武藤の背後でいぶし銀のプレーを見せたのが広瀬陸斗だった。この試合でも右サイドバックでプレーした広瀬が前のスペースを巧く管理し続けたことで、ヴィッセルは武藤が中に入り込んだ時にも守備の形を保つことができた。同サイドには突破力と思い切りのある畑大雅がおり、ここで何度もチャンスメイクされたが、最後まで堪えきった裏側には広瀬の巧い対応があった。畑を止めるのではなく、走路を限定することで中を守る選手たちの選択肢を狭めていった。酒井の戦線離脱という緊急事態を迎えても、守備が破綻していないのは広瀬の存在に拠るところが大きい。

 この広瀬の隣で湘南の攻撃を受け続けたのが山川哲史だった。湘南はGKの前川黛也がボールを持った際、トゥーレルへのコースを切りつつ、山川への寄せを甘くすることで、山川にボールを集めるよう誘導していた。そして山川がボールを受けた際、そこにプレスをかけることで、攻撃につなげようとしていた。湘南の戦い方の基本はハイプレスでボールを奪い、前線の鈴木章斗とルキアンに預けるという点にある。その狙いどころとなっていたのが山川だったのだ。この試合で山川はこれに耐え続けたが、寄せられた際にボールを脱出させるための技術を身につけることは急務だ。以前にも書いたことだが、山川はボールを持った時、身体の角度をつけてしまう傾向がある。これは一見すると、ボールを脱出させるための安全策にも思えるが、実は相手にとって狙いやすい体勢でもある。相手に飛び込ませないようにするためには、相手と正面で向き合い、相手の足の高さを揃える必要がある。両足の高さが揃っていた場合、横に動くために踏み出す歩幅は小さくなるためだ。その状態を作り出すことが、相手のプレスを掻いくぐるための第一歩だ。先に角度をつけてしまうと、相手に局面の主導権を渡してしまう可能性が高まる。
 ヴィッセルアカデミーから筑波大学を経てヴィッセルに戻ってきた山川は、ここまで順調な成長を続けてきた。真面目な性格も奏功し、課題を克服し続けてきた結果、今や不動のレギュラーとなっている。あくまでも私見だが、純粋な目の前の相手への対応だけであれば、今の山川は日本人でもトップクラスの力を持っている。それがあったからこそ、この試合でも素晴らしい反応を見せ、2得点目の起点となった。その山川がもう一段階ステージを上げるためには、ボール保持時のスキルを高めることだ。それができた時、山川は押しも押されぬ日本を代表するディフェンダーになることができるだろう。


 いくつかの問題はあったが、この試合に勝利した意味は大きい。この日の勝利によって、チームには勢いが生まれたと思う。これを一時的なものではなく、継続性のあるものに変えることができれば、シーズン序盤の出遅れは十分に取り返すことができる。
 この勢いを加速させるためにも、次節の鹿島戦は重要な一戦だ。新監督を迎え、サッカーがシンプルに整理されたことで、鹿島は6試合を4勝1分1敗と好スタートを切っている。アウェイの地でこの勢いを止めることができれば、ヴィッセルにはさらなる自信が生まれる。選手も少しずつ揃い始めた。本来のヴィッセルの力を発揮することができれば、「J1リーグ3連覇」は決して夢ではないはずだ。その夢を実現するためにも、吉田監督には戦い方を含め、もう一度チームを再整備してもらいたい。鹿島戦までは2週間ある。疲労回復や新戦力の融合など、この間に取り組むべき課題は山積している。
 今こそサポーターを含めたクラブ全体で「一致団結」して、もう一度「強いヴィッセル」を取り戻さなければならない。それこそが、秋に始まる「新しいアジアへの挑戦」の原動力となる。

今日の一番星
[エリキ選手]

左サイドバックの位置でチームを支えた鍬先と最後まで迷ったが、やはりゴールでチームを活性化し、今季のリーグ戦初勝利をもたらした点を高く評価し、エリキを選出した。最初のゴールシーンでは、扇原がフリーキックを蹴る直前までラインの中で駆け引きしていたエリキだが、扇原が蹴った後も動かずに、こぼれ球に備えた。そして相手選手が頭でクリアしたボールを、右足でダイレクトにシュートを放った。これが相手に当たって軌道が変わり、右のポストを叩き、そのままゴールに吸い込まれた。この場面ではエリキが蹴る際、前に相手選手がいたため、インサイドで強く蹴るのではなく、いわゆる縦蹴りでゴール上を狙った。この咄嗟の判断は、エリキが優れた得点感覚の持ち主であることを示している。圧巻は2得点目だ。本文中にも書いた宮代からのパスも見事だったが、これをエリキは相手選手の間を並走しながら右足で前に置き、スピードを落とすことなく走った。ボールの置きどころも見事であり、相手GKが飛び出せない位置だった。そして最後は相手GKを見ながら冷静にボールを浮かせて、ゴールに流し込んだ。スピードだけではなく、細かなテクニックの持ち主でもあることを、エリキはこのゴールで証明した。ゴール後、サポーターの前に走っていったことについて尋ねられると「一緒に戦ってくれている仲間のところに行かないわけにはいかない」と答えたように、サポーターへの感謝と愛情をストレートに表現できる点も魅力だ。大きなケガによって町田では出番を失いつつあったエリキだが、コンディションさえ整えば違いを作り出せる存在だ。エリキの活躍に対して武藤は賛辞を呈した後、「人間的にも完璧で最高のチームの一員だと思うので、これからも長くいて欲しいですし、良いコンビネーションを築いていきたい」と歓迎の言葉を贈った。ヴィッセルでの初先発で挙げたゴールでチームを覆っていた嫌なムードを振り払い、反撃ムードを高めた「愛されるゴールハンター」に歓迎の意を込めて一番星。