「好ゲーム」とは、試合の展開や会場の盛り上がりなど、複数の要素が相互的に作用した時にのみ生まれる。「面白いゲーム」は多々あれども、「好ゲーム」となると限られてくるのはそのためだ。ここで筆者なりに、サッカーにおける「好ゲーム」の条件を整理してみる。
まずはスコアだ。これは接戦でなければならない。随所で良いプレーが見られたとしても、スコアが一方的な場合は、勝敗に対する興味が低下してしまう。次の条件は、対戦する両チームの実力が高いレベルで拮抗していることだ。天皇杯などにおいて時折発生する「ジャイアントキリング」は話題性には事欠かないが、両チームの実力差が明らかであるため、試合そのもののレベルも決して高くはならない。そして最後の条件はスタジアムの盛り上がりだ。プロ・アマを問わず、スタジアムの熱は選手に伝播する。そしてそれが選手の背中を押し、プレーの強度を高める。
この日の試合は、こうした条件を全て満たしていた。加えて、両クラブの置かれていた状況が、この試合の重要度を高めた。試合前の時点で勝点差1と近接していた両クラブは、どちらも上位追撃態勢に入っていた。さらに両クラブとも消化試合数が少ないため、ここで勝利を挙げることで、一気に上位陣にプレッシャーをかけることができる位置にいたのだ。そのためどちらにとっても、この日の試合は「負けることのできない」試合だった。当然、こうした状況は両クラブのサポーターとも把握していた。そして2万3千人を超えるファン・サポーターがスタジアムに詰めかけた。神戸の地からも多くのサポーターが現地に駆け付け、アウェイ応援席は完売となった。このヴィッセルサポーターの声援も勝因の1つだ。こう書くと、応援の効果に対して懐疑的な意見を持つ人は疑問を抱くだろう。しかし情報処理学会の研究によると、応援が結果に影響を与えている可能性は高いという。その調査によれば選手の快適度やモチベーションの向上につながっており、さらに面白いことにその影響は試合の重要度と比例しているという。この試合が重要な試合であっただけに、このサポーターの声援は、ヴィッセルの選手にとって大きな力となったはずだ。

さらに、この日の試合が「好ゲーム」となった理由がもう1つある。それは「第3のチーム」の力だ。この日の試合は、日本サッカー協会とJリーグの協働による審判交流プログラムで来日していたポーランドの審判団によって運営された。彼らの「プレー」は見事だった。判定そのものについてはいくつか疑問も残ったが、その判断が早いため、観ている側としてはストレスがなかった。そしてもう1つ見事だったのは、基準の示し方だ。警告を与える際に一切の躊躇がないため、選手にとっては基準が解りやすかったのではないだろうか。両チームの選手とも強度の高いプレーを見せ続け、試合を通じて3枚のイエローカードが提示されたが、試合が止まることはなかった。そして両チームを通じて「荒れる」場面が皆無だったのは、審判団の示した基準に一切のブレが無かったためだろう。これこそがスムーズな試合運営の極意である。判定基準を緩めるのではなく、笛で選手を守りつつ、ファイトを促す。そんな試合運営を見せてくれたこの日の審判団無くしては、この「好ゲーム」が生まれることはなかっただろう。
試合前、川崎Fの選手たちからはヴィッセルを意識した発言が多く聞かれた。その言葉を総合すると「ヴィッセルは本当に強い」ということになるのだが、そうした印象を植え付けたのは4月に行われた最初の対戦だったようだ。佐々木旭は「前半戦に戦った相手の中では一番強かった」と語り、大関友翔は「チームとしての完成度が高く、点差以上に内容で圧倒された」と、その時の対戦を振り返った。そのため川崎Fにとってこの日の試合は「今の自分たちの力が試される試合」(家長昭博)という位置づけだったようだ。確かに前回の対戦では、ヴィッセルが守りで川崎Fを押し込み続けた。しかしこれは川崎Fが相手だったためでもある。前回対戦の前日、吉田孝行監督は「川崎Fは力のある選手が多く、元々の攻撃力に長谷部茂利監督の戦術が浸透したことで、より強敵になっている」と、警戒感をあらわにしていた。そんな川崎Fとの対戦に際して、ヴィッセルは開幕から波に乗れていなかったこともあり、強い守備の意識をもってこの試合に臨んだという経緯がある。これは川崎Fという強敵相手だったからこそ、戦い方の徹底が図れたようなものだ。
前回の対戦から2カ月あまりが経過したが、この図式は変わっていなかったように思う。チーム状態はあの頃よりも上向いているとはいえ、未だ武藤嘉紀は戦列に戻っていない。さらにはエースである大迫勇也も、この日の試合には不在だった。ヴィッセルとすれば、この日の試合を楽観視できるような要素はなかったのだ。そのため試合前日に吉田監督は「川崎Fは一人ひとりのレベルが高く、完全に抑え込めるような相手ではない」とした上で、「抜かれる場面はあると思うが、落ち着いて対応していきたい」と、前回の対戦時と同様のコメントを残している。
実際に川崎Fはこの日も強かった。以前のようにパスにこだわるだけではなく、長谷部監督が導入した強度の高い守備や前からのプレスには迫力があり、1つ対応を間違えれば、一気にゴールを陥れられるような危険な雰囲気はあった。さらに試合途中に投入された選手たちの技術は高く、試合終盤に向けて強度を高めていくことのできる怖さもあった。そんな川崎F相手だったからこそ、この日の試合でもヴィッセルの選手たちは集中した守りを見せた。そして途中交代の選手を含めた、全ての選手が「自分の役割を果たす」ことに集中した結果、2-1という最小点差のゲームをしのぎ切った。こうした視座に立てば、ヴィッセルと川崎Fの位置関係は、前回対戦時から何ら変わっていない。依然として川崎Fは強敵であり、ヴィッセルがタイトルを獲得するためにどうしても乗り越えなければならない相手だ。
以前の川崎Fは「ボールを握る」ことへのこだわりを見せるチームだった。技術の高い選手によるパスワークを武器に、数々のタイトルを獲得した。しかし長谷部監督の就任後に大きな変化が生まれたように感じている。その最大のものは「ポゼッションへのこだわり」の低下だ。その結果、今の川崎Fには状況に応じて戦い方を変化させる柔軟性が備わっている。特に守備時には、プレッシングや撤退守備を使い分けるようになった。その根底には、長谷部監督らしい「球際の強さ」がある。元々技術レベルの高い選手が多いチームであるだけに、プレー幅を増したことで、川崎Fはこれまで以上の手強い相手になっていた。
試合後の会見で長谷部監督は悔しさを滲ませながらも、ヴィッセルについて「戦術が徹底されていて、そのクオリティも高く素晴らしいと思った」と、賞賛の言葉を発した。その上で「もっとアグレッシブにゴールに向かっていく姿勢を見せ続けることができたら、複数得点もできたんじゃないかなと思います」と、攻めきれなかった点を反省点として挙げた。この言葉が、この試合の全てを表しているように思う。長谷部監督以下、複数の選手も認めていたように「試合の入り方」という点においては、川崎Fがヴィッセルを上回っていた。前記したように、前回の対戦では完敗したという思いがあるため、この試合にかける気持ちが強かったのではないだろうか。もちろんヴィッセルも強い気持ちをもって試合に臨んではいたが、試合に入る際のテンションという部分では、リベンジを狙う川崎Fがわずかに勝っていたのかもしれない。
その流れを作り出したのは4分のプレーだった。右サイドを起点にボールを動かした川崎Fは、そこから細かくつなぎながら左に展開した。そして最後は左サイドハーフのマルシーニョが縦に突破、ヴィッセルの最終ラインの前で横パスを使い、ボランチの山本悠樹へとつないだ。そしてマルシーニョはそのままヴィッセルの最終ラインの裏に走り込んだ。山本はこのマルシーニョにスルーパスを通した。この場面では最後に、マルシーニョからのパスを広瀬陸斗がカットして事なきを得たが、このプレーで川崎Fが確認したことは、マルシーニョのスピードがヴィッセルの守備に通用するのかというような単純なことではなかった。右サイドでボールを動かしている時のヴィッセルの立ち位置の傾向だった。これを裏付けるのは、先制点を決めた脇坂泰斗の言葉だ。脇坂は試合後に「右サイドでボールを奪ったら左サイドのボランチの脇やディフェンスラインの前が空くというスカウティングがあった」と明言しているが、一定条件の下でヴィッセルに発生する「穴」が本当に生まれるのかを確認していたのだろう。
これを念頭に置いて、もう一度この場面を振り返ってみる。左から右に向けての斜めのボールを家長が右で受けた時、家長の前に立った左サイドバックの永戸勝也を含めた最終ラインは正しい位置を取った。ワントップの山田新はマテウス トゥーレルが見ており、逆サイドでは山川哲史と酒井は高さを揃えていた。そして家長と山田を結ぶ線上には広瀬が戻り、これと同じ高さでアンカーの扇原貴宏とインサイドハーフの井手口陽介は中央に位置した。しかしここで逆サイドのジェアン パトリッキはわずかに戻り切れておらず、酒井との間にスペースが生まれていた。この一連のプレーで川崎Fは、事前スカウティングが正しいことを確信したのだろう。そしてこの次のプレーで、ヴィッセルは先制点を奪われた。
川崎Fの右スローインから始まったプレーの中で、川崎Fは右サイドを主戦場としてパスをつないだ。その中でヴィッセルがボールを奪い返すシーンがあったのだが、これこそがヴィッセルにとっては「穴」を生み出してしまうものだった。川崎Fが右サイドでパスを回している時、パトリッキは酒井の前に立ちスペースを消していた。しかしヴィッセルがボールを奪い、前に出した瞬間、パトリッキは前に向けて動き出した。これこそが川崎Fが待ち望んだ瞬間だった。右サイドで広瀬を挟み込み、ボールを奪った直後、中央の山本を経由して、左のマルシーニョにボールを入れたのだが、この時マルシーニョが立っていたのは、本来であればパトリッキが立つべき場所だった。正確に言うと、マルシーニョがボールを受けた時にはパトリッキも戻っていたのだが、それよりも早くマルシーニョがそこに入り込んでいたため、マルシーニョは酒井とパトリッキの間でボールを持つことができていたのだ。そして最後は、マルシーニョからのボールを永戸の前で受けた脇坂にゴールを決められてしまった。
こう書いてくるとパトリッキのプレーに問題があったように思われるかもしれないが、それは否定しておきたい。自陣での守備時にボールを奪った際、右ウイングの選手が次の攻撃に備えて前に出ていくのはチームとしての決め事だと思う。ヴィッセルの両ウイングは、異なる性格を持っている。右ウイングに攻撃要素が強めであるのに対し、左ウイングはバランスを取ることが求められている。そのため右ウイングにはスピードで前に仕掛けることのできるパトリッキ、左ウイングには攻守のバランスを取ることのできる広瀬という配置になっていた。ヴィッセルが微調整を加えるべきは、自陣左サイドでボールの奪い合いになった時のボランチの立ち位置だ。自陣でのボールの奪い合いに際しては、アンカーの扇原がボールの脱出口になるケースは多い。扇原自身もその役割を理解しているため、低い位置では積極的にボールに関与していく。そしてこの扇原の立ち位置から井手口は、自らの立ち位置を定めている。凡そ中央のスペースは一人で管理できるような位置に立っているのだが、さすがに右サイドまで管理することは難しいだろう。しかし今の自陣での守備時の立ち位置は、ボール奪取後の動きを見据えたものであり、積極的に前に出るというヴィッセルの基本を考えれば、そこに変化を加える必要はない。となると解決策は1つだ。左サイドの戦場を今よりも少し中に入れることだ。これによって井手口の立ち位置は今よりも右に寄ることになる。これによって、ボールを奪い返された時に、酒井の前のスペースの管理を一時的に井手口に委ねることができる。井手口の負担は若干増えることになるが、その能力からすれば不可能なことではないように思う。

この失点に至る前、ヴィッセルは川崎Fのパスワークに翻弄された。それは宮代大聖が試合後に言及した通りなのだが、この流れを作り出すために、川崎Fの最終ラインは試合序盤からヴィッセルのプレスを回避するための動きを見せていた。具体的には右センターバックの高井幸大とボランチの河原創が起点となり、中距離のパスでヴィッセルのプレスを無効化していった。これが試合序盤の流れを作り出したのだが、そこからヴィッセルの選手が見せた修正は見事だった。ここで大きな役割を果たしたのが、前線の中央に入っていた佐々木大樹だった。ヴィッセルの選手はロングボールによってリズムを取り戻そうと試みたのだが、佐々木が果敢にこれを受け続けたことが、ヴィッセルに流れを引き戻した。これは前節と同じ構造なのだが、佐々木のプレーは犠牲的ですらある。しかし川崎Fの守備陣を相手に互角以上に競り続けることができる佐々木の能力があればこそのプレーでもあった。こうしたプレーを続ける中で、佐々木はファウルを受け続けることになった。しかしそれでも前線で身体を張り続けた佐々木は、この日の勝利の立役者でもある。先制点の場面でも、永戸のロングスローに対して、相手の前に出るように動き、巧く頭で後ろに流したことで、宮代の同点弾につなげた。そんな佐々木に訪れたシュートチャンスは71分の場面だけだった。これはゴール隅をとらえた見事なシュートではあったが、相手GKのファインセーブに弾き出されてしまった。得点こそならなかったが、今のヴィッセルにおいて佐々木は欠くことのできない選手となっている。エースである大迫が不在の中、大迫が担っていた役割を見事に果たし続けている。足もとの技術も高く、試合の流れに応じて立ち位置を変える器用さも兼ね備えている。今の佐々木ならば、日本を背負って戦う資格は十分にあると思う。
この佐々木のプレーが生み出した同点弾は、試合の流れを一変させた。これ以降、ヴィッセルのプレスは効果的に嵌り、川崎Fを押し込んでの戦いとなった。その過程で見事な活躍を見せたのが扇原だった。全体を高い位置に上げつつ、川崎Fが前に蹴り出したボールを拾い続けた。この試合における扇原のこぼれ球奪取数がチームトップを記録したのは、扇原がチームを押し上げていたことの裏付けだ。

そしてこの試合ではGKである前川黛也のプレーも見逃すことはできない。ヴィッセルがペースを握っていた15分に、ハーフウェーラインを越えた辺りの左サイドから斜めに差し込んだボールが、前線の山田に入った。山田がこれを巧く落とし、背後から上がっていた脇坂がペナルティエリアに入ったところでシュートを放った。このシュートは正確に枠を捉えていたが、これを前川は落ち着いて弾き出した。この日の前川は前後の判断も良く、川崎Fがゴール前に入れてくるボールに対して効果的な飛び出しも見せていた。
そしてもう一人特筆すべきはパトリッキだ。右ウイングとして先発したパトリッキだが、確実に川崎Fにとって守り難さを与えていた。その最大の要因は「ポジションを守った」ことだ。ボール保持時にも簡単に中に入ることはせず、幅を取るプレーでハーフスペースに酒井の走路を作り出した。ヴィッセルにとって右サイドは、攻撃の軸ともいうべきエリアだ。ここで酒井を無理なく高い位置に上げることができれば、ゴール前に厚みを作り出すことができる。そして30分にはカウンターで抜け出そうとした山本を敵陣から追走し、最後のパスを防いだ。このプレー時に足を痛め、エリキとの交代とはなったが、この試合でもパトリッキは存在感を放った。厳しいポジション争いが続いているが、パトリッキはポジションを守ることでチームを活性化し、その中で自分の特徴であるスピードを活かす方法を見つけ出した。
このパトリッキに代わって急遽ピッチに送り込まれたエリキも、前に出る力を存分に発揮した。その中で決勝点をアシストし、チームに勝利をもたらした。53分に佐々木のシュートのこぼれ球を拾うと、佐々木とのワンツーで中央に入り込み、相手の間を縫うようなパスを宮代に通した。この場面でエリキは中に入りながら、一度だけ顔を上げていた。ここで前に立つ佐々木と宮代の位置を確認したのだ。そして佐々木が相手選手の間に立っているのを見て、佐々木の横を通すようなイメージで蹴ることで、宮代にパスを通したのだ。このエリキのパスは、19年の広島戦でアンドレス イニエスタが田中順也に通したパスの相似形でもあった。ボールを持ちながら相手の目を引き付け、その中を縫うようにパスを通すというのは、決して易しいプレーではない。
このエリキを使う上で、吉田監督はエリキの弱点を消す方法を見つけた。それは前節でも見られた佐々木とのポジションチェンジだ。エリキを中央に移し、佐々木を右に出すというのは、試合の締め方としては正しい。中央で勝負したい闘争心の塊のようなエリキをサイドに縛り付けるためには、背後に立つサイドバックやインサイドハーフへの負担を増やすことになる。であるならばロングボールの収めどころがなくなったとしても、サイドの守備もこなすことのできる佐々木を外に出すことで、チームとしてのバランスを保つというのは正しい選択であるように思う。
最後の30分間は川崎Fの攻撃が続いた。そのきっかけは大島僚太の投入だった。大島は長短のパスを蹴り分け、しかも距離によって球質を変えていた。これによって川崎Fは前に出る場面が増えたのだが、これに対してヴィッセルは落ち着いた対応を見せた。ボールスキルにも優れたものを持つ大島を捕まえにいくのではなく、ボールの届け先を潰す守備に切り替えた。ペナルティエリアの中でのプレーが増えるというのは、選手にとっては緊張を強いられるものだが、ヴィッセルの選手たちはセーフティーなプレーを続けた。その結果、何度もゴール前には迫られたものの、決定的な場面は作らせないままに試合をクローズした。
ここで大きな貢献を果たしたのはトゥーレルだった。前半から山田をマークし続けたトゥーレルは、最後まで山田に仕事をさせなかった。山田は試合後に自分の動き次第では結果を変えることができたと、悔しさをあらわにしていたが、肝心の場面でトゥーレルを振り切れなかったというのが本音だろう。川崎Fが猛攻を仕掛ける中、自らボールを前に運ぶなど、トゥーレルは試合の流れをつかむためのプレーを熟知している選手だ。今や多くのライバルチームに所属する選手が「JリーグNo.1センターバック」と認めるトゥーレルが、この試合でもヴィッセルのゴール前に立ちはだかった。

この試合に勝利したことで、ヴィッセルは暫定ながら順位を3位へと上げた。首位の鹿島との勝点差は5だが、消化試合数が1試合少ないことを考えれば、首位の姿がはっきりと見える位置までたどり着いたと言っても過言ではないだろう。そして何より、この連勝が大迫と武藤というヴィッセルの誇るダブルエースを使うことなく成し遂げられたことの意味は大きい。これは佐々木や宮代に代表される若い選手の成長、エリキや永戸といった的確な補強がもたらした連勝でもある。そしてこの間、チームを支えている酒井の存在が、何よりも大きい。
この試合でも酒井は「戦う姿勢」を、身をもって示した。後半開始直後の48分、微妙な判定に対して手を大きく振って抗議の意思を示した酒井に対して、主審は意義による警告を与えた。厳しすぎる判定であったようには思うが、その直後に酒井は自陣ペナルティエリア内に侵入したマルシーニョに対して見事なタックルを仕掛け、ピンチの芽を摘み取って見せた。この闘将の姿は味方に対して勇気を与えると同時に、引き締める効果を持っていた。常に大きな声を出し味方に指示を与え、自らは進んで厳しい局面を引き受ける酒井は「ヴィッセルの将軍」と呼ぶに相応しい。
次節はアウェイでの福岡戦だ。前回の対戦では不覚を取った相手との再戦だが、ヴィッセルの力を正しく発揮することができれば勝利する可能性は高いだろう。だからこそ相手に合わせるのではなく、自分たちの戦いを貫いてほしい。走り続けるには厳しい季節を迎えたが、その中でも川崎Fを走行距離、スプリント回数でも圧倒したように、ヴィッセルには基礎体力が備わっている。まずは落ち着いて試合の流れを作り出し、その中で「ヴィッセルらしさ」を存分に発揮してもらいたい。
