試合終了後、柏の主将を務める古賀太陽は、雨が降り、強い風が吹き続ける難しいコンディションによって、今季の柏が志向している戦い方を貫くのは難しかったとコメントした。その上で「自分たちの思い通りにできない時のBプランに移行するスピード感が大事。そもそもBプランがあるかないかでも違ってくる。そこは監督を含めて話し合いながら、気象条件や相手のやり方を踏まえ、『何を選んで、どう戦うか』というところを全員で突き詰めていきたい」と語った。古賀にそこまでの思いはないだろうが、この言葉は柏だけではなく、全てのサッカーチームにとっての金言だ。

今節でJ1リーグ戦は折り返しを迎えた。ヴィッセルは消化試合数が1試合少ないため暫定ではあるが、首位と勝点10差の6位で後半戦に突入することになった。この数字について吉田孝行監督は、試合後の会見の中で「勝点を落とした試合がある」という認識を示した。その理由について吉田監督は、「言い訳にはならないが」とした上で、シーズン序盤に負傷者が多く発生したことを挙げていた。これは事実だ。ディフェンディングチャンピオンとして、他のクラブよりも早いシーズンインを迎えた上、直後にAFCチャンピオンズリーグエリート(以下ACLE)を含めた8連戦という過酷な日程をこなしたことにより、負傷者が相次いだ。チームは「野戦病院」と化し、一時は紅白戦を行う人数が揃わないほどだった。その中でも強度の高い試合が続いたこともあり、未だヴィッセルはベストメンバーが揃わない状態だ。
こうした陣容的な問題がシーズン前半戦の結果を大きく左右したことは事実だが、筆者はもう1つの問題もあったように思う。それは「Bプラン」が未確立であるという問題だ。過去に何度か指摘したが、J1リーグ2連覇を達成したことで、ヴィッセルのサッカーはライバルたちの研究テーマとなった。そしてどのチームもヴィッセルの強さを認めた上で、その対策を講じて試合に臨んできた。今季ここまでは、それによって苦労した面があることは否めない。ライバルたちへのリスペクトを持った上で言うと、選手個々の能力値ではヴィッセルを下回るチームとの対戦で「ヴィッセル対策」に苦しめられたことも少なくなかった。その「ヴィッセル対策」の中身はチームによって異なるが、全てに共通していたのは「ヴィッセルの良さを発揮させない」という点だ。これに対して吉田監督も様々な手を打ち、試合の中で対応してきたが、それらは基本形から派生した、いわば「マイナーチェンジ」した「A´」ともいうべきものであり、「Bプラン」というような類のものではなかった。
現在、読売巨人軍の2軍監督を務める桑田真澄氏から「勝てる投手になるためには対応力が必要だ」という言葉を聞いたことがある。桑田氏の現役当時、先発ローテーション投手は年間で25〜30試合に登板したという。ほぼ週1回登板する計算だが、思い通りの投球ができない日も多かったという。それでもチームのエースとして結果を残すためには、「自分の投げたい球」にこだわるのではなく、「その日のコンディションで投げられるベスト」を探す必要があったという。そのため桑田氏は、時には普段とは全く異なる組み立てを捕手と考え、結果を残してきたというのだ。
これはサッカーについても同じことが言える。ヴィッセルはこの2年半、同じ戦い方を貫いたことによって、そのスタイルは確立している。これはライバルにとっては対策しやすい状態でもある。それを力で乗り越えてきたヴィッセルの強さは称えられるべきではあるが、この先も安定した結果を残すためには、相手の「ヴィッセル対策」が嵌った時、即時に「Bプラン」に切り替えられる対応力を身につけなければならない。各ポジションに異なる個性と確かな実力を持った選手が名を連ねているヴィッセルであれば、「メジャーチェンジ」させた「Bプラン」を持つことも十分に可能だと思う。そしてそれを実現させるためのベースとなるのが「ビルドアップの整理」ではないだろうか。前に早いサッカーだけではなく、低い位置に構え、そこから位置的優位を優先しながら前進していくやり方を身につけることができれば、これまでの戦いの中で見られたいくつかの「ヴィッセル対策」については無効化することができるはずだ。さらに戦い方に幅を持たせることは、特定の選手への負担軽減につながる可能性もある。それだけに取り組むだけの価値は十分にあると思う。
ここで注意すべきは、これを身につけることによって、現在のストロングポイントを喪失するようなことになってしまうのであれば、それは本末転倒であり、絶対に避けなければならないということだ。あくまでもヴィッセルの基本戦術は、ここまで2年半かけて積み上げてきた今の戦い方であり、これが全ての基本であるという点は堅持すべきだろう。
試合に話を移す。この日の試合で、吉田監督は2つの成果を挙げた。1つは選手の立ち位置を調整することによって、チーム内の連携を復活させたことだ。そしてもう1つは柏の分析を基に、その対策を立てたことだ。これがこの日の勝利の原動力となっていたことは間違いない。
前節で清水に敗北を喫したヴィッセルだが、組織で守るべき局面で選手個々で対峙する場面が目立った。そうなった理由は複数あるが、最大の要因はボール保持時の立ち位置だ。全体で押し上げる形が整わず、個人の突破が目立つ形となってしまったことで、ボール非保持に変わった瞬間の態勢が整っていなかった。前節の試合後、吉田監督は「やるべきこと」というお馴染みのフレーズを使いながら、チーム全体の調整を図ることを明言していた。それが奏功し、この試合では「ヴィッセルらしい」粘り強い守備が復活していた。

この試合において最大のポイントとなったのは、右サイドの構成だった。前節では右ウイングのエリキの動きが、背後に立つ右サイドバックの酒井高徳の動きと連携を欠いていた面があり、酒井は独力での守備を余儀なくされ、その中から失点を喫した。これを受けて吉田監督は、右ウイングにはジェアン パトリッキを先発起用した。エリキと同様に傑出したスピードを持つパトリッキだが、ヴィッセルの戦い方を熟知しているため、背後を意識したポジショニングを見せた。これによって酒井には動きやすさが生まれた。いつも通りに右サイドを高く上げたスタイルではあったが、パトリッキが、柏の背後を狙う動きを牽制し続けたことで、酒井はボール保持時にも背後に意識を向ける余裕が生まれた。基本的にこのサイドの裏側への対応は酒井が1人で担っているのだが、この試合では酒井に対するフォローの動きも徹底されていた。中盤ではインサイドハーフの井手口陽介がその役割を果たし、ディフェンシブサードでは右センターバックの山川哲史が見事な動きで酒井をフォローし続けた。中でも山川の動きは見事だった。5レーンを意識した攻撃を見せる柏は、サイドバックとセンターバックの間に人を入り込ませ続けたが、山川は中央から外を覗くような立ち位置を取ることで、広いエリアを的確に守り続けた。それが発揮されたのが13分のシーンだった。ヴィッセルの右サイドからのスローインを入れる際、酒井はタッチライン沿いにポジションを取った。この時、酒井の横にはシャドーストライカーの渡井理己が立ち、酒井に身体を寄せた。ここでワントップに入っていた細谷真大がハーフスペースに抜け出て、直接スローインを受けた。ここで細谷の斜め前に立っていた山川は、細谷の動き出しに合わせて動き、ボールを収めさせることなくクリアして見せた。この直前、山川から見える位置には、もう1人のシャドーストライカーである小泉佳穂が立っていたのだが、山川は事前に相棒である左センターバックのマテウス トゥーレルの位置を確認しており、小泉が前を狙っても十分に対応できることを確認した上で、右サイドに飛び込んでいった。この山川の落ち着いた守備は最後まで失われることがなかった。今季ヴィッセルのフィールドプレイヤーで唯一となるリーグ戦フルタイム出場を続けている山川は、今やJリーグでも屈指のセンターバックへと成長した。
次に柏対策だが、これは右サイドの配置とも密接に関係している。今季からリカルド ロドリゲス監督を迎えた柏は、昨季までとは異なるサッカーで結果を残してきた。昨季までは下位に低迷していた柏だが、今季は現時点で3位と躍進を見せている。ポゼッションサッカーを志向するロドリゲス監督だが、それは単にボールをつなぐだけのサッカーではない。基本的には自陣から丁寧にボールをつなぎながら前進していくのだが、ミドルサードからはサイドに展開する。そしてスピードのあるウイングバックを活かし、サイドを攻略する。その際にはハーフスペースに走りこんでくるシャドーストライカーを使いながらゴールを目指す。前線には細谷や垣田裕暉といったフィジカルに優れた選手を配置し、彼らが落とすボールに対して、時にはセンターバックまでもが走りこんでくるというアグレッシブなスタイルだ。
この柏の最大の弱点は左サイドだ。3バックの左に入る田中隼人は典型的なレフティーだ。左足からは正確なボールを蹴ることができるが、右足でのキックはこれに比べると精度が落ちる。そのため左ウイングバックの小屋松知哉が田中からのボールを引き出し、起点となることが多い。戦前、セカンドボールの回収を試合の趨勢を図る指標として掲げていた吉田監督にとっては、ここが狙い目だった。前記したようにパトリッキを右ウイングに配したのだが、ボール非保持時のパトリッキは小屋松へのマークを徹底していた。そして2トップ気味に変化した前線中央の佐々木大樹と左インサイドハーフの宮代大聖が田中以外のセンターバックに対してプレスをかけることで、田中にボールを集めさせた。田中にとっての脱出口である小屋松はパトリッキにマークされているため、田中はボランチを狙ってボールを出す。そしてこのタイミングで、井手口やアンカーの扇原貴宏がボール奪取を狙うという形ができていた。
試合後、ロドリゲス監督は「神戸さんがプレスをうまくかけてきたというところで、なかなかそれを剥がせずに自陣から抜け出せない時間帯が続いていた」と前半を振り返ったが、これは吉田監督の策が嵌った結果と言えるだろう。アンカーとしてチームをけん引してきた熊坂光希の欠場も、この戦い方が奏功した大きな要因だ。
いずれにしてもこうした吉田監督による2つの落とし込みが、この試合の趨勢を定めたことは間違いないだろう。
それでも失点シーンは、前記したような柏の攻撃が嵌ってしまった。この日の柏は前節までの3-1-4-2ではなく3-4-2-1を採用したことも、柏にとっては幸いだったのかもしれない。右サイドで何度もアップダウンを繰り返した久保藤次郎に抜け出され、そこからマイナス方向への折り返しを右センターバックの原田亘に決められてしまった。この場面で、久保に対しては左サイドバックの本多勇喜と左ウイングの広瀬陸斗がマークしたのだが、両者の間を通すようなボールを中央に通されてしまった。この時、ハーフスペースのペナルティエリア内には小泉が立っていたため、扇原は小泉につく形になってしまった。結果的に上がっていた原田にとっては、中央に走路が空いている形となってしまったのだ。巧くデザインされた形での攻撃ではあったが、ヴィッセルにとっては防げるゴールでもあった。
この失点シーンの直前は、右サイドでの攻防が続いた。そして酒井が深い位置からクリアしたボールが右タッチラインを割りかけた時、ここに走りこんだのは井手口だった。井手口はボールを残した上で横の佐々木にパスを出したのだが、出し手、受け手とも態勢が不十分だったため、柏にボールを奪われてしまった。試合の流れから言えば、ここは無理にボールを活かす必要はなかったかもしれない。とはいえ、ここで柏が見せた攻撃はデザインされたものであり、ヴィッセルの人につく守備の弱点を突かれたものだった。

試合を通じて柏の攻撃の起点となり続けていたのは久保だったが、試合全体を通じてみれば、久保に対する対応は悪くなかったと思う。サイドバックの本多とウイングの広瀬が巧く連携しながら、久保の動きを止めた。特に本多は久保の上下動に粘り強く対応し、クロスを簡単に入れさせなかった。そして自陣深い位置で久保のサイドに人が集まった段階では、トゥーレルが出てこれるスペースを確保するため、久保をタッチライン際まで追い詰めるような守り方を見せた。この本多のツボを心得た動きが、チームを救った。
本多は攻撃面でも大きく貢献した。先制点の場面では、今や本多の代名詞とも言える、驚異的な跳躍力を発揮した。広瀬が蹴った左コーナーキックはインスイング気味の軌道でファーサイドに飛び込んだ佐々木を狙ったものだったが、これは僅かに合わなかった。しかし大外で待っていた宮代がこれを拾い、中に折り返した。これを佐々木がゴールに背を向けて足に当てて拾い、ペナルティエリア外にいた井手口に渡した。この時トゥーレル、本多、パトリッキがゴールエリア前にいたため、井手口はそこに向けてライナー性のボールを入れた。このボールが相手選手に当たり上に跳ねたのだが、これを本多が頭でトゥーレルにパス。トゥーレルはこれを頭で、ゴール左隅に流し込んだ。この場面で本多が跳んだ時、前には古賀がいたのだが、本多の高さは際立っていた。古賀の身長は183cm。本多よりも10cm高い。しかし本多が身体を時計回りに回転させながら絶妙のタイミングで跳んだため、古賀は跳ぶことさえできなかった。本多は古賀を遥かに超える高さから、トゥーレルに対して正確なボールを渡した。大迫勇也や佐々木とは異なる個性で空中戦に勝利する本多は、守備時に見せる安定感のある動きと併せ、チームにとって欠くことのできない存在だ。
得点を挙げたトゥーレルだが、このシュートは見事だった。ボールの軌道に合わせるように小さく跳び、腰を折って頭を前後に振るようにしてボールをコントロールした。ボールは文字通り吸い込まれるようにゴールに向かって飛び、相手GKは全く反応することができなかった。今季2点目を挙げたトゥーレルだが、守備でも最後まで、その強さは揺らぐことはなかった。そして88分にはゴール前に入ってきたボールを右にクリアした後、コーナーキックになるのを防ぐため、ゴール前からダッシュしてボールを追い、最後はゴールライン上でスライディングしながらタッチラインに蹴り出す執念を見せた。これは小さなプレーではあるが、少しでもリスクを遠ざけるという意味において、素晴らしいプレーだった。さらに言えば、このプレーでトゥーレルは足を攣ってしまい、そのまま岩波拓也との交代を余儀なくされた。試合後、これについてトゥーレルは、このプレーの少し前から攣っていたことを明かした上で、ケガからの復帰後、そのまま連戦に突入したため、コンディションを整えるためのトレーニングに十分な時間を割けなかったことを理由として挙げていた。しかしこの間、トゥーレルが見せてきたプレーは圧巻の強さを誇っていた。
勝ち越し点は扇原の左足から生まれた。敵陣中央やや右寄りからという距離のあるフリーキックを、直接ゴールに突き刺した。文字通りの「スーパーゴール」だったが、扇原はこのキックについて「風もあり、位置的にも良かったので思い切って狙ってみた」と試合後に話した。その言葉通り、追い風を計算に入れた見事なゴールだった。先制ゴールの8分後に追いつかれ、そこからやや膠着した流れとなっていただけに、前半終わり近くに生まれたこのゴールは、ヴィッセルに勢いをもたらした。ゴール後、扇原は現在戦列を離れている武藤嘉紀のゴールパフォーマンスを見せ、復帰を目指す仲間にエールを送った。このパフォーマンスは扇原の優しさの表れであると同時に、ヴィッセルがチーム全員で戦っていることを示すものだった。
この扇原のゴールもそうだったが、この日の試合に最も大きな影響を与えたのは「風」だった。試合を通じて吹き続けた強い風は、選手たちのキック感覚を狂わせた。前半風上に立ったヴィッセルはこれを活かす戦いを見せた。チーム全体がいつも以上に高い位置を取り、ハーフウェーラインを超える位置でボール奪取を繰り返していった。この勢いが柏のサッカーを狂わせた。試合後、柏の多くの選手が「前半は押し込まれる中で、ペースを握れなかった」とコメントしていたが、その言葉通り、前半のヴィッセルは柏を押し込み続けた。時にはボールが飛びすぎてしまい、直接ゴールラインを割ることもあったが、それでも前に蹴り出していったことで、柏にほぼ攻撃のリズムを作らせないままに、前半を終えた。
後半風上に立った柏は得点を狙いすぎたのか、落ち着いたボール回しを見せる場面は少なく、前に急ぎすぎているような格好になった。結果的に扇原のゴールが、柏のサッカーをヴィッセルのフィールドに巻き込んだとも言える。ヴィッセルのクリアは風に戻される場面が目立ち、なかなかハーフウェーラインを超えなかったが、リードしているという状況が選手たちに落ち着きを与えていた。そのためヴィッセルの選手は低い位置でブロックを形成し、割り切ってボールを跳ね返し続けることができた。

こうした局面で輝きを放ったのが井手口だった。常にボールサイドに顔を出し、柏の攻撃の芽を摘み取り続けた。無尽蔵のスタミナに加え、的確な読みによって柏の攻撃がスピードアップする前にボールを奪い続けた。これによって柏には焦りが生じ、攻撃は時間とともに精度が下がっていった。そして井手口は単に跳ね返すだけではなく、風の影響を受けにくいグラウンダーのボールを使いながら、佐々木や宮代にボールを差し込み、攻撃の意思を見せ続けた。どんな試合でもチーム最多かそれに近い走行距離を記録する井手口の存在は、ヴィッセルのサッカーを下支えしている。
こうした井手口の特徴が存分に発揮されたのが、試合を決定づけた3点目のシーンだった。試合終了間際の96分に柏は自陣での右スローインを獲得した。この時、井手口はピッチ中央に位置していたのだが、柏がボールを握った後、中央に向けて斜めにボールを差し込んでくることを読んでいた。これは正確に言えば読んでいたというよりは、そこに引きずり込んだというべきかもしれない。井手口の背後には途中投入された中川敦瑛が立っており、ボールと中川を結んだ延長線上にはジエゴがいた。同点を狙う柏にとって、司令塔役の中川とサイドから違いを作り出すことのできるジエゴが切り札であることは間違いなかった。それを理解した上で、井手口は中川から少し距離を取ることで、ボールホルダーに中川が狙いやすいという錯覚を起こさせた。そしてパスが出た瞬間、前に走り出てボールをカットすると、そのまま前に走り、前を行く佐々木にパスを通した。このように、状況を読みながら的確な対応を取ることができる頭脳と、最終盤になってなお前に走ることができるスタミナを併せ持つ井手口は、やはり「怪物」と呼ぶに相応しい選手だ。
冒頭で触れたように、この日の試合では選手の立ち位置が整理されたことによって、ヴィッセルの選手たちはポジティブに動き続けることができた。その結果、走行距離、スプリント回数とも、ヴィッセルが柏を大きく上回った。走行距離は長ければいいというものではないが、この日の試合のように狙って動き続けた結果、それが相手を上回った場合は、チームが巧く機能していたことの証左となる。こうしたいい流れに身を置いていたため、試合中に選手間で話し合う姿がいつもよりも多く見られた。
試合後、扇原は「この試合に負けたら優勝争いは厳しいと思っていた」と話したが、この思いはチーム全体が共有していたのだろう。そのため途中交代で入った選手たちも、自らに課せられた役割を果たし続けた。ここであえて触れておきたいのが岩波だ。リーグ戦では14試合ぶりとなる出場を果たした岩波は、プレー時間は短かったものの、そのプレーには安定感があった。岩波ほどの実力者であっても、なかなか出場機会を得ることができないというのは、ヴィッセルが厚みのあるチームになってきたことを示している。確かにトゥーレルと山川のコンビには安定感もあり、今やJリーグ屈指のセンターバックコンビとなっている。しかし岩波には、彼らにはないキックスキルがある。これは岩波に限った話ではない。多くのポジションで控えとなっている選手たちも、レギュラーに劣らないだけの高い能力と、オリジナルの武器を持っているのだ。これらの組み合わせを複数用意しておくことは、この先の戦いを考えた時、絶対に必要になる。
後半戦で頂点を目指すためにも、負けることのできない戦いが続く。リーグ戦の残り20試合が総力戦となることは間違いないだろう。そしてそんな中、秋には25〜26シーズンのACLEも始まる。リーグ戦3連覇と同様にアジアの頂点を狙うヴィッセルにとっては「2兎を追う」戦いが待ち受けているのだ。大変な難事ではあるが、これを成し遂げるためにも、吉田監督には選手の特性を活かした「Bプラン」の策定を期待したい。
次戦は中10日での天皇杯2回戦だ。対戦相手は今季からJ3リーグを戦っている高知ユナイテッドSCだ。どのようなメンバーで臨むか現時点では不明だが、現在リーグ戦で出場機会を得られていない選手たちには、この試合を大きなチャンスととらえ、トレーニングの中で大いにアピールしてほしい。タイトルを目指す上で、彼らの力が絶対に必要になることは、昨季の天皇杯で証明済みだ。その意味でもここからの10日間は、ヴィッセルが目指す地点にたどり着くための山場となる。10日後、新しい力を加えたヴィッセルを見ることを今から楽しみにしている。
