今から31年前。1993年5月15日にJリーグが開幕した。
Jリーグ発足以前、日本に「プロサッカー」は存在していなかった。サッカー人気は低く、国内トップリーグに当たるJSL(日本サッカーリーグ)1部の試合であっても、観客数は数百人ということも珍しくない有様だった。W杯出場など遥か彼方、五輪出場すらも叶わないという状態が20年以上続いていた。そんな中、日本サッカーの底上げを図るべく、サッカーのプロ化に取り組んだ人たちがいた。かつてヴィッセルでGM補佐を務めた佐藤英男氏(故人)も、その1人だった。佐藤氏は生前、その時のことを折に触れて話してくれたものだが、当初はサッカー界の中でも「プロ化」への反対意見が圧倒的多数を占めていたという。これは、当時のサッカー界に先見の明を持った人がいなかったという話ではない。むしろ当時のサッカーを取り巻く状況を鑑みれば、当たり前の反応だった。しかし、佐藤氏たちは諦めなかった。関係者に粘り強く説得を続け、プロ化への道を切り開いていった。そして初代Jリーグチェアマンにして、日本サッカー協会の会長も務めた川渕三郎氏を担ぎ上げ、Jリーグ発足へとこぎつけたのだ。
Jリーグの開幕戦は、JSL時代の黄金カードだったヴェルディ川崎(東京ヴェルディ)対 横浜マリノス(横浜F・マリノス)だった。数年前、その映像を見直す機会があった。現役の日本代表が多く在籍していた両クラブの対戦ではあったが、新しい発見はなく、現在の日本サッカーの進化を実感するだけに終わった。これは当時の選手たちに対するリスペクトを持った上で言うのだが、今のJリーグを見慣れている筆者にとっては低レベルな試合としか思えなかったのだ。ロングボールの精度は低く、攻守ともに組織化とはほど遠いものだったためだ。選手が高い技術を見せる場面もあったが、それも今の選手と比較した時には、特筆すべきものではなかった。しかし、新しい時代の到来を予感させる興奮と熱気は感じられた。この後Jリーグは社会現象となり、「プロスポーツ=プロ野球」というそれまでの図式に風穴をあけた。
あれから31年が経ち、今やJリーグは「あって当たり前」の存在になっている。日本代表はW杯の常連となり、海外でプレーする選手も珍しくなくなった。Jリーグも、高い技術を持った日本人選手が多くプレーするリーグへと成長した。そして今、そのJリーグの頂点に君臨しているのは、我らがヴィッセルだ。ユニフォームの右袖で金色に輝くチャンピオンエンブレムがその証だ。歴史の連続性を前にしたとき、ディフェンディングチャンピオンであるヴィッセルには、先人たちに恥じないだけの試合をする義務があるとも言える。
佐藤氏は生前、代表が「海外組」を中心に選ばれている現状を嘆いていた。「日本がW杯常連国となった今、Jリーグと海外組が同数選ばれるようになることが、リーグ全体のレベルを図るバロメーターだ」というのが佐藤氏の持論だった。海外組を圧倒するような強さをもった選手を多く育てることは、今のヴィッセルに課せられた義務でもある。
この日の試合は、「Jリーグの日」の試合に相応しく、31年前を思い起こさせるような熱気あふれるものだった。近隣のライバルクラブとの対戦ということもあり、G大阪サポーターも多くスタジアムに詰めかけた。その結果、試合前からスタジアム内のボルテージは最高潮に達していた。後半だけで両チーム合わせて5得点が生まれるという、やや荒れた展開の試合ではあったが、ヴィッセルにとっては意味のある勝利だったように思う。
試合後、マテウス トゥーレルは「ヴィッセルのクラブと選手には勝利のDNAが宿っている」とした上で、「今季は勝点を積むことと試合のレベルを維持することができていなかったが、この試合をきっかけにそれを取り戻したい」と、この試合で得た手応えに自信を見せた。この言葉こそが、この日の勝利に意味があったと感じた理由だ。この試合でヴィッセルの選手たちは「自分たちのサッカー」を再認識できたのではないだろうか。

吉田孝行監督は、折に触れて「自分たちのサッカー」や「やるべきこと」という言葉を使用する。過去2シーズンで3つのタイトルを獲得したという実績が、指揮官に自信を与えていることは間違いない。どのチームにも基本となる戦い方はある。その通りに戦って結果が出るのであれば、これに越したことはない。しかしサッカーのように「相手と直接対峙する競技」においては、相手の力量やチーム状況に応じて変化させる柔軟性が求められる。そのため、指揮官は試合ごとに作戦を練る。そして自分たちに有利な状況を作り出した上で、自分たちが得意とする戦い方で勝利を得ようとする。一見すると当たり前の流れなのだが、これを貫くことができるチームというのは、実はそう多くはない。その理由は「自分たちのサッカー」という言葉に縛られてしまうためだと、筆者は見ている。
サッカーにおいて、複数のクラブで結果を残した指揮官はそう多くはない。それはJリーグの歴史を振り返っても明らかだ。あるクラブでは結果を残した指揮官が、別のクラブでは残留争いに巻き込まれたという事例は数多く残っている。指揮官によっては選手の質やクラブの体制を、巧くいかなかった原因として挙げる。しかし筆者が思うに、そうした指揮官は、自らが得意とする戦い方の分析を間違えていることが多い。
以前にも紹介したことがあるが、競馬騎手の武豊はレース前に綿密なシミュレーションを、騎乗する全てのレースに対して行うという。武は若いころから「歩く競馬四季報」と呼ばれるほど、馬に対する造詣が深い。そのため他の騎手が騎乗する馬の特徴も把握している。それであるがゆえに、スタートからゴールまでを具体的にイメージすることができる。その際には理想とするレース展開を思い描くため、ほぼ全てのレースで勝利しているというが、実際にはそのシミュレーション作業の中で、チェックすべきポイントを見つけている。そのためレースの中で想定外の事態に直面しても、慌てることが少ない。これこそが正しい分析であり、武が35年以上にわたって競馬界の頂点に君臨し続けている要因だ。
サッカーにおいても「自分たちのサッカー」を貫くためには、それを要素単位に分解し、それを自チームの選手の特徴、試合の状況や対戦相手との力関係といった環境に応じて、再構成する必要がある。前記したように、過去には多くの「名将」たちがその再構成作業を怠り、ピッチ上で毎回同じ形を再現しようとしてしまったため、結果を残すことができなかったように思う。

この試合で明らかになったのは、吉田監督が志向する「ヴィッセルの戦い方」を成立させるためには、大迫勇也が不可欠であるということだ。この試合で2得点を挙げたエースが前線に君臨して、初めてヴィッセルは力を発揮することができる。しかしこれだけでは、まだディフェンディングチャンピオンとしての「本来の力」を発揮するには至らない。そこにはもう1つの要素が必要だ。それは現在、戦線を離脱している武藤嘉紀だ。相手の守備と対峙しつつもボールを収め、そこからゴールを含めた様々な展開を作り出すことのできる大迫と、相手の守備組織に対してまっすぐに勝負を仕掛けることのできる武藤が揃ったとき、ヴィッセルの攻撃力は最大化される。
こう書くと「ヴィッセルのサッカーは結局、人(大迫&武藤)に依存している」と、吉田監督に対して批判的な意見が出てくるのかもしれない。しかし考えてほしい。どんな監督であっても自チームの戦力を分析し、最大値を生み出す組み合わせを考える。それが吉田監督にとっては大迫と武藤であったというだけの話だ。そしてもう一点大事なことは、吉田監督は、この2人を活かすための配置を作り上げたという点だ。当たり前のことだが、大迫と武藤がどれだけ優れた選手であっても、2人だけで勝つことができないのがサッカーという競技だ。吉田監督は4-1-2-3という基本布陣や選手配置によって、彼らの攻撃力を活かすための形を作り上げた。そして酒井高徳や扇原貴宏、井手口陽介といった実績のある選手のポジションを見つけ、佐々木大樹や鍬先祐弥といった選手を育てることで、チームとして育ててきたのだ。
同時にこの日の試合では「ヴィッセルの戦い方」に必要な要素を、逆説的に見つけることもできた。それはバランスの良い配置だ。この試合では2度、G大阪に追いつかれたが、そのいずれもがヴィッセルの右サイドからの攻撃だった。右サイドバックの酒井は試合後に、「2失点とも自分のサイドからだったため、勝ったこと以外は喜べない」と、酒井らしく自分にベクトルを向けたコメントを残した。確かにこの試合で酒井は、G大阪の左サイドバックである黒川圭介に複数回サイドを破られた。それが失点に直結したことは事実だ。しかしそこに至る流れを見た時、ヴィッセルが抱え続けている問題が浮き彫りになる。

最初の失点シーンでは中央からサイドに展開される中で、バランスを取ることができなかった。後方から縦に差し込んだボールを後ろ向きで受けた宇佐美貴史が、後方に立っていた満田誠にボールを戻した時、酒井は自陣ペナルティアークにポジションを取っていた。この時点で、酒井と前に立つ右ウイングのエリキの距離は7~8mだった。エリキは酒井よりも内側に入っていたのだが、ここに至る前の戦場はヴィッセルの左タッチライン際だったため、このポジショニングに問題はない。そして満田がヴィッセルの右サイドに立っていた黒川に向けた横パスを出すのを見て、酒井は本来のポジションに戻った。この時、酒井はエリキに対しても外に動くよう、手で促していた。黒川がボールを受けた時、酒井は最終ラインを揃え、右センターバックの山川哲史との間に立っていた山下諒也を見ていた。スピードで裏を狙う山下の動きを警戒していたためだ。この時エリキは黒川の前に立つことで、黒川の動きを止めた。ここまでは教科書通りの動き方だった。問題はこの後だ。黒川は中央の満田に戻し、満田から右サイドバックの半田陸を経由してヴィッセルの左サイドに立っていたファン アラーノへとつなげた。アラーノが中に展開する中で、酒井は山川、トゥーレルと高さを揃えながら、山下を見ていた。酒井はボールの動きに合わせながら左側に移動していたのだが、ここで右に残っていた黒川はフリーになっていた。ここで黒川を見るべきだったのはエリキだった。しかしそのエリキはピッチ中央に移動してしまっていた。ヴィッセルの最終ラインの前にG大阪が複数の選手を立たせていたのであれば、このポジションにも意味はあるが、実際には最終ラインの前には1枚だった。そしてここは扇原と本多勇喜が見ることができる位置を取っていたため、エリキは浮き上がっていたのだ。エリキは最終ラインが弾き返したボールを拾って、前に出るイメージを持っていたのかもしれないが、位置や得点差を考えれば、確実に相手の攻撃を潰し、リードを守る方向に意識を向けるべきだった。この後、半田のシュートをヴィッセルの守備陣がブロックしたのだが、ここではエリキが完全に中に入り込んでしまっていた。そしてこぼれ球を拾った満田が右に展開した時、黒川は完全なフリーとなっていた。ここで酒井が一気に外に戻り、黒川に対応しようとしたが、かわされてしまった。そして最後は黒川からのボールを受けた倉田秋にシュートを決められてしまったのだ。
2失点目も構造は一緒だった。この時には右ウイングは佐々木に代わっていたが、最初の失点と同様にG大阪は右から中央に入れることで、佐々木を中央に釣り出した。こうして左サイドの黒川をフリーにした。そしてここでも最後は酒井が黒川に寄せたのだが、切り返しでかわされてしまい、そのまま黒川に同点弾を蹴りこまれてしまった。
この失点シーンから学ぶべきは、ピッチ上のバランスを取るということだ。ヴィッセルの守備は球際で強さを発揮するのだが、ボールサイドに集まりすぎるきらいがある。今のヴィッセルの守備スタイルからすれば、ある程度仕方のないことかもしれないが、やはりディフェンシブサードではフリーの選手を作り出さないようにバランスを取った配置を意識すべきだと思う。攻撃を担うことの多い右サイドではあるが、それだけにボール非保持時にはバランスを整えておくことが重要だ。ピッチ上でバランスが取れている状態というのは、ボール保持に変わった瞬間、攻撃を組み立てやすいということでもある。
この試合で喫した2失点が、いずれも自分たちの右サイドからであったことは、今後の戦い方を考える上で重要なポイントとなる。以前より指摘していることではあるが、右サイドが攻撃的であるため、このサイドはバランスを失いやすい。その理由は右ウイングが中に入りすぎてしまうためだ。これは武藤が右ウイングに入った際にも、同様の傾向がみられる。もちろん攻撃時に中に入っていく動きそのものは、得点の可能性を上げるために必要な動きだ。問題はその際に、ボール非保持に変わった時の動き方が定まっていない点にある。右インサイドハーフの井手口やアンカーの扇原が、このサイドに流れて対応する場面も多いが、それも相手に対する位置的優位が確立されていなければ不可能だ。結局、多くの場面でこの歪みを酒井が一人で引き受け、それを解消してきた。この日の試合では、黒川という高い能力を持つ選手とのマッチアップであったため、歪みを引き受けきれなかった。右サイドからの攻撃を組み立てる中で、如何にして守備時のバランスを取るか。これは上位追撃のためにも、吉田監督が取り組まなければならない喫緊の課題でもある。

右ウイングを務めたエリキだが、この日の試合では中に入りすぎてしまう場面は、これまでの試合と比べると少なかったように思う。その理由は2つ考えられる。1つは大迫の存在、そしてもう1つはチームとしての攻撃方法だ。
まず前者だが、この試合では大迫が中央に立つ時間が長かったため、エリキもそこを大迫に任せるように動いていた。大迫の能力を理解しているためだろう。さらに言えば、大迫が中央で相手守備に対してプレッシャーをかけ続けていたからこそ、エリキはそれ以外の場所で、相手の脆弱なポイントを見つけることができたとも言える。それを象徴しているのが、最初の得点シーンだ。50分に酒井が右サイドから入れたグラウンダーのクロスに対して、エリキは迷うことなく、このボールをスルーした。背後に大迫がいるという安心感が、エリキにこの選択をさせた。
次に後者だが、これも大迫のポジショニングと関係している。大迫が中央で、相手に対する優位性を確立し続けたため、この試合でのヴィッセルは中央からの攻撃を多用した。中央から縦に差し込むパスも多く、それがG大阪の守備を押し込み続ける一因ともなった。結果的にこの試合におけるヴィッセルの攻撃方向は、サイドと中央を万遍なく使う形となった。この試合のように、攻撃のバランスを整えることは、守備時のポジショニングを整える上でも意味があるように思う。
まだ守備時のポジショニングにおいては学ぶべきことが多いエリキではあるが、前への推進力という点においてはチームでも傑出したものを持っている。この日の試合でも、エリキの前進によってチャンスを迎えたシーンは多かった。相手とイーブンの状態、もしくはやや不利な状態からでも前に出ることができる力を、エリキは持っている。大迫と武藤が万全な状態で揃うことの少なかったここまでの戦いにおいて、攻撃の中心を担った1人がエリキであることは誰もが認めるところだ。前に出るスタイルでありながら、ボールスキルも高いものを持っている。町田在籍時にはJ2リーグの得点王になったように、シュート技術も高い。そんなエリキがボール非保持時のポジショニングを意識できるようになった時、ヴィッセルのサッカーはさらなる攻撃力を手に入れることになる。

2得点目を生み出したのはトゥーレルの頭だった。同点に追いつかれた3分後、本多が斜めに入れた左からのロングスローに対して、ペナルティエリア内のニアで頭に当てたボールは、エアポケットに入ったように密集の中を抜け、そのままゴールに向かった。最後はエリキが触ったとのことで、記録上はエリキのゴールとなったものの、ここで最も大きな役割を果たしたのがトゥーレルだったことは間違いない。この場面についてトゥーレルは、試合後に「ホンちゃんとは本当に息が合うというか、彼の考えていることが分かるし、しゃべらなくても彼の動きでどうすればいいのか、自然にお互いがオートマチックに分かるので、とてもやりやすいです」と語った。その言葉通り、トゥーレルは、G大阪の攻撃陣が見せた本多の裏を狙う動きを止め続け、最後までゴール前に安定をもたらし続けた。守備の裏側にこぼれたボールに対する反応も速く、その結果、全体が高い位置を取り続けることができた。完全復活を印象付けたトゥーレルだが、注意すべきは審判への対応だ。この試合で主審は、ヴィッセルのカウンターを寸断するような笛を複数回見せた。それは直前のG大阪が犯したファウルに対する笛ではあったのだが、ヴィッセルが前に出られないだろうという予測のもとに吹かれたものだったように思う。決して不公平なジャッジだったというわけではなく、ヴィッセルが球際で見せた能力が主審の予測を上回っていたのだろう。しかしこの笛に対してトゥーレルは激昂し、審判に詰め寄る姿勢を見せた。この時は山川がトゥーレルを抑え、事なきを得たが、こうした無駄なリスクは犯すべきではない。トゥーレルは前節でも、試合終了後に異議による警告を受けている。闘争心は勝負に勝つための大事な要素ではあるが、それを審判団に向けても意味はない。今やJリーグナンバーワンとも評されるトゥーレルの存在は、チームの守備力に大きな影響力を与える。その自覚を持ち、感情を抑えてほしい。
この2点目のシーンでは、宮代の動きが奏功した。トゥーレルがバックヘッドで当てたボールに対し、宮代は飛び出すことで相手守備を引っ張り出した。そのため、ボールは誰にもクリアされることなく、ゴールへと吸い込まれた。高い攻撃の技術をもつ宮代だが、こうしたポジショニングで優位性を確立する賢さも持った素晴らしい選手だ。
決勝点をアシストした佐々木だが、この試合では「らしさ」を存分に発揮した。2度あったシュートチャンスはいずれも外してしまったが、ピッチ上でスペースを埋め続けることのできる「佐々木の持ち味」は存分に発揮したように思う。佐々木は身体も強く、高さ勝負をしかけることもできる。それだけに大迫不在の中では前線の中央を任されることが多かったのだが、その際には起点となる意識が強くなり、「らしさ」を発揮できないことも多かった。しかしこの試合ではそうした役割から解放されたため、積極的にボールサイドに顔を出し、そこから次の展開につなげる役割を果たし続けた。選手交代に伴い、試合途中でポジションを左から右に移したが、それによる不自然さは感じさせなかった。この器用さこそが、佐々木の最大の持ち味なのだろう。前記したようにシュートチャンスをものにすることはできなかったが、最後に大きな仕事をやってのけた。95分の酒井のロングスローは一度は跳ね返されたものの、これを右サイドで拾った佐々木がクロスを入れた。これを大迫が頭でねじ込んだ。この場面で佐々木の前には、クリアしきれなかった黒川が飛び込んできたのだが、佐々木は慌てることなく、丁寧なボールをゴール前に供給した。今季も様々な役割を担っている佐々木だが、この経験は今後、必ず活きてくるだろう。
2度のリードを追いつかれたヴィッセルではあったが、この試合では「日本一諦めの悪いチーム」の本領を発揮した。これまでの試合でも闘争心を失った場面は一度も見られなかったが、この日はエースの復活がチームにさらなる勇気を与えていたのだろう。最後まで勝利を目指して攻撃を続けたヴィッセルが、攻撃が巧く機能しなかったG大阪を試合終盤に押し込み続けた結果、勝点3を手にした。
この日得た勢いを確実なものとするためにも、次節も勝利という結果を残さなければならない。中3日で行われる次節、ヴィッセルは横浜FMとのアウェイゲームを戦う。ここまで15試合を戦い1勝5分9敗と苦戦が続く横浜FMは、現在リーグ最下位に低迷している。19位との勝点差は5。戦力を思えば、不可思議としか言いようのないここまでの結果ではある。この横浜FMの姿は、3年前のヴィッセルの姿と似通っている。十分な戦力を備えながらも、歯車が噛み合わないままに時間を空費している。しかし3年前のヴィッセルがそうであったように、こうしたチームは一度きっかけをつかむと、それまでとは全く異なる力を発揮する。それだけにヴィッセルとしては、横浜FMに浮上のきっかけを与えてはならない。ホームゲームで巻き返しを図る横浜FMを、試合序盤から圧倒してほしい。そのためにも、先制点にはこだわってほしい。何とも不気味な相手ではあるが、一致団結したヴィッセルならば、ここも難なく突破してくれるものと信じている。