試合前日、吉田孝行監督はタフな試合になるだろうと強調した上で、「相手(名古屋)は(前節から)修正をかけてくると思いますが、それを上回る自分たちのやり方を出したいです」と語った。この言葉は吉田監督らしいと思った。3年前のシーズン途中、監督に就任して以来、吉田監督の方針には一切のブレがない。大迫勇也や武藤嘉紀といった際立った個性を持つ選手の力を最大限に発揮するために構築されたその戦い方は、極めてシンプルだ。しかしそれを突き詰めたことで、ヴィッセルは際立った強度を持つチームへと成長した。そしてJ1リーグ2連覇、天皇杯制覇という素晴らしい結果をクラブにもたらした。

吉田監督はその過程の中で、ライバルが見せる「ヴィッセル対策」を前にしても変わることがなかった。細かな調整は絶えず加えていたが、基本の部分は変えることなく貫き続けた。その実直さが吉田監督らしいとも言えるが、その背景には選手たちの努力とそれを続ける選手たちへの信頼感があった。移籍してきた選手が驚くほどの高強度のトレーニングを続け、常に自分たちにベクトルを向ける選手たちの姿勢が指揮官に「変わらない勇気」を与えたのだろう。
筆者は以前、吉田監督のサッカーをじゃんけんに例えたことがある。グーで勝利した後、相手がパーを出してきても、チョキを出すのではなく、工夫を加えることで「パーを打ち破るグー」を作り出すような一途さがそこにはある。そんな吉田監督が2年間以上の時を費やして作り上げた「ヴィッセルのサッカー」には、簡単には崩されない強さがある。それはこのリーグ戦2試合でも発揮された。開幕戦では劣勢の中でも耐え続け、終わってみれば相手を上回るゴール期待値を叩き出した。そしてこの日の試合ではアクシデントに因る選手交代がありつつも、一時は逆転に成功するなど、その攻撃力は健在だった。しかし結果は、2試合連続のドロー。勝利という結果をつかむには至っていない。目標である「J1リーグ3連覇」という偉業を達成するためには、これまでとは異なる工夫が必要であるように思う。
サッカーにおいて、多くの勝利を積み上げたチームは年間試合数が増え、苛烈な日程での戦いを余儀なくされる。強いクラブには試練を与えることで、平等性を担保しようとしているのかと思いたくなるほど、その差は大きい。昨季2冠を達成したヴィッセルは1年間で53試合の公式戦を戦っている。しかも最終節まで優勝争いが続いたため、最も長い期間、高強度の試合を続けたチームでもある。当然、選手たちには十分な休息が必要なのだが、優勝チームの宿命として、シーズンインが他クラブよりも1週間早くなる。しかもいきなりの8連戦が待ち構えていた。そこに向けての調整をするためには、始動日を繰り上げざるを得ない。選手たちは十分な疲労回復も図れないまま、トレーニングの日々に戻らなければならない。しかも前記したように、ヴィッセルのトレーニングは国内屈指の強度を誇っている。それだけ負傷のリスクは高まる。開幕戦から、試合中に負傷者の発生が続いている原因には、こうしたスケジュールが影響している可能性は否定できない。因みに昨季、AFCチャンピオンズリーグで準優勝を果たした横浜FMの場合、年間の公式戦試合数は実に61試合にも及んだ。今季、ヴィッセルも同様の試合数をこなさなければならなくなる可能性は十分にある。
こうした状況はクラブが強くなったが故ではあるのだが、その位置を守り抜くためにはこれまでとは異なる工夫が必要となる。トレーニングメニューの見直しも1つの方法ではあるが、戦い方の変化も有効な策だ。ヴィッセルのサッカーにおける基本は変えずとも、そこに至るまでの仕掛けについては工夫の余地があるのではないだろうか。
ヴィッセルとの対戦においては「GKを加えたビルドアップ」によって、ヴィッセルのプレスをかわそうとする場面が散見される。特にこの日の名古屋のような3バックの場合、ボール非保持時に前線を2枚にした守備を見せるヴィッセルに対しては、最初から数的優位が確立している。この日、守備時に2トップを形成した大迫と井出遥也は巧いプレスでこの不利をカバーしようとしていたが、守備陣の背後に立つGKを使われてしまうと、プレスは効力を発揮し難い。そもそも高い位置でプレスを行う目的は、相手にプレッシャーをかけ続けることで、ビルドアップ時のミスを誘発し、高い位置でボールを奪うことにある。しかしこの試合のように数的不利を作られた上で、ヴィッセルの前線を超えるようなボールを蹴られてしまうと、中盤での争いに持ち込まれてしまう。3枚ないし4枚で守るヴィッセルに対して、名古屋の中盤は5枚。セカンドボールを拾うという点において、従来の戦い方では無理が生じていた。
ヴィッセルの高い位置でのプレスを回避する方法については、各チームとも様々な策を講じている。しかしボール非保持時において、高い位置からのプレスはヴィッセルの攻撃の起点となっている。であれば、ヴィッセルも相手の策を超えるための進化が必要になる。
そのための方法は2つだ。1つは選手個々のレベルを上げる方法だ。日々のトレーニングでの成長にも期待はできるが、基本的には選手の獲得ということになるのだろう。しかし、新しい選手を獲得した場合はチームのやり方を覚え、オートマティックに動けるようになるまでには一定の時間を要する。しかも必ずその選手がフィットするという保証はない。そこでもう1つのやり方なのだが、それは新しい方法を導入することだ。ここで注意すべきは、これまで培ってきた戦い方がベースであるということだ。それを前提とした上で、そこにオプションを加えることで戦い方に幅を持たせる。この場合、お互いの特徴を理解している既存メンバーで行うため、戦術を理解するまでの時間は比較的短くなる。吉田監督とコーチ陣がどのような選択をするかは不明だが、過去2年間微調整を加えながら相手を乗り越えてきたことを思えば、今の状況も打破してくれるものと期待をしている。
昨年に行われたUEFA EURO 2024では、ビルドアップの起点をGKに置き、サイドをボールの脱出口とする形が多く見られた。これによって高い位置からのプレスが無効化される試合が複数見られた。しかしGKからのビルドアップにサイドを絡めたボール保持は難易度が高く、ボールを運ぶ過程でミスが散見されたことも事実だ。プレスにいく体制が整っていれば、これはチャンスの創出に直結する。そこで有効と思われるのが、ラインコントロールとの組み合わせだ。この場合は無理に高い位置からプレスにいくのではなく、ミドルサードで構える。そして全体のラインを揃えてプレーしつつ、相手がボールを下げた段階で全体が一気に前に出る。同時にボールを一方向に誘導するように動き、ボールと逆サイドへの脱出経路を塞ぐ。これによって相手全体を圧縮しつつ、相手陣内でのボール奪取を狙う。この方法をヴィッセルが採る場合、今以上に全体をコンパクトに保ち続ける必要がある。その上で、前線の選手だけが行き過ぎることがないように、全体をオーガナイズし続けなければならない。このやり方には昨季までのヴィッセルが見せたような瞬間的なスピードはないかもしれないが、相手を押し込みつつ高い位置でボールを奪えるため、セカンドボールの回収率も上昇することが期待できる。このやり方が正しいということではなく、「ヴィッセル対策に対する対策」は、まだまだ残されているということだ。

勝利を期待していただけに厳しい結果ではあったが、この試合でもヴィッセルの強さは証明することができたように思う。1点のリードを許し、なかなか思うように主導権を握れなかったが、わずか5分間で逆転に成功した。その立役者はエース・大迫だった。
70分の右コーナーキックで扇原貴宏が左足で蹴ったアウトスイングのボールを、中央でマテウス トゥーレルが頭でファーサイドに流した。ここに大迫が走り込み、角度のない位置からダイレクトでゴールに突き刺した。この場面で大迫はキック前からファーサイドに立っていたが、扇原が蹴る瞬間に相手の背中を取った。そしてトゥーレルに相手の目が向いた瞬間に、ファーポストの前に走りこんだ。この時の大迫の動きは前に立つ相手選手を見ながらのものであり、オフサイドにならない絶妙のタイミングで鋭角な動きだった。動き出しのタイミング、コース取りとも完璧だった。そしてここでもう一点注目してほしいのが、大迫のキックだ。トゥーレルが落としたボールは鋭く、スピードに乗って急角度で落ちてきた。そこで大迫はこのボールのスピードを活かしつつ、正確にコントロールするために足裏をまっすぐボールに当てたのだ。ここでインサイドで当てようとしていたら、ボールに勢いがあったため、正確さを欠いていた可能性はある。咄嗟の判断で最適解を導くことができるのは、大迫が「ゴールの取り方」を熟知している証左だ。
次は75分だった。前川黛也のゴールキックは相手がクリアしたが、これを日髙光揮がダイレクトに蹴り返した。このボールを相手と競った佐々木大樹が左に落とし、そこに走りこんだ大迫がゴール前に持ち込み、ニアに蹴りこんだ。この場面で大迫は最初、日髙のクリアに合わせてゆっくりと前に動いていたが、佐々木が競り勝つと見た瞬間、一気にスピードを上げた。これについてきたのは三國ケネディエブスだったが、これを切り返しだけでかわし、シュートを蹴りこんだ。シュートを蹴る前、三國をかわした瞬間には相手GKの立ち位置を確認しており、ニアに速いボールを蹴りこめば対応できないことを確信していた。この場面で三國は自分の間合いに入ったと思ったかもしれないが、大迫の走路は「近くて遠い」ものだった。
この「近くて遠い」走路というと、黎明期のヴィッセルに在籍していたミカエル ラウドルップを思い出す。当時のチームメートだった人物から聞いた話だが、ラウドルップのドリブルは傍目から見ると直線的であり、なぜそれで抜くことができるのか不思議だったという。しかしトレーニングの中で実際に対峙してみると、ラウドルップは目線や身体の動きによって、走る方向を相手にわざと察知させていたという。そしてそれに合わせて体重を移動した瞬間、逆側に重心を変えていたそうだ。一方向に重心を傾けてしまうと、10cm程度逆側に動かれただけで、足は届かなくなる。この技術を駆使していたため、ラウドルップのドリブルは直線的に見えていたというのだ。このように相手の重心をコントロールすることができれば、密集の中でも走路は確保できる。三國を抜くシーンで、大迫はそれを実証した。
J1リーグ戦におけるチーム初ゴールを記録した大迫だが、試合後には「負傷者はいずれ戻ってくる。それまでに今いるメンバーで勝てるようになれば、負傷者が戻ってきた時にはより強いチームになることができる。それこそが最大の補強になるから、悲観せずに続けていきたい」と語った。このエースの言葉は重い。確かにチーム状況は厳しいが、その中でも最低限の結果を残すことができていることを、大迫はポジティブにとらえているのだろう。チームを支えることができるという自信があるからこそ、若い選手たちの成長を見守る余裕を持っている。
この大迫の期待に応えてほしいのが、この試合では左サイドバックとしてプレーした日髙だ。20分に、本多勇喜の負傷によって急遽ピッチに送り込まれた日髙は、不慣れな左サイドバックではあったが、持てる力を存分に発揮したように思う。前に立つ選手とのコンビネーションで守るシーンでは、高い位置を取りすぎて、相手に前進を許してしまったシーンなど改善すべき点は複数あったように思うが、意地でも相手に食らいつくという気持ちを前面に出したプレーが印象的だった。また2点目の起点となったシーンでは、体勢は不十分ではあったが、味方を信じて前に蹴ったことが幸いした。この思い切りは日髙の武器でもある。吉田監督から前を意識するように指示されていたのかもしれないが、チャンレンジする姿勢は評価に値する。
最後、ペナルティエリア内で相手を倒してしまい、痛恨のPKを与えてしまったが、これは成長のための授業料と思う他ないだろう。ペナルティエリア内で浅野雄也と対峙した瞬間、日髙は正対することなく、距離を取ってしまった。そのため浅野の動きに対して横から足が出る格好になり、ファウルを取られてしまった。浅野にボールが渡った時、浅野のシュートコースは前川が見ており、中央にいた山岸祐也と和泉竜司に対しては、トゥーレルと鍬先祐弥が対応できる状況にあった。それぞれ背後には立たれていたものの、浅野が正確なボールを供給しない限り、前川とのコンビネーションでシュートは防ぐことはできたように思う。浅野がボールを受けた瞬間、日髙は一瞬躊躇ったように見えたが、あそこで浅野と正対するように詰めていれば、浅野の選択肢はそう多くはなかっただろう。
日髙は試合後、このシーンについて「申し訳ない気持ちで反省しています」とコメントしたが、ペナルティエリア内では一瞬の躊躇いが事故につながるということを忘れないでほしい。負傷者が多い中、ここまで全ての試合に起用されている日髙だが、これは吉田監督の期待の表れであることを忘れないでほしい。この先、日髙が成長を続け、チームの勝利に貢献するようになってくれれば、この試合で失った勝点2以上の価値が生まれる。

この失点シーンについて言えば、ヴィッセルが相手ペナルティエリア内で仕掛けたところから始まっている。この時点で、残り時間はアディショナルタイムを含めても15分弱といったところだった。そう考えれば、無理に3点目を取りにいくのではなく、試合を締めるべきだったように思う。これは結果論でしかないが、攻め入るとしても後ろのリスク管理を徹底しておく必要はあったのではないだろうか。
この試合では広瀬陸斗が右サイドバックとして先発出場した。4日前に行われたACLEの試合で実戦復帰は果たしていたが、この日の試合が今季の初先発となった。酒井高徳ほど高い位置を取るわけではないが、広瀬は何度もサイドで攻撃の起点となった。ミドルゾーンで広瀬がボールを持った場合、前線の3枚とインサイドハーフの2枚が広がるように動き、広瀬からのクロスを待つ形が出来上がっていた。個人的には、広瀬の配球能力を考えるとウイングもしくはインサイドハーフでのプレーを見たい気もするが、サイドバックとしても標準を優に超える能力を見せる広瀬の戦列復帰は、酒井不在という非常事態にあるヴィッセルにとっては救いでもある。
広瀬と同様にこの試合で今季の初先発を飾った井出だが、こちらも期待通りの能力を発揮し、ヴィッセルの攻撃をオーガナイズした。左インサイドハーフの位置に入った井出は、ボール非保持時には大迫との2トップを形成し、ファーストディフェンダーの役割を担った。浦和との開幕戦でこのポジションを務めた佐々木も、相手の出足を潰すように動くことができる選手ではあるが、井出はそれに加えてパスコースの限定が巧い。名古屋は前記したような動きでヴィッセルの高い位置からのプレスをかわし続けたが、それでも井出の巧みな動きで何度か前進を阻むシーンもあり、井出の存在が攻撃を前に向けていた。長いボールを蹴りこまれる中で、井出はボランチの横までボールを受けるために落ちてくるシーンも見られたが、これはヴィッセルが前に圧力をかけ切れていない時間帯であることを意味している。それでもボールを奪いに来る相手をいなしながらボールを握ることのできる井出が低い位置でボールを受けると、周りの選手には時間と動くためのスペースが生まれる。
こうした井出のプレーは、この先、ヴィッセルが戦い方に幅を持たせる上でのヒントとなる。ヴィッセルのプレスを回避するためにアンカーの脇のスペースに向けてボールを蹴りこんでくる相手からボールを奪った際、最初の選択肢は前線の大迫を目がけて蹴ることであるとしても、確率が低い場合にはそこに拘泥しない方が良い。浦和戦でもそうだったが、この試合でも大迫には常に複数の選手、それも高さのある選手がマークにつくことが常態化している。その中であえて大迫に向けて蹴ることは、大迫を無駄に疲弊させる危険性がある。であれば、ボールを握った選手には「相手が来なければ前進、相手が来た場合には引き付けてリリース」という基本的な動きを大事にしてほしい。これは個人レベルにおける動きの基本の1つであり、どのようなスタイルでも使うことのできるものだ。そしてこの動きとセットでマスターしなければならいのが、スペースと時間の使い方だ。ボールホルダーは周囲の選手にこれを渡し、それを周囲の選手が巧く使って位置的優位を確立することが、試合を支配するということにつながる。
この試合もそうだったのだが、ヴィッセルに主導権を握らせないために「ボールを押し付ける」展開は、今後もあり得るだろう。そうした時の対応を考える上でも、全ての選手が「時間とスペース」を意識することは大きな意味を持っている。

この試合でも好セーブを連発した前川だが、最初の失点シーンはやや悔いを残すものになってしまった。フリーキックを蹴った徳元悠平は試合後に、壁の間を狙っていたことを明かした上で「蹴る前までは強気で壁の上を狙おうかなと思っていたんですけど、壁が高かったですし、キーパーが少し真ん中寄りだったので、速いボールを蹴ろうと思いました」とコメントしている。そして蹴る瞬間、ニア狙いからファー狙いに切り替えたことを明かした。この瞬間の前川の動きを見ると、ニアに蹴ってくることは予想していたようであり、その意味では狙い通りだったのかもしれないが、結果的には壁の間を空けたことが裏目に出たようにも思える。守備陣に負傷者が相次いでいる中、前川は文字通り「ヴィッセルの最終砦」となっている。難しいポジションではあるが、より慎重に状況を見極めてほしい。
最後に判定についても触れておきたい。まず断っておきたいのは、判定によって勝ちを逃したというつもりはないということだ。その上で敢えて言うと、「今季の基準」はピッチ上に危険な状態を作り出しているように思う。今季、Jリーグはアクチュアルプレイングタイム(以下APT)を延ばすことを目標として掲げている。それによって、試合をよりエキサイティングなものにしたいということなのだろう。その狙いは間違っていない。しかし、それはファウルの基準を緩くすることで達成されるものではないということだ。ファウルの基準を緩くすることは、選手たちを危険にさらすことであり、結果的にプレーは荒くなり、選手が倒れる時間が増える。現時点で昨季と比較してどの程度APTが延びているのかは不明だが、仮に増えていたとしても、それは選手たちにストレスを与えてまで得るほどのものではないと思う。選手たちに激しいプレーを期待するのであれば、判定によって選手を守るという姿勢をセットにしなければ、それは結果的にサッカーの面白さをスポイルする事態に陥りかねない。この試合ではそうした兆候が散見され、両チームを通じて選手たちはストレスを受け続けていたように思う。
そしてファウルについてもう一点付記すると、宮大樹の武藤に対するファウルは大変に危険なものだった。カウンターで抜け出そうとした武藤を両手で抱きかかえるようにホールドして引き倒した結果、両脚も絡んでしまった。このプレーに激昂した武藤は試合後、通常のファウルであれば怒ることはなかったが、宮の倒し方が選手生命を危険にさらすものだったことに対する怒りであったことを明かした。これに対して宮は「あれは世界のどこを見てもああすると思います。あの局面になったときには、ファウルで止めることしか考えていませんでした。チームにとって何が一番プラスになるかを考えて、必要なファウルだったかなと思います」と語っている。もちろん、これが宮の思いの全てではないだろうが、今回のプレーは今後への戒めとしてほしい。ヴィッセルでプロキャリアをスタートさせた宮は、高い身体能力と闘争心を持った素晴らしい選手だ。この先もJリーグで活躍を続けるためにも、相手を危険にさらすようなファウルは厳に慎むよう意識してほしい。
愚痴のようになってしまうが、ヴィッセル目線で判定について語るならば、2つの判断には疑問が残った。1つは開始20秒で決めた大迫の「幻のゴール」だ。右からのクロスに対して大迫は肩でボールを叩き、ゴールに流し込んだ。オンフィールドレビューの結果、これがハンドと判定されたのだが、映像を見る限り、大迫の腕は上がっておらず、ハンドと断定できるほどのものはなかったように思う。さらに言えば、ボールが腕に当たった場合、ああいった強く鋭いボールになることはない。主審の判断は尊重されるべきだが、そこに至るまでの流れが理想的であっただけに、残念でならない。もう1つはPKにつながったカウンターを受けたシーンだ。このシーンは武藤のシュートが相手選手に当たり、そのボールを相手GKがキャッチしたところから始まったのだが、この時に相手GKがボールをつかんだ時点でゴールラインを割っていたように思う。これも審判の判断は尊重するが、疑問が残ったことは事実だ。
この試合の結果、リーグ戦は2連続ドローでの発進となってしまった。ただ前記したように、この2試合は相手に「ヴィッセル強し」の印象を改めて与える内容だったと思われる。しかしプロの世界においては「勝ったチームが強いチーム」であることも、また事実だ。ライバルたちが感じる「強さ」を形にするためにも、次戦では勝利という結果に、よりこだわってほしい。負傷者が多く、吉田監督もやりくりに頭を悩ませることになるだろうが、自分が鍛えてきた選手たちの力を信じて、ピッチに送り出してもらいたい。連戦の中でできることは限られているだろうが、相手の「ヴィッセル対策」の上をいくサッカーで、我々を魅了してほしい。
近隣のライバルである京都をノエビアスタジアム神戸に迎える次戦は、平日開催となる。忙しい人も多いだろうが、ぜひ仕事帰りや学校帰りに、スタジアムへ足を伸ばしてほしい。「神戸はいつだって全員で戦う(Kobe always fights together.)」。この言葉を胸に、スタジアムを盛り上げてもらいたい。
