覆面記者の目

明治安田J1 第8節 vs.横浜FC ニッパツ(4/2 19:03)
  • HOME横浜FC
  • AWAY神戸
  • 横浜FC
  • 0
  • 0前半0
    0後半1
  • 1
  • 神戸
  • 得点者
  • (74')エリキ

この日の試合に勝利したことでヴィッセルは、暫定ながら順位を14位へと上げた。まずは「J2降格圏」を抜け出したわけだが、当然のことながら、これはヴィッセルがいるべき順位ではない。こう書くと驕りのように聞こえるかもしれないが、ヴィッセルに在籍している選手の力量を考えれば、今の順位が相応しいと思う人はいないだろう。そしてこの日の試合も勝利したとはいえ、ギリギリの戦いとなった。横浜FCの整理された戦い方や選手たちのプレーは見事であったのに対して、ヴィッセルの選手の動きは試合を通じて、どこかぎこちなく見えたことは事実だ。試合後に山川哲史がコメントしたように、ヴィッセルの選手は、誰一人としてこの日の結果には満足していない。自分たちで試合を難しくしてしまったという思いが強いためだろう。そして選手たちは、どうするべきだったのかということを、試合直後のロッカーで話し合っていたという。勝利という結果だけを見るのではなく、自分たちの力を発揮することにフォーカスしている姿勢は、「2連覇」という結果が「高い目線」をチームにもたらした証左と言える。そしてこれこそが、この先ヴィッセルが反撃をする際の原動力となることは間違いない。

 過去に何度か書いたことだが、今季のヴィッセルを苦しめている要因は2つだ。それはチャンピオンの宿命でもある過密日程と、それに伴う負傷者の続発だ。何度も寒波が襲った2月のシーズンインからいきなりの8連戦を迎えるなど、過酷な状況での戦いを強いられた。そこに負傷者の発生が重なったことで、チームとしての形を整えることができない日々が続いた。その厳しさは、一時は吉田孝行監督が「紅白戦もできない」と嘆くほどだった。こうした日々の中で「AFCチャンピオンズリーグ敗退」というショッキングな出来事もあり、選手たちが精神的にも追い詰められていったであろうことは想像に難くない。
 そうした状況下で勝ち取ったこの日の勝利は、今シーズンを振り返った時、契機になったと語られるものとなるかもしれない。今節の結果、首位との勝点差は7となった。しかしヴィッセルは試合消化数が1試合少ないことを考えれば、勝点4差と考えることもできる。残り試合数を考えれば、決して悲観するような数字ではない。ヴィッセルにはこれを逆転するだけの力が備わっていることは、紛れもない事実だ。そこで、今回の項では「4月反攻」を成し遂げるために必要なことを考えてみたい。

 サッカーに限った話ではないが、チームスポーツにおいてはチームが波に乗れない時、首脳陣は様々な手を打つことで、状況の好転を図る。メンバーの大幅な入れ替え、特定の選手への依存を高める、戦い方を変更する等その方法は様々あるが、絶対的な正解というものはない。そして今のヴィッセルにとっては「特別なことをしない」ということが、1つの策であるように思える。そう考える理由は3つある。1つは時間的問題だ。既にシーズンは始まっており、大きな変更を加える余裕はない。2つ目の理由は実績だ。過去2年間、ヴィッセルは現在のスタイルでタイトルを獲得している。そして3つ目の理由はメンバーだ。昨季、J1リーグを制したメンバーが多く残っており、彼らは今のサッカーを熟知している。加えて今の戦い方で勝利するために必要な要素を理解している。こうしたことからベースは崩すことなく、改善を図っていくことが、今季もヴィッセルが結果を残すための現実的な方法であるように思う。
 ではヴィッセルが現状を打破するために必要なことは何か。これは私見だが、やはり結果を残し続けることが、選手たちに自信を取り戻させるための特効薬であるように思う。とはいえ、どんな試合からも改善点を探る努力を怠ることはできない。この試合で顕在化した問題と向き合い、次の試合に向けてその解決を図ることは、結局は内容的な部分の向上につながる。その意味ではヴィッセルの選手たちが見せている姿勢は、未来へ向けての希望でもある。

 対戦相手の横浜FCのサッカーはハッキリとした特徴を持っていた。そしてその特徴が、最後までヴィッセルを苦しめた。一言で言うならば5-4のブロックがそれだった。スタート時のセットは3-4-2-1だったが、多くの時間帯でウイングバックを最終ラインに吸収した形でゴール前の守りを固めていた。そしてワントップのルキアンを前に残し、ボール保持に変わった瞬間にはカウンターを狙っていく。こうした戦い方が徹底されていた。それを象徴的に体現していたのが、2列目でプレーしていた鈴木武蔵だった。この試合の中で、ヴィッセルがペナルティエリア付近でボールを失った際、カバーに入っていた鈴木がボールを拾う場面が散見された。フォワードとしてのイメージが強い鈴木だが、この試合では自陣深い位置まで戻って守備をする姿が印象的だった。そしてGKがボールを蹴る際は、大きく蹴り出す場面が多かった。これは強風ゆえの選択だったのかもしれないが、それでもルキアンを狙っているというよりは、リスクをいったん遠ざけるといったプレーであり、このボールをヴィッセルに回収されるまでの時間で守備陣形を整えるという戦い方は、四方田修平監督の意思が選手間で共有されていることを窺わせた。四方田監督がこうした戦い方を選択したのは、ヴィッセルの攻撃力を高く評価しているためだ。試合前に四方田監督は「ヴィッセルは前線にタレントが揃っており、そこに自由を与えないことでチャンスを見つけたい」とコメントしていたが、その言葉通りの戦い方だった。

 こうしたプレーを徹底していた横浜FCは、ヴィッセルにとって戦いやすい相手ではなかった。ヴィッセルの戦い方が最も威力を発揮するのは、相手が前に出てきた瞬間にボールを奪うことだ。そこから前に向かう過程で相手に混乱を作り出し、そこに厚みのある攻撃を加えることで、相手を押し込んでいく。言わば相手のベクトルを逆手に取る戦い方なのだが、前に出るプレーを封印されてしまった場合、自分たちの力だけで相手の守備をこじ開けなければならない。ましてやこの日の横浜FCのように5-4で引かれた場合、アタッキングサードでのスペースは極端に少なくなる。
 そもそもが5-4のブロックを崩すことは、全てのチームにとって難しいことだ。天皇杯のように明確に実力差がある下位カテゴリーのチームと戦うのならばともかく、同等の力を持ったチームで構成されるリーグ戦においては並大抵のことではない。
 5ー4のブロックを形成した場合、最終ラインの基本的な並びは5レーンを1人ずつで埋めるように配置される。そしてその前に立つ4人は、背後の選手の間に立つ。このブロックの中に入り込んで、最終ラインの前でボールを受けようとした選手に対しては、最終ラインの選手が前に出て対応する。それでも背後には4人の選手が残るため、守備が崩壊することはないという考えで作られている。このブロックを崩すためのポイントは、選手の正しい配置と動きということになる。以下に順を追って、これを説明する。


 守備側が5-4-1でセットした場合、相手の2列目の4枚は守備を固めることが目的であるため、前に出てプレスをかけるといったことは少ない。そのためワントップの近くまで攻撃側のセンターバックの2枚は進出することができる。この試合で言えばルキアンの近くまで、マテウス トゥーレルと山川は進出できた。
 次に守備側の2列目への対応だが、ここでは攻撃側のサイドバックがカギを握っている。ここでサイドバックは相手の外側の選手を引き付けるように動く必要がある。その過程ではボールを動かしていくのだが、ここで相手を引き付けるために、あえてボールをさらすような格好で持たなければならない。そして相手が出てきたら、サイドに誘導するように動く。この時、攻撃側のアンカーの選手は、相手の2列目中央の2枚を独力で相手にしなければならない。サイドバックを使ってボールを動かす際には、中央の2枚をそこに留め続けるように意識する。これによって守備側の2列目の両脇と中央の間を広げることが目的だ。これがうまくいくと、ハーフスペースに走路が生まれる。さらに両サイドバックがボールを囮にして相手を縦に引き出すことができれば、その裏側にもスペースが生まれる。もしこの過程でボールを失うことがあれば、アンカーが下がり最終ラインの守備を補完する。
 ボールの出口となるのはウイングとインサイドハーフだ。前記した形が作れた場合、守備側のウイングバックの前とハーフスペースのどちらかにはスペースが生まれている。そこを使うことで相手の最終ラインの前で起点となる。この時、守備側の3バックを押し留めるのはフォワードの役目だ。相手センターバックの間に立ち、裏を狙う動きや寄せる動きで駆け引きをしながら、相手センターバックの前に出ようとする動きを牽制する。これらが組み合わさった時、初めて5-4のブロックには隙間が生まれる。
 以上のような動きで狙うのは、相手ペナルティエリアの奥だ。ここに侵入して、そこからマイナスのクロスやゴール横から切り込む動きでゴールを狙う。そしてボールと逆側の選手は、ペナルティエリアの中に入る意識を持つことで、相手の人数的優位を失わせる。これが5バックを崩す際の常道だ。逆に言えば、これだけの手間をかけなければ崩せないだけの強固さが、5-4のブロックにはある。
 こうした動きを実現するためのポイントは、各所で相手に対する質的優位が必要となる。全ての選手が相手を引き付けてボールを握り続けるだけの力がなければ、こうしたプランを形にすることはできない。そう考えれば、この日の試合でヴィッセルには、横浜FCのブロックを崩す可能性はあったと言えるだろう。

 こうした崩し方を実現するために欠かすことができないのは、「ボールホルダーは相手を引き付けて、味方にスペースと時間を渡す」という考え方だ。これがチーム全体に浸透していなければ、チームとしての崩し方を構築することは難しい。ヴィッセルの場合、前線に大迫勇也という傑出した力を持つフォワードがいるため、ここを使おうとしてしまうが、これは個人の力に依存した形だ。四方田監督は他チームの監督と同様に、大迫への警戒心を強く持っていた。その中でも大迫は巧いポストプレーでボールを周囲に落とす場面を作り出していたが、その先も個人勝負になってしまっていたため、5-4のブロックを崩すには至らなかった。これが試合を通じてゴール期待値が低調なままで終わった最大の理由だろう。
 ここまで徹底して守りを固める相手と戦う場面は、この先そう多くはないのかもしれないが、それでもこうした動きを身につけるだけの価値は十分にあると思う。多くの相手に対して、ヴィッセルは攻撃的に戦うことができる。それだけの選手が揃っているためだ。であればこそ、大迫に依存した戦い方だけで相手を超えようとするのではなく、チームとして相手を崩す方法を手に入れることができれば、ヴィッセルの強さには継続性が宿る。

 攻撃についてもう一点付記すると、今季はまだチームとして押し上げていくシーンが少ないように感じる。得点を取らせる役を努めている大迫は、相変わらずの見事なポストプレーを見せているのだが、チームとしての押し上げがないため、「大迫の後」が単騎での勝負なっている場面が散見される。その単騎での仕掛けに対して相手が複数人でカバーし、そこからカウンター狙いに蹴ってくる。蹴られてしまうことで、アンカーの扇原貴宏を含めた選手たちは下がらざるを得なくなってしまう。こうしたことを繰り返す中で、全体の布陣はコンパクトさを保つことができず、攻撃に連続性が生まれ難い。これを改善するためのカギは、扇原が握っているように思う。


 昨季は扇原がボールを握った際、時間を作ることでチーム全体が前に出る態勢が整う場面が多かった。今季もシーズン開幕から多くの試合に出場し、プレー時間も長くなっている扇原には疲れもあるだろう。加えてアンカーという、両脇を狙われやすいポジションにあることで、確実に扇原には疲労が蓄積されている。それも影響しているためかもしれないが、今季は扇原からの大きな展開が少ないように感じられる。だからこそ吉田監督にはチーム全体で戦う形を構築し、扇原の負担を減らすよう整備してほしい。扇原が時間を作る形を取り戻すことができれば、井手口陽介が後ろから攻撃を押し上げる形も戻ってくる。今は布陣が間延びした中で、井手口が低い位置でのプレーを見せる時間が長い。攻撃時に見せる井手口の押し上げは、昨季のヴィッセルにおいて「厚み」を作り出していた。扇原の負担をチームとして減らすと同時に、扇原のところで時間とスペースを作り出す流れを確立することができれば、ヴィッセルの攻撃力は一気に高まるはずだ。

 またアンカーについては、齊藤未月の復活も待たれる。この試合でベンチ入りした齊藤は、扇原とは異なる個性を持った選手だ。高いボール奪取能力を持ち、前に出ることもできる貴重な選手であるだけに、齊藤の完全復活はこれまでと異なる個性をヴィッセルに加えてくれるだろう。チームの勝利という目的に邁進できる齊藤の復活は、反攻への起爆剤となるだけのインパクトを持っている。

 この試合でポイントとなったのは佐々木大樹と汰木康也の両ウイングだった。彼らが深い位置まで侵入することができるかどうかが、攻撃を組み立てる上での分水嶺だった。まず右ウイングに入った佐々木だが、この試合では身体の強さを存分に発揮した。佐々木は相手との接触を厭わずにボールを受けることができる選手だ。そしてこうしたプレースタイルの選手の場合、判定の影響を受けやすい。この試合ではボディコンタクトは比較的流し気味だったこともあり、佐々木が潰されたように見えるシーンは多かった。しかし佐々木のポジショニングは良く、サイドの起点としての動き出しは悪くなかった。佐々木が改善すべき点は2点だ。1点目は中に入るタイミングだ。アタッキングサードの入り口付近から中に入る場合、中央の大迫、若しくは同サイドのインサイドハーフの井手口が外に開く動きと併せることで、攻撃の厚みを保つことができる。これがないままに中に入ってしまうことは、中央での渋滞を招く結果となることが多い。加えて背後に控える広瀬陸斗の管理すべきスペースが広がってしまう。中央に井出遥也のように交通整理ができる選手がいる場合は、この動きを厚みに転換することができるかもしれないが、井出が不在だったこの試合では、効果的だったようには思えない。2点目はこぼれ球への反応だ。右ウイングという普段とは異なるポジションでのプレーだったことも影響していたとは思うが、この試合における佐々木はこぼれ球への反応がいつもより遅いように感じられた。本来の佐々木はボールへの勘が優れた選手であり、こぼれ球への反応も悪くない。それが昨季の結果につながった。今季は負傷者が続発する中、試合に出続けており、その疲労も影響していたのかもしれない。


 次に汰木だが、この試合でも高いボールスキルを存分に発揮していた。狭い局面でも安定してボールを動かすことができるため、汰木がボールを握った場合、タッチライン際に相手を引き付けることができる。ここに宮代大聖や酒井高徳が絡んだ場面では、確実に横浜FCの守備に対して優位性を確立することができていた。問題はその後だ。汰木は構えた相手にドリブルで仕掛ける場面は少ない。相手がボールを追ってきた場合は巧く並走に持ち込み、深い位置まで上がることができるのだが、構えられてしまうと、その手前でスピードを落とさざるを得ない。そのため汰木のボールを運ぶ能力を活かしきれなくなってしまう。であればこそ、裏を狙う動きをもう少し増やしてもいいのではないだろうか。裏を狙ったボールが少々ルーズでも、汰木の技術であればマイボールにすることは十分に可能だ。だからこそ汰木が裏を狙う姿勢を見せることで、相手の守備は構えることができなくなる。こうなれば局面の主導権は汰木が握ることになる。そして主導権さえ握ることができれば、汰木がチャンスを創出する機会は格段に増えるだろう。

 スピードがある選手の縦に抜ける動きというのは、この日の横浜FCのようなゴール前のブロックを崩す上でも有効だ。この試合で値千金のゴールを決めたエリキが存在感を放ったのは、こうした動きを見せ続けたためだ。スピードとテクニックに特徴があるという点において、汰木とエリキは同型の選手ということができる。柔(汰木)と剛(エリキ)というタイプの違いはあるが、両選手とも相手選手の間をドリブルで突くことができる。この日はベンチ外となった武藤嘉紀もそうだが、こうした独力で相手のブロックを切り裂くことのできる選手は、守備を固める相手にとって「計算できない異分子」だ。それだけに、彼らの動きにかかる期待は大きい。

 ゴールを決めたエリキだが、得点シーンではエリキらしさを存分に発揮した。74分にフリーキックからのこぼれ球に対し鋭く反応し、一瞬の隙をついてゴール前に出た。そしてトゥーレルが出したボールを受け、相手GKをかわしてゴールに流し込んだ。このシュートを打つ際、エリキは相手GKから目を切っていた。直前まで相手を見たことで予測を立て、最後は相手にコースを悟られないように、あえて目線を外していた。このプレーは、エリキが高いシュート技術の持ち主であることの証左だ。
 試合後には「僕は仲間が活躍するのを見たい人間なので、やっぱり味方に点を取ってほしいと思いますし、味方がチームを救うようなプレーを望んでいます」と語るなど、自らのゴールにこだわることなく、チームの勝利を目指す姿勢を見せたエリキだが、この人間性もチームメートから愛される理由だ。


 待望の先発復帰を果たした酒井だが、この試合では左サイドバックでのプレーを見せた。酒井の完全復活は、これまで選手のやりくりに追われていた吉田監督を助けることになる。この試合ではベンチに入っていたカエターノを左サイドバックで使うことができれば、酒井を右サイドバックに戻し、広瀬を左ウイングに配置転換することもできる。前線でのつなぎ役としても高い能力を持っている広瀬を前に置くことができれば、攻撃にもこれまでとは異なる形が生まれる。
 そしてそれは広瀬との相性が良い宮代にとっても、大きな助けとなるだろう。宮代のコンディションは、試合を重ねるごとに上がっている。この試合ではVARによってオフサイドと判定されたが、見事なシュートでゴールネットを揺らした。このシュート場面では、前に立つ鈴木の脇を正確に射抜いた。セットプレーからの渋滞の中でも、確実に枠に蹴りこむ技術を持つ宮代の復帰は、得点力のアップにつながる。ボールを持って時間を作ることのできる宮代が前でプレーするということは、大迫をゴール前に上げることにもつながる。この日の宮代のプレーは、今季初ゴールが近いことを予感させるに十分なものだった。

 76分に佐々木との交代で投入されたグスタボ クリスマンは、この試合でも光るものを見せてくれた。プレスバックしての守備など献身的な動きができる上に、一瞬のスピードもあるため、インサイドハーフとしては最適な選手と言えるだろう。この先、プレー時間が延びる中で、どういったプレーを見せてくれるか楽しみだ。


 特筆すべきはGKの前川黛也だ。36分にルキアンが抜け出し、前川と1対1の場面を迎えたが、最後まで落ち着いて相手の動きを見て、シュートするタイミングを奪った。最後はルキアンのシュートを指先で弾き出し、この試合最大のピンチを救った。前節では痛すぎるミスを犯したが、そこからのわずかな期間で気持ちを切り替えてきた点は称賛に値する。ルーキー時代から数年間は、不安が顔に出ることも多かった前川だが、GKに最も必要な「ふてぶてしさ」を身につけたようだ。2連覇中のチームの守護神の名に恥じないプレーは見事だった。

 試合後に山川がコメントした通り、まだヴィッセルらしい強さを発揮するには至っていない。しかしそんな中でも結果にこだわり、勝利をつかみ取った選手たちの意地はヴィッセルにとって最大の武器だ。これがある限り、ヴィッセルは上を目指して戦っていけるはずだ。

 次節は中3日での「国立ホームゲーム」となる。現在、最下位に低迷する新潟との試合ではあるが、今のヴィッセルにとって相手の状況は関係ない。今ヴィッセルが歩んでいる道は自分たちのサッカーを取り戻すための道であり、それが終わった先には、より高い位置を目指す「本来の道」を歩まなければならない。
 戦力も戻りつつある中、ヴィッセルが本来の力を取り戻し、昨季を超える強さを手に入れる日は近いと確信している。

今日の一番星
[マテウストゥーレル選手]

この試合では攻守にわたって存在感を発揮したトゥーレルを、迷うことなく選出した。得点シーンでは扇原の蹴ったフリーキックはいったん相手にクリアされたが、扇原がこのボールに反応し、頭で中央に戻した。このボールは密集の外に飛び、ボールに対して前を向いていた相手選手がクリアしようとしたが、これを奪ったのはトゥーレルだった。反転してボールを追い、相手の前に頭を出してボールを足もとに落とした。そしてそのボールを前につないだところにエリキが走りこんで、ゴールに流し入れた。相手の前に躊躇なく頭を出したトゥーレルだが、これは咄嗟の場面でもボールとの距離を正確に測ることができるからこそのプレーだろう。さらにそのボールを慌てて蹴ることなく、正確にボールを蹴ることを優先したからこそのアシストだった。守備面ではルキアンやユーリ ララといった強靭な選手に対しても、圧倒的な強さを見せ続けた。32分にはスルーパスに対して巧い対応で、ピンチの芽を摘み取った。開幕からここまでチームを圧倒的な守備力で下支えしてきたトゥーレルの献身性に敬意を表し、文句なしの一番星。