覆面記者の目

明治安田J1 第10節 vs.京都 ノエスタ(4/27 14:03)
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  • 得点者
  • (55')原 大智


 試合後、山川哲史は「最後のところを決めるか、それとも決められないかというところで勝敗がついたと思います」と述べた。この試合で起きた事象だけを見れば、正にこの言葉通りだ。これについて、吉田孝行監督は「サッカーではよくあることです」と評した。


 吉田監督の言う通り、サッカーにおいてこうした試合は珍しくない。そしてこうした流れの試合では、「攻め続けたのに敗れた」側に、ある種の徒労感が残る。吉田監督はそうした影響を考慮し、敢えて「内容では勝っていた」という意の発言をすることで、チームを励まそうとしたのだろう。しかし再三再四に渡って本項で書いてきたように、全ての事象には原因がある。得点できなかった原因、そして失点に至った原因を探り、それを糧として活かすことが重要だ。

 昨日の試合後にViber公開トークで配信した速報版において、筆者はマクロ的視点とミクロ的視点という言葉を使用した。マクロ的視点というのは、試合全体についての感想だ。この試合におけるシュート数は29本対5本。コーナーキックも11本対6本。いずれもヴィッセルが圧倒していた。ゴール期待値に至っては京都の0.8に対してヴィッセルのそれは4.4にも達していた。こうした数字を前にした時、「試合を通じて自分たちがチャンスを作り続けた」、「相手に少ないチャンスを決められた」という吉田監督の言葉は、この試合を正確に映し出していると言えるだろう。しかし試合を観た印象としては、そこまで一方的な試合だったとは思えない。ヴィッセルが攻め続けていたことは事実だが、京都にはそれを守り抜くだけの強さと粘りがあったことも、また事実だ。

 こうした数字と印象の差を生み出したのは、京都が見せた「ヴィッセル対策」だったように思う。試合後に京都を率いる曹貴裁監督は「あらかじめ用意した戦術、そして選手がその戦術理解度を高めてくれた」と語り、ヴィッセル対策を施してきたことを匂わせた。そしてこの試合で京都が見せた戦い方は、これまで他のチームが見せた「ヴィッセル対策」の総集編のようでもあった。京都の狙いは概ね3つだった。
1つ目は言わずと知れた大迫勇也への対応だ。大迫が前線でボールを収めた場合、自身でシュートを放つだけではなく、武藤嘉紀や宮代大聖、あるいは佐々木大樹といった周りの選手を使うこともできる。そのため大迫に対しては徹底したマークを付けるのだが、ここでの目的はボールを奪うことではない。次の動作へ移行するための体勢を作らせないことが目的であるため、位置取りとしては大迫の背後になる。乱暴に言ってしまえば、背後から寄せ続けることが目的であるため、マークする選手にとっては、大迫との技術差をそれほど気にしなくても済む。
 2つ目はサイドの防御だ。特に狙いは右サイドバックの酒井高徳だ。ヴィッセルの攻撃パターンを見た時、サイドからのクロスが高い割合を占めていることは明らかだ。右に酒井、左には初瀬亮という質の高いボールを蹴ることのできる選手がいることを考えれば、吉田監督がクロスからの攻撃を重視するのは当然のことだ。両サイドともに抑えることが望ましいが、特に注意すべきは酒井のいるサイドだ。昨季終盤の数試合はボランチも難なくこなしたように、酒井には展開力もある。右サイドで攻撃の起点となるだけに留まらず、自身が中に入ってきた際には、質の高い動きを見せる。こうした攻撃面での動きを防ぐためには、酒井が上がれない状況を作る必要がある。
 そして3つ目はヴィッセルの陣形を広げることだ。これは選手間の距離を広げるだけではなく、全体のつながりを断つことが目的だ。ボールスキルの高い選手が多いヴィッセルに対しては、コンパクトな陣形を作られてしまうことを防がなければならない。
こうした目的をもって、曹監督は「ヴィッセル対策」を準備してきたのだろう。これについて、詳細に見ていく。
 1つ目の大迫への対応だが、これはセンターバックのアピアタウィア久が、その役割を担った。対人守備に強さを見せるアピアタウィアだが、技術で守るタイプではなく、フィジカルの強さを活かした守備が特徴だ。そのため自然とファウルは多くなるのだが、それはチームとして許容しているのだろう。この試合では早い時間帯に警告を受けた後も、アピアタウィアのプレーが変わることはなかった。それでも大迫は何度かこれを振り切る技術を見せたが、そこでアピアタウィアはギリギリのプレーで対応した。一度はペナルティエリア内で明らかに背後から押しているように見えたのだが、ファウルとはならなかった。これについては後述するが、アピアタウィアのプレーはヴィッセルをいらだたせるには十分だった。審判との相性にも左右されるため一か八かのような側面はあるが、この徹底した対応が効果を発揮したことは事実だ。


 次に2つ目のサイドの防御だが、これこそが曹監督にとって最大の勝負所であったように思う。曹監督は試合前、ヴィッセルの試合を入念にチェックしたと話していたが、そこで1つの事象に目を付けたのではないだろうか。その事象とは武藤嘉紀の動きだ。これは1つ目の大迫への対応とも密接に関係している。昨季から右ウイングの位置に立つことの多い武藤ではあるが、フィニッシュに至る場面では中に入ることが多い。スピードと体幹の強さ、そしてボールスキルの高さを併せ持つ武藤は、大迫と並ぶヴィッセルの看板選手だ。大迫に匹敵するシュート技術に加えて、優れた得点感覚も兼ね備えている。この武藤が中に入り、大迫との連携で得点を奪うというスタイルは、前節で決勝ゴールを挙げたように、ヴィッセルにとって大きな武器となっている。大迫へのマークが特に厳しさを増している今季は、武藤が中に入りストライカーとしての役割を果たす回数が増えている。そして大迫へのマークが厳しいためだろう。武藤は中に入るタイミングが、昨季に比べて早くなっているように感じる。その結果、酒井は上がってきた際、一人で右サイドを制圧し、攻撃につなげることを求められる。酒井の能力に依存した形ではあるが、これができるため逆サイドの初瀬からの斜めのボールを酒井が受けるのと同時に、武藤は中に入る。そして酒井が縦に突破し、ペナルティエリア横や深い位置からクロスを入れるタイミングで、武藤は得点を狙っている。このパターンが、今のヴィッセルにおいては大きな武器となっている。当然、どの相手も酒井の前進を阻もうと企図する。その多くが酒井に対してスピードのある選手をぶつけることで、酒井のポジションを下げようとするものだった。しかし京都は、これまでにはない対策を見せた。今季の基本フォーメーションである3-4-2-1ではなく、4-3-3の並びとした上で、酒井のサイドにはサイドバックとして麻田将吾、インサイドハーフとして松田天馬、そしてウイングとして佐藤響を立たせた。基本的にはオーソドックスにプレーしていた彼らの真の役割が判明したのは、ヴィッセルがボール保持に変わったタイミングだった。通常であれば、酒井の仕掛けに応じて動くところだが、彼らは武藤が中に入り切ったタイミングで酒井の前進を阻むように動いていた。これによって酒井は1対2、或いは1対3という状況に陥ることが多かった。そこでボールを奪い、酒井の背後を突くことで、酒井にアップダウンの動きを強いたのだ。武藤がサイドに張り続け、酒井の上りを待ってから動くという方法がオーソドックスではあるが、その場合は中央で大迫が孤立する時間が延びることになる。


 そして3つ目として指摘した、ヴィッセルの陣形を広げるためには、中央での圧力を利用した。この試合で序盤から目立っていたのは、右ウイングの豊川雄太、そして左ウイングの佐藤やインサイドハーフの松田と武田将平の動きだった。ワントップの原大智はヴィッセルの2枚のセンターバックを意識したポジショニングを見せた。ここでは原の191cmという身長が活きた。傑出した高さがある選手が前線にいた場合、守備者としてはこれを離すことはできない。これだけの高さがあると、前線を目がけたボールが少々ルーズであっても、競り勝つ可能性があるためだ。その上でアンカーの扇原貴宏の周りに、前記した前線の選手のうち2人が立ち、ボールホルダーに対して厳しいプレスを敢行した。この目的は2つある。1つは扇原をできるだけ後ろに留め置くこと。そしてもう1つは右インサイドハーフの山口蛍を呼び込むことだ。ボールを散らすことのできる扇原を後ろに留め置くことで、ヴィッセルの陣形を「前後分断」するのが狙いだった。そして山口を呼び込むのは、前記した酒井の孤立を確固たるものにする効果もある。広い範囲を動くことのできる山口が酒井のフォローに入ってしまうと、武藤の中への動きは効果を高める。それを阻むためには、山口を扇原の近くに引っ張ることが必要だったのだ。C大阪アカデミー時代からの僚友である扇原の配球能力を、山口は熟知している。それを活かすために、その護衛役となることは自然な流れでもある。扇原も傑出したボールスキルの持ち主ではあるが、豊川らが見せるスピードに乗ったプレスを回避することは、決して容易いことではない。さらには前線に原が留まっている以上、その近くでボールを失うことは、原を目標として精度の高いボールを入れられる危険性が高まるということでもある。そうした状況が読めてしまうがゆえに、山口は難しい2択を迫られ続けたのだ。ヴィッセルの選手たちは、この京都の狙いを理解できていたように思う。鉄則通り、ロングボールを使いながら、戦場を相手陣内へ遠ざける工夫を見せていた。ここで話は1つ目のヴィッセル対策である「大迫への徹底マーク」に戻る。大迫へのマークを徹底することで、ロングボールの効果を引き下げる。そのフォローに入った武藤と同サイドの酒井の関係を断つ。そしてゲームメーク役の扇原を下げておくことで、前後を分断する。こうした循環こそが、この試合で京都が見せた「ヴィッセル対策」だったが、これらを個々に見た際は、経験済みのものばかりだった。しかしこれらを組み合わせた点が、この試合でヴィッセルの攻撃が嵌り切らなかった理由だ。


 ではヴィッセルは、どのような対応を見せるべきだったのだろう。ここからがミクロな視点での話となる。
1つ目のポイントは「選手起用」だったように思う。この試合で吉田監督が先発起用したのは、横浜FM戦と同じメンバーだった。恐らくこの並びが、今のヴィッセルにおける基本布陣となっているのだろう。しかし前記したような「ヴィッセル対策」に対しては、少しの布陣変更で対処できたように思う。それは4-4-2への変更だ。2トップを大迫と武藤にした上で、この両者の関係は本人たちの判断に委ねる。前後、横並びのいずれでも問題はないだろう。その上で佐々木大樹と宮代をサイドハーフとする。宮代の突破力を考えるともったいない配置ではあるが、サイドに厚みを持たせるという意味では効果はあると思う。鍵となる酒井のサイドには、ボールをつなぐ上で高い能力を持つ佐々木を置く。そして孤立しがちな左サイドハーフに宮代を置き、ここは自分のタイミングで仕掛けることを容認する。その上で初瀬が高い位置を取る際には、連携することを求める。それだけの器用さを、宮代は持っている。そしてボランチは山口と扇原のダブルボランチとして、ここで京都の前線の選手を抑え込む。
 この布陣変更が有効だと思うのは、京都の戦い方が「ヴィッセルの4-1-2-3に特化した対策」であったためだ。ピッチ全体を広く使って、効率的に試合を運ぶという考え方とは対極にある、小さなフィールドでの球際勝負に持ち込むことが京都の狙いであり、それぞれの選手には明確に役割が与えられていたように見えた。であるからこそ、一時的であったとしても、早い時間帯にこうした布陣変更をすることで、京都に混乱を与えることができたように思う。吉田監督は試合終盤になって、3-4-2-1への布陣変更を行ったが、この変更の主語はあくまでもヴィッセルだった。ジェアン パトリッキと汰木康也を活かすための布陣変更であり、京都の狙いを外すものではなかった。
 選手起用に関して、もう少しだけ話を続ける。この試合における大迫と武藤には、何度かシュートチャンスが訪れた。しかしそのいずれも、この試合では決めることができなかった。京都の集中した厚い守りは見事だったが、彼らが本来の調子であれば、得点を奪うことは可能だったように思う。前節の試合終了後、武藤は「相手との接触によって、おそらくろっ骨が折れたと思う」という衝撃のコメントを残した。大迫も負傷明けであり、試合途中にバランスを崩した時、足を気にするそぶりを見せていた。要は両者とも万全ではなかったということだ。それでも彼らが放った存在感は別格だったが、この試合に関して言えば、彼らを交代させる、若しくは役割を変更するという選択肢もあったように思う。
 選手起用という点から見た時、この試合は非常に難しい試合だった。その理由はヴィッセルと京都が似た構造を持つチームであるためだ。「ポゼッションやパスにこだわらず、走力をベースとして、高い位置でのボール奪取を狙う」という、チームを構成する上でベースとなる部分は共通している。順位の上で大きく差がついているのは、ゴール前での決定力の違いによるものだ。そのため、この日の試合はボールの行き来が激しく、ピッチ上の随所で激しい球際の勝負が繰り広げられる「強度の高い」試合となっていた。得点差は最少であり、息をもつかせぬ展開となっていた。こうした試合の場合、両チームのバランスは釣り合っている。例えて言うならば、狭い足場の上に立っているやじろべえのようなものであり、ほんの些細な衝撃によって大きくバランスを崩しかねない。そのため、交代カードを切り難い試合となっていたのだ。それだけが原因ではないと思うが、この試合で吉田監督は交代カードを2枚のみに止めた。ビハインドの状況であったことを考えれば、ここはもう少し積極策を採ってもよかったのかもしれない。ヴィッセルはここ数年間で、選手の質を高めている。以前であれば兎も角、今や他のチームでも十分に出番をつかめそうな選手がベンチに控えている。それだけに3枚の交代カードを残したことは、ややもったいなかったように感じた。
 佐々木との交代でピッチに入ったのは、ジェアン パトリッキだった。この試合におけるパトリッキはチームを救うべく、前向きなプレーを続けていた。相手の裏に出るボールに対して、全力で追う姿も何度か見られるなど、献身的に動く姿は印象的だった。しかし左ウイングに入れたため、クロッサーとしての役割を担ってしまった。ここがミスマッチだったように思う。爆発的なスピードを活かし、相手の裏を狙うプレーが持ち味のパトリッキにとってサイドでのプレーは窮屈であるように思う。加えて言えば、クロスの精度が決して高いわけではないため、中央で相手の裏を狙うプレーに特化させた方が効果的だったのではないだろうか。
 左サイドを入れ替えるのであれば、ベンチに控えていた山内翔という選択肢もあったように思う。京都は1点のリードを守るべく、ゴール前を固めていたが、ボックスの幅で守備組織は構築されていた。これはクロスの到着地点である大迫や武藤に対する警戒であり、クロスの出発点への警戒心は薄かった。であればこそ、配球能力の高い山内を投入する価値はあったように思う。


 山内と同様の理由で、初瀬は最後まで残してもよかったように思う。3バックへの変更に応じて、汰木康也との交代でピッチを後にしたが、この試合でも初瀬は質の高いボールを蹴っていた。ヴィッセルの武器がサイドからのクロスであることを考えれば、そこは徹底しても良かったように思う。
また、この試合ではベンチに控えていた井出遥也も面白い存在になれたように思う。巧く相手の間で動き続け、ボールのつなぎ役になることもできる井出ならば、ペナルティエリア内の密集の中でもチャンスメークできた可能性はあったように思う。

 次に攻撃の組み立てについて考えてみる。これはこの試合に限った話ではないが、ヴィッセルが相手のペナルティエリア付近で体制が整ったとき、既に相手がペナルティエリア内でブロックを形成しているといった場面が散見される。これはヴィッセルの攻撃が遅くなっているというよりは、相手のネガティブトランジションのスピードが上がっていると見るべきだろう。ヴィッセルの攻撃は速いということがライバルたちに知られているため、どのチームも、そこを意識した戦い方を見せるためだ。中でも多いのは、ボール保持時にも後ろの人数を残すという対策だ。これを上回るには、今よりも攻撃速度を上げるということになるのだろうが、精度を保つことを考えた場合、あまり現実的ではないように感じる。であれば、攻撃の方法論を少しだけ変える必要があるのかもしれない。正確に言うと、変えるというよりはパターンを増やすということになる。
 今のヴィッセルに適していると思われるのは「疑似カウンター」だ。「疑似カウンター」の発動条件は、ボールを握った状態で相手を自陣に引き込むことだ。これは相手がハイプレスをかけてくることが条件となるが、ヴィッセルはその状態を作り出しやすい。その理由は、ヴィッセルがロングボールを使うことのできるチームであるためだ。前記したように大迫に対するマークは厳しいが、マテウス トゥーレルや山川、或いは初瀬が最終ラインから大迫を狙うことができれば、これを防ぐために相手がマンツーマン気味にプレスをかけてくる可能性は増す。この状態を作り出した上での話ではあるが、武藤や佐々木、或いは汰木康也といったウイングの選手がキーマンとなる。疑似カウンターの肝は、相手を引き出し、その背後のスペースを使うことだが、中央で大迫が囮のような役割を果たした場合、ウイングの選手がその背後を独力で狙わなければならない。ここで味方の上がりを待ってしまうようなことがあれば、そこまでの仕掛けの意味がなくなってしまう。となると飛び出すタイミングの計り方が重要になるのだが、武藤などはそこに優れた能力を持っている。
 この疑似カウンターはあくまでも1つの案に過ぎないが、重要なのは今のサッカーを維持しつつ、別の攻め方を加えるということだ。これは吉田監督に突きつけられた新しい課題と言えるだろう。

 最後に判定との付き合い方について考えてみる。まず大前提として、この試合がヴィッセルにとってはストレスフルだったことは、まず間違いないだろう。特に大迫はアピアタウィアの執拗なマークにあっており、何度も倒された。前記したペナルティエリアでの接触も、主審の判定はノーファウルだった。想像するに、早い時間帯でアピアタウィは警告を受けており、次のファウルとなると退場処分になる。しかし試合が白熱していただけに、退場処分は下し難い。そうした意識も主審にはあったように思う。極めつけは、前半のPK獲得につながったシーンだ。ここで最初は認められたゴールが、その後の判定で取り消しとなり、続いてVAR検証の結果、PKになるというドタバタ劇があった。映像で見直してみても解り難いのだが、選手たちの気持ちはこの短い間に乱高下したことだろう。その後のPKを決めることができなかったのは、この日大当たりだった相手GKの能力故ではあるとは思うが、いずれにしても大迫本人やヴィッセルのチームメートにとっては、納得感の薄い判定となっていたように思う。
 両チームとも球際に強いチームであったため、主審を務めた飯田淳平氏にとっては、難しい試合だったことだろう。似通った特徴を持つ両チームに対して、判定を正確に下すために飯田主審は少しでも近づいて見ようとしていた。その結果、後半にはヴィッセルのチャンス時に選手と接触してしまうという事象もあった。巧いポジショニングを見せる飯田主審にしては珍しいミスではあったが、そのくらい難しい判定を迫られ続けた試合だったともいえる。
 こうした試合における審判団との正しい向き合い方というものは、なかなか見つけ難い。その意味では同情を禁じ得ないが、やはりヴィッセルの選手には審判との戦いは回避し、冷静にプレーして欲しかった。

 順位的なことを考えれば、勝っておきたかった相手ではあるが、この日の京都は今の順位にいるのが嘘のような粘り強さを見せた。そう考えれば、止むを得なかった結果だったと言えるのかもしれない。
次節は中5日で、名古屋とのアウェイゲームが控えている。シーズン序盤は出遅れた名古屋だが、ここへきて大きく調子を上げている。5月の連戦はリーグの趨勢を定める戦いでもあるため、確実に勝利を積み重ねてほしい。この日の試合を皮切りに始まった8連戦の間では、中5日は今回だけだ。大きく何かを変えることは難しくとも、ブラッシュアップは十分に可能だろう。もう一度ヴィッセルらしい戦いとは何かを、チーム全員で共有し、この連戦を最高の結果で乗り切ってくれるものと期待している。