覆面記者の目

明治安田J1 第5節 vs.札幌 ノエスタ(3/30 14:03)
  • HOME神戸
  • AWAY札幌
  • 神戸
  • 6
  • 3前半0
    3後半1
  • 1
  • 札幌
  • 大迫 勇也(8')
    宮代 大聖(24')
    武藤 嘉紀(43')
    宮代 大聖(49')
    山川 哲史(72')
    武藤 嘉紀(95')
  • 得点者
  • (73')オウンゴール


 試合後、札幌を率いるペトロヴィッチ監督は、「相手(ヴィッセル)が明らかに我々を上回ったゲームだったと思います」という言葉で会見を終えた。柔和な表情とユーモアのある独特の表現でメディアに対応することの多いペトロヴィッチ監督だが、多くの監督と同様に負けず嫌いだ。それを示すエピソードがある。ペトロヴィッチ監督が広島の監督を務めていた2009年、ヴィッセルとの対戦がスコアレスドローに終わったことがある。その試合後、ペトロヴィッチ監督は開口一番、「ファンの皆さんにとって、今日の試合はつまらなかったかもしれない」と口にした。そしてその原因はヴィッセルの守備的な戦い方にあるということを言外に込めながら、試合を振り返った。その年のヴィッセルはなかなか波に乗ることができず、「J1残留」が現実的な目標となっていた。その状況下で守備を固め、失点しないことに重きを置いた戦いを続けていた。これ自体は立派な戦術であり、決して非難されるようなものではない。この年の広島はJ1復帰初年度に4位でフィニッシュし、J1リーグの台風の目となっていた。順位を上げるために、勝点3を欲することは理解できるが、ともすれば相手へのリスペクトを欠いているとも受け取られかねない発言に、ペトロヴィッチ監督の悔しさと自我の強さが滲み出ていたように感じた。
 そんなペトロヴィッチ監督だが、この日の試合に関してはヴィッセルの強さを素直に認める発言が続いた。事実、この日のヴィッセルは相手指揮官にそう言わしめるだけの強さを見せたと言ってもよいだろう。

 42%。これはこの試合におけるヴィッセルのポゼッション率だ。通常、40%前後のポゼッション率であると、ほぼボールを触った感覚はないと言われる。しかしこれは、両チームがイーブンに近い状況で戦った場合だ。事実この試合において、攻撃力で試合を支配し続けたのはヴィッセルであり、札幌は多くの時間を自陣で過ごすことになった。ポゼッション率が試合の趨勢を反映しない好例と言えるだろう。
 こうした試合になった最大の要因は、ヴィッセルの「守備」だ。守備という言葉に鍵括弧をつけたのには理由がある。酒井高徳が様々なメディアで語っているが、今のヴィッセルにおいて「守備」は「攻撃の始まり」であり、「守るための守備」である局面が少ないためだ。この試合でヴィッセルはロングボールを効果的に使い、札幌にボールを持たせる形を作り出した。その上で前線からの効果的なプレスによって札幌の守備陣を追い込み、ボールを蹴り出さざるを得ない状況に追い込んだ。そしてそのボールをミドルサードからアタッキングサードにかけてのエリアで奪い返すという流れを作り出し、これを連続した。これこそが昨季から積み上げてきた戦い方だ。
 「守備」というのはボール非保持時のアクションを指しているわけだが、前記したようにヴィッセルは「意図的に」ボール非保持の状態を作り出す。長らく日本ではボール保持側が「攻撃側」という見方が一般的であったため、ボール非保持時には「守備側」という意識が強い。もちろんボールを持っていなければゴールは奪えないため、そうした考え方が全て間違えているというわけではないが、サッカーの進化に伴い、攻守の境界線がより曖昧になっていく中で、これまでのような単純な図式は成り立たなくなっている。今のヴィッセルの戦い方を理解する上で、最も大事なことはベクトルを相手ゴール方向に向け続けた上で、相手を思い通りにコントロールすることであり、ボール保持の有無によってアクションが異なっているだけという見方だ。そうした視座に立った時、この試合では概ね思い通りに試合を運ぶことができたと言えるだろう。

 ヴィッセルにとって巧く運ぶことのできた試合ではあったが、それを支えたのは選手のコンディションであったように思う。試合での走行距離を見てもそれは明らかだ。マテウス トゥーレル、山川哲史、酒井、山口蛍、宮代大聖、武藤嘉紀と6名もの選手が10km以上の走行距離を記録している。さらに酒井、山口、武藤はスプリント回数でも20回を超えており、彼らが試合を通じて走り切っていたことが判る。これに対し札幌で走行距離が10kmを超えていたのは4名に留まっており、スプリント回数で20回を超えた選手はいなかった。ここで注目すべきは、ヴィッセルはサイドバックの酒井から前線の武藤まで全てのポジションの選手が動き続けたということだ。これに対し札幌で走っていたのは最終ラインとボランチの選手だ。これだけを見ても、ヴィッセルが攻め続け、札幌はそれへの対処に追われ続けたことが判る。前節からの2週間。巧くコンディション調整を行ったスタッフの手腕は、評価されるべきだろう。

 昨日の試合後、Viber公開トークで配信した速報版の中で「チーム作りの勝負」と記した。ヴィッセルが昨季からの継続の中でチームを作っていることは周知の事実だが、ペトロヴィッチ監督もまた、継続を重視している。3-4-2-1を基本布陣として、ボール保持時には両ウイングバックを前線まで進出させ、ボランチの1枚が最終ラインに落ちる形で4-1-5へと変化する。そしてボール非保持時にはウイングバックを最終ラインまで下げ、ボランチの両脇には2シャドーが落ちて5-4-1にして守りを固める。今では多くのチームが採用している可変システムを一般化させたペトロヴィッチ監督の特徴的な戦い方は、ペトロヴィッチ監督の愛称を冠して「ミシャ式」とも呼ばれている。攻守両面において厚みを持たせることが狙いではあるが、状況に応じて選手に求められる動きが変わるため、戦術の浸透に時間を要する。昨季は金子拓郎(ザグレブ)、小柏剛(FC東京)や田中俊汰(C大阪)といった選手たちがこのシステムを理解した上で躍動していたが、こうした選手たちの移籍に伴い、チームがリセットされている印象を受けた。それでもなお、自らのやり方を貫くのはペトロヴィッチ監督らしいとも言えるが、昨季からの積み上げでチームが構成されているヴィッセルに対して分が悪かったことは事実だ。
 継続とは言っても、ヴィッセルも昨季と全く同じ戦いをしているわけではない。新戦力を加え、昨季には見られなかった力を加えている。根幹となる部分は継続しつつも、新しい形を作り出しているヴィッセルは「進化」を続けていると言っても差し支えないだろう。その象徴がこの試合で躍動した広瀬陸斗、そして宮代だ。昨季は右サイドの攻撃が中心だったヴィッセルにおいて、彼らは左サイドからの攻撃を活性化している。汰木康也や佐々木大樹、井出遥也の負傷離脱によって生まれた形ではあるが、彼らが戦列に復帰しても出場機会を掴めないのではと思ってしまうほど、この両選手には勢いがある。昨季のレギュラーメンバーを主力としつつ、新しい風を取り入れているヴィッセルと、リセット後の再起動中の札幌というチームの成熟度の差が、そのままスコアに表れた試合だったように思う。

 ヴィッセルに流れを大きく引き寄せたのはエースの一撃だった。8分にトゥーレルからのロングボールに対して、中央右で大迫勇也が頭で落とした。大迫には岡村大八がマークについていたが、これに競り勝った。このボールを受けたのは、大迫のやや外側に位置していた武藤だった。武藤には中村桐耶がマークについていたが、寄せは甘く、武藤は正確にペナルティエリア前に頭で落とした。ここに大迫が走り込み、落ち着いてゴール左へ蹴りこんだ。最初にトゥーレルからのボールを落とした後、大迫は迷いなくゴール前に入っていったことで、競り合った岡村を完全に置き去りにしている。これは武藤への信頼感がなせる業だとは思うが、同時に競り合いの後、瞬間的に見せた大迫のスピードにも注目してほしい。一歩目でトップスピードに乗ったのかと錯覚するような俊敏さを、大迫は見せた。オフのトレーニングでスピード強化に成功したという大迫だが、まだその能力は底を見せていない。恐るべき才能だ。シュートはコースも空いていたが、バウンドしたボールの落ち際を狙った見事なものだった。こうした低いバウンドの場合、落下状態にあるボールを蹴るのが、ボールを抑えるコツだ。大迫の技術ならば問題ないとは思うが、上昇状態にあるボールを蹴った場合、打ち上げてしまう可能性が増す。


 この大迫のゴールシーンにおいて見逃すことができないのは、武藤と大迫の間に位置していた宮代の動きだ。武藤が落としたボールは宮代の足もとに落ちたのだが、これを宮代は僅かに触れるだけに留めた。宮代がシュートを狙うこともできた可能性はあるが、宮代には馬場晴也がついており、ブロックされる可能性があった。加えて相手GKがシュート線上に入っていたことを思えば、方向を固定するに留めた宮代の判断は正しかった。この時宮代が急に動きを止めたため、マークしていた馬場も動きを止めてしまい、背後からくる大迫には全く反応できなくなっていた。宮代は背後から大迫が走りこんでいたことを感じていたのかもしれないが、この3選手の連携によって生まれたこのゴールは、今後に向けての大いなる福音というべきだろう。


 今季ホームゲーム3試合目にして生まれたノエビアスタジアム神戸での初ゴールは、エースの「らしさ」に溢れたゴールだったこともあり、スタジアムの熱を一気に高めた。その熱も冷めやらない24分に追加点が生まれた。決めたのは宮代だった。GKの前川黛也のロングフィードを左タッチライン際で受けたのは、左ウイングで先発した広瀬だった。広瀬はアタッキングサードの入り口付近でこのボールを受け、背後から走ってきた宮代とのワンツーで、宮代の走路上に正確なパスを出した。これを持ち込んだ宮代は、マークについていた高尾瑠を振り切って、ゴール右隅へシュートを蹴りこんだ。
 新戦力の二人で完結したこのゴールには、両選手の高い技術が詰まっていた。前川からのボールを受けた広瀬はタッチライン上に足を置き、ボールを巧くコントロールした。前川からのボールはやや高かったのだが、胸を突き出すようにして受けることで、ボールを小さく上げた。こうした場面ではボールに対しては身体を引いて勢いを殺そうとすることが多いが、その場合、足もとの深い位置に入ってしまい、その後のコントロールが難しくなる。逆に身体を突き出して、小さく上げてしまうことで、次の動作に入りやすくなる。文字にすると普通のプレーのように思われるかもしれないが、スピードのあるボールに対して半身で動きながら、咄嗟にこの判断を下すことは、誰にでもできるものではない。派手さはないかもしれないが、広瀬が高いテクニックの持ち主であることを証明するようなプレーだった。さらに宮代の走路上に出したスルーパスは、外に逃げていくような回転をかけることで、高尾から遠い位置にボールを動かしている。宮代と高尾の位置関係を冷静に見た上で、両選手の走路を正確に予測した素晴らしいパスだった。
 そしてこれをゴールに結びつけた宮代だが、前川がボールを蹴った時、宮代はハーフウェーライン付近にいた。そして広瀬がボールを受けた際は、ゆっくりと近寄り、後ろでボールを受け、そのまま広瀬に戻した。これが宮代の前にいた高尾をかわすための仕掛けだった。もし宮代が広瀬からのボールを受けて、そのまま突っ込む、或いは広瀬の前を走るように動いた場合は、高尾が邪魔になった筈だ。宮代がゆっくりと広瀬に近づいたのは、高尾の反応を見るためでもあったのだろう。そして広瀬に戻した瞬間、高尾が広瀬の方に向かうべく体重を移動したのを見て、一気にスピードを上げた。これによって優位な位置にいたはずの高尾は、僅かに後れを取った。そして並走してきた高尾を、ペナルティエリアの中での切り返しで振り切った。この時、宮代は急停止するのと同時に、外側の足で高尾の足もとを通すように切り返している。これはシュートコースから逆算したプレーであり、右足の振り幅も小さいため、シュートコース上に立っていた岡村は足を出すことができなかった。シュートは力ではなく、タイミングとコースこそが重要であることを教えてくれる見事なシュートだった。
 この日の宮代は、これだけでは終わらなかった。49分に扇原貴宏が蹴った左コーナーキックは、中央に入っていた馬場の足もとに落ちたが、馬場がこれを空振りし、軸足に当たった。このボールが、ゴール前で後ろ向きに立っていた宮代の胸付近へのパスのような格好になったのだが、宮代はこれを胸でトラップし、そのまま身体を反転させながら左足でゴールに蹴りこんだ。このゴールシーンでは、背後から駒井善成に抱きかかえられるように寄せられていたが、無理にそれを剝がそうとしないことで、駒井の動きをコントロールした。もしここで無理に剥がそうとしていたら、駒井が倒れ、ファウルを取られていた可能性が高い。相手をコントロール下に置くための動作は、相手の懐に入り込む方法もあることを示した。相手GKにとっては味方である駒井がブラインドになり、宮代の動きは見えていなかったのだろう。
 自身初となるJ1リーグでの1試合複数得点を挙げた宮代だが、試合を重ねるごとに大迫や武藤との連携は高まっている。その最大の要因は、距離感がつかめた点にあるように思う。前所属の川崎Fはボールをつなぐスタイルだが、選手間の距離は近い。風間八宏前監督が仕込んだ「球際のテクニック」を活かすスタイルのためかもしれないが、密集の中で細かくボールをつなぐプレーが印象的だ。これに対して、ヴィッセルには逆の思想がある。ボールサイドに近寄って密集を作り出すことは、不確定要素を高めるという考え方だ。球際は当事者が責任を持って対処することで、周囲の選手はその後起きることを予測しながら動く。そのため、ボールサイドに密集することは少ない。「近寄るのではなく、離れることがフォローになる」という考え方は、アンドレス イニエスタ在籍時に根付いた思想でもある。早くもこの考え方に慣れてきた宮代は、武藤や大迫との距離感が改善し、ボールに絡む機会が増えている。宮代自身が球際での強さやテクニックを持っているため、動きやすさも感じているのではないだろうか。この日の宮代は至る所で領域展開を発動し、その結界の中に札幌守備陣を閉じ込めているかのような見事なプレーぶりだった。

 この試合で札幌が放ったシュートは5本。その内、枠内シュートを1本のみに抑え切ったヴィッセルではあるが、前川を含めた最終ラインからのロングボールは効果的だった。札幌を押し込み続けたことで、プレッシャーが弱かったことも影響しているが、多くのロングボールが局面を反転させ、その後の連続攻撃につなげる効果をもたらしていた。そこで成長を感じさせてくれたのが、GKの前川だった。この試合でも何度かあったのだが、外に流れていくボールに対して、前川は身体を捻りながら蹴ることで、タッチラインを割ることなく、ボールを縦に入れる技術を見せた。以前は外に流れていくボールを蹴った際は、身体を捻っていなかったため、多くがそのままタッチラインを割っていたが、この技術を習得したことでチームとしてのプレーに連続性をもたらすことができるようになった。今や日本代表の常連になりつつある前川だが、自信をもってプレーできているように見える。以前は不安がそのままプレーに表れているように感じたものだが、今やその面影は完全に払しょくされた。このまま研鑽を積み、日本代表の絶対的守護神を目指してほしい。

 札幌の攻撃を完全に封じ込めた守備陣だが、自陣ペナルティエリア付近でも落ち着いたプレーを見せた。今季、絶好調のトゥーレルと山川のコンビは札幌にチャンスらしいチャンスも与えず、それぞれが横に広いエリアもカバーするなど、安定感のあるプレーが目立った。加えた山川は、72分に2年ぶりとなるゴールも挙げる活躍ぶりだった。初瀬亮が蹴った左コーナーキックに対して、中央からニア側に身体を移しながら、頭でまっすぐにゴールに流し込んだ。マークしていた駒井との身長差を考えればミスマッチだったとも言えるが、しっかりと頭に当てることで、正確に枠をとらえた。誰もが認める真面目な性格の持ち主で、チームメイトからの信頼も厚い山川のゴールは、チームに笑顔をもたらしていた。

 守備の安定感という意味で言うと、見逃すことができないのは扇原の動きだ。アンカーに入っている扇原が広いエリアを的確にカバーしていることで、守備陣はエリアを限定して守ることが可能になっている。高さもあり、ボールを捌く能力も高い扇原の存在は、今やヴィッセルにとって欠くことのできないものとなっている。それだけに、無駄な警告には注意してもらいたい。
 その扇原とポジション争いをしている井手口陽介だが、個人的な感想としてはアンカーよりは前でのプレーを見てみたいと思う。運動量を武器に、広いエリアを守ることができるという点は扇原と似通っているのだが、井手口はそこから大きく展開することが少ないように思うためだ。今のヴィッセルにおけるアンカーには、全体を動かすことが求められている。しかし井手口はどちらかと言えば、細かなパス交換に強みがあるように思われる。その意味ではインサイドハーフの位置で守備的な役割を担う方が、井手口の良さは発揮されるのではないだろうか。

 この試合では、勝利という事象以外にも収穫があった。それは菊池流帆の復活と山内翔のデビューだ。菊池は昨季の開幕直後に受傷、1年近くに及ぶ長いリハビリを乗り越えての復活だった。この日は時間も少なく、菊池のプレー機会そのものは少なかったが、その中でも6点目をアシストするなど、存在感を放った。まずは無事にJ1のピッチに戻ってきたことを喜びたい。前記したようにトゥーレルと山川はコンビネーションも良く、昨季結果を残しているだけに、レギュラーの座を奪回するのは容易ではないだろう。しかしそれでも菊池ならば、必ず這い上がってくる。そんな期待を抱かせる闘将の復活は、ヴィッセルにさらなる勢いをもたらしてくれる。


 そしてルーキーの山内だが、こちらはボールに絡む機会も多く、面白いプレーを見ることができた。筑波大学では不動のボランチとしてチームをコントロールしてきた山内だが、この試合ではインサイドハーフに入った。試合後、それも想定内だったことを明かしたが、無難なデビュー戦だったように思う。学生時代とは異なり「使われる側」でのプレーではあったが、我武者羅に行き過ぎることもなく、時には先輩を使おうとするなど、度胸も備わっていることを見せた。そして一度はミドルレンジから素晴らしいシュートを放った。これは枠をとらえていたが、惜しくも相手GKにセーブされ、プロ初ゴールはならなかった。しかし軸足を飛ばしながら、強いボールで確実に枠をとらえることはできており、技術の確かさを窺わせた。4年前、ヴィッセルアカデミーを卒業する際、「必ずここに帰ってきます」と宣言した通り、一回り逞しくなった姿を見せてくれた山内の次のプレーにも、大いに期待したい。


 ホーム初勝利によって順位も3位へと上げたヴィッセルだが、この日の大勝によって得失点差はJ1リーグトップに立った。次節は中3日での鳥栖戦だ。札幌同様、まだ波に乗れていない鳥栖が相手だけに、しっかりと得点を奪い、勝利を挙げてほしい。そして次節から再びの中3日で行われる横浜FMとの大一番に、万全の態勢で臨んでもらいたい。

今日の一番星
[武藤嘉紀選手]

同じ2得点の宮代とどちらにするか最後まで迷ったが、試合を通じて攻守に奔走し、圧倒的な運動量を披露した武藤を選出した。本編中でも触れたが、1点目のシーンでは頭でゴール正面に落とし、大迫のゴールを演出した。そして43分、右サイドで広瀬と扇原が二人で相手を追い込み、ボールを奪取。扇原からボールを受けた宮代のニアの大迫を狙ったボールが相手に当たり、逆サイドへこぼれたところに走り込み、ボールを受けた。そして背後から戻ったマーカーの中村を切り返しでかわし、落ち着いてゴールに流し込んだ。この場面では相手GKの位置を確認して止まったことで、中村とGKを同一線上に置くことに成功している。そして95分にはトドメとなる得点も挙げている。左サイドから初瀬が蹴ったフリーキックのボールは、ファーサイドで菊池が頭で折り返した。これが中央に詰めていた飯野七聖の背中に当たりわずかに弾道が変わったが、ニアサイドに飛び込んできた武藤は慌てることなく、このボールをまっすぐにゴールに押し込んだ。またこの日の武藤は、守備でも魅せた。21分に酒井が自陣の深い位置でトラップミスし、ボールが後ろにこぼれたところに詰めていたのは武藤だった。この場面では左ウイングバックの菅大輝が詰めていただけに、チームを救う守備だった。この時点で得点は1-0であり、ここで失点していたら試合の流れは異なるものになっていた可能性もあるだけに、価値のある守備だった。驚くべきはその守備範囲だ。酒井の場所にボールが出る直前、武藤はセンターサークル付近でボールホルダーの駒井を追っていたのだ。駒井が後ろにボールを下げたのに合わせて、武藤も2列目の位置にセットし直したが、酒井がトラップした瞬間には、その背後に詰められる位置まで下がっていた。映像で見直してみると、札幌の選手が逆サイドから菅を狙ったボールを蹴る際、既に武藤は走り出していた。走力を活かして広大なエリアを守り続け、スピードを活かしてスペースを埋め続ける武藤の活躍は、ヴィッセルを支えている。ゴール後にはスタンドのサポーターの心を射抜くようなガンポーズを決めた「陸の王者」に文句なしの一番星。