覆面記者の目

J1 第8節 vs.札幌 札幌ド(8/2 14:03)
  • HOME札幌
  • AWAY神戸
  • 札幌
  • 2
  • 1前半2
    1後半1
  • 3
  • 神戸
  • 荒野 拓馬(29')
    荒野 拓馬(48')
  • 得点者
  • (31')山口 蛍
    (45')ドウグラス
    (62')山口 蛍

非常に価値のある勝利だったと思う。その理由は、昨日の試合直後にViber公開トーク内で配信した速報版において書いた通り、所謂「ヴィッセルらしさ」が表現されなくとも、アウェイで勝利を挙げたからだ。
 ここでいう「ヴィッセルらしさ」というのは、ゲームの主導権を握るという意味でもある。札幌がマンツーマンディフェンスで、ヴィッセルのビルドアップを阻害してくるであろうことは想定内だったようだ。トルステン フィンク監督が試合後の会見で「ロングボールを使うことは、プランの中に入っていた」と語ったことからも、それは明らかだ。しかし、その形を作り出すまでに25分間かかったとフィンク監督が振り返ったように、ヴィッセルがある程度思い通りにプレーできるようになるまでに時間を要したことも、また事実だ。札幌の思い切りのよいプレーの前に、ヴィッセルが自分たちのペースをつかめなかったことは、今後への反省点と言える。しかしそんな中でも新しい方策と際立った技術を駆使し、勝点3を奪ったことは、今後への自信とすべきだろう。

 今後もヴィッセルにとっては、難しい戦いが続くだろう。それはヴィッセルが「対策されるチーム」になったためだ。かつてのヴィッセルは「対策するチーム」だった。相手のストロングポイントを消し、膠着状態を作り出す。そして隙を見つけて得点を奪い、それを全員で守り抜く。この、かつて自分たちがやっていたことをやられる立場になっているのだ。それは天皇杯やFUJI XEROX SUPER CUP2020(以下FXSC)というタイトルを獲得したためではない。ここ数年間かけて培ってきたサッカーの完成度と、それを高いレベルで遂行する選手が揃っているためだ。札幌を率いるペトロヴィッチ監督も試合前から「ヴィッセルは強いチーム。優れた選手に個性を発揮させないための工夫が必要になる」と発言していた。そして試合後には「強いヴィッセルに対して、リスクのある戦いを挑んだ」と語った。これこそが「対策されるチーム」ということだ。
 以前にも書いたことがあるが、柔道の高段者同士が「負けない」という戦い方をした場合、試合の決着はつかないという。実力差が明らかな場合はこの限りではないが、優れた実力者が「負けない」ことに徹した場合、なかなか倒すことはできないそうだ。それを防ぐため、「勝ち」に消極的な選手には警告が与えられる。
 これをサッカーに置き換えた時、ヴィッセルを待ち受ける戦いが難しいことが解る。J1のチームでプレーする選手というのは、柔道でいえば高段者だ。その彼らがヴィッセルを倒すのではなく、ヴィッセルのやりたいことを阻害するということに徹した場合、それを上回るというのは、相当な難事だ。そしてサッカーには、柔道と違い「引き分け狙い」という戦い方も存在する。今季の試合を振り返っても、ヴィッセルと正面からやりあったチームは少ない。多くのチームが攻撃よりも守備を重視し、ヴィッセルに得点を与えないことを優先している。そしてこの試合も同様だった。だからこそ、その裏をかくようなロングボールを使っての勝利には価値があり、それを繰り出すまでの時間が反省点なのだ。


 この試合で序盤に主導権を握ったのは、間違いなく札幌だった。札幌はトレーニング量を感じる、よく鍛えられたチームだった。このチームを作る上では、ペトロヴィッチ監督の力が大きかったように思う。ここでいう力というのは、チームを掌握する力だ。札幌の選手がインタビューに答える際、「ミシャさん(ペトロヴィッチ監督)が・・・」という表現が頻出する。そしてその言葉の端々から、ペトロヴィッチ監督への絶対的な信頼感が伝わってくる。この強烈な信頼があるからこそ、札幌の選手はペトロヴィッチ監督の指示に対して忠実だ。どのチームでも、監督の指示に対して選手は忠実ではあると思うが、札幌におけるそれは、もう少し強いニュアンスを感じる。そのため得点が動いた後や、交代選手が登場した時にも一切の揺らぎが感じられなかった。この札幌の選手が見せた直向きさこそが、この試合におけるヴィッセルの最大の敵だったとも言えるだろう。

 札幌の布陣は並びとしては3-4-3のような形になっていたが、FW登録の選手はそこには一人もいなかった。前線には駒井義成とチャナティップというスピード豊かな選手を配し、中央には人に強くいける荒野拓馬を置いていた。札幌は前節の横浜FM戦でも、やはりこの0トップを採用し、このディフェンディングチャンピオンを破っている。横浜FMと同じく、ポゼッションに特徴のあるヴィッセルには、同じ形で戦おうということだったのだろう。ペトロヴィッチ監督のサッカーは、サイドに相手を広げながら、前に人を増やしていき、相手陣内で「数的優位」を作り出すものではあるが、本職のFWではなく、スピードと突破力のある中盤の選手を前に置いたため、ヴィッセルの守備ラインを少しだけ前に引き出したかったようだ。そうすることで、ヴィッセルの守備ラインの裏側にスペースを作り出し、高い位置でボールを奪って一気に裏を取るというのが、基本戦略だったように思う。
 それを実現するために、札幌は2段構えの戦略を採用していた。最初のポイントはセルジ サンペールだ。アンカーの位置に入ったサンペールに対しては、基本的には中央の荒野が見つつも、ヴィッセルがサイドに展開した際は前線の3人がスライドしながら、サンペールのマークを受け渡していた。サンペールが自由にボールを持った時、ヴィッセルの展開は縦と横、そして斜めとピッチを広く使いだす。こうなると札幌の選手は、その対応で振り回され、ピッチ上の様々な箇所にギャップが生まれる。こうなるとヴィッセルには、スペースをピンポイントで使うことのできるアンドレス イニエスタの存在があるため、厄介なことになる。そうさせないためにも、まずはサンペールの自由を奪って、ボールの動き方を縦と横に単純化したかったのだろう。
 そして2つ目のポイントは、ヴィッセルの前線に対するマンマークだ。ドウグラスには田中駿汰、古橋亨梧には進藤亮佑、イニエスタには深井一希、そして山口蛍には高嶺朋樹と決めた上で、徹底してマンマークさせ、1対1の局面に落とし込もうとしていた。

 
 こうした2つの戦略を組み合わせたことで、ヴィッセルのビルドアップはGKの飯倉大樹を加えた最終ラインに委ねられることになった。そして飯倉にボールが入った瞬間、中央の荒野がプレスをかけることで、ヴィッセルの最終ラインと飯倉との間を切ろうとした。ここで見事な対応を見せたのが、センターバックの大﨑玲央だった。窮屈な時間帯が続く中でも、最終ラインから声を出し、単純に蹴り出さないように周りに指示を送り続けていた。最初は左センターバックのトーマス フェルマーレンを使って、そこから展開しようとしたが、フェルマーレンには突破力のあるルーカス フェルナンデスが付いているのを見て、ある程度札幌ペースになることを覚悟した上で、最終ラインでボールを動かし続けた。そして20分過ぎに札幌の動きに疲れが見え始めたところで、サンペールとポジションを入れ替えることで荒野のマークを外し、サンペールに低い位置での自由を確保した。相手の狙いを敢えて受け入れるのは、失点に直結しやすいセンターバックとしては勇気のいる行動だが、そこに踏み出したことで、ヴィッセルはある程度ペースを取り戻すことができた。77分に渡部博文と交代するまで、大﨑は高い緊張感の中で、ヴィッセルの守備を牽引した。文字通りのディフェンスリーダーとして、申し分のない存在へと成長している。

 札幌が戦略によって難しいプレーを強いられたのは、GKの飯倉も同様だった。最終ラインから飯倉にボールが戻った瞬間、荒野がプレスをかけていったことは既に述べた。大きな負担を背負った飯倉は、持ち前のキープ力で相手をいなしていたが、ヴィッセルの守備ラインがいつもよりは低い位置にあったため、スペースを見つけるのに苦労していた。この試合では飯倉にしては珍しく、飛び出しのタイミングがずれる場面も見られたが、この守り方とも関係があったのだろう。それでも果敢にボールを握ってくれる飯倉の存在は、今のヴィッセルのサッカーには欠かせない。縦パスが相手にわたってしまう場面もあったが、それを嫌ってセーフティーなプレーをするのでは、ヴィッセルの持ち味は発揮できない。ピンチを迎えることもあるかもしれないが、それ以上に飯倉が作り出してくれるチャンスの数は多い。シュートストップにおいても、前半チャナティップが右に抜けだした場面では、巧くチャナティップを追い込む動きでシュートを外させた。早い時間帯だっただけに、このプレーには大きな価値があった。飯倉には、今後も思い切りのいいプレーを期待している。

 中盤からの展開が難しい中、ヴィッセルにとって武器となるのがフェルマーレンのはずだった。しかしこの試合では、フェルマーレンはセーフティーなプレーに徹さざるを得なくなった。その理由は11分の選手交代だ。アクシデントによって古橋から小川慶治朗へと選手交代が行われた。2トップの1角である古橋だが、左サイドに流れたときはイニエスタや酒井高徳との連携で攻撃の起点ともなる。その古橋がピッチを去ったため、チームのバランスは自ずと変わってくる。酒井が上がっても、そこではイニエスタとの二人の関係で勝負しなければならなくなった。さらにこのサイドは、札幌の狙い目でもあった。前記したように突破力のあるルーカス フェルナンデスが深い位置を取り、そこにボールスキルの高い駒井が流れてくる。ここで起点を作り、チャナティップを中央に近い位置に呼び込むのが札幌の狙いであったため、フェルマーレンはリスクを最小限にする必要に迫られたのだ。札幌の選手との力関係でいえば、フェルマーレンならばドリブルで上がっていき、高い位置からビルドアップすることも可能だったかもしれないが、万が一途中でボールを失えば、一気にルーカス フェルナンデスと駒井に攻撃を組み立てられてしまう。フェルマーレンにとっては我慢を強いられる試合となった。前節、戦列に復帰したフェルマーレンだが、トップフォームを取り戻すには、もう少しの時間が必要なようだ。この試合で最初に喫した失点は、フェルマーレンのミスが原因となった。29分に左から高嶺が入れたクロスを頭でクリアしようとしたところ、これがヒットせず、ペナルティエリア内に走りこんでいた荒野の前にこぼれてしまった。荒野も予想外のボールだったため、ミートしたわけではなかったが、それが幸いし、飯倉の逆をつくようなボールとなった。フェルマーレンとしては痛恨のミスだったが、そのまま終わらせないところが超一流選手たる所以だ。直後の31分、フェルマーレンが自陣から前線のドウグラスをめがけたボールは正確無比なコントロールで、これをドウグラスが巧く落とし、山口の同点弾へとつながった。そして何よりも、その後は危なげのない守りを見せ続けた。88分には、途中交代で登場した金子拓郎がペナルティエリア内でターンしたところ、見事なスライディングでこれを潰した。このシーンなどは映像で見直してみると、金子の動きを制御する名人芸であり、金子に足はかかっていない。ファウルを取られるのであれば、寧ろ金子のシミュレーションだった。酒井や小川との連携で、最後まで守り続けたフェルマーレンの完全復活は近いことを印象付ける試合だった。

 古橋に代わって、急遽登場した小川だが、守備面での貢献が大きかった。持ち前の走力を活かし、ヴィッセルの左サイドの秩序を保ち続けた。それによって時間経過とともに酒井が上がる回数も増え、決勝点を生み出したことを思えば、小川はよくやったといえるだろう。攻撃面ではボールが足につかない場面も散見されたが、最後まで走力を活かして、できることを忠実にやる小川の存在は、チームにとって大きな意味を持っている。イニエスタとのパス交換では、浮き球を使うなど、プレーの幅が広がっていることも感じさせてくれた。かつての期待感と性質は異なっているかもしれないが、全てのヴィッセルサポーターが小川を見る目は特別だ。アカデミー出身の主力選手として、まだまだ活躍してもらわなければ困る存在でもある。


 試合を決定づけた要素が、ロングボールであったことは、冒頭で記した。そのロングボールを使うことができたのは、ドウグラスの存在があればこそだ。前記した最初の得点の場面もそうだったが、マッチアップした田中に対して完全に優位を保ち続けた。マンマークを採用している札幌にとっては、ここが肝だった。田中も必死にドウグラスを抑えようとしていたが、ロングボールに対する打点の高さ、落下地点を見つけるスピードなど、全ての面で後手を踏んでいた感は否めない。イニエスタやフェルマーレンといった正確なロングフィードを蹴ることのできる選手に対して、それを引き出すことのできるドウグラスは、この部分においては対になっている。そしてドウグラスは、自身のシュート技術も惜しみなく披露した。前半終了間際、西大伍からのボールに対して、逆側から進藤が寄せてきているのを確認し、咄嗟に左足に切り替え、倒れこみながらもボールをコントロールして流し込んだ。改めて得点能力の高さを示したドウグラスだが、この試合では比較的低い位置でのプレーが多かったため、スペースが確保できていたことも大きかったのだろう。この試合は、ドウグラスの使い方を考える上でターニングポイントとなるかもしれない。

 そのドウグラスの得点に関して見逃すことができないのが、アシストした西のプレーだ。イニエスタからの斜めのロングフィードを受ける時、見事に足の力を抜いて次に蹴り出す方向にボールを収めている。この動作だけで、マークしてきた菅大輝を置き去りにした。これを事も無げにやってしまう西の技術の高さは相当なものだ。そして何よりも、ペナルティエリア内での落ち着きには舌を巻いた。普通であればシュートに行く場面だった。追ってきた菅は間に合っておらず、戻ってきていた高嶺も完全に遅れていただけに、西の技術ならば十分にシュートコースも見えていただろう。しかしそこでさらに確率の高いドウグラスを見つけることができるのは、西の安定したメンタルと視野の広さがあればこそだ。天才肌の西らしいプレーだった。


 西にロングフィードを届けたイニエスタは、この試合でも異次元のプレーを連発した。このロングフィードを蹴るとき、イニエスタのポジションは自陣センターサークル付近だった。そこから右サイドの高い位置の西が見えて、なおかつそこにピンポイントで蹴ることができる選手など、世界中を見渡しても、そういるものではない。この試合で札幌の選手は、イニエスタがボールを持った時はパスの受け手となる選手との距離を詰めることを徹底していたが、あれほどの距離がある場合、それをしていなくとも無理はないだろう。イニエスタにとっては、ピッチ上の全てがパスコースであり、距離が精度に影響しないのだろう。シュートチャンスを外した時、悔しさを隠そうともしないように、闘争心も見せる世界最高峰のこのプレーヤーは、ヴィッセルでの出場50試合目となった試合を、見事な勝利で飾った。

 この試合で、ヴィッセルはFXCS以来となる布陣を組んだ。これは戦前にフィンク監督が示唆したように「ベストメンバー」と呼べるものではあったが、まだFXCSの時点のコンディションには戻っていない。試合後、山口は「準備してきたことがなかなか発揮できず、相手にボールを持たせてしまった」と反省の弁を口にしていたが、これは前記したように試合の入り方とも関係がある。ヴィッセルの技術に問題があったわけではなく、札幌の勢いのある入り方の前に、リズムをつかむことができなかったためだ。どんな競技にも言えることだが、自分たちの技術を発揮するためには、自分たちのペースで試合を進めることが必要だ。そしてペースを握るためには、自分たちのリズムでプレーを続けなければならない。前記したように、今や「対策されるチーム」となったヴィッセルに対して、今後も多くのチームはヴィッセルのリズムを崩すべく対策をしてくるだろう。そんな中で自分たちのリズムを如何にしてつかみ、ペースを握るのか。これは「引いた相手を崩す」といったメソッドの前に解決していくべき問題でもある。

 見事な勝利ではあったが、最後に一つだけ苦言を呈しておきたい。それはサンペールのプレーだ。39分にサンペールは戻りながら、前を行く高嶺に対して肘を入れていた。それまでに執拗なマークにあい、思うようなプレーができずイラついていたのだろうが、あれは不要なプレーだった。主審には見えていなかったためファウルとはならなかったが、場合によってはカードを受けていた可能性もあるプレーだ。ヴィッセルの心臓部であるサンペールに対しては、悪質ともいえるファウルで止めに来る選手も多く、フラストレーションが溜まる気持ちは理解できる。しかしそれをこらえてこそ、チームの中心選手であることを忘れてほしくない。どのような経緯があったにせよ、審判の心証を悪くしてしまうと、それはサンペール自身に跳ね返ってくる。

 約4分の1にあたる8節を消化して、ヴィッセルは9位に留まっている。とはいえ2位のC大阪との勝点差は5と、上位との差はそれほど大きくない。川崎Fが頭一つ抜け出している感はあるが、今季のレギュレーションを考えれば、勝負はまだ先だ。今は上位が見える位置を保ちつつ、着実にチーム力を高めていかなければならない。ここで筆者が期待しているのが郷家友太と安井拓也だ。この試合では途中出場ではあったが、両者とも巧く試合に入り、与えられた役割をしっかりとこなした。両者ともレギュラー争いに割って入るだけの実力は備わっている。あとは規律を守りつつ、どこまで自分を発揮できるか。新しい個性が加わることは、チームの幅を広げることと同義だ。この先、どのような形で出場機会が訪れるかは判らないが、常在戦場の気持ちを忘れず、自分がチームに何を与えることができるかを考えてほしい。
 次節、仙台をホームに迎え撃つ際には、さらに幅を広げたヴィッセルを見ることができるものと楽しみにしている。

今日の一番星
[山口蛍選手]

筆者がいかに捻くれ者であっても、この試合に関しては山口以外の選手を選ぶことはできない。試合を通じて、クレバーな部分と高い技術を存分に発揮し続けた。試合後、テレビのインタビューの中でフィンク監督は山口について「右ウイング」という表現を使ったが、山口のポジションは右のシャドーストライカーのような位置を指示されていたのだろう。そこで本文中にも書いたように、高嶺のマークを受け続けたわけだが、このマンマークを嫌うのではなく、逆手に取ったプレーで得点を奪った。高嶺を引き出し、その裏を取る動きだ。山口はその動きの質だけで、相手を振り回すことができる。だからこそ1点目のシーンでは最初ドウグラスの方へ寄る姿勢を見せ、高嶺がボールに釣られた瞬間、逆サイドにポジションを移しており、シュートを打つシーンではプレッシャーを受けないようにしていた。決勝点のシーンでは、既に札幌のマークは緩んでおり、高嶺との距離は離れていたが、左サイドでボールが展開されている際は動かず、前が空くのを待って走り出している。この駆け引きによって山口は、シュートシーンを自ら作り出したともいえる。シュートそのものも、ダイレクトで打つことによって、相手GKに対応する時間を与えていない。これは言うほど簡単なプレーではなく、山口が高い技術を持っていることの証でもある。試合後、勝利に浮かれることなく反省の弁を口にする山口の存在は、ヴィッセルの目指す高い位置を常に指示している。派手な言動こそないが、観る者の目を常に引き付ける「ピッチ上の羅針盤」に文句なしの一番星。